第二章(アメリカ合宿編)
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昨日、十文字によって「強制的な安息」を与えられた悟は、デス・マーチ開始以来初めて、深い泥のような眠りの中にいた。
「いつまで寝てんだ、糞悟!!」
爆音の怒鳴り声と、助手席のドアを乱暴に叩く音。悟は飛び起き、心臓を跳ねさせた。時計を見れば、集合時間をわずかに過ぎている。
「すみません、すぐ――っ!」
焦って車外へ飛び出そうとした悟だったが、脚は寝起きと焦りでうまく動かず、段差で足をもつれさせ、無様に地面へ転がり落ちそうになる。
衝撃を覚悟して目を閉じたが、訪れたのは痛みではなく、硬い腕の感触だった。
鼻腔をくすぐる、火薬の残り香。
「……っ、ヒル魔、さん……」
見上げれば、そこには不機嫌そうに目を細めたヒル魔の顔があった。至近距離。心臓の音がうるさいほどに響く。
「すみません! すぐ離れますから――」
離れようとする悟の背に、グイと力が込められた。身動きができない、強引な抱擁。困惑する悟の耳元で、ヒル魔は低く、微かな声で呟いた。
「……上書きだ」
「え?今、 何て言い……」
問い返す間もなく、視界が大きく揺れた。ヒル魔は悟をひょいとお姫様抱っこで担ぎ上げると、そのまま練習前のストレッチを始めていた部員たちの方へと歩き出した。
「ケケッ、糞マネ! こいつ、寝ぼけて助手席から転がり落ちやがった。使い物になるようきっちり手当てしとけ」
ヒル魔は、ストレッチの手を止めて驚愕する部員たちの前を、悠然と横切る。
悟の視線の先には、昨夜、悟を抱き寄せた十文字がいた。ヒル魔は十文字を一瞥すらしない。だが、その足取りと悟 を抱く腕の強さは、明らかに「自分の所有物」を誇示する傲慢さに満ちていた。
「ヒル魔さん、私、怪我なんて……!」
「黙って運ばれてろ」
抗議も虚しく、悟はそのまままもりの元へ、文字通り「納品」された。
「悟ちゃん、大丈夫!?」
心配そうに駆け寄るまもりに、悟はバツが悪そうに苦笑いを浮かべることしかできなかった。
背後では、満足げな笑みを浮かべたヒル魔が、何事もなかったかのように練習の指示を飛ばし始めていた。
「抱えて連れてくるなんて、よっぽど酷く打ったのね……。どこが痛むの?」
まもりが真剣な表情で悟の脚を調べ始める。実際には無傷だ。転がり落ちたというのは、ヒル魔の真っ赤な嘘であり、昨日の十文字とのやりとりを知ったヒル魔がからかっているのだと、悟は思った。
(……どうしよう。嘘だって言わなきゃ。でも……)
まもりの優しさに触れるたび、昨夜見た「岩陰で寄り添う二人」の光景が蘇る。まもりを傷つけたくない、けれど彼女の存在が眩しくて、チクチクと胸が痛む。
「……悟ちゃん? 震えてるわ。やっぱり、どこか痛むのね!?」
「……ちが、違います。大丈夫なんです、まもりさん……」
純粋に自分を案じてくれるまもりに対し、嫉妬にも似た暗い感情を抱いてしまう。そんな己の器の小ささに、悟は激しい自己嫌悪を感じ、俯くしかなかった。
「腫れたりしている所は無さそうだけど…関節の動きまでは私はわからないから…、念のためテーピングさせてね」
まもりが悟の脚に入念なテーピングを施す。
「フフッ。でも驚いちゃった。ヒル魔くんが悟ちゃんを抱えてくるなんてね。彼も人を心配できるのね」
まもりの言葉に、悟はたまらず言い訳を口にした。
「ヒル魔さんの私に対する親切は、皮肉か、もしくは駒の管理的な意味合いで……。」
「駒?彼らしいけど…ひどい言い方ね、怒っていいのよ?」
「私が言いたいのは、えっと……ヒル魔さんとまもりさんは……その……」
口ごもる悟を見て、まもりは一瞬、きょとんとした。
そして悟の視線の意味と、これまでの挙動不審な態度の理由を即座に察した。
「……ちょっと待って、悟ちゃん。あなた、まさか……」
まもりは、これまで見たこともないような、心底嫌そうな、そして呆れたような顔をした。
「ありえないわ! 冗談でもそんなこと考えないで!…あー、もう! 寒気がしたわ…!」
「えっ……?」
まもりの猛烈な拒絶反応に、悟の思考回路は真っ白にフリーズした。
「ほら、テーピング終わったよ!むしろ悟ちゃん、貴方が気をつけなきゃ駄目よ。 あんな傍若無人の権化みたいな人に、悟ちゃんはもったいないわ!」
荒野の熱風が、呆気にとられた悟の頬を撫でていく。まもりはイタズラっぽく微笑み悟の肩をポンと優しく叩くと、今日も頑張って、と一言を残しその場を後にした。
「いつまで寝てんだ、糞悟!!」
爆音の怒鳴り声と、助手席のドアを乱暴に叩く音。悟は飛び起き、心臓を跳ねさせた。時計を見れば、集合時間をわずかに過ぎている。
「すみません、すぐ――っ!」
焦って車外へ飛び出そうとした悟だったが、脚は寝起きと焦りでうまく動かず、段差で足をもつれさせ、無様に地面へ転がり落ちそうになる。
衝撃を覚悟して目を閉じたが、訪れたのは痛みではなく、硬い腕の感触だった。
鼻腔をくすぐる、火薬の残り香。
「……っ、ヒル魔、さん……」
見上げれば、そこには不機嫌そうに目を細めたヒル魔の顔があった。至近距離。心臓の音がうるさいほどに響く。
「すみません! すぐ離れますから――」
離れようとする悟の背に、グイと力が込められた。身動きができない、強引な抱擁。困惑する悟の耳元で、ヒル魔は低く、微かな声で呟いた。
「……上書きだ」
「え?今、 何て言い……」
問い返す間もなく、視界が大きく揺れた。ヒル魔は悟をひょいとお姫様抱っこで担ぎ上げると、そのまま練習前のストレッチを始めていた部員たちの方へと歩き出した。
「ケケッ、糞マネ! こいつ、寝ぼけて助手席から転がり落ちやがった。使い物になるようきっちり手当てしとけ」
ヒル魔は、ストレッチの手を止めて驚愕する部員たちの前を、悠然と横切る。
悟の視線の先には、昨夜、悟を抱き寄せた十文字がいた。ヒル魔は十文字を一瞥すらしない。だが、その足取りと悟 を抱く腕の強さは、明らかに「自分の所有物」を誇示する傲慢さに満ちていた。
「ヒル魔さん、私、怪我なんて……!」
「黙って運ばれてろ」
抗議も虚しく、悟はそのまままもりの元へ、文字通り「納品」された。
「悟ちゃん、大丈夫!?」
心配そうに駆け寄るまもりに、悟はバツが悪そうに苦笑いを浮かべることしかできなかった。
背後では、満足げな笑みを浮かべたヒル魔が、何事もなかったかのように練習の指示を飛ばし始めていた。
「抱えて連れてくるなんて、よっぽど酷く打ったのね……。どこが痛むの?」
まもりが真剣な表情で悟の脚を調べ始める。実際には無傷だ。転がり落ちたというのは、ヒル魔の真っ赤な嘘であり、昨日の十文字とのやりとりを知ったヒル魔がからかっているのだと、悟は思った。
(……どうしよう。嘘だって言わなきゃ。でも……)
まもりの優しさに触れるたび、昨夜見た「岩陰で寄り添う二人」の光景が蘇る。まもりを傷つけたくない、けれど彼女の存在が眩しくて、チクチクと胸が痛む。
「……悟ちゃん? 震えてるわ。やっぱり、どこか痛むのね!?」
「……ちが、違います。大丈夫なんです、まもりさん……」
純粋に自分を案じてくれるまもりに対し、嫉妬にも似た暗い感情を抱いてしまう。そんな己の器の小ささに、悟は激しい自己嫌悪を感じ、俯くしかなかった。
「腫れたりしている所は無さそうだけど…関節の動きまでは私はわからないから…、念のためテーピングさせてね」
まもりが悟の脚に入念なテーピングを施す。
「フフッ。でも驚いちゃった。ヒル魔くんが悟ちゃんを抱えてくるなんてね。彼も人を心配できるのね」
まもりの言葉に、悟はたまらず言い訳を口にした。
「ヒル魔さんの私に対する親切は、皮肉か、もしくは駒の管理的な意味合いで……。」
「駒?彼らしいけど…ひどい言い方ね、怒っていいのよ?」
「私が言いたいのは、えっと……ヒル魔さんとまもりさんは……その……」
口ごもる悟を見て、まもりは一瞬、きょとんとした。
そして悟の視線の意味と、これまでの挙動不審な態度の理由を即座に察した。
「……ちょっと待って、悟ちゃん。あなた、まさか……」
まもりは、これまで見たこともないような、心底嫌そうな、そして呆れたような顔をした。
「ありえないわ! 冗談でもそんなこと考えないで!…あー、もう! 寒気がしたわ…!」
「えっ……?」
まもりの猛烈な拒絶反応に、悟の思考回路は真っ白にフリーズした。
「ほら、テーピング終わったよ!むしろ悟ちゃん、貴方が気をつけなきゃ駄目よ。 あんな傍若無人の権化みたいな人に、悟ちゃんはもったいないわ!」
荒野の熱風が、呆気にとられた悟の頬を撫でていく。まもりはイタズラっぽく微笑み悟の肩をポンと優しく叩くと、今日も頑張って、と一言を残しその場を後にした。