第一章【春季大会編】
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「……雑魚すぎるわオミーら、それでもラインか?クズはクズらしく大人しくしてるだニー」
ファストフード店の路地裏、冷たい空気の中、十文字、黒木、戸叶の三人は地面に這いつくばっていた。
相手は「太陽スフィンクス」のラインを務める番場と笠松。喧嘩なら負けない自信があった。だが、高校アメフト最重量ラインを誇る巨大な肉塊が放つ「重圧」の前では、自分たちの拳など、そよ風にすらならなかった。
力でねじ伏せられ、プライドをズタズタに引き裂かれたまま、三人は逃げるように泥門高校のグラウンドへと辿り着く。
そこで彼らが目にしたのは、異様な光景だった。
「――っ、はぁ、はぁ……っ!」
泥まみれになり、まとめた紫黒色の髪を乱しながら、一人の少女が走り続けていた。
ヒル魔が放つ、容赦のない高速パス。悟はそれを追い、転び、地面を転がりながらも、すぐさま跳ね起きて次のボールへ視線を向ける。
(……あいつ、まだやってんのかよ)
自分たちよりも遥かに華奢で、壊れそうな少女。そんな彼女が、自分たちが「くだらない」と揶揄したアメフトに、魂を賭けて挑んでいる。
十文字の拳が、白くなるほどに握りしめられる。
「……おい、ヒル魔」
不意に、十文字がグラウンドへ足を踏み出した。その瞳には、泥臭く、剥き出しの執念が宿る。
「どうすればライン戦で勝てる? ……やられっぱなしは趣味じゃねぇんだ」
その静かな咆哮は、彼らが泥門デビルバッツの、「真の戦士」になった証だった。
「ケケッ、ちょうどいい練習相手じゃねぇか。糞 三兄弟、テメーらで悟を潰せ。ぶっ殺すつもりでいい。一歩も通すんじゃねぇぞ」
ヒル魔の命令により、三人はパスカバーとして悟の前に立った。
「本気でやるからな」と息巻く十文字。だが、対峙した瞬間に彼の背筋が凍りついた。
悟の瞳から、先ほどまでの「危うさ」が消えていた。そこにあるのは、獲物を見据える猛獣のような、あるいは兄・阿含を彷彿とさせるような冷徹な捕食者の熱。
合図と共に、十文字が手を伸ばす。
次の瞬間、視界から彼女が消えた。
(な……っ!?)
十文字が反応するより早く、彼女の体は陽炎のように揺らぎ、指先が触れることすら許さず背後へと突き抜けていた。
「……マジかよ」
背後で静かにボールをキャッチした悟を振り返り、三人は言葉を失った。
守ってやりたいと思わせるような、どこか儚げな少女。だがその本質は、自分たちを遥か後方に置き去りにする「本物の怪物」だった。
「……ふぅ、ありがとうございます」
スイッチが切れたように、悟の瞳にいつもの柔らかさが戻った。
肩で息をしながら、彼女はよろよろと三人のもとへ歩み寄る。
「みんなのおかげで、今日はいつもよりずっと実戦的な練習ができたよ。……ありがとう」
先ほどまでの「怪物」と同じ人物とは思えない、真っ直ぐで温和な微笑み。
「十文字くんたちがいてくれたら、私、もっともっと強くなれる気がするんだ。……これから一緒にアメフト、頑張ろうね?」
小首を傾げて、純粋に「仲間」としての信頼を向けてくる悟。先ほどの練習中の彼女とのギャップに、三人は面食らったように黙り込むしかなかった。
悟が更衣室へ向かった後、夕闇のグラウンドには沈黙が流れる。
「……おい十文字。お前があいつばっかり見てる理由が分かったわ」
「だな。ありゃあ、放っておけねーわ。……色んな意味でな」
黒木と戸叶のニヤついた追求に、十文字は顔を沸騰させた。
「……っ、勘違いしてんなよ! そういうんじゃねぇ! 俺は、ただ……!」
反論しようとして、言葉が詰まる。
自分たちがデビルバッツの壁 に、「盾」にならなければならない。だがそれ以上に、あの「怪物」に、あの「微笑み」に、自分の力で応えたいという衝動が、胸の内で熱く燃え上がっていた。
ファストフード店の路地裏、冷たい空気の中、十文字、黒木、戸叶の三人は地面に這いつくばっていた。
相手は「太陽スフィンクス」のラインを務める番場と笠松。喧嘩なら負けない自信があった。だが、高校アメフト最重量ラインを誇る巨大な肉塊が放つ「重圧」の前では、自分たちの拳など、そよ風にすらならなかった。
力でねじ伏せられ、プライドをズタズタに引き裂かれたまま、三人は逃げるように泥門高校のグラウンドへと辿り着く。
そこで彼らが目にしたのは、異様な光景だった。
「――っ、はぁ、はぁ……っ!」
泥まみれになり、まとめた紫黒色の髪を乱しながら、一人の少女が走り続けていた。
ヒル魔が放つ、容赦のない高速パス。悟はそれを追い、転び、地面を転がりながらも、すぐさま跳ね起きて次のボールへ視線を向ける。
(……あいつ、まだやってんのかよ)
自分たちよりも遥かに華奢で、壊れそうな少女。そんな彼女が、自分たちが「くだらない」と揶揄したアメフトに、魂を賭けて挑んでいる。
十文字の拳が、白くなるほどに握りしめられる。
「……おい、ヒル魔」
不意に、十文字がグラウンドへ足を踏み出した。その瞳には、泥臭く、剥き出しの執念が宿る。
「どうすればライン戦で勝てる? ……やられっぱなしは趣味じゃねぇんだ」
その静かな咆哮は、彼らが泥門デビルバッツの、「真の戦士」になった証だった。
「ケケッ、ちょうどいい練習相手じゃねぇか。
ヒル魔の命令により、三人はパスカバーとして悟の前に立った。
「本気でやるからな」と息巻く十文字。だが、対峙した瞬間に彼の背筋が凍りついた。
悟の瞳から、先ほどまでの「危うさ」が消えていた。そこにあるのは、獲物を見据える猛獣のような、あるいは兄・阿含を彷彿とさせるような冷徹な捕食者の熱。
合図と共に、十文字が手を伸ばす。
次の瞬間、視界から彼女が消えた。
(な……っ!?)
十文字が反応するより早く、彼女の体は陽炎のように揺らぎ、指先が触れることすら許さず背後へと突き抜けていた。
「……マジかよ」
背後で静かにボールをキャッチした悟を振り返り、三人は言葉を失った。
守ってやりたいと思わせるような、どこか儚げな少女。だがその本質は、自分たちを遥か後方に置き去りにする「本物の怪物」だった。
「……ふぅ、ありがとうございます」
スイッチが切れたように、悟の瞳にいつもの柔らかさが戻った。
肩で息をしながら、彼女はよろよろと三人のもとへ歩み寄る。
「みんなのおかげで、今日はいつもよりずっと実戦的な練習ができたよ。……ありがとう」
先ほどまでの「怪物」と同じ人物とは思えない、真っ直ぐで温和な微笑み。
「十文字くんたちがいてくれたら、私、もっともっと強くなれる気がするんだ。……これから一緒にアメフト、頑張ろうね?」
小首を傾げて、純粋に「仲間」としての信頼を向けてくる悟。先ほどの練習中の彼女とのギャップに、三人は面食らったように黙り込むしかなかった。
悟が更衣室へ向かった後、夕闇のグラウンドには沈黙が流れる。
「……おい十文字。お前があいつばっかり見てる理由が分かったわ」
「だな。ありゃあ、放っておけねーわ。……色んな意味でな」
黒木と戸叶のニヤついた追求に、十文字は顔を沸騰させた。
「……っ、勘違いしてんなよ! そういうんじゃねぇ! 俺は、ただ……!」
反論しようとして、言葉が詰まる。
自分たちがデビルバッツの