第三章【秋季大会・地区大会編】
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試合終了を告げる無情なホイッスルが鳴り響いた後、泥門デビルバッツチーム内にはには重く沈んだ空気が漂っていた。
死闘の末の惜敗。誰の目にも明らかなほど、各々が悔しさを滲ませている。
「2点差……キッドさんの走 でのタッチダウンを私が防げていたら……!」
俯きながら絞り出すようにこぼれた悟の自責の言葉。だが、意外にもその言葉を真っ向から咎めたのはセナだった。
「それは違うよ、悟」
「……え?」
「それを言うなら僕だって、もう少し早く陸を抜けたらって……。でも僕たちは全力だったよ、疑いようもないくらい。『これ以上』は無かった。そう思うんだ」
セナのまっすぐな瞳と言葉に、悟はハッとして顔を上げる。
そのセナの言葉を引き継ぐように、ヒル魔がいつもと変わらぬ平坦な声で口を開いた。
「そもそもアメフトだぞ。ンなお上品なもんじゃねぇ。試合中にでも怪我で途中退場なんて可能性はざらにあんだ。それをいちいち個人の責任にするような雑魚チームだとでも思ってんのか」
冷たく聞こえるその言葉の裏にある、ヒル魔なりの不器用な労い。それは確実に悟の胸のつかえを取り払った。
「……!! そう、ですね……。 できなかったことより、今何ができるかを考えなきゃ。まだクリスマスボウルへの道は断たれてませんもんね」
「へ……?」
悟の言葉に、セナがポカンと間抜けに口を開ける。ヒル魔とムサシを除くほかの部員たちも同様に、何の話をしているのか全く理解ができない様子だった。
部員たちの反応を見越していたかのように、ヒル魔はニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。
「あァ、正真正銘最後のチャンス、『東京3位』っつー椅子がまだ残ってる」
「もしかして皆、東京大会は3位まで関東大会への出場資格があるって知らない……?」
「あえて情報制限してンだよ、手ェ抜きやがらねぇようにな」
悟とヒル魔の言葉で、ようやく事態を飲み込んだ部員たち。クリスマスボウルへの道が完全に閉ざされたわけではないと理解し、どん底だった彼らの顔がパァッと明るくなる。
「それじゃあ、次の対戦相手に勝てば……!」
「うん、行けるよ。……関東大会に」
希望を見出し、セナがホッと息をついたその瞬間だった。
――ババババァン!!
突如として耳を劈くアサルトライフルの銃声が響き渡った。
「どいつもこいつもアホ面しやがって、負けてんだぞ! 気ィ緩めてんじゃねぇ!」
「ひぃぃぃぃっ! すみませぇぇん!!」
敗北の重苦しい空気から一変、銃弾から逃げ惑う部員たちの悲鳴と共に、ベンチはいつもの泥門の騒がしい雰囲気を取り戻した。
そんな喧騒の中、泥門の陣営に複数の影が歩み寄ってくる。
泥門VS西部の試合を終えたばかりのフィールドで、第2試合を行うチームの面々だ。
気配に気が付いた悟が振り向くと、真後ろに一人の男が立っていた。
モデルのようなスラリとした体躯、赤髪、そして鋭い赤い瞳。
その特徴的な風貌に、悟は見覚えがあった。
「去年の東京大会MVPの……」
盤戸スパイダースのエース、赤羽隼人。
デス・マーチの最中、ヒル魔から渡された強豪校の分析データにも、当然彼の名前は刻まれていた。
これから王城ホワイトナイツとの2回戦を控えた盤戸の面々が、ベンチに姿を現したのだ。
赤羽は何故か肩からエレキギターを下げており、悟と正面で向き合うと、唐突にその弦を弾いた。
ジャーン……!
「フー……僕も君を知っている。泥門の『予言者』。君とは感性の和音 が共鳴しそうだ」
「??……えっと、コー、ド……?」
昨年の東京大会では、優勝した王城の進や黄金世代を抑え、1年生にしてMVPを獲得した押しも押されもせぬトッププレイヤー。
そんな彼が自身に対し何らかの評価をしていることは伝わってきたが、あまりにも独特な言い回しと空気に、悟は返答に詰まってしまう。
「女性というハンディキャップを抱えながら、『神速のインパルス』という才能と『知性』をもってして戦う……興味深い」
悟の困惑などお構いなしに、赤羽は一方的に意味深な投げかけを続ける。
「『知性は肉体を凌駕する』。そう、思わないか?」
再び、ジャーンとシュールなギターの音が鳴り響いた。
「知性は肉体を凌駕する」という言葉は、圧倒的なフィジカルの壁に直面し苦心してきた悟にとって、確かな一筋の光のように胸に突き刺さった。
その独自の世界観で場を支配しようとする赤羽を、忌々しそうに、そして底冷えするような鋭い視線でヒル魔が見据えた。
「チッ、まわりくどい野郎だ、新手のナンパか?」
いつも通りの余裕を崩さず、しかし明確な牽制を含んだヒル魔の冷ややかな声。
「ナンパ……ね。そんな軽薄なものじゃなく……。フー……僕と彼女の魂のアンサンブルといったところか」
「意味わかんねぇよ、糞赤目が」
ヒル魔はピシャリと一蹴し、それ以上の接触を無言でシャットアウトする。
「金剛悟、君が未来を視るなら、僕は未来を作ろう」
ヒル魔の牽制を受け流し、赤羽はそれだけを言い残して静かに歩き出した。
立ち去ろうとする彼の姿を目で追った悟たちは、思わず息を呑んで硬直した。
赤羽の手には、アイシールドが装着されたヘルメットと、青紫をメインに鮮やかな赤の差し色が入った盤戸のユニフォームが握られていた。
そして、そこに刻まれていた背番号は――『21』。
通り過ぎざま、赤羽は泥門陣営へ向けて衝撃的なひと言を落としていく。
「泥門『にも』、アイシールド21がいるのか。……面白いな」
本物の存在を仄めかすその言葉と背番号を残し、赤羽は颯爽とその歩みを進めた。
死闘の末の惜敗。誰の目にも明らかなほど、各々が悔しさを滲ませている。
「2点差……キッドさんの
俯きながら絞り出すようにこぼれた悟の自責の言葉。だが、意外にもその言葉を真っ向から咎めたのはセナだった。
「それは違うよ、悟」
「……え?」
「それを言うなら僕だって、もう少し早く陸を抜けたらって……。でも僕たちは全力だったよ、疑いようもないくらい。『これ以上』は無かった。そう思うんだ」
セナのまっすぐな瞳と言葉に、悟はハッとして顔を上げる。
そのセナの言葉を引き継ぐように、ヒル魔がいつもと変わらぬ平坦な声で口を開いた。
「そもそもアメフトだぞ。ンなお上品なもんじゃねぇ。試合中にでも怪我で途中退場なんて可能性はざらにあんだ。それをいちいち個人の責任にするような雑魚チームだとでも思ってんのか」
冷たく聞こえるその言葉の裏にある、ヒル魔なりの不器用な労い。それは確実に悟の胸のつかえを取り払った。
「……!! そう、ですね……。 できなかったことより、今何ができるかを考えなきゃ。まだクリスマスボウルへの道は断たれてませんもんね」
「へ……?」
悟の言葉に、セナがポカンと間抜けに口を開ける。ヒル魔とムサシを除くほかの部員たちも同様に、何の話をしているのか全く理解ができない様子だった。
部員たちの反応を見越していたかのように、ヒル魔はニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。
「あァ、正真正銘最後のチャンス、『東京3位』っつー椅子がまだ残ってる」
「もしかして皆、東京大会は3位まで関東大会への出場資格があるって知らない……?」
「あえて情報制限してンだよ、手ェ抜きやがらねぇようにな」
悟とヒル魔の言葉で、ようやく事態を飲み込んだ部員たち。クリスマスボウルへの道が完全に閉ざされたわけではないと理解し、どん底だった彼らの顔がパァッと明るくなる。
「それじゃあ、次の対戦相手に勝てば……!」
「うん、行けるよ。……関東大会に」
希望を見出し、セナがホッと息をついたその瞬間だった。
――ババババァン!!
突如として耳を劈くアサルトライフルの銃声が響き渡った。
「どいつもこいつもアホ面しやがって、負けてんだぞ! 気ィ緩めてんじゃねぇ!」
「ひぃぃぃぃっ! すみませぇぇん!!」
敗北の重苦しい空気から一変、銃弾から逃げ惑う部員たちの悲鳴と共に、ベンチはいつもの泥門の騒がしい雰囲気を取り戻した。
そんな喧騒の中、泥門の陣営に複数の影が歩み寄ってくる。
泥門VS西部の試合を終えたばかりのフィールドで、第2試合を行うチームの面々だ。
気配に気が付いた悟が振り向くと、真後ろに一人の男が立っていた。
モデルのようなスラリとした体躯、赤髪、そして鋭い赤い瞳。
その特徴的な風貌に、悟は見覚えがあった。
「去年の東京大会MVPの……」
盤戸スパイダースのエース、赤羽隼人。
デス・マーチの最中、ヒル魔から渡された強豪校の分析データにも、当然彼の名前は刻まれていた。
これから王城ホワイトナイツとの2回戦を控えた盤戸の面々が、ベンチに姿を現したのだ。
赤羽は何故か肩からエレキギターを下げており、悟と正面で向き合うと、唐突にその弦を弾いた。
ジャーン……!
「フー……僕も君を知っている。泥門の『予言者』。君とは感性の
「??……えっと、コー、ド……?」
昨年の東京大会では、優勝した王城の進や黄金世代を抑え、1年生にしてMVPを獲得した押しも押されもせぬトッププレイヤー。
そんな彼が自身に対し何らかの評価をしていることは伝わってきたが、あまりにも独特な言い回しと空気に、悟は返答に詰まってしまう。
「女性というハンディキャップを抱えながら、『神速のインパルス』という才能と『知性』をもってして戦う……興味深い」
悟の困惑などお構いなしに、赤羽は一方的に意味深な投げかけを続ける。
「『知性は肉体を凌駕する』。そう、思わないか?」
再び、ジャーンとシュールなギターの音が鳴り響いた。
「知性は肉体を凌駕する」という言葉は、圧倒的なフィジカルの壁に直面し苦心してきた悟にとって、確かな一筋の光のように胸に突き刺さった。
その独自の世界観で場を支配しようとする赤羽を、忌々しそうに、そして底冷えするような鋭い視線でヒル魔が見据えた。
「チッ、まわりくどい野郎だ、新手のナンパか?」
いつも通りの余裕を崩さず、しかし明確な牽制を含んだヒル魔の冷ややかな声。
「ナンパ……ね。そんな軽薄なものじゃなく……。フー……僕と彼女の魂のアンサンブルといったところか」
「意味わかんねぇよ、糞赤目が」
ヒル魔はピシャリと一蹴し、それ以上の接触を無言でシャットアウトする。
「金剛悟、君が未来を視るなら、僕は未来を作ろう」
ヒル魔の牽制を受け流し、赤羽はそれだけを言い残して静かに歩き出した。
立ち去ろうとする彼の姿を目で追った悟たちは、思わず息を呑んで硬直した。
赤羽の手には、アイシールドが装着されたヘルメットと、青紫をメインに鮮やかな赤の差し色が入った盤戸のユニフォームが握られていた。
そして、そこに刻まれていた背番号は――『21』。
通り過ぎざま、赤羽は泥門陣営へ向けて衝撃的なひと言を落としていく。
「泥門『にも』、アイシールド21がいるのか。……面白いな」
本物の存在を仄めかすその言葉と背番号を残し、赤羽は颯爽とその歩みを進めた。