第一章【春季大会編】
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「ケケッ、約束は忘れてねーだろうなぁ」
スタジアムを支配するのは、熱気と、そしてヒル魔が仕掛けた「賭け」の緊張感だった。
NASAエイリアンズが10点差以上つけて勝てなければ、彼らは二度とアメリカの地を踏めない。対して泥門が10点差以上をつけて勝てなければ、即日日本退去。
無茶苦茶な条件。
QBホーマーの放つ「シャトル・パス」は、剛腕から放たれる超長距離パス。泥門のディフェンス陣の上空を嘲笑うかのように切り裂いていく。体格、経験、そしてフィジカル。すべてにおいて規格外の軍団を前に、泥門は防戦一方だった。
ベンチでは、天才的な素質を持つパトリック・スペンサー、通称「黒豹」パンサーが控えているが、人種差別に凝り固まった監督、アポロにより出場は不可能と思われていた。
フィールド上では、点差がじりじりと開き始める。
「……ケケッ、悟。出番だ」
ヒル魔が悟の肩を叩く。
「…彼のパス、長距離を投げるために力を溜める時間があります。それにボールの滞空時間が長い。あの
「言うじゃねぇか!『悪魔の予言』でパスコースを全部分解しやがれ!!」
悟がフィールドに立った瞬間、空気が変わった。
彼女の瞳は、兄・阿含のように冷徹な光を放っている。だが、その裏側にあるのは、脳を焼き切るほどの「演算」だ。
ホーマーが構える。肩の筋肉の収縮、レシーバーの歩幅、芝生を抜ける風の抵抗……。
それら全ての変数が、悟の脳内で一つの数式へと収束していく。
(……来るのは右サイド40ヤード付近、そこがパスの到達点――!)
ホーマーが腕を振るのと同時に、悟はボールを見ることなくまだ誰もいない空間へと地を蹴った。
周囲には、まるで彼女が暴走したかのように見えた。だが、数秒後。ホーマーが放った超高空パスは、まるで磁石に吸い寄せられるように、走り込んだ悟の目の前に現れた。
「なっ……何ィ!?」
ホーマーが戦慄する。
ホーマーのパスはコントロールに難があり、本人も「強肩とコントロールは両立しない」と語っている。自身も予測し得ない弾道を、あろうことが敵チーム選手に読まれたということだ。
悟はインターセプトを成功させ攻撃権を獲得。
「……やった!あなたの弾道、もう読み終わったよ」
不敵な微笑。それは、阿含の天賦の才とは違う、ヒル魔の知略と悟の執念が生んだ、人為的な奇跡だった。
その後、悟の「悪魔の予言」によるプレーと、セナの光速ランにより、点差はついに一桁まで縮まる。
焦るNASAエイリアンズが、パンサーの投入を決意する。
「シャトルパスと彼女(悟)との相性が悪すぎる…!彼女をマークすればアイシールド21の
「監督! パンサーを入れなきゃ、あのアイシールドは止められない!」
ついに解禁された「黒豹」。
フィールドに解き放たれたパンサーの脚は、重力を無視したかのような跳躍を見せる。
セナですら追いつけないほどのスピード。
悟はパンサーと直接マッチアップする。公式戦の記録が少ないパンサー相手では、「悪魔の予言」による予測の精度が落ちてしまう。但し、パンサーが走るルートは、無駄を極限まで省いた最短ルート。セナのような急加速と減速とを繰り返す走りと違い、無駄が無さ過ぎる、ある意味で「予測しやすい」走り。悟は先回りし、その進路を体ごと塞ごうと足掻くも、彼は長い腕で悟を突っ張るように進路を作り駆け抜ける。
何度も弾き飛ばされながらも、悟は執拗にパンサーに食らいつく。
「……あと、少し……!」
ホイッスルが鳴り響く。
結果は 33-32。
試合そのものはNASAエイリアンズの勝利だった。だが、点差は「1点」。
泥門デビルバッツ大健闘といえるだろう。
呆然とするアポロの前に、ヒル魔が悠然と歩み寄る。
その手には、NASAが用意していた自分たちの帰国用航空券が握られていた。
「ケケッ! お互い約束は守らねぇとなぁ。……テメーらの帰国便、もういらねぇだろ?」
「――まさか、貴様……!」
「そして約束通り、泥門も日本退去だ。このチケットは、俺たちが有効活用してやるよ」
悟がヒル魔のもとへ歩み寄る。
「ヒル魔さん…私…」
「あァ、及第点だな。まだ精度が甘ぇが」
結局、一度たりともパンサーを止めることは叶わなかった。だが、その瞳には、初めて自分の力で「世界」と渡り合った確かな手応えが宿っていた。
「ケケッ! 休んでる暇はねぇ!次はアメリカ合宿だ!! YAーHAー!!」
地獄の「アメリカ合宿」への招待状。
泥門デビルバッツメンバーが驚きの声と悲鳴を上げる中、悟 は緊張を感じながらも、ヒル魔の隣で、静かに、そして挑戦的な笑みを浮かべた。