第一章【春季大会編】
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恋ヶ浜戦の勝利から一夜明けた泥門高校アメフト部。
朝の部室には、昨日まではいなかった新しい顔―⋯姉崎まもりの姿があった。
「セナをいじめないで! ヒル魔くん、あなたにこれ以上セナを弄ばせたりしないわ!」
まもりの凛とした声が響く。彼女はセナの幼馴染で、彼を過保護なまでに心配してマネージャーとして入部してきたのだ。
まもりはアイシールド21の正体がセナであることを知らず、ヒル魔が主務としてセナを奴隷のようにこき使う状況を打破しにきたつもりだ。
悟はその光景を、少し離れたところから見つめていた。
(……同じだ)
セナを庇護し、危険から遠ざけようとするまもり。
それは、悟を「出来損ない」と突き放すことで、結果的に戦いの場から遠ざけようとしていた阿含の姿と重なって見えた。二人とも、根底にあるのは対象への深い愛情なのだろう。けれど、それは時に、「翼」を折ってしまうこともある。
「悟さん、大丈夫? まもり姉ちゃん、ちょっと勢いがすごくて……」
「ううん、大丈夫だよセナくん。……まもりさんは、セナくんのことが本当に大切なんだね」
悟は微笑みながらも、胸の奥に微かなざわつきを感じていた。
その日の昼休み、教室でのこと。
昨日の試合の噂を聞きつけた男子生徒たちが、悟の席に集まっていた。
「金剛さん、マジでアメフトやってんの?」
「神龍寺の金剛兄弟の妹って本当かよ。すげーな!」
「あ、はは……運が良かっただけだよ」
悟はいつものように低姿勢で受け流していた。すると、後ろの席からドカッと椅子を引く大きな音が響く。
「……おい。アメフトなんてしょうもねぇこと、いつまでやってんだよ」
十文字だった。彼は苦々しい顔で悟を睨みつけ、男子生徒たちを追い払うように間に割って入る。
「あの悪魔……ヒル魔に脅されてるんだろ? あんな奴のおもちゃにされて、怪我でもしたらどうすんだ」
棘のある言葉。けれど、その瞳には隠しきれない焦燥感が滲んでいた。
「心配してくれてありがとう、十文字くん。でも……私はあそこが、自分の居場所だと思ってるから」
悟は真っ直ぐに十文字を見つめて答えた。十文字は言葉を失い、拳を握りしめたまま黙り込んでしまった。
そんな十文字らとのやりとりを、廊下から見つめる人影。
「ケケケ……。身の程を知らねぇネズミの群れの掃除が必要だなぁ」
ヒル魔はガムを膨らませ、不快そうに目を細める。彼にとって、悟は自分が見つけだした「ダイヤの原石」だ。他人がその所有権を侵害しようとするのを、彼は認めなかった。
「おい、悟。来やがれ」
ヒル魔に呼ばれ、悟が駆け寄る。
「はい、ヒル魔さん。何か用でも……」
その時だった。
ヒル魔は、彼女の頭に大きな手を乗せた。
「……?」
乱暴にかき回すような、けれど、離そうとしない長い指と重い掌。
それは明らかに、遠くから様子をうかがう十文字たちを意識した、彼らしくもない、見せつけるような仕草だった。
「いいか、糞 マネに備品の場所教えとけ。……それと」
ヒル魔は私の耳元まで顔を寄せ、周囲には聞こえない低い声で囁いた。
「テメーの時間は、全部俺のもんだ。外野に分けてやる余裕はねぇぞ。」
「はい……、え?」
彼の言葉が瞬時に理解できず、数秒の間ののち悟の心臓が跳ね上がる。赤くなる顔。
困惑する彼女を置いて、ヒル魔はニヤリと満足気に笑い、どこかへと歩き出した。
悟は赤くなった顔を隠すように、慌てて視線を下に移す。
阿含の檻から抜け出したはずの彼女の世界は、今度はこの悪魔の「独占欲」という、新たな鎖に繋がれようとしていた。
朝の部室には、昨日まではいなかった新しい顔―⋯姉崎まもりの姿があった。
「セナをいじめないで! ヒル魔くん、あなたにこれ以上セナを弄ばせたりしないわ!」
まもりの凛とした声が響く。彼女はセナの幼馴染で、彼を過保護なまでに心配してマネージャーとして入部してきたのだ。
まもりはアイシールド21の正体がセナであることを知らず、ヒル魔が主務としてセナを奴隷のようにこき使う状況を打破しにきたつもりだ。
悟はその光景を、少し離れたところから見つめていた。
(……同じだ)
セナを庇護し、危険から遠ざけようとするまもり。
それは、悟を「出来損ない」と突き放すことで、結果的に戦いの場から遠ざけようとしていた阿含の姿と重なって見えた。二人とも、根底にあるのは対象への深い愛情なのだろう。けれど、それは時に、「翼」を折ってしまうこともある。
「悟さん、大丈夫? まもり姉ちゃん、ちょっと勢いがすごくて……」
「ううん、大丈夫だよセナくん。……まもりさんは、セナくんのことが本当に大切なんだね」
悟は微笑みながらも、胸の奥に微かなざわつきを感じていた。
その日の昼休み、教室でのこと。
昨日の試合の噂を聞きつけた男子生徒たちが、悟の席に集まっていた。
「金剛さん、マジでアメフトやってんの?」
「神龍寺の金剛兄弟の妹って本当かよ。すげーな!」
「あ、はは……運が良かっただけだよ」
悟はいつものように低姿勢で受け流していた。すると、後ろの席からドカッと椅子を引く大きな音が響く。
「……おい。アメフトなんてしょうもねぇこと、いつまでやってんだよ」
十文字だった。彼は苦々しい顔で悟を睨みつけ、男子生徒たちを追い払うように間に割って入る。
「あの悪魔……ヒル魔に脅されてるんだろ? あんな奴のおもちゃにされて、怪我でもしたらどうすんだ」
棘のある言葉。けれど、その瞳には隠しきれない焦燥感が滲んでいた。
「心配してくれてありがとう、十文字くん。でも……私はあそこが、自分の居場所だと思ってるから」
悟は真っ直ぐに十文字を見つめて答えた。十文字は言葉を失い、拳を握りしめたまま黙り込んでしまった。
そんな十文字らとのやりとりを、廊下から見つめる人影。
「ケケケ……。身の程を知らねぇネズミの群れの掃除が必要だなぁ」
ヒル魔はガムを膨らませ、不快そうに目を細める。彼にとって、悟は自分が見つけだした「ダイヤの原石」だ。他人がその所有権を侵害しようとするのを、彼は認めなかった。
「おい、悟。来やがれ」
ヒル魔に呼ばれ、悟が駆け寄る。
「はい、ヒル魔さん。何か用でも……」
その時だった。
ヒル魔は、彼女の頭に大きな手を乗せた。
「……?」
乱暴にかき回すような、けれど、離そうとしない長い指と重い掌。
それは明らかに、遠くから様子をうかがう十文字たちを意識した、彼らしくもない、見せつけるような仕草だった。
「いいか、
ヒル魔は私の耳元まで顔を寄せ、周囲には聞こえない低い声で囁いた。
「テメーの時間は、全部俺のもんだ。外野に分けてやる余裕はねぇぞ。」
「はい……、え?」
彼の言葉が瞬時に理解できず、数秒の間ののち悟の心臓が跳ね上がる。赤くなる顔。
困惑する彼女を置いて、ヒル魔はニヤリと満足気に笑い、どこかへと歩き出した。
悟は赤くなった顔を隠すように、慌てて視線を下に移す。
阿含の檻から抜け出したはずの彼女の世界は、今度はこの悪魔の「独占欲」という、新たな鎖に繋がれようとしていた。