第二章【アメリカ合宿編】
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ラスベガスの大通りに面した、オープンテラスのカフェ。
テーブルを彩るのは、黄金色のソースがとろりと流れるエッグベネディクトに、色鮮やかなベリーが山盛りのパンケーキ。30日間もの間続いたデス・マーチが、今は遠い夢のようだった。
「んーっ! 美味しいっ!」
鈴音が、高く澄んだ空に向かって背伸びをする。隣ではまもりが、涼しげな表情でアイスティーのストローを弄んでいた。
「本当に……あの過酷な一ヶ月が嘘みたいに平和ね」
「そうですね……」
悟は穏やかに相槌を打ちながら、フォークを動かす。ようやく訪れた休息。だが、目の前の二人の「期待」を含む視線に気づき、悟の背筋がピシリと伸びる。
「で、悟!朝の続き!」
鈴音がエッグベネディクトを口にする間も惜しむように、身を乗り出した。
「妖兄を介抱しただけって言ったけど、ぶっちゃけそれ以上のことあったでしょ? チューくらいはしたわけ!?」
「――っ、ぶほっ!?」
飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになり、悟は激しく咳き込んだ。顔が瞬く間に茹で上がっていく。
「してない! そんな雰囲気じゃなくて……お互い限界過ぎてつい眠り込んじゃったってだけ…!」
必死に否定する悟に、まもりが優しくハンカチを差し出す。その微笑みは聖母のように慈愛に満ちていたが、言葉には一切の逃げ道がなかった。
「鈴音ちゃん、あまり悟ちゃんを困らせちゃダメよ。……でもね、悟ちゃん。あのヒル魔くんが、自分の部屋に他人を、しかも女性を入れたまま意識を手放すなんて……。なんなら寝てるところすら見たことないわよ?」
「はい……」
「あの人は、どんなに疲れていても弱みを見せずに自分を律する人。その彼が、悟ちゃんの前で見せた姿……。それはきっと、あなたを信頼している証拠だと思うの」
まもりの静かな、けれど確信を突いた言葉。悟は、今朝耳にかけられた指の熱を思い出し、言葉を失った。
まもりは静かにアイスティーをテーブルに置くと、少しだけ真剣な眼差しで悟を見つめた。
「そもそも……悟ちゃんの気持ちはどうなの? 彼を支えたいと思うのは、チームメイトとして? それとも……もっと個人的な気持ち?」
「それは……」
悟の手が止まる。
己を見つけ出し、初めて自分自身を認めてくれた人。阿含という呪縛から救い出してくれた恩人。
けれど、昨夜あの重みを感じた時、自分の胸に宿った感情は、尊敬や感謝とは別の、もっと熱く、切実なものだった。
「……個人的な、気持ちだと……思います」
消え入るような、けれど確かな肯定。
次の瞬間、カフェに鈴音の歓喜の叫びが響いた。
「ヤー!! ラブだよね? ねぇ、好きなんでしょ! 妖兄のこと好きなんだよね!?」
「ちょ、鈴音、声が大きい……!」
「いいから! ほら、頷きなさいよ!」
鈴音に両肩を掴まれ、前後に揺さぶられる。逃げ場を失った悟は、真っ赤な顔のまま、観念したように小さく、コクンと頷いた。
悟の返答を確認したまもりが、ふっと柔らかな笑みをこぼす。
「ふふ、顔が真っ赤よ。イジワルしてごめんね。でも、ちゃんと確認しておきたかったの。やっぱり、あんな無茶苦茶なヒル魔くんには、貴方はもったいないとは思うけれど……」
まもりはそこで一度言葉を切ると、少しだけ表情を引き締め、指を一本立てた。
「で! も! 節度は大切だからね! 二人の距離が近くなっているのはわかるけど……自分を大事にするのよ、悟ちゃん! 付け入る隙を与えすぎちゃダメ。わかった?」
「あ、は、はい……!」
まもりが、保護者のように釘を深く刺す。悟は背筋を伸ばして返事をするしかなかった。けれど、まもりの瞳には反対の色はなく、妹を案じるような、深い優しさが滲んでいる。
「ま、いいんじゃない? あの強情な妖兄がデレてるところ、見てみたいな〜」
鈴音が悪戯っぽく笑いながら、追加のフルーツパンケーキを注文する。
「……ありがとうございます、二人とも」
悟は、手元のアイスコーヒーを一口飲んだ。
自分の気持ちを認めた途端、ラスベガスの街並みが今まで以上に鮮明に、眩しく見え始める。
ヒル魔の隣で戦い、彼を支えていきたい。その想いは、恋心という熱を得て、より一層強い決意へと変わっていった。
「よーし! 景気づけに、悟もパンケーキ追加しちゃお!支払いは全部、妖兄のカードを使っちゃえばいいんだから!」
「…それ、買い出し用のカードね!さすがに怒られると思うよ!」
三人の笑い声が、乾いた風に乗ってラスベガスの空へ溶けていく。
地獄のデス・マーチを経て辿り着いたこの場所で、悟は自分の中にある、もう一つの新しい物語の始まりを静かに予感していた。
テーブルを彩るのは、黄金色のソースがとろりと流れるエッグベネディクトに、色鮮やかなベリーが山盛りのパンケーキ。30日間もの間続いたデス・マーチが、今は遠い夢のようだった。
「んーっ! 美味しいっ!」
鈴音が、高く澄んだ空に向かって背伸びをする。隣ではまもりが、涼しげな表情でアイスティーのストローを弄んでいた。
「本当に……あの過酷な一ヶ月が嘘みたいに平和ね」
「そうですね……」
悟は穏やかに相槌を打ちながら、フォークを動かす。ようやく訪れた休息。だが、目の前の二人の「期待」を含む視線に気づき、悟の背筋がピシリと伸びる。
「で、悟!朝の続き!」
鈴音がエッグベネディクトを口にする間も惜しむように、身を乗り出した。
「妖兄を介抱しただけって言ったけど、ぶっちゃけそれ以上のことあったでしょ? チューくらいはしたわけ!?」
「――っ、ぶほっ!?」
飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになり、悟は激しく咳き込んだ。顔が瞬く間に茹で上がっていく。
「してない! そんな雰囲気じゃなくて……お互い限界過ぎてつい眠り込んじゃったってだけ…!」
必死に否定する悟に、まもりが優しくハンカチを差し出す。その微笑みは聖母のように慈愛に満ちていたが、言葉には一切の逃げ道がなかった。
「鈴音ちゃん、あまり悟ちゃんを困らせちゃダメよ。……でもね、悟ちゃん。あのヒル魔くんが、自分の部屋に他人を、しかも女性を入れたまま意識を手放すなんて……。なんなら寝てるところすら見たことないわよ?」
「はい……」
「あの人は、どんなに疲れていても弱みを見せずに自分を律する人。その彼が、悟ちゃんの前で見せた姿……。それはきっと、あなたを信頼している証拠だと思うの」
まもりの静かな、けれど確信を突いた言葉。悟は、今朝耳にかけられた指の熱を思い出し、言葉を失った。
まもりは静かにアイスティーをテーブルに置くと、少しだけ真剣な眼差しで悟を見つめた。
「そもそも……悟ちゃんの気持ちはどうなの? 彼を支えたいと思うのは、チームメイトとして? それとも……もっと個人的な気持ち?」
「それは……」
悟の手が止まる。
己を見つけ出し、初めて自分自身を認めてくれた人。阿含という呪縛から救い出してくれた恩人。
けれど、昨夜あの重みを感じた時、自分の胸に宿った感情は、尊敬や感謝とは別の、もっと熱く、切実なものだった。
「……個人的な、気持ちだと……思います」
消え入るような、けれど確かな肯定。
次の瞬間、カフェに鈴音の歓喜の叫びが響いた。
「ヤー!! ラブだよね? ねぇ、好きなんでしょ! 妖兄のこと好きなんだよね!?」
「ちょ、鈴音、声が大きい……!」
「いいから! ほら、頷きなさいよ!」
鈴音に両肩を掴まれ、前後に揺さぶられる。逃げ場を失った悟は、真っ赤な顔のまま、観念したように小さく、コクンと頷いた。
悟の返答を確認したまもりが、ふっと柔らかな笑みをこぼす。
「ふふ、顔が真っ赤よ。イジワルしてごめんね。でも、ちゃんと確認しておきたかったの。やっぱり、あんな無茶苦茶なヒル魔くんには、貴方はもったいないとは思うけれど……」
まもりはそこで一度言葉を切ると、少しだけ表情を引き締め、指を一本立てた。
「で! も! 節度は大切だからね! 二人の距離が近くなっているのはわかるけど……自分を大事にするのよ、悟ちゃん! 付け入る隙を与えすぎちゃダメ。わかった?」
「あ、は、はい……!」
まもりが、保護者のように釘を深く刺す。悟は背筋を伸ばして返事をするしかなかった。けれど、まもりの瞳には反対の色はなく、妹を案じるような、深い優しさが滲んでいる。
「ま、いいんじゃない? あの強情な妖兄がデレてるところ、見てみたいな〜」
鈴音が悪戯っぽく笑いながら、追加のフルーツパンケーキを注文する。
「……ありがとうございます、二人とも」
悟は、手元のアイスコーヒーを一口飲んだ。
自分の気持ちを認めた途端、ラスベガスの街並みが今まで以上に鮮明に、眩しく見え始める。
ヒル魔の隣で戦い、彼を支えていきたい。その想いは、恋心という熱を得て、より一層強い決意へと変わっていった。
「よーし! 景気づけに、悟もパンケーキ追加しちゃお!支払いは全部、妖兄のカードを使っちゃえばいいんだから!」
「…それ、買い出し用のカードね!さすがに怒られると思うよ!」
三人の笑い声が、乾いた風に乗ってラスベガスの空へ溶けていく。
地獄のデス・マーチを経て辿り着いたこの場所で、悟は自分の中にある、もう一つの新しい物語の始まりを静かに予感していた。