第二章【アメリカ合宿編】
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ラスベガス、マッカラン国際空港。
空調の効いたターミナル内には、多種多様な言語と旅立ちの喧騒が満ちていた。その一角にある国際電話のブースで、悟は受話器を耳に当て、遥か彼方、日本の空の下にいる兄の声を待っていた。
「……あ、雲水兄さん? うん、悟。……今から日本行きの飛行機に乗るよ。ずっと連絡しなくてごめん」
受話器の向こうから聞こえる兄の安堵した声。悟は窓の外、陽炎が揺れる滑走路を眺めながら、自分でも驚くほど穏やかな声で続けた。
「うん、元気。……すごく、元気だよ。アメリカでね、自分の価値を、少しだけ見つけられた気がするんだ」
以前の彼女なら、この後の言葉を口にするだけで喉が震えていただろう。けれど、今の悟の瞳に迷いはない。
「お父さんとお母さんによろしくね。……それから、阿含、にも。……うん、またね」
受話器を置くと、カチリと音がした。それは、過去の自分との決別の音のようにも聞こえた。
泥門のメンバーが待つ搭乗口へと向かう動く歩道。
流れていくアメリカの景色を背に、悟の脳裏にはこの数週間で刻まれた鮮烈な記憶が、走馬灯のように駆け巡っていた。
ヒル魔と初めて「デート」のような時間を過ごした、あのガンショップ。耳を劈く銃声と、鼻を突く硝煙の匂い。
ビーチフットでの乱戦。
どぶろくという豪快な師との出会い。
「死の行軍(デス・マーチ)」。視界が揺れるほどの熱さと、足の感覚がなくなるほどの疲労。絶望の淵で、それでも「前へ」と足を踏み出し続けた。
十字が伝えてくれた、震えるほど真っ直ぐな想い。彼の不器用な優しさに触れ、心が温かく、けれど切なく揺れたこと。
荒野を飲み込む巨大な竜巻。死の恐怖を追い越すように、ヒル魔に手を引かれて全力で駆け抜けた時に感じた、あの理屈を超えた高揚。
デス・マーチを誰一人欠けることなく完走し、泥門デビルバッツというチームが、より深く、熱く結びついた瞬間。
ヒル魔と互いの体温を感じながら、泥のように眠った静かな夜。
煌びやかなカジノの片隅で、十文字が抱える「自分達の存在を認めさせたい」という痛切な願いに、自分自身の魂が深く共鳴した、あの対話。
そして、噴水の前。舞い上がる水柱と光の中で、初めて互いの想いを言葉にし、「恋人」としての契約を交わした、あの美しい夜――。
どれ一つ欠けても、今の自分はここにいない。
「遅ぇ、置いてくぞ」
搭乗口に辿り着くと、聞き慣れた哄笑が迎えてくれた。
ヒル魔は不機嫌そうガムを膨らませ、ノートPCを叩いている。その周囲では、セナとモン太が機内食の話題で盛り上がり、栗田が平和そうに居眠りをしていた。
「そんなこと言って、ちゃんと待っててくれたじゃないですか」
悟が隣に腰を下ろすと、ヒル魔は一度だけ視線を上げ、「ケケッ」と短く笑って再び画面に視線を戻した。
特別に甘い言葉はない。けれど、彼が少しだけ横にズレて作ったその空間こそが、今の悟にとって世界で一番安心できる居場所だった。
数時間後。
機内は静寂に包まれ、多くの乗客が深い眠りに落ちていた。
窓の外には、月明かりに照らされた雲の海がどこまでも広がっている。
デス・マーチからの連日の緊張。悟は抗い難い眠気に襲われ、ゆっくりと瞼を閉じた。
カクン、と悟の頭がヒル魔の肩に預けられる。
ヒル魔はPCを叩く手を止め、規則正しい寝息を立て始めた悟の横顔を一瞥した。
彼はフンと鼻を鳴らすと、周囲に誰も起きていないことを確認し、無造作に、けれど包み込むような力強さで、彼女の手を握りしめた。
夢の中で、悟はかつて自分を縛っていた暗い影を振り返る。
けれど、もう恐怖はない。
(待ってて、阿含。私はもう、あなたの影じゃない)
デス・マーチで得た確かな自信と、ヒル魔や仲間たちから向けられる信頼。その確かな感触が、彼女に「個」としての誇りを与えてくれる。
機体は夜を切り裂き、決戦の地・日本へとひた走る。
1週間後に控えた秋大会。クリスマスボウルへと続く、本当の戦いが幕を開けようとしていた。
空調の効いたターミナル内には、多種多様な言語と旅立ちの喧騒が満ちていた。その一角にある国際電話のブースで、悟は受話器を耳に当て、遥か彼方、日本の空の下にいる兄の声を待っていた。
「……あ、雲水兄さん? うん、悟。……今から日本行きの飛行機に乗るよ。ずっと連絡しなくてごめん」
受話器の向こうから聞こえる兄の安堵した声。悟は窓の外、陽炎が揺れる滑走路を眺めながら、自分でも驚くほど穏やかな声で続けた。
「うん、元気。……すごく、元気だよ。アメリカでね、自分の価値を、少しだけ見つけられた気がするんだ」
以前の彼女なら、この後の言葉を口にするだけで喉が震えていただろう。けれど、今の悟の瞳に迷いはない。
「お父さんとお母さんによろしくね。……それから、阿含、にも。……うん、またね」
受話器を置くと、カチリと音がした。それは、過去の自分との決別の音のようにも聞こえた。
泥門のメンバーが待つ搭乗口へと向かう動く歩道。
流れていくアメリカの景色を背に、悟の脳裏にはこの数週間で刻まれた鮮烈な記憶が、走馬灯のように駆け巡っていた。
ヒル魔と初めて「デート」のような時間を過ごした、あのガンショップ。耳を劈く銃声と、鼻を突く硝煙の匂い。
ビーチフットでの乱戦。
どぶろくという豪快な師との出会い。
「死の行軍(デス・マーチ)」。視界が揺れるほどの熱さと、足の感覚がなくなるほどの疲労。絶望の淵で、それでも「前へ」と足を踏み出し続けた。
十字が伝えてくれた、震えるほど真っ直ぐな想い。彼の不器用な優しさに触れ、心が温かく、けれど切なく揺れたこと。
荒野を飲み込む巨大な竜巻。死の恐怖を追い越すように、ヒル魔に手を引かれて全力で駆け抜けた時に感じた、あの理屈を超えた高揚。
デス・マーチを誰一人欠けることなく完走し、泥門デビルバッツというチームが、より深く、熱く結びついた瞬間。
ヒル魔と互いの体温を感じながら、泥のように眠った静かな夜。
煌びやかなカジノの片隅で、十文字が抱える「自分達の存在を認めさせたい」という痛切な願いに、自分自身の魂が深く共鳴した、あの対話。
そして、噴水の前。舞い上がる水柱と光の中で、初めて互いの想いを言葉にし、「恋人」としての契約を交わした、あの美しい夜――。
どれ一つ欠けても、今の自分はここにいない。
「遅ぇ、置いてくぞ」
搭乗口に辿り着くと、聞き慣れた哄笑が迎えてくれた。
ヒル魔は不機嫌そうガムを膨らませ、ノートPCを叩いている。その周囲では、セナとモン太が機内食の話題で盛り上がり、栗田が平和そうに居眠りをしていた。
「そんなこと言って、ちゃんと待っててくれたじゃないですか」
悟が隣に腰を下ろすと、ヒル魔は一度だけ視線を上げ、「ケケッ」と短く笑って再び画面に視線を戻した。
特別に甘い言葉はない。けれど、彼が少しだけ横にズレて作ったその空間こそが、今の悟にとって世界で一番安心できる居場所だった。
数時間後。
機内は静寂に包まれ、多くの乗客が深い眠りに落ちていた。
窓の外には、月明かりに照らされた雲の海がどこまでも広がっている。
デス・マーチからの連日の緊張。悟は抗い難い眠気に襲われ、ゆっくりと瞼を閉じた。
カクン、と悟の頭がヒル魔の肩に預けられる。
ヒル魔はPCを叩く手を止め、規則正しい寝息を立て始めた悟の横顔を一瞥した。
彼はフンと鼻を鳴らすと、周囲に誰も起きていないことを確認し、無造作に、けれど包み込むような力強さで、彼女の手を握りしめた。
夢の中で、悟はかつて自分を縛っていた暗い影を振り返る。
けれど、もう恐怖はない。
(待ってて、阿含。私はもう、あなたの影じゃない)
デス・マーチで得た確かな自信と、ヒル魔や仲間たちから向けられる信頼。その確かな感触が、彼女に「個」としての誇りを与えてくれる。
機体は夜を切り裂き、決戦の地・日本へとひた走る。
1週間後に控えた秋大会。クリスマスボウルへと続く、本当の戦いが幕を開けようとしていた。