第二章【アメリカ合宿編】
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遮光カーテンの隙間から差し込むラスベガスの朝日に、悟は重い瞼を持ち上げる。
「……ん」
いつの間にか掛けられていた毛布から、ホテルの清潔なリネンの香りがする。
(……あ。私、まさか――)
昨夜の記憶が奔流のように押し寄せる。糸が切れたようによろめいたヒル魔。彼を支えて部屋に運び、そのままベッドに押し倒される形になって……。
跳ね起きるようにして身を起こした悟の耳に、規則的なタイピングの音が飛び込んできた。
タタタン、と小気味よく響くキーボードの音。
テーブルに、すでに完璧に身支度を整え、ノートパソコンのモニターを凝視するヒル魔の姿があった。
こちらを一瞥もしないヒル魔の横顔を見る。顔色も悪くない。どうやら、溜まりに溜まった疲れを吐き出すような深い眠りで、彼の活力は復活したようだった。その事実に悟は胸を撫でおろす。
「えっと……おはようございます……?」
恐る恐るかけた挨拶を、ヒル魔は無言で切り捨てた。代わりに彼は椅子から立ち上がると、備え付けのコーヒーメーカーへ向かう。
不躾に差し出されたのは、湯気を立てるブラックコーヒーだった。
「あ、ありがとうございます……」
悟がおずおずとカップを受け取った、その時だ。
ヒル魔の手が、ふいに悟の顔へと伸びた。
「っ……!」
反射的に身を強張らせる悟。しかし、彼の長い指先は、寝癖で乱れた髪を優しく掬い上げると、そのまま流れるような所作で耳の後ろへとかけた。
指先が肌を掠める。その微かな熱に、悟の鼓動が跳ね上がった。
ヒル魔はそのまま指を離さず、至近距離から悟の瞳をじっと覗き込んだ。
数秒。だが数分にも感じられる濃密な静寂。
ヒル魔の双眸が自身の動揺を全て見透かしているようで、悟は呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
だが、ヒル魔はふっと鼻で笑うと、何事もなかったかのように再びデスクへと戻り、キーボードを叩き始めた。
(な、なんだったの、今のは……!?)
単なる気まぐれなのか。
混乱し、緊張で指先が震える。差し出されたコーヒーを口に含むが、熱さ以外の味は一切しなかった。
「お、お邪魔しました……!」
逃げ出すように部屋を飛び出し、自分の部屋へと駆け込む。ドアを閉めて大きく息を吐いた悟を待っていたのは、安らぎではなく、さらなる窮地だった。
「おーかーえーりー、悟!」
ベッドの上で足を組み、ニヤニヤと笑う鈴音。そしてその隣には、ティーカップを手にしながら、菩薩のような慈愛に満ちた、けれど目は一切笑っていない微笑みを浮かべるまもりが座っていた。
「悟ちゃん。昨夜は『集合時間の確認』に、ずいぶん時間がかかったみたいじゃない?」
「ま、まもりさん! これは、その……!」
「いいのよ、別に責めてるわけじゃないわ。ただ、悟ちゃんの顔があまりに赤いから、何か『困ったこと』でもあったのかしらと思って。…朝帰りは想定外だったの」
「そうそう! 妖兄と何してたのかなー?」
「何もしてない! …わけではないけど…。ちょっと調子が悪そうだったから介抱してただけ! 失礼します!!」
「え!?詳しく!ねぇねぇ!!」
バスルームへ逃げ込む悟の背中に、目を輝かせた鈴音の冷やかしと、まもりの「後でゆっくり聞かせてね」という静かな声が追いかけてくる。
ラスベガスの朝は、まだ始まったばかり。
けれど悟にとって、この一日はデス・マーチよりも過酷なものになりそうな予感がしていた。
「……ん」
いつの間にか掛けられていた毛布から、ホテルの清潔なリネンの香りがする。
(……あ。私、まさか――)
昨夜の記憶が奔流のように押し寄せる。糸が切れたようによろめいたヒル魔。彼を支えて部屋に運び、そのままベッドに押し倒される形になって……。
跳ね起きるようにして身を起こした悟の耳に、規則的なタイピングの音が飛び込んできた。
タタタン、と小気味よく響くキーボードの音。
テーブルに、すでに完璧に身支度を整え、ノートパソコンのモニターを凝視するヒル魔の姿があった。
こちらを一瞥もしないヒル魔の横顔を見る。顔色も悪くない。どうやら、溜まりに溜まった疲れを吐き出すような深い眠りで、彼の活力は復活したようだった。その事実に悟は胸を撫でおろす。
「えっと……おはようございます……?」
恐る恐るかけた挨拶を、ヒル魔は無言で切り捨てた。代わりに彼は椅子から立ち上がると、備え付けのコーヒーメーカーへ向かう。
不躾に差し出されたのは、湯気を立てるブラックコーヒーだった。
「あ、ありがとうございます……」
悟がおずおずとカップを受け取った、その時だ。
ヒル魔の手が、ふいに悟の顔へと伸びた。
「っ……!」
反射的に身を強張らせる悟。しかし、彼の長い指先は、寝癖で乱れた髪を優しく掬い上げると、そのまま流れるような所作で耳の後ろへとかけた。
指先が肌を掠める。その微かな熱に、悟の鼓動が跳ね上がった。
ヒル魔はそのまま指を離さず、至近距離から悟の瞳をじっと覗き込んだ。
数秒。だが数分にも感じられる濃密な静寂。
ヒル魔の双眸が自身の動揺を全て見透かしているようで、悟は呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。
だが、ヒル魔はふっと鼻で笑うと、何事もなかったかのように再びデスクへと戻り、キーボードを叩き始めた。
(な、なんだったの、今のは……!?)
単なる気まぐれなのか。
混乱し、緊張で指先が震える。差し出されたコーヒーを口に含むが、熱さ以外の味は一切しなかった。
「お、お邪魔しました……!」
逃げ出すように部屋を飛び出し、自分の部屋へと駆け込む。ドアを閉めて大きく息を吐いた悟を待っていたのは、安らぎではなく、さらなる窮地だった。
「おーかーえーりー、悟!」
ベッドの上で足を組み、ニヤニヤと笑う鈴音。そしてその隣には、ティーカップを手にしながら、菩薩のような慈愛に満ちた、けれど目は一切笑っていない微笑みを浮かべるまもりが座っていた。
「悟ちゃん。昨夜は『集合時間の確認』に、ずいぶん時間がかかったみたいじゃない?」
「ま、まもりさん! これは、その……!」
「いいのよ、別に責めてるわけじゃないわ。ただ、悟ちゃんの顔があまりに赤いから、何か『困ったこと』でもあったのかしらと思って。…朝帰りは想定外だったの」
「そうそう! 妖兄と何してたのかなー?」
「何もしてない! …わけではないけど…。ちょっと調子が悪そうだったから介抱してただけ! 失礼します!!」
「え!?詳しく!ねぇねぇ!!」
バスルームへ逃げ込む悟の背中に、目を輝かせた鈴音の冷やかしと、まもりの「後でゆっくり聞かせてね」という静かな声が追いかけてくる。
ラスベガスの朝は、まだ始まったばかり。
けれど悟にとって、この一日はデス・マーチよりも過酷なものになりそうな予感がしていた。