第一章【春季大会編】
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賊学カメレオンズ戦での快勝に、泥門高校アメフト部は予想以上の余波を受けていた。
「なぁ、アイシールド21って誰なんだろうな?」「俺もアメフト部入ったらモテるかな」
部室の前に群がる、お世辞にも「覚悟」があるとは言えない入部希望者たち。それらを一瞥し、ヒル魔は不敵に、そして冷酷に口角を上げた。
「ケケッ、こりゃあ……選別が必要だな」
後日、入部希望者が集められたのは、脅迫手帳をフル活用し貸切となった東京タワーの麓だった。
既に部員である悟、セナ、モン太も「校外トレーニング」だとして招集を受けている。
ヒル魔は、銃声を合図に入部試験「地獄の塔(ヘルタワー)」の開始を告げた。
「ルールは単純だ。氷が溶け切る前に、階段で特別展望台まで辿り着きやがれ!糞 デブがかき氷を食うために待ってる。ケケッ!」
合図と共に、悟は氷の入った袋を手に階段へと飛び出していった。
悟は一歩踏み出した瞬間に、妙な違和感を覚える。どうやらただの体力テストではないらしい。
(……何か来る)
彼女の世界から雑音が消える。脳が、神経が、極限の反応速度で周囲の情報を処理し始めた。
参加者を襲うのはフットボールマシンから放たれる死角からの剛速球、不意に壁から飛び出すゴム製のダミーアーム。ヒル魔が仕掛けた無数の罠 だ。
被害にあった参加者の悲鳴が至る所で響き脱落していく中、悟だけはそれらを「視て」いた。
右、上、左。
神速のインパルスが導き出す回避軌道に、一切の無駄はない。
背後からヒル魔の銃声が響く。いつもの威嚇じゃない。
「ケケッ、半端な奴ぁいらねぇ!!」
ヒル魔は、氷を溶かすための乾燥剤が入ったカプセル弾を乱射し参加者を強襲する。さらには、熱を放つ強力なスポットライトが設置され、容赦なく氷を溶かしていく。
(これは……、…そうそう合格者を出すつもりはないみたい。ヒル魔さんらしいけど)
「神速のインパルス」が、ここぞとばかりに活躍をみせる。ヒル魔の銃撃から身を翻し、熱の中を駆け抜ける。汗が頬を伝い、心臓が激しく脈打つが、悟の集中力は途切れない。
気が付けば、独走状態。光速の足を持つセナにすら追従を許さない。罠により足止めされ、新しい氷を取りに戻るロスがあったセナに対し、悟は全ての罠を回避してみせ、スピードを落とすことなく、階段を駆け抜けたのだ。
一方、悟の遥か後方では、三兄弟が「やってられっか」「テキトーに流して帰ろうぜ」とサボる相談をしていた。
そこへ、凄まじい鼻息と共に、小柄だが岩のような体躯の少年――小結大吉が猛追してきた。
「フゴッ、フゴフゴ!」
「…あ゛あ!? 今、このチビ馬鹿にしやがったな!」
小結に突き飛ばされ、蔑むような視線を向けられた
瞬間、十文字たちのプライドが爆発した。
「殺すぞコラァ! 誰が雑魚だ!」
入部する気などなかったはずの彼らが、小結を抜き去るためだけに、顔を真っ赤にして地獄の階段を駆け上がり始めたのだった。
特別展望台。
一番乗りで滑り込んだ悟の袋には、まだたっぷりと氷が残っていた。
「ケケッ、やっぱりテメーが一着 か」
ヒル魔は氷を確認し、予想通りと言わんばかりに僅かに目を細めてニヤリと笑った。
「合格だ。……少しは使い物になってきたな。お遊びだが、その感覚を忘れるんじゃねぇぞ」
ヒル魔は満足気に、一粒の氷を手で弄んでいた。
数分後、セナとモン太が試験合格。続いて、小結と競り合いながら、ボロボロになった三兄弟が雪崩れ込んできた。
「ハァ……ハァ……! 合格……しちまって……なんで俺たちが……!」
十文字が膝をつきながら呆然と呟く。リタイアするための口実を探していたはずが、いつの間にか「泥門の選手」への切符を掴んでいた。
最後に現れたのは、闘争とは縁遠そうな印象の、知的な外見の青年、雪光 学だった。
ヒル魔が袋を覗き込む。
「…全部溶けてんじゃねぇか」
落胆する雪光を前に、袋から視線を外したヒル魔は、含みのある目を悟に向けた。
ヒル魔の意図を汲んだ悟が、氷の欠片を手に近づき、密かにヒル魔に手渡す。
「……お、一粒だけ残ってんぞ!糞 ハゲ、合格」
ヒル魔は雪光の根性と執念を「一粒の氷」として認めたのだ。「優しさ」とは単純に形容できないが、努力し前進し続ける者に対して時折見せるヒル魔の人情味は、悟も身に覚えがある。
小結、雪光、そして不本意ながらも入部を決めた三兄弟。
バラバラな個性、バラバラな動機。
「ケケッ、今日からテメーらは正式に泥門デビルバッツの選手だ。……逃げたら殺すぞ!」
これからもっと騒がしくなるであろう日々を想像して、悟は小さく笑った。阿含の影を完全に振り払える日が、少しずつ、けれど確実に近づいている気がした。
「なぁ、アイシールド21って誰なんだろうな?」「俺もアメフト部入ったらモテるかな」
部室の前に群がる、お世辞にも「覚悟」があるとは言えない入部希望者たち。それらを一瞥し、ヒル魔は不敵に、そして冷酷に口角を上げた。
「ケケッ、こりゃあ……選別が必要だな」
後日、入部希望者が集められたのは、脅迫手帳をフル活用し貸切となった東京タワーの麓だった。
既に部員である悟、セナ、モン太も「校外トレーニング」だとして招集を受けている。
ヒル魔は、銃声を合図に入部試験「地獄の塔(ヘルタワー)」の開始を告げた。
「ルールは単純だ。氷が溶け切る前に、階段で特別展望台まで辿り着きやがれ!
合図と共に、悟は氷の入った袋を手に階段へと飛び出していった。
悟は一歩踏み出した瞬間に、妙な違和感を覚える。どうやらただの体力テストではないらしい。
(……何か来る)
彼女の世界から雑音が消える。脳が、神経が、極限の反応速度で周囲の情報を処理し始めた。
参加者を襲うのはフットボールマシンから放たれる死角からの剛速球、不意に壁から飛び出すゴム製のダミーアーム。ヒル魔が仕掛けた無数の
被害にあった参加者の悲鳴が至る所で響き脱落していく中、悟だけはそれらを「視て」いた。
右、上、左。
神速のインパルスが導き出す回避軌道に、一切の無駄はない。
背後からヒル魔の銃声が響く。いつもの威嚇じゃない。
「ケケッ、半端な奴ぁいらねぇ!!」
ヒル魔は、氷を溶かすための乾燥剤が入ったカプセル弾を乱射し参加者を強襲する。さらには、熱を放つ強力なスポットライトが設置され、容赦なく氷を溶かしていく。
(これは……、…そうそう合格者を出すつもりはないみたい。ヒル魔さんらしいけど)
「神速のインパルス」が、ここぞとばかりに活躍をみせる。ヒル魔の銃撃から身を翻し、熱の中を駆け抜ける。汗が頬を伝い、心臓が激しく脈打つが、悟の集中力は途切れない。
気が付けば、独走状態。光速の足を持つセナにすら追従を許さない。罠により足止めされ、新しい氷を取りに戻るロスがあったセナに対し、悟は全ての罠を回避してみせ、スピードを落とすことなく、階段を駆け抜けたのだ。
一方、悟の遥か後方では、三兄弟が「やってられっか」「テキトーに流して帰ろうぜ」とサボる相談をしていた。
そこへ、凄まじい鼻息と共に、小柄だが岩のような体躯の少年――小結大吉が猛追してきた。
「フゴッ、フゴフゴ!」
「…あ゛あ!? 今、このチビ馬鹿にしやがったな!」
小結に突き飛ばされ、蔑むような視線を向けられた
瞬間、十文字たちのプライドが爆発した。
「殺すぞコラァ! 誰が雑魚だ!」
入部する気などなかったはずの彼らが、小結を抜き去るためだけに、顔を真っ赤にして地獄の階段を駆け上がり始めたのだった。
特別展望台。
一番乗りで滑り込んだ悟の袋には、まだたっぷりと氷が残っていた。
「ケケッ、やっぱりテメーが
ヒル魔は氷を確認し、予想通りと言わんばかりに僅かに目を細めてニヤリと笑った。
「合格だ。……少しは使い物になってきたな。お遊びだが、その感覚を忘れるんじゃねぇぞ」
ヒル魔は満足気に、一粒の氷を手で弄んでいた。
数分後、セナとモン太が試験合格。続いて、小結と競り合いながら、ボロボロになった三兄弟が雪崩れ込んできた。
「ハァ……ハァ……! 合格……しちまって……なんで俺たちが……!」
十文字が膝をつきながら呆然と呟く。リタイアするための口実を探していたはずが、いつの間にか「泥門の選手」への切符を掴んでいた。
最後に現れたのは、闘争とは縁遠そうな印象の、知的な外見の青年、雪光 学だった。
ヒル魔が袋を覗き込む。
「…全部溶けてんじゃねぇか」
落胆する雪光を前に、袋から視線を外したヒル魔は、含みのある目を悟に向けた。
ヒル魔の意図を汲んだ悟が、氷の欠片を手に近づき、密かにヒル魔に手渡す。
「……お、一粒だけ残ってんぞ!
ヒル魔は雪光の根性と執念を「一粒の氷」として認めたのだ。「優しさ」とは単純に形容できないが、努力し前進し続ける者に対して時折見せるヒル魔の人情味は、悟も身に覚えがある。
小結、雪光、そして不本意ながらも入部を決めた三兄弟。
バラバラな個性、バラバラな動機。
「ケケッ、今日からテメーらは正式に泥門デビルバッツの選手だ。……逃げたら殺すぞ!」
これからもっと騒がしくなるであろう日々を想像して、悟は小さく笑った。阿含の影を完全に振り払える日が、少しずつ、けれど確実に近づいている気がした。