第二章【アメリカ合宿編】
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ガムを切らし、ホテル近辺のコンビニへ向かったのち戻ったホテルの廊下。そこで目にした光景に、思考は一瞬で停止し、直後、不快感に塗り潰された。
「テメー……何してやがる」
部屋の前にいたのは、見るからに風呂上がりの悟だった。湿った空気を纏い、無防備に晒されたうなじと、まだ水が滴る髪。
自分の中に芽生えた感情の正体を自覚して以来、彼女を特別な「駒」以上の存在として意識し始めていた。
だからこそ、その姿を他人の目に晒している事実が許せなかった。
他の野郎に、この無防備な姿を、一秒たりとも見せてたまるか。
「……浅はかにもほどかあんだろーが」
吐き捨てる言葉は、彼女に向けたものでもあり、自分の中の独占欲に向けたものでもあった。
問答無用で悟の手首を掴むと、自室へと引きずり込む。
ドアが閉まり、狭い空間に二人きり。
部屋に満ちるのは、彼女が纏ってきた石鹸の匂いだ。
ヒル魔は膨らむ情念を押し殺すように椅子に深く腰掛け、パソコンのモニターに視線を向けた。
「データまとめてる間に、その頭なんとかしろ」
ドライヤーを使い始めた悟をモニター越しに見つめる。彼女の横顔と揺れる髪。
それらすべてが、脳内にある精密な計算式を狂わせる雑音 として増幅していく。
「触れたい」という欲求が、理性の堤防を削り取っていく。
気づけば、椅子から立ち上がっていた。
無言で悟の背後に立ち、その手からドライヤーを奪い取る。
「え……?」
驚きで振り返ろうとする彼女の肩を、手で押さえつける。
指先がその髪に触れた瞬間、喉の奥が渇くような感覚。
ボールを操るための指先が、今は一人の女の髪を梳いている。
(……もっとだ)
髪に触れるだけでは足りない。
このまま顔をこちらに向けさせたい。
その頬に触れ、抱き寄せたい。
そんな、合理的とは程遠い欲求が次々と溢れ出す。
だが、それを実行には移さなかった。自制心が、かろうじて想いを押し留める。
髪を乾かすという行為に全神経を集中させる。
丁寧に、執拗に。一房ごとを指先で確認するように、髪を整えていく。
その静かな時間は、彼にとっての至福であり、同時に拷問でもあった。
「それ持って出ろ」
髪が乾ききると同時に、USBを洗面台に投げ置いた。
部屋を出る悟の背中を追う。
たかが「髪を乾かす」という行為の最中、何度彼女を抱き締めようとしたか。
何度、その白い首筋に指を伸ばそうとしたか。
冷静沈着であるはずの自分が、たった一人の女に、ここまで翻弄されている。
彼女の部屋の前でまもりと対峙した際、不機嫌さは最高潮に達していた。
それはまもりへの怒りでも、悟への苛立ちでもない。「悟を前にして、余裕を完全に失っている自分」への自己嫌悪だった。
「糞マネ、このバカが夜中にほっつき歩かねぇ様に見張っとけ」
乱暴に言い放ち、背を向ける。
暗い廊下を歩きながら、自分の掌を強く握りしめた。
指先に残る、彼女の髪の質感と熱。
それを振り払うように、早足で自室へと向かった。
「テメー……何してやがる」
部屋の前にいたのは、見るからに風呂上がりの悟だった。湿った空気を纏い、無防備に晒されたうなじと、まだ水が滴る髪。
自分の中に芽生えた感情の正体を自覚して以来、彼女を特別な「駒」以上の存在として意識し始めていた。
だからこそ、その姿を他人の目に晒している事実が許せなかった。
他の野郎に、この無防備な姿を、一秒たりとも見せてたまるか。
「……浅はかにもほどかあんだろーが」
吐き捨てる言葉は、彼女に向けたものでもあり、自分の中の独占欲に向けたものでもあった。
問答無用で悟の手首を掴むと、自室へと引きずり込む。
ドアが閉まり、狭い空間に二人きり。
部屋に満ちるのは、彼女が纏ってきた石鹸の匂いだ。
ヒル魔は膨らむ情念を押し殺すように椅子に深く腰掛け、パソコンのモニターに視線を向けた。
「データまとめてる間に、その頭なんとかしろ」
ドライヤーを使い始めた悟をモニター越しに見つめる。彼女の横顔と揺れる髪。
それらすべてが、脳内にある精密な計算式を狂わせる
「触れたい」という欲求が、理性の堤防を削り取っていく。
気づけば、椅子から立ち上がっていた。
無言で悟の背後に立ち、その手からドライヤーを奪い取る。
「え……?」
驚きで振り返ろうとする彼女の肩を、手で押さえつける。
指先がその髪に触れた瞬間、喉の奥が渇くような感覚。
ボールを操るための指先が、今は一人の女の髪を梳いている。
(……もっとだ)
髪に触れるだけでは足りない。
このまま顔をこちらに向けさせたい。
その頬に触れ、抱き寄せたい。
そんな、合理的とは程遠い欲求が次々と溢れ出す。
だが、それを実行には移さなかった。自制心が、かろうじて想いを押し留める。
髪を乾かすという行為に全神経を集中させる。
丁寧に、執拗に。一房ごとを指先で確認するように、髪を整えていく。
その静かな時間は、彼にとっての至福であり、同時に拷問でもあった。
「それ持って出ろ」
髪が乾ききると同時に、USBを洗面台に投げ置いた。
部屋を出る悟の背中を追う。
たかが「髪を乾かす」という行為の最中、何度彼女を抱き締めようとしたか。
何度、その白い首筋に指を伸ばそうとしたか。
冷静沈着であるはずの自分が、たった一人の女に、ここまで翻弄されている。
彼女の部屋の前でまもりと対峙した際、不機嫌さは最高潮に達していた。
それはまもりへの怒りでも、悟への苛立ちでもない。「悟を前にして、余裕を完全に失っている自分」への自己嫌悪だった。
「糞マネ、このバカが夜中にほっつき歩かねぇ様に見張っとけ」
乱暴に言い放ち、背を向ける。
暗い廊下を歩きながら、自分の掌を強く握りしめた。
指先に残る、彼女の髪の質感と熱。
それを振り払うように、早足で自室へと向かった。