第二章【アメリカ合宿編】
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デス・マーチという名の過酷な旅路の途上、ついにデビルバット号は沈黙した。ガソリンを失い、灼熱の荒野で立ち往生する泥門一行。
「予定通りガス欠だ。…通行車からガソリンを『分けて』もらうとするか、ケケッ!」
ヒル魔の号令により、ガソリン強奪作戦――もとい、ハニートラップ作戦が幕を開けた。
「着替える必要、本当にあるの……?」
悟は、渡された服を眺めて当惑の声を漏らした。だが、鈴音の「こういうのは雰囲気から入らなきゃダメなの!」という強引な押しに負け、女性陣はデコトラの荷台で着替えを済ませる。
数分後。荒野の路肩に降り立った三人の姿に、待機していた男子たちは一様に息を呑んだ。
鈴音はミニ丈のデニムにへそ出しのタンクトップ。小柄ながらも弾けるような若々しさが眩しい。
そしてまもりは、いつもの清楚な印象を脱ぎ捨て、豊満な胸元を惜しげもなく強調したチューブトップを纏っていた。そのあまりの破壊力に、セナたちは視線のやり場に困り、顔を真っ赤にして俯く。モン太に至っては鼻血を流し倒れ込む始末だ。
そして悟も例外ではなく、泥門男性陣の視線を釘付けにしていた。
身体のラインを容赦なく拾うスキニージーンズに、タイトな黒のノースリーブトップス。
引き締まったウエストから伸びる長い脚、そして首筋を伝う紫黒色の髪。余計な装飾を削ぎ落としたからこそ際立つ、クールで煽情的なスレンダーボディ。
「……ッ、」
十文字は悟の姿を直視した瞬間、殴られたような衝撃と共に硬直した。タイトな布地越しに伝わる彼女のシルエットが、脳に直接火をつけたように熱い。
「オイオイ、なかなか美人じゃんよ!で、十文字ィ。実際どうよ?惚れ直した?」
「……うるせェぞ、黒木! …あんま見んじゃねぇ」
悟に釘付けになっていたことを指摘され、真っ赤な顔で怒鳴る十文字を、戸叶がニヤニヤしながら追い詰める。
「まぁ、悟もキレイなんだけどよ。俺はやっぱり、まもりさんの肉付きの方が……」
「……あァ!? 誰のどこを見て口叩いてんだ、ブチ殺すぞコラァ!!」
下世話な発言をする戸叶の襟首を掴み上げる十文字。そんな男たちの喧騒を他所に、作戦は実行された。
一台の車が、道端の三輪の花に吸い寄せられるように停車する。鼻の下を伸ばした運転手をヒル魔たちが包囲し、ガソリンを確保するのに、そう時間はかからなかった。
計画通りガソリンを手にしたヒル魔が給油ノズルを握り、燃料口へガソリンを流し込んでいた。
悟は練習着へと着替える前に、彼に歩み寄る。あの「サンアントニオでの夜」の熱がまだ心のどこかに残っていた悟が、少々大胆な手に出る。
「役に立てて良かったです。……この格好、どうですか?」
勇気を出した悟の、試すような問い。
ヒル魔はノズルを握る手に力を込め、視線は燃料口に固定したまま、ガムをパチンと鳴らした。
「ケケッ、必要十二分な『餌』だったな。パフォーマンスとして文句ねぇ」
味気の無い評価。悟を作戦の成功率を上げる駒として扱う、いつものヒル魔の反応だった。
(やっぱり、いつも通りか……)
悟は少しだけ拍子抜けしたような、苦笑を浮かべ小さく溜息をついた。
給油を終え、カチャリとノズルを戻したヒル魔が、悟の横を通り過ぎる。
彼は足を止めることも、視線を合わせることもしない。だが、その距離が数センチまで近づいた瞬間。
彼の長く節くれ立った指先が、悟の肩をかすめるようにして、彼女の髪を一房、無造作に弾いた。
「悪くねぇ」
低く、確かな重みを持った声。
「綺麗だ」とも「似合っている」とも言わない。けれど、その指先の感触と「悪くねぇ」という彼なりの賛辞の言葉には、深い情念が滲んでいた。
悟が顔を上げたときには、ヒル魔はすでに彼女に背を向け歩き出していた。
何事もなかったかのように振る舞うヒル魔が、いつもより速いリズムでガムを噛んでいるのを、悟は知らない。
悟はただ、指で弾かれた自分の髪にそっと触れ、そこに残る微かな熱を、風の中でいつまでも感じていた。
「予定通りガス欠だ。…通行車からガソリンを『分けて』もらうとするか、ケケッ!」
ヒル魔の号令により、ガソリン強奪作戦――もとい、ハニートラップ作戦が幕を開けた。
「着替える必要、本当にあるの……?」
悟は、渡された服を眺めて当惑の声を漏らした。だが、鈴音の「こういうのは雰囲気から入らなきゃダメなの!」という強引な押しに負け、女性陣はデコトラの荷台で着替えを済ませる。
数分後。荒野の路肩に降り立った三人の姿に、待機していた男子たちは一様に息を呑んだ。
鈴音はミニ丈のデニムにへそ出しのタンクトップ。小柄ながらも弾けるような若々しさが眩しい。
そしてまもりは、いつもの清楚な印象を脱ぎ捨て、豊満な胸元を惜しげもなく強調したチューブトップを纏っていた。そのあまりの破壊力に、セナたちは視線のやり場に困り、顔を真っ赤にして俯く。モン太に至っては鼻血を流し倒れ込む始末だ。
そして悟も例外ではなく、泥門男性陣の視線を釘付けにしていた。
身体のラインを容赦なく拾うスキニージーンズに、タイトな黒のノースリーブトップス。
引き締まったウエストから伸びる長い脚、そして首筋を伝う紫黒色の髪。余計な装飾を削ぎ落としたからこそ際立つ、クールで煽情的なスレンダーボディ。
「……ッ、」
十文字は悟の姿を直視した瞬間、殴られたような衝撃と共に硬直した。タイトな布地越しに伝わる彼女のシルエットが、脳に直接火をつけたように熱い。
「オイオイ、なかなか美人じゃんよ!で、十文字ィ。実際どうよ?惚れ直した?」
「……うるせェぞ、黒木! …あんま見んじゃねぇ」
悟に釘付けになっていたことを指摘され、真っ赤な顔で怒鳴る十文字を、戸叶がニヤニヤしながら追い詰める。
「まぁ、悟もキレイなんだけどよ。俺はやっぱり、まもりさんの肉付きの方が……」
「……あァ!? 誰のどこを見て口叩いてんだ、ブチ殺すぞコラァ!!」
下世話な発言をする戸叶の襟首を掴み上げる十文字。そんな男たちの喧騒を他所に、作戦は実行された。
一台の車が、道端の三輪の花に吸い寄せられるように停車する。鼻の下を伸ばした運転手をヒル魔たちが包囲し、ガソリンを確保するのに、そう時間はかからなかった。
計画通りガソリンを手にしたヒル魔が給油ノズルを握り、燃料口へガソリンを流し込んでいた。
悟は練習着へと着替える前に、彼に歩み寄る。あの「サンアントニオでの夜」の熱がまだ心のどこかに残っていた悟が、少々大胆な手に出る。
「役に立てて良かったです。……この格好、どうですか?」
勇気を出した悟の、試すような問い。
ヒル魔はノズルを握る手に力を込め、視線は燃料口に固定したまま、ガムをパチンと鳴らした。
「ケケッ、必要十二分な『餌』だったな。パフォーマンスとして文句ねぇ」
味気の無い評価。悟を作戦の成功率を上げる駒として扱う、いつものヒル魔の反応だった。
(やっぱり、いつも通りか……)
悟は少しだけ拍子抜けしたような、苦笑を浮かべ小さく溜息をついた。
給油を終え、カチャリとノズルを戻したヒル魔が、悟の横を通り過ぎる。
彼は足を止めることも、視線を合わせることもしない。だが、その距離が数センチまで近づいた瞬間。
彼の長く節くれ立った指先が、悟の肩をかすめるようにして、彼女の髪を一房、無造作に弾いた。
「悪くねぇ」
低く、確かな重みを持った声。
「綺麗だ」とも「似合っている」とも言わない。けれど、その指先の感触と「悪くねぇ」という彼なりの賛辞の言葉には、深い情念が滲んでいた。
悟が顔を上げたときには、ヒル魔はすでに彼女に背を向け歩き出していた。
何事もなかったかのように振る舞うヒル魔が、いつもより速いリズムでガムを噛んでいるのを、悟は知らない。
悟はただ、指で弾かれた自分の髪にそっと触れ、そこに残る微かな熱を、風の中でいつまでも感じていた。