第二章【アメリカ合宿編】
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巨大な水柱がゆっくりと湖面へと吸い込まれ、オーケストラの残響だけがラスベガスの夜風に溶けていく。
静寂の中、悟は自分を射抜くようなヒル魔の瞳を真っ向から見つめ返していた。
顎先を捉える彼の指先が熱い。けれど、それ以上に悟の胸の奥には、燃え上がるような偽りのない想いがあった。
「……ヒル魔さん」
「なんだ」
眉を寄せるヒル魔に対し、悟は彼の手を包み込むようにそっと自分の手を重ねた。
「始めは、あなたの期待に応えたいとか、居場所を作ってくれたお礼がしたいとか……。自分自身を見失っていた私を救ってくれた『恩人』として、ヒル魔さんを慕っていました」
言葉のひとつひとつを、確かめるように紡ぐ。
「雛鳥の刷り込み」——かつてヒル魔が自嘲気味に分析した悟の感情は、強ち間違いではない事を示していた。
「でも、今は違います。…たかが数ヶ月ですけど、ヒル魔さんの背中を見続けて気づいた事があるんです」
悟はヒル魔に向き合い、彼の手を離さずに話を続ける。
「ヒル魔さんが、合理性や数字を絶対として扱うのに、根底では努力とか情とか、不確定なものを大事にしている事。目的のために手段を選ばない冷血漢のふりをしてるのに、誰よりもチームのことを考えて、自分の身を削るほどの努力を惜しまない事……」
悟は、少しだけ潤んだ瞳でふわりと微笑んだ。
「『悪魔』と呼ばれながら、優しい部分が隠しきれていない事。そういう、あなたの矛盾した全部が……私、ヒル魔さんが大好きみたいです」
「…………」
常に裏の裏を読み、数手先まで相手の心理をコントロールしようとするヒル魔の思考回路が、音を立てて停止した。
ヒル魔にとって、嘘偽りのない「ストレート」な剥き出しの好意は、最も想定外で、最も苦手とする球種だ。
「俺を選べ」という、自身が主導権を握った状態での独占契約。それを用意したはずなのに、悟はそんな選択肢を、ひたむきな愛情という眩し過ぎる光で上書きしてしまった。
言葉を失い、目を見開いたままフリーズするヒル魔。
その稀有な「隙」を、悟は見逃さなかった。
「……言い忘れてたんですけど」
悟がいたずらっぽく目を細める。
「私、今日だけ『不良』なんです」
「…あァ?何が不良だ……っ!?」
ヒル魔が言い返すより速かった。
悟は不慣れなヒールで思い切り背伸びをすると、彼のシャツを引き寄せ、驚愕に染まる彼の頬へ、そっと自分の唇を寄せた。
柔らかな接触。ほんの一瞬の、けれど確かな熱。
「……!」
ヒル魔の思考が、完全に焼き切られた。
頬に触れた感触に、ヒル魔は雷に打たれたように固まる。
至近距離で、照れくささに顔を林檎のように真っ赤に染めながらも、いたずらを成功させた子供のように笑う悟。
常に優位に立とうとするヒル魔を、初めて「まごつかせた」という爽快感が、彼女の胸を満たしていた。
数秒後。
ようやく意識が戻ったヒル魔は、乱暴に自分の髪を掻き回す。
けれど、その耳の先までもが、わずかに赤く染まっているのを悟は見逃さなかった。
「……ケケッ、テメーは……計算外のバグみてェな奴だ」
「ハハ…、ひどい言われようです」
「褒めてんだよ。……おもしれェから」
ヒル魔の声には、先ほどまでの刺々しい嫉妬も、支配欲もなかった。
そこにあるのは、自分を丸裸にされた気恥ずかしさと、どうしようもないほどの「恋慕」を認めた男の、苦笑混じりの響き。
「……ケケッ」
ヒル魔は不敵に、けれどどこか観念したように笑うと、悟の肩を改めてジャケットの上からがっしりと抱き寄せた。
「1週間後には秋大会が始まる。…俺の『共犯者』として、クリスマスボウルまで付き合ってもらう、観念しやがれ」
「どうしてそう、回りくどい表現を…。………『恋人』じゃ駄目ですか?」
「……あァ?」
「欲張り過ぎですか…?」
「……ケケッ、勝手にしろ」
不夜城の光に照らされて、二人の影がひとつに重なる。
ヒル魔の掌の上から飛び出し、彼の「隣」を勝ち取った原石は、ラスベガスのどんな宝石よりも強く、気高く輝いていた。
静寂の中、悟は自分を射抜くようなヒル魔の瞳を真っ向から見つめ返していた。
顎先を捉える彼の指先が熱い。けれど、それ以上に悟の胸の奥には、燃え上がるような偽りのない想いがあった。
「……ヒル魔さん」
「なんだ」
眉を寄せるヒル魔に対し、悟は彼の手を包み込むようにそっと自分の手を重ねた。
「始めは、あなたの期待に応えたいとか、居場所を作ってくれたお礼がしたいとか……。自分自身を見失っていた私を救ってくれた『恩人』として、ヒル魔さんを慕っていました」
言葉のひとつひとつを、確かめるように紡ぐ。
「雛鳥の刷り込み」——かつてヒル魔が自嘲気味に分析した悟の感情は、強ち間違いではない事を示していた。
「でも、今は違います。…たかが数ヶ月ですけど、ヒル魔さんの背中を見続けて気づいた事があるんです」
悟はヒル魔に向き合い、彼の手を離さずに話を続ける。
「ヒル魔さんが、合理性や数字を絶対として扱うのに、根底では努力とか情とか、不確定なものを大事にしている事。目的のために手段を選ばない冷血漢のふりをしてるのに、誰よりもチームのことを考えて、自分の身を削るほどの努力を惜しまない事……」
悟は、少しだけ潤んだ瞳でふわりと微笑んだ。
「『悪魔』と呼ばれながら、優しい部分が隠しきれていない事。そういう、あなたの矛盾した全部が……私、ヒル魔さんが大好きみたいです」
「…………」
常に裏の裏を読み、数手先まで相手の心理をコントロールしようとするヒル魔の思考回路が、音を立てて停止した。
ヒル魔にとって、嘘偽りのない「ストレート」な剥き出しの好意は、最も想定外で、最も苦手とする球種だ。
「俺を選べ」という、自身が主導権を握った状態での独占契約。それを用意したはずなのに、悟はそんな選択肢を、ひたむきな愛情という眩し過ぎる光で上書きしてしまった。
言葉を失い、目を見開いたままフリーズするヒル魔。
その稀有な「隙」を、悟は見逃さなかった。
「……言い忘れてたんですけど」
悟がいたずらっぽく目を細める。
「私、今日だけ『不良』なんです」
「…あァ?何が不良だ……っ!?」
ヒル魔が言い返すより速かった。
悟は不慣れなヒールで思い切り背伸びをすると、彼のシャツを引き寄せ、驚愕に染まる彼の頬へ、そっと自分の唇を寄せた。
柔らかな接触。ほんの一瞬の、けれど確かな熱。
「……!」
ヒル魔の思考が、完全に焼き切られた。
頬に触れた感触に、ヒル魔は雷に打たれたように固まる。
至近距離で、照れくささに顔を林檎のように真っ赤に染めながらも、いたずらを成功させた子供のように笑う悟。
常に優位に立とうとするヒル魔を、初めて「まごつかせた」という爽快感が、彼女の胸を満たしていた。
数秒後。
ようやく意識が戻ったヒル魔は、乱暴に自分の髪を掻き回す。
けれど、その耳の先までもが、わずかに赤く染まっているのを悟は見逃さなかった。
「……ケケッ、テメーは……計算外のバグみてェな奴だ」
「ハハ…、ひどい言われようです」
「褒めてんだよ。……おもしれェから」
ヒル魔の声には、先ほどまでの刺々しい嫉妬も、支配欲もなかった。
そこにあるのは、自分を丸裸にされた気恥ずかしさと、どうしようもないほどの「恋慕」を認めた男の、苦笑混じりの響き。
「……ケケッ」
ヒル魔は不敵に、けれどどこか観念したように笑うと、悟の肩を改めてジャケットの上からがっしりと抱き寄せた。
「1週間後には秋大会が始まる。…俺の『共犯者』として、クリスマスボウルまで付き合ってもらう、観念しやがれ」
「どうしてそう、回りくどい表現を…。………『恋人』じゃ駄目ですか?」
「……あァ?」
「欲張り過ぎですか…?」
「……ケケッ、勝手にしろ」
不夜城の光に照らされて、二人の影がひとつに重なる。
ヒル魔の掌の上から飛び出し、彼の「隣」を勝ち取った原石は、ラスベガスのどんな宝石よりも強く、気高く輝いていた。