第二章【アメリカ合宿編】
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カジノの騒音と、香水の匂いが思考のノイズになる。
ブラック・ジャックで手に入れた、アタッシュケースに詰まった2000万。どぶろくを日本に連れ帰るための必要コストだ。
目的を果たし、探すのは悟の姿。視界に映ったのは、「糞長男(十文字)」に介抱され、笑顔を浮かべる彼女の姿だった。
(……チッ、腑抜けたツラしてやがる)
磨き上げた宝石になりつつある彼女が、他人の手元で無防備に光っているのを見るのは、これほどまでに不愉快なものだったか。
「ケケッ、騎士 ごっこはそこまでにしとけ」
自分の声が、予想以上に冷たく響く。
あと数秒、声をかけるのが遅れていれば、十文字の手が悟の肌に触れていただろう。そう考えただけで、脳内の演算回路が焼き切れそうなほどの苛立ちがせり上がる。
十文字から獲物を取り上げるように、悟の細い腕を掴んだ。
ホテル前の噴水広場まで、強引に手を引いて歩く。
不慣れなヒールでよろめく足取り。転ぶようなら、彼女を支え、それを理由にそのまま抱えて運んでやるまでだ。そんな暴力的な独占欲が、自身の「合理性」をじわじわと侵食していく。
「たらしが趣味かテメーは」
口を突いて出たのは、自分でも呆れるほどガキじみた言葉だ。
「誰彼構わず」愛嬌を振りまく。そんな非効率な真似をしない事はわかっている。なのに、あの糞長男に向けられた眼差しが、俺の理性をひっくり返す。
「どうして、そんな事に苛立ってるんです?……そういうヒル魔さんこそ、私をどう思ってるんですか…?」
酔いのせいか。それとも、デス・マーチを潜り抜けて手に入れた自信のせいかいつもより強気な彼女。
答えなんて決まってる。
俺の夢を実現するための、唯一無二のパーツだ。磨けば磨くほど価値の上がる、俺だけの——。
広場ですれ違う男どもが、薄暗い中で彼女の露出した背中や、紫がかった黒髪の艶を、値踏みするように見やる。
(…見せもんじゃねぇんだよ)
視線を遮るように、自分のジャケットを脱ぐと、無造作に悟の肩へ被せた。
ただ、今は誰の目にも触れさせたくないと思ってしまった。
噴水の水上で、水柱が重低音と共に夜空を突き上げる。
タイミングは完璧だ。壮大な音楽と、ライトアップされた水飛沫。地獄のデス・マーチを耐え抜いた報酬として、これ以上ない演出を用意したつもりだ。
「……これ、私に見せようとして……連れてきてくれたんですか?」
悟が潤んだ瞳で問いかけてくる。
俺は一度として噴水には視線を向けなかった。観光名所として名高い噴水ショーより、目の前で子供のように顔を綻ばせている彼女の横顔の方が、よっぽど価値があると思ってしまったから。
こいつを完全に、俺だけのものにしたい。
溢れ出す衝動に、悟の顎を掴み視線を自身に向けさせる。
「俺を選べ。俺の横にいろ」
それが、俺の提示した契約だった。
だが、返ってきた答えは、予測を超えるものだった。
「……私、ヒル魔さんが大好きみたいです」
——は?
脳内の全プログラムが、音を立てて停止した。
「俺を選べ」という支配の構図を、真っ向勝負で叩き壊された。自身の醜い感情も、すべてを肯定して飲み込むような、眩しすぎる光。
呆然としていると、不意を突き悟がシャツを引き寄せる。
「私、今日だけ『不良』なんです」
直後、頬に触れた柔らかな熱。
唇が触れた場所から、全身の神経に火が走った。一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
思考が真っ白に焼き切れ、ラスベガスの喧騒が遠のく。
……俺の負けだ。完敗だ。
この原石を自身の色に染め上げたつもりで、自分が一番深く、その光に魅入られていた。
「……ケケッ、テメーは……計算外のバグみてぇな奴だ」
なんとか絞り出した声が、自分でも驚くほど熱を持っていた。
「『恋人』じゃ駄目ですか?」
図に乗った悟が、さらに詰め寄ってくる。
「……ケケッ、勝手にしろ」
愛おしさのあまりに肩を抱き寄せ、その細い体を自分の腕の中に閉じ込める。
地獄のデス・マーチよりも、こいつというバグを制御することの方が、よっぽど難解で……そして、とんでもなく面白いことになりそうだ。
ブラック・ジャックで手に入れた、アタッシュケースに詰まった2000万。どぶろくを日本に連れ帰るための必要コストだ。
目的を果たし、探すのは悟の姿。視界に映ったのは、「糞長男(十文字)」に介抱され、笑顔を浮かべる彼女の姿だった。
(……チッ、腑抜けたツラしてやがる)
磨き上げた宝石になりつつある彼女が、他人の手元で無防備に光っているのを見るのは、これほどまでに不愉快なものだったか。
「ケケッ、
自分の声が、予想以上に冷たく響く。
あと数秒、声をかけるのが遅れていれば、十文字の手が悟の肌に触れていただろう。そう考えただけで、脳内の演算回路が焼き切れそうなほどの苛立ちがせり上がる。
十文字から獲物を取り上げるように、悟の細い腕を掴んだ。
ホテル前の噴水広場まで、強引に手を引いて歩く。
不慣れなヒールでよろめく足取り。転ぶようなら、彼女を支え、それを理由にそのまま抱えて運んでやるまでだ。そんな暴力的な独占欲が、自身の「合理性」をじわじわと侵食していく。
「たらしが趣味かテメーは」
口を突いて出たのは、自分でも呆れるほどガキじみた言葉だ。
「誰彼構わず」愛嬌を振りまく。そんな非効率な真似をしない事はわかっている。なのに、あの糞長男に向けられた眼差しが、俺の理性をひっくり返す。
「どうして、そんな事に苛立ってるんです?……そういうヒル魔さんこそ、私をどう思ってるんですか…?」
酔いのせいか。それとも、デス・マーチを潜り抜けて手に入れた自信のせいかいつもより強気な彼女。
答えなんて決まってる。
俺の夢を実現するための、唯一無二のパーツだ。磨けば磨くほど価値の上がる、俺だけの——。
広場ですれ違う男どもが、薄暗い中で彼女の露出した背中や、紫がかった黒髪の艶を、値踏みするように見やる。
(…見せもんじゃねぇんだよ)
視線を遮るように、自分のジャケットを脱ぐと、無造作に悟の肩へ被せた。
ただ、今は誰の目にも触れさせたくないと思ってしまった。
噴水の水上で、水柱が重低音と共に夜空を突き上げる。
タイミングは完璧だ。壮大な音楽と、ライトアップされた水飛沫。地獄のデス・マーチを耐え抜いた報酬として、これ以上ない演出を用意したつもりだ。
「……これ、私に見せようとして……連れてきてくれたんですか?」
悟が潤んだ瞳で問いかけてくる。
俺は一度として噴水には視線を向けなかった。観光名所として名高い噴水ショーより、目の前で子供のように顔を綻ばせている彼女の横顔の方が、よっぽど価値があると思ってしまったから。
こいつを完全に、俺だけのものにしたい。
溢れ出す衝動に、悟の顎を掴み視線を自身に向けさせる。
「俺を選べ。俺の横にいろ」
それが、俺の提示した契約だった。
だが、返ってきた答えは、予測を超えるものだった。
「……私、ヒル魔さんが大好きみたいです」
——は?
脳内の全プログラムが、音を立てて停止した。
「俺を選べ」という支配の構図を、真っ向勝負で叩き壊された。自身の醜い感情も、すべてを肯定して飲み込むような、眩しすぎる光。
呆然としていると、不意を突き悟がシャツを引き寄せる。
「私、今日だけ『不良』なんです」
直後、頬に触れた柔らかな熱。
唇が触れた場所から、全身の神経に火が走った。一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
思考が真っ白に焼き切れ、ラスベガスの喧騒が遠のく。
……俺の負けだ。完敗だ。
この原石を自身の色に染め上げたつもりで、自分が一番深く、その光に魅入られていた。
「……ケケッ、テメーは……計算外のバグみてぇな奴だ」
なんとか絞り出した声が、自分でも驚くほど熱を持っていた。
「『恋人』じゃ駄目ですか?」
図に乗った悟が、さらに詰め寄ってくる。
「……ケケッ、勝手にしろ」
愛おしさのあまりに肩を抱き寄せ、その細い体を自分の腕の中に閉じ込める。
地獄のデス・マーチよりも、こいつというバグを制御することの方が、よっぽど難解で……そして、とんでもなく面白いことになりそうだ。