第二章【アメリカ合宿編】
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サンアントニオ市を離れた日、とあるトラブルが発生する。
セナの失踪。文字通り「迷子」になったのだ。
幸い、セナとは連絡がついており居場所だけは判明した。セナは現在、逆走した地点にあるサンアントニオ体育館に立ち往生しているという。
「あァ!? どこで道草食ってんだ、この糞チビがぁ!!」
乾いた荒野にヒル魔の怒声が響き渡る。
受話器の向こうで「ひ、ひいいいっ!」と悲鳴を上げるセナの姿が、手に取るように想像できた。
休憩中、セナがようやくデビルバット号へと戻ってきた。
しかし、その背後には見慣れない、あまりに派手な男と、小柄で快活そうな少女の姿があった。
「あ……あの。この人、瀧夏彦くん。泥門のタイトエンドに入ってもらったらどうかなって……」
セナが恐る恐る差し出した新戦力候補は、シャツをはだけさせ派手な色のジャケットを羽織り、バラを背負わんばかりにポーズを決めていた。
「アハーハー! 僕は神に愛された男さ! この広いアメリカも、僕の才能を閉じ込めておくには狭すぎるようだね!」
その軽薄な言動に、部員たちが呆気にとられる中、ヒル魔だけは楽しそうに笑い声をあげていた。
「ケケケ!バカだ、バカがいるぞ!」
アメリカでアメフト未経験のままプロ試験を受けたという、この男の無謀すぎるエピソードを気に入ったようなのだ。
「デス・マーチを最後まで完走できたら、候補にだけは入れてやる」
ヒル魔が意外にもすんなりと許可を出し、セナがホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、自称「神に愛された男」のターゲットは、泥門の女性陣へと向けられた。
「アハーハー! 荒野に咲く二輪の美しき花……マドモワゼル! お名前を尋ねても?」
夏彦が、悟とまもりの前に跪き、悟の手を慇懃に取ろうとした瞬間――。
「……死にてェのか、糞バカ」
無表情なヒル魔の銃口が、夏彦のこめかみにピタリと突きつけられた。同時に、反対側から十文字が夏彦の襟首を、親の敵と言わんばかりの力でひっ掴む。
「おい、誰に手ェ出してんだ。ぶっ殺されてぇのか」
「ア、アハーハー!? 暴力反対! 僕に怪我をさせるのは世界の損失だよ!」
ヒル魔の放つ静かな殺気と、十文字の怒り。二人の守護者に挟まれ、夏彦は情けなく足をバタつかせる。
悟は「え、えっと……?」と困惑しつつも、このコミカルな光景にまもりと顔を見合わせ思わず吹き出してしまった。
ローラースケートで自在に駆け回る少女――瀧 夏彦の妹、鈴音が悟の元へ滑り寄ってきた。
「バカ兄貴がごめんね!ええっと、名前教えて?」
「セナくんと同級生で、金剛悟っていいます。……鈴音ちゃん?」
「かゆい! 敬語も『さん』とか『ちゃん』付けも苦手なの!! セナとも同じやりとりしたよ」
鈴音は女性でアメフト選手だという悟を珍しそうに眺めながら、屈託のない笑顔を見せる。
「鈴音でいいってば。あなたは悟、でしょ?」
「……ふふっ。わかった。よろしくね、鈴音」
鈴音の竹を割ったような性格に、悟の心も自然と解けていく。それを見守っていたセナに、悟はある提案を持ちかけた。
「…ねぇ、セナくん。鈴音に乗っかる形なんだけど…。私のことも悟『さん』って呼ぶの、やめない?」
不意の提案に、セナが驚いたように動きを止める。
「モン太くんや十文字くんたちも呼び捨てだし。嫌じゃなければ、だけど……」
少し照れくさそうに笑う悟に、セナは戸惑いながらもやがて頬を赤らめて頷いた。鈴音から「いっそ悟もセナ『くん』ってのやめたら?」と煽られ、二人の間にどこかこそばゆい、けれど確かな親愛の情が流れる。
「……じゃあ…。よろしくね、悟」
「うん、よろしく、セナ」
かつての悟は、まもりに護られ自分の価値を見失っていたセナを己に重ねていた。だが今、泥門のエースとして過酷なデス・マーチに挑む彼の横顔に、かつての弱々しい面影はない。
成長していく仲間の姿を、一人の戦友として悟は誇らしげに見つめた。悟とセナの間に、共感や同情ではない、確かな絆が結ばれ始めたのであった。
セナの失踪。文字通り「迷子」になったのだ。
幸い、セナとは連絡がついており居場所だけは判明した。セナは現在、逆走した地点にあるサンアントニオ体育館に立ち往生しているという。
「あァ!? どこで道草食ってんだ、この糞チビがぁ!!」
乾いた荒野にヒル魔の怒声が響き渡る。
受話器の向こうで「ひ、ひいいいっ!」と悲鳴を上げるセナの姿が、手に取るように想像できた。
休憩中、セナがようやくデビルバット号へと戻ってきた。
しかし、その背後には見慣れない、あまりに派手な男と、小柄で快活そうな少女の姿があった。
「あ……あの。この人、瀧夏彦くん。泥門のタイトエンドに入ってもらったらどうかなって……」
セナが恐る恐る差し出した新戦力候補は、シャツをはだけさせ派手な色のジャケットを羽織り、バラを背負わんばかりにポーズを決めていた。
「アハーハー! 僕は神に愛された男さ! この広いアメリカも、僕の才能を閉じ込めておくには狭すぎるようだね!」
その軽薄な言動に、部員たちが呆気にとられる中、ヒル魔だけは楽しそうに笑い声をあげていた。
「ケケケ!バカだ、バカがいるぞ!」
アメリカでアメフト未経験のままプロ試験を受けたという、この男の無謀すぎるエピソードを気に入ったようなのだ。
「デス・マーチを最後まで完走できたら、候補にだけは入れてやる」
ヒル魔が意外にもすんなりと許可を出し、セナがホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、自称「神に愛された男」のターゲットは、泥門の女性陣へと向けられた。
「アハーハー! 荒野に咲く二輪の美しき花……マドモワゼル! お名前を尋ねても?」
夏彦が、悟とまもりの前に跪き、悟の手を慇懃に取ろうとした瞬間――。
「……死にてェのか、糞バカ」
無表情なヒル魔の銃口が、夏彦のこめかみにピタリと突きつけられた。同時に、反対側から十文字が夏彦の襟首を、親の敵と言わんばかりの力でひっ掴む。
「おい、誰に手ェ出してんだ。ぶっ殺されてぇのか」
「ア、アハーハー!? 暴力反対! 僕に怪我をさせるのは世界の損失だよ!」
ヒル魔の放つ静かな殺気と、十文字の怒り。二人の守護者に挟まれ、夏彦は情けなく足をバタつかせる。
悟は「え、えっと……?」と困惑しつつも、このコミカルな光景にまもりと顔を見合わせ思わず吹き出してしまった。
ローラースケートで自在に駆け回る少女――瀧 夏彦の妹、鈴音が悟の元へ滑り寄ってきた。
「バカ兄貴がごめんね!ええっと、名前教えて?」
「セナくんと同級生で、金剛悟っていいます。……鈴音ちゃん?」
「かゆい! 敬語も『さん』とか『ちゃん』付けも苦手なの!! セナとも同じやりとりしたよ」
鈴音は女性でアメフト選手だという悟を珍しそうに眺めながら、屈託のない笑顔を見せる。
「鈴音でいいってば。あなたは悟、でしょ?」
「……ふふっ。わかった。よろしくね、鈴音」
鈴音の竹を割ったような性格に、悟の心も自然と解けていく。それを見守っていたセナに、悟はある提案を持ちかけた。
「…ねぇ、セナくん。鈴音に乗っかる形なんだけど…。私のことも悟『さん』って呼ぶの、やめない?」
不意の提案に、セナが驚いたように動きを止める。
「モン太くんや十文字くんたちも呼び捨てだし。嫌じゃなければ、だけど……」
少し照れくさそうに笑う悟に、セナは戸惑いながらもやがて頬を赤らめて頷いた。鈴音から「いっそ悟もセナ『くん』ってのやめたら?」と煽られ、二人の間にどこかこそばゆい、けれど確かな親愛の情が流れる。
「……じゃあ…。よろしくね、悟」
「うん、よろしく、セナ」
かつての悟は、まもりに護られ自分の価値を見失っていたセナを己に重ねていた。だが今、泥門のエースとして過酷なデス・マーチに挑む彼の横顔に、かつての弱々しい面影はない。
成長していく仲間の姿を、一人の戦友として悟は誇らしげに見つめた。悟とセナの間に、共感や同情ではない、確かな絆が結ばれ始めたのであった。