第二章【アメリカ合宿編】
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カジノ・ロワイヤルの喧騒は、夜が深まるにつれてその熱量を増していく。
きらびやかなシャンデリアの下、ルーレット盤の周囲には異様な人だかりができていた。その中心にいるのは、ディーラーの動きを射抜くような視線で見つめる悟だ。
「スゲーな悟! まさか『悪魔の予言』でルーレットの出目まで視えてるのか!?」
モン太が興奮を抑えきれない様子で叫ぶ。隣ではセナが、積み上がっていくチップの山を見て目を白黒させていた。
「ハハ、さすがにそんな万能じゃあないよ」
悟は苦笑いしながら、手元のチップを特定のエリアへ淡々と追加ベットした。
「何ゲームか見てると、ウィールの回転の勢いとボールを投げ入れるタイミング、ディーラーの癖なんかが視えてくるの。数字をビタで当てるのはさすがに無理だけど、『このあたりに落ちそうだな』っていうのはなんとなくわかるから。ディーラーが交代しちゃうとまた一から組み立て直しだけどね……」
「……それ、十分人並み外れていると思うけど」
セナが戦慄する。物理的な確率と人間の無意識の習慣や癖を読み解くその「観察力」は、「神速のインパルス」にも劣らない、彼女の武器だった。
派手な大勝ちはせずとも、着実に、確実にチップを増やし続ける悟。その「勝ち馬」に乗ろうと、周囲の客たちも次々と彼女と同じ場所にチップを置き始めていた。
「……ふぅ。ディーラーが変わるみたい。一度休憩にしよう」
悟が席を立つと、彼女の利益に肖った恰幅の良い老紳士が、笑顔でグラスを差し出してきた。
「I'll buy you a drink, young lady!」
「あ、サンキュー……」
無下に断ることもできず、悟は差し出された琥珀色の液体を一口含んだ。炭酸の辛み、少しの苦さと、鼻に抜ける果実の甘い香り。
それから数分後。スロットで大負けを喫し、不機嫌極まりない様子でフロアを歩いていた十文字が、人混みの中で足元の危うい悟を見つけた。
「オイ……ちょっとこっち来い」
「……あ、十文字君」
振り返る悟の顔が、仄かに上気している。その様子に嫌な予感を覚えた十文字は、彼女の手を引き、喧騒から離れたラウンジのソファへと座らせた。
「それ……どうしたんだ」
悟の手には、半分空になったグラス。
「私のおかげで勝てたよってお客さんから、プレゼントして頂いたの。確か…アイルバイ、ユー、ドリンク…」
「馬鹿……! 『ドリンク』っつったら、こういう場じゃ酒のニュアンスもあんだぞ!」
「……!! やっぱりこれ、お酒…だよね…? 」
十文字は呆れ半分、心配半分で狼狽える彼女の顔を覗き込んだ。
「変な所抜けてるっつーか…。まぁ、相手もまさかカジノに未成年がいるとは思ってねぇだろうからな。……気分は悪くないか? 頭が痛いとか、吐き気とか」
「ううん、何ともないよ。……ごめん、迂闊だった」
「謝る必要はねぇよ。……ほら、これ飲め」
いつの間にか注文していたのか、十文字は冷えた水の入ったグラスを悟に差し出した。少し不器用な、彼なりの優しさだった。
煌びやかなカジノの喧騒が遠くの潮騒のように響く中で、十文字は差し出した水のグラスを握りしめる悟を、どこか落ち着かない様子で見つめていた。
「……さっきの、余計な話の続き、してもいいか?」
十文字が低く切り出した。父親への反発。それは彼という人間を形作る核の部分だった。
「……見返してぇんだ。親父だけじゃねぇ。黒木、戸叶…俺ら三人を『カス』だと、価値のねェゴミだと見下しやがった奴ら全員をだ。アメフトを通して、俺たちの存在を認めさせる。……そのために、俺はデス・マーチに残った」
十文字の瞳に、消えることのない炎が宿る。
悟はその言葉を、静かに受け止めていた。
「……同じだ」
「え?」
阿含という本物の天才を前に、自分がどれほど無力な存在かを突きつけられてきた悟。彼女にとって、このデス・マーチは単なる特訓ではなく、自分が「自分である理由」を見いだし、その価値を磨くために必要な事であったのだ。
ふいに、悟がテーブルの上に置かれたシャンパングラスを手に取った。
「オイ、それは……!」
十文字が止める間もなかった。悟は残っていた琥珀色の液体を、一気に喉へと流し込んだ。
「…ふふ、驚いた?」
悟は目を丸くする十文字に、上気した頬でいたずらっぽく、それでいて挑戦的に微笑みかけた。
「私も、今日だけ『不良』になってみようかなって。……これ、悪いことだよね?」
「……っ、お前な……」
「同じなの。……私もね、自分の価値を示すために、もっと強くなりたい。……私がここにいるって認めさせたいの」
普段の慎ましやかな彼女からは想像もつかない、剥き出しの熱。
十文字は面食らい、言葉を失った。内側から溢れ出す毒のように彼女を蝕むその執着ともいえる意志が、ドレスアップした美しさと混ざり合い、目を逸らせないほどの引力を持って彼を惹きつける。
「……馬鹿。これだから、放っておけねぇってんだよ」
十文字の手が、思わず悟の頬に触れようとした、その時だった。
「ケケッ!騎士 ごっこはそこまでにしとけ!」
低く、場を支配するような声が響いた。
悟が顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべ、重厚なアタッシュケースを提げたヒル魔が立っていた。
「2000万ゲットだ。糞長男、こいつをどぶろくに届けろ。……ケケッ、失くしたら殺すぞ」
「……なんで俺が」
不服さを滲ませる十文字に、ヒル魔が乱暴にアタッシュケースを押し付ける。2000万という大金を運ぶ責任を負わせ、十文字を悟から遠ざける――。それがヒル魔の采配だと分かっていても、逆らおうとするだけ無駄だ。
舌打ちをひとつ落とし、席を立とうとする十文字の背中に、ヒル魔が追い打ちをかけるように言い放った。
「今の今まで、テメーに花を持たせてやったんだ。この先は譲れねぇなァ」
その言葉に、十文字の足が止まる。
彼女へのエスコートを静観していたのは、興味がなかったからではない。最初から、すべてを自分のコントロール下に置いているという余裕。そして、最後には必ず自分が彼女をものにするという絶対的な自信ゆえだったのだ。
「……チッ、性格の悪ぃ野郎だぜ」
十文字が悔しげに去っていく。残されたのは、少しだけアルコールに思考を鈍らせた悟と、獲物を捕らえた獣のような瞳のヒル魔だけだった。
「ケケッ、酒くせェぞ糞悟。……立てるか」
「酒くさくなるほど飲んでません!…1杯だけです…」
ヒル魔が、悟の腰を引き寄せるようにして強引にエスコートを開始する。
十文字の優しさとは決定的に違う、独占欲の混じった、暴力的なまでに甘い導き。悟の心臓は、アルコールのせいだけではない熱を帯びて、激しく脈打ち始めた。
きらびやかなシャンデリアの下、ルーレット盤の周囲には異様な人だかりができていた。その中心にいるのは、ディーラーの動きを射抜くような視線で見つめる悟だ。
「スゲーな悟! まさか『悪魔の予言』でルーレットの出目まで視えてるのか!?」
モン太が興奮を抑えきれない様子で叫ぶ。隣ではセナが、積み上がっていくチップの山を見て目を白黒させていた。
「ハハ、さすがにそんな万能じゃあないよ」
悟は苦笑いしながら、手元のチップを特定のエリアへ淡々と追加ベットした。
「何ゲームか見てると、ウィールの回転の勢いとボールを投げ入れるタイミング、ディーラーの癖なんかが視えてくるの。数字をビタで当てるのはさすがに無理だけど、『このあたりに落ちそうだな』っていうのはなんとなくわかるから。ディーラーが交代しちゃうとまた一から組み立て直しだけどね……」
「……それ、十分人並み外れていると思うけど」
セナが戦慄する。物理的な確率と人間の無意識の習慣や癖を読み解くその「観察力」は、「神速のインパルス」にも劣らない、彼女の武器だった。
派手な大勝ちはせずとも、着実に、確実にチップを増やし続ける悟。その「勝ち馬」に乗ろうと、周囲の客たちも次々と彼女と同じ場所にチップを置き始めていた。
「……ふぅ。ディーラーが変わるみたい。一度休憩にしよう」
悟が席を立つと、彼女の利益に肖った恰幅の良い老紳士が、笑顔でグラスを差し出してきた。
「I'll buy you a drink, young lady!」
「あ、サンキュー……」
無下に断ることもできず、悟は差し出された琥珀色の液体を一口含んだ。炭酸の辛み、少しの苦さと、鼻に抜ける果実の甘い香り。
それから数分後。スロットで大負けを喫し、不機嫌極まりない様子でフロアを歩いていた十文字が、人混みの中で足元の危うい悟を見つけた。
「オイ……ちょっとこっち来い」
「……あ、十文字君」
振り返る悟の顔が、仄かに上気している。その様子に嫌な予感を覚えた十文字は、彼女の手を引き、喧騒から離れたラウンジのソファへと座らせた。
「それ……どうしたんだ」
悟の手には、半分空になったグラス。
「私のおかげで勝てたよってお客さんから、プレゼントして頂いたの。確か…アイルバイ、ユー、ドリンク…」
「馬鹿……! 『ドリンク』っつったら、こういう場じゃ酒のニュアンスもあんだぞ!」
「……!! やっぱりこれ、お酒…だよね…? 」
十文字は呆れ半分、心配半分で狼狽える彼女の顔を覗き込んだ。
「変な所抜けてるっつーか…。まぁ、相手もまさかカジノに未成年がいるとは思ってねぇだろうからな。……気分は悪くないか? 頭が痛いとか、吐き気とか」
「ううん、何ともないよ。……ごめん、迂闊だった」
「謝る必要はねぇよ。……ほら、これ飲め」
いつの間にか注文していたのか、十文字は冷えた水の入ったグラスを悟に差し出した。少し不器用な、彼なりの優しさだった。
煌びやかなカジノの喧騒が遠くの潮騒のように響く中で、十文字は差し出した水のグラスを握りしめる悟を、どこか落ち着かない様子で見つめていた。
「……さっきの、余計な話の続き、してもいいか?」
十文字が低く切り出した。父親への反発。それは彼という人間を形作る核の部分だった。
「……見返してぇんだ。親父だけじゃねぇ。黒木、戸叶…俺ら三人を『カス』だと、価値のねェゴミだと見下しやがった奴ら全員をだ。アメフトを通して、俺たちの存在を認めさせる。……そのために、俺はデス・マーチに残った」
十文字の瞳に、消えることのない炎が宿る。
悟はその言葉を、静かに受け止めていた。
「……同じだ」
「え?」
阿含という本物の天才を前に、自分がどれほど無力な存在かを突きつけられてきた悟。彼女にとって、このデス・マーチは単なる特訓ではなく、自分が「自分である理由」を見いだし、その価値を磨くために必要な事であったのだ。
ふいに、悟がテーブルの上に置かれたシャンパングラスを手に取った。
「オイ、それは……!」
十文字が止める間もなかった。悟は残っていた琥珀色の液体を、一気に喉へと流し込んだ。
「…ふふ、驚いた?」
悟は目を丸くする十文字に、上気した頬でいたずらっぽく、それでいて挑戦的に微笑みかけた。
「私も、今日だけ『不良』になってみようかなって。……これ、悪いことだよね?」
「……っ、お前な……」
「同じなの。……私もね、自分の価値を示すために、もっと強くなりたい。……私がここにいるって認めさせたいの」
普段の慎ましやかな彼女からは想像もつかない、剥き出しの熱。
十文字は面食らい、言葉を失った。内側から溢れ出す毒のように彼女を蝕むその執着ともいえる意志が、ドレスアップした美しさと混ざり合い、目を逸らせないほどの引力を持って彼を惹きつける。
「……馬鹿。これだから、放っておけねぇってんだよ」
十文字の手が、思わず悟の頬に触れようとした、その時だった。
「ケケッ!
低く、場を支配するような声が響いた。
悟が顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべ、重厚なアタッシュケースを提げたヒル魔が立っていた。
「2000万ゲットだ。糞長男、こいつをどぶろくに届けろ。……ケケッ、失くしたら殺すぞ」
「……なんで俺が」
不服さを滲ませる十文字に、ヒル魔が乱暴にアタッシュケースを押し付ける。2000万という大金を運ぶ責任を負わせ、十文字を悟から遠ざける――。それがヒル魔の采配だと分かっていても、逆らおうとするだけ無駄だ。
舌打ちをひとつ落とし、席を立とうとする十文字の背中に、ヒル魔が追い打ちをかけるように言い放った。
「今の今まで、テメーに花を持たせてやったんだ。この先は譲れねぇなァ」
その言葉に、十文字の足が止まる。
彼女へのエスコートを静観していたのは、興味がなかったからではない。最初から、すべてを自分のコントロール下に置いているという余裕。そして、最後には必ず自分が彼女をものにするという絶対的な自信ゆえだったのだ。
「……チッ、性格の悪ぃ野郎だぜ」
十文字が悔しげに去っていく。残されたのは、少しだけアルコールに思考を鈍らせた悟と、獲物を捕らえた獣のような瞳のヒル魔だけだった。
「ケケッ、酒くせェぞ糞悟。……立てるか」
「酒くさくなるほど飲んでません!…1杯だけです…」
ヒル魔が、悟の腰を引き寄せるようにして強引にエスコートを開始する。
十文字の優しさとは決定的に違う、独占欲の混じった、暴力的なまでに甘い導き。悟の心臓は、アルコールのせいだけではない熱を帯びて、激しく脈打ち始めた。