第二章【アメリカ合宿編】
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隊列の先頭、セナは極限の集中力の中にいた。足元で転がす石を、スピードを維持したまま蹴り続ける。
「あのチビ、予想以上の『たま』かもしんねぇ」
デコトラの運転席で酒瓶を傾けていたどぶろくが、細めた目を鋭くさせる。
「おい、セナ! 次はそのスピードを殺さねぇまま、ジグザグに石を蹴ってみな!」
「えっ……!? じ、ジグザグに……?」
どぶろくの無茶振りにセナが応える。右へ、左へ。鋭い踏み込みと共に石が跳ねる。スピードを維持したまま進路を切り替えるその瞬間の動きに、実体のない残像が混じり始めた。
それは後に高校アメフト界を震撼させる最強の走法――『デビルバットゴースト』の完成が間近となった瞬間だった。
セナのすぐ後ろを走る悟は、その「進化」を最も近くで目撃していた。
彼女の脳内では、自らの特殊能力がフル稼働している。セナの筋肉の収縮、重心の移動、足首の角度。そのすべてを『神速のインパルス』で捉える。
(セナの動き…今の私なら、なぞれないかな……)
悟は自主的に、セナのジグザグ走行を自分自身の身体に投影しようと試みた。
ヒル魔から求められている「パスも取れるランニングバック」という役割。そのためには、自分もフィールドを走り抜くための武器を持たなければならないという焦燥感があった。
しかし。
「っ……、く……っ!」
脳が理解していても、身体が拒絶反応を起こす。
セナのような爆発的な脚力を持たない悟が、同じ鋭角でカットを切ろうとすれば、遠心力に耐えきれずスピードが死んでしまう。無理に踏み込めば膝に鋭い衝撃が走り、逆に失速を招く。
(わかっているのに……なぞれない。私には、あのスピードを支える脚が、技術がないから……)
憧れと現実の乖離に、悟の唇が白く強張った。
「ケケッ、面白ェことを始めてやがんな、タコ踊りでもしてんのかと思ったぜ」
ヒル魔だ。彼は悟の乱れたステップを、まるで見透かしたような薄笑いを浮かべて眺めていた。
「ヒル魔さん……」
「糞チビとお前じゃストロングポイントが違ェ。あの『黄金の脚』をなぞろうとするだけ無駄だ。テメーはテメーの『武器』があるだろーが」
突き放すような、けれど的確な指摘。悟は、セナの唯一無二のスピードを模倣しようとした自分の驕りに気づき、ハッと息を呑んだ。
「ケケッ、こういう時におあつらえ向きの奴がいるじゃねぇか」
ヒル魔はそれだけ言うと、興味を失ったかのように自身の練習へと戻っていった。
(おあつらえ向き…)
悟の脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
「……へぇ、ヒル魔の野郎がそう言ったか」
休憩中、どぶろくは悟の相談を聞き、視線を彼女の足元に向けた。
「入部当初はレシーバーだったんだってな。……いいか。お前さんにセナのような『脚力』はねぇ。ランニングバックとしての単純な走力だけでいえば現状平均以下だろうな。…だがお前さんには誰よりも速く状況を脳に叩き込み動き出せる『反応速度』がある」
どぶろくは酒瓶を地面に置くと、悟の前に立った。
「セナの真似はすんな。その異様な『反応速度』を活かすための、最小限の動きで敵を交わす術を覚えろ。無駄な踏み込みを捨てて、最短最速の『キレ』でカットを切るんだ」
どぶろくの指導は、合理的かつ実践的だった。
「いいか、カットの基本はチェンジオブペースっつってな。…セナは天然でやってるな」
悟の特異な反応能力、「神速のインパルス」とその派生「悪魔の予言」をどう走りに結びつけるか。
「相手が反応しにくいよう、意図的に速度、リズムに緩急をつけんだ。誰よりも視えてるお前さんならむしろ得意分野だと踏んでる」
セナの走りが触れられもしないスピードの上に成り立つのに対し、悟の走りは相手の動きを読み切る観察力と反射速度を用いた謂わば「後出しジャンケン」だ。
「お勉強はこれくらいにして、まずは走り方の矯正から始めるか!へばるんじゃねぇぞ!」
どぶろくの手ほどきを受け、悟のランニングバックとしての才能が開花し始めたのであった。
「あのチビ、予想以上の『たま』かもしんねぇ」
デコトラの運転席で酒瓶を傾けていたどぶろくが、細めた目を鋭くさせる。
「おい、セナ! 次はそのスピードを殺さねぇまま、ジグザグに石を蹴ってみな!」
「えっ……!? じ、ジグザグに……?」
どぶろくの無茶振りにセナが応える。右へ、左へ。鋭い踏み込みと共に石が跳ねる。スピードを維持したまま進路を切り替えるその瞬間の動きに、実体のない残像が混じり始めた。
それは後に高校アメフト界を震撼させる最強の走法――『デビルバットゴースト』の完成が間近となった瞬間だった。
セナのすぐ後ろを走る悟は、その「進化」を最も近くで目撃していた。
彼女の脳内では、自らの特殊能力がフル稼働している。セナの筋肉の収縮、重心の移動、足首の角度。そのすべてを『神速のインパルス』で捉える。
(セナの動き…今の私なら、なぞれないかな……)
悟は自主的に、セナのジグザグ走行を自分自身の身体に投影しようと試みた。
ヒル魔から求められている「パスも取れるランニングバック」という役割。そのためには、自分もフィールドを走り抜くための武器を持たなければならないという焦燥感があった。
しかし。
「っ……、く……っ!」
脳が理解していても、身体が拒絶反応を起こす。
セナのような爆発的な脚力を持たない悟が、同じ鋭角でカットを切ろうとすれば、遠心力に耐えきれずスピードが死んでしまう。無理に踏み込めば膝に鋭い衝撃が走り、逆に失速を招く。
(わかっているのに……なぞれない。私には、あのスピードを支える脚が、技術がないから……)
憧れと現実の乖離に、悟の唇が白く強張った。
「ケケッ、面白ェことを始めてやがんな、タコ踊りでもしてんのかと思ったぜ」
ヒル魔だ。彼は悟の乱れたステップを、まるで見透かしたような薄笑いを浮かべて眺めていた。
「ヒル魔さん……」
「糞チビとお前じゃストロングポイントが違ェ。あの『黄金の脚』をなぞろうとするだけ無駄だ。テメーはテメーの『武器』があるだろーが」
突き放すような、けれど的確な指摘。悟は、セナの唯一無二のスピードを模倣しようとした自分の驕りに気づき、ハッと息を呑んだ。
「ケケッ、こういう時におあつらえ向きの奴がいるじゃねぇか」
ヒル魔はそれだけ言うと、興味を失ったかのように自身の練習へと戻っていった。
(おあつらえ向き…)
悟の脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
「……へぇ、ヒル魔の野郎がそう言ったか」
休憩中、どぶろくは悟の相談を聞き、視線を彼女の足元に向けた。
「入部当初はレシーバーだったんだってな。……いいか。お前さんにセナのような『脚力』はねぇ。ランニングバックとしての単純な走力だけでいえば現状平均以下だろうな。…だがお前さんには誰よりも速く状況を脳に叩き込み動き出せる『反応速度』がある」
どぶろくは酒瓶を地面に置くと、悟の前に立った。
「セナの真似はすんな。その異様な『反応速度』を活かすための、最小限の動きで敵を交わす術を覚えろ。無駄な踏み込みを捨てて、最短最速の『キレ』でカットを切るんだ」
どぶろくの指導は、合理的かつ実践的だった。
「いいか、カットの基本はチェンジオブペースっつってな。…セナは天然でやってるな」
悟の特異な反応能力、「神速のインパルス」とその派生「悪魔の予言」をどう走りに結びつけるか。
「相手が反応しにくいよう、意図的に速度、リズムに緩急をつけんだ。誰よりも視えてるお前さんならむしろ得意分野だと踏んでる」
セナの走りが触れられもしないスピードの上に成り立つのに対し、悟の走りは相手の動きを読み切る観察力と反射速度を用いた謂わば「後出しジャンケン」だ。
「お勉強はこれくらいにして、まずは走り方の矯正から始めるか!へばるんじゃねぇぞ!」
どぶろくの手ほどきを受け、悟のランニングバックとしての才能が開花し始めたのであった。