第一章【春季大会編】
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「キャッチ最高ォォォ! マーックス!!」
泥門のグラウンドに、新たな仲間―⋯雷門太郎、通称モン太の叫びが響き渡る。
野球部からやってきた彼は、まさにキャッチの天才だった。技術だけではなく、彼のキャッチへの執着心は見上げたものだった。
「悟! 今のパス、もっと指先を『ガッ』とやるんだよ!」
「『ガッ』、だね……! こうかな、モン太くん」
教え方はさておき、心強い「キャッチの先生」を得た悟。
ヒル魔の容赦ない高速パスを二人で追いかける日々。共に泥にまみれ、息を切らす。
モン太の加入は、チームの強化のみならず、悟のレシーバーとしての成長にも大いに貢献した。
そんな彼女たちの練習を、苦々しく見つめる視線があった。
「……チッ、何がアメフトだ。……あいつはまた泥まみれになって…くだらねぇ」
十文字は悪態をつきながらも、視線は悟の動きを片時も離さず追っていた。彼女が転べば眉をひそめ、無事に立ち上がれば小さく息を吐く。その焦燥感の正体を、薄々気が付きつつも認めたくない十文字は、「なんとなく放っておけない」だけだと自分に言い聞かせていた。
秋大会を見据えた練習試合、相手は賊学カメレオンズ。
長い腕をうねらせる主将・葉柱ルイの威圧感は凄まじい。だが、ヒル魔は不敵に笑う。
「ケケケ、面白ぇ。相手に合わせて色(戦術)が変わるのはカメレオンだけじゃねぇってこと、教えてやるよ」
試合開始。賊学は泥門の攻撃がアイシールド21の走 しかないと読み、マークは光速の脚を持つアイシールド21、つまりセナに完全に集中していた。
だが、それこそがヒル魔の罠だ。
「ターゲットは糞 サル!ぶちかませ!」
アイシールド21を贅沢にも囮に使い、手薄になったサイドへ奇襲のロングパスが放たれる。
「キャッチマーックス!!」
モン太が驚異的なキャッチ力を見せる。
「チィ!泥門にまともなレシーバーなんていなかったはず…!」
焦る賊学にヒル魔の顔がニヤリと歪む。
次のゲーム、またしてもヒル魔はセナの走 を選ばず、パスの体勢をとる。
「猿を潰せば終わる話だ!」
賊学の守備がモン太に集中する中、
ヒル魔の鋭いパスが向かうのは、モン太ではなく悟。
「……私だって!!」
バシィ!
衝撃を手の中で受け止める。
ヒル魔、モン太とのスパルタ練習は着実に悟のレシーバーとしての能力を底上げしてくれていた。
モン太と悟へのパスに賊学は翻弄され、ついには泥門がタッチダウンを決める。
「…調子に乗るなよ、泥門……!」
痺れを切らした葉柱ルイが、次の一手に出た。
賊学の動きがガラリと変わった。狙いはボールではない。選手の「体」、それも、体格的に不利な悟やモン太、セナを狙った、露骨なラフプレー。
「あ、……っ!」
サイドライン際。待ち構えていた賊学の選手が、ボールを持たない悟に対して、危険なタックルを見舞った。
地面に叩きつけられ、肺の空気が押し出されるような衝撃を受ける。
「悟ちゃん!!」
まもりの悲鳴があがる。
その瞬間、助っ人として致し方なくサイドベンチに座っていた十文字が、弾かれたように立ち上がった。
「……おい。随分な挨拶じゃねぇか。弱そうな奴ばっか狙いやがって」
十文字の瞳に、静かな、けれど猛烈な怒りの火が灯る。
「………まぁ、俺らも人のことは言えねぇが……とにかく、イラついたんだよ。今のプレーはよ!」
その怒号を聞いたヒル魔が、この展開を見越していたかのように鼻で笑うと、十文字を指差す。
「ケケケ、糞 三兄弟! テメーらのお得意分野だ、喧嘩なら負けねぇだろ。ぶち殺してこい!!」
十文字らハァハァ三兄弟がラインに並んだ瞬間、賊学のラフプレーは封じられた。
喧嘩慣れした彼らの「壁」は、賊学のどんな卑劣な手口も通用させない。特に十文字は、悟の走る進路を塞ごうとする敵を、文字通り力ずくでなぎ倒していく。
彼らの奮闘に乗り、悟が動く。
「神速のインパルス」での0.11秒の反応で隙を突きマークを逃れる。身を躱しフリーになった悟の頭上にヒル魔のパスが飛び、そのままボールは悟の手の中に収まった。彼女がキャッチを成功させたのは敵陣エンドゾーン内。得も言われぬ興奮と喜びとが湧き上がってくる。
(楽しい…!アメフトが楽しい!!)
これは、彼女が初めてのタッチダウンを達成した瞬間だったのだ。
セナの走 、悟とモン太へのパス、十文字、黒木、戸叶の不良殺法が絡み合い、泥門は賊学を圧倒。ヒル魔の勝利の祝砲(銃の乱射音)が鳴り響いた。
試合後。全身泥だらけで肩を上下させる十文字たちのもとへ悟は駆け寄った。
「十文字くん、黒木くん、戸叶くん! ありがとう!三人がいてくれて、本当に心強かったよ!」
悟が真っ直ぐに感謝を伝えると、十文字の顔が和ぎ、微かに頬が赤く染まる。
「……別に、お前のためにやったんじゃねぇ。賊学の輩が気に食わなかっただけだ。それに、手ぇ抜いたらヒル魔に何されるか分からねぇしな」
不器用に顔を背ける十文字。
「……ふふっ」
きまりが悪そうに振る舞う十文字が少し可笑いと、悟から自然と小さな笑い声が漏れる。
その様子を見ていたのだろう、「ケケッ」という聞き覚えのある笑い声があがる。
「ケケケ、腑抜けた顔してんじゃねぇぞ糞 長男。テメーの役割は荷物運びだろ」
言うが早いか、ヒル魔が悟の肩に腕を回し、ぐいっと自分の傍へ引き寄せた。
「わっ!ちょっと……!」
「こいつはこれから俺と反省会だ。……行くぞ、悟」
そのままヒル魔は悟の腕を掴み歩き出す。
ヒル魔の十文字への牽制ともとれる行動。
「……チッ、腑抜けた顔してんのはテメーもか」
ヒル魔はそう吐き捨て、どことなく不機嫌さを滲ませている。
強く引き寄せられた悟の戸惑い、それを見て顔を険しくする十文字。
勝利の歓喜の中で、彼女の居場所は、少しずつ、けれど確実に熱を帯び始めていた。
「キャッチ最高ォォォ! マーックス!!」
泥門のグラウンドに、新たな仲間―⋯雷門太郎、通称モン太の叫びが響き渡る。
野球部からやってきた彼は、まさにキャッチの天才だった。技術だけではなく、彼のキャッチへの執着心は見上げたものだった。
「悟! 今のパス、もっと指先を『ガッ』とやるんだよ!」
「『ガッ』、だね……! こうかな、モン太くん」
教え方はさておき、心強い「キャッチの先生」を得た悟。
ヒル魔の容赦ない高速パスを二人で追いかける日々。共に泥にまみれ、息を切らす。
モン太の加入は、チームの強化のみならず、悟のレシーバーとしての成長にも大いに貢献した。
そんな彼女たちの練習を、苦々しく見つめる視線があった。
「……チッ、何がアメフトだ。……あいつはまた泥まみれになって…くだらねぇ」
十文字は悪態をつきながらも、視線は悟の動きを片時も離さず追っていた。彼女が転べば眉をひそめ、無事に立ち上がれば小さく息を吐く。その焦燥感の正体を、薄々気が付きつつも認めたくない十文字は、「なんとなく放っておけない」だけだと自分に言い聞かせていた。
秋大会を見据えた練習試合、相手は賊学カメレオンズ。
長い腕をうねらせる主将・葉柱ルイの威圧感は凄まじい。だが、ヒル魔は不敵に笑う。
「ケケケ、面白ぇ。相手に合わせて色(戦術)が変わるのはカメレオンだけじゃねぇってこと、教えてやるよ」
試合開始。賊学は泥門の攻撃がアイシールド21の
だが、それこそがヒル魔の罠だ。
「ターゲットは
アイシールド21を贅沢にも囮に使い、手薄になったサイドへ奇襲のロングパスが放たれる。
「キャッチマーックス!!」
モン太が驚異的なキャッチ力を見せる。
「チィ!泥門にまともなレシーバーなんていなかったはず…!」
焦る賊学にヒル魔の顔がニヤリと歪む。
次のゲーム、またしてもヒル魔はセナの
「猿を潰せば終わる話だ!」
賊学の守備がモン太に集中する中、
ヒル魔の鋭いパスが向かうのは、モン太ではなく悟。
「……私だって!!」
バシィ!
衝撃を手の中で受け止める。
ヒル魔、モン太とのスパルタ練習は着実に悟のレシーバーとしての能力を底上げしてくれていた。
モン太と悟へのパスに賊学は翻弄され、ついには泥門がタッチダウンを決める。
「…調子に乗るなよ、泥門……!」
痺れを切らした葉柱ルイが、次の一手に出た。
賊学の動きがガラリと変わった。狙いはボールではない。選手の「体」、それも、体格的に不利な悟やモン太、セナを狙った、露骨なラフプレー。
「あ、……っ!」
サイドライン際。待ち構えていた賊学の選手が、ボールを持たない悟に対して、危険なタックルを見舞った。
地面に叩きつけられ、肺の空気が押し出されるような衝撃を受ける。
「悟ちゃん!!」
まもりの悲鳴があがる。
その瞬間、助っ人として致し方なくサイドベンチに座っていた十文字が、弾かれたように立ち上がった。
「……おい。随分な挨拶じゃねぇか。弱そうな奴ばっか狙いやがって」
十文字の瞳に、静かな、けれど猛烈な怒りの火が灯る。
「………まぁ、俺らも人のことは言えねぇが……とにかく、イラついたんだよ。今のプレーはよ!」
その怒号を聞いたヒル魔が、この展開を見越していたかのように鼻で笑うと、十文字を指差す。
「ケケケ、
十文字らハァハァ三兄弟がラインに並んだ瞬間、賊学のラフプレーは封じられた。
喧嘩慣れした彼らの「壁」は、賊学のどんな卑劣な手口も通用させない。特に十文字は、悟の走る進路を塞ごうとする敵を、文字通り力ずくでなぎ倒していく。
彼らの奮闘に乗り、悟が動く。
「神速のインパルス」での0.11秒の反応で隙を突きマークを逃れる。身を躱しフリーになった悟の頭上にヒル魔のパスが飛び、そのままボールは悟の手の中に収まった。彼女がキャッチを成功させたのは敵陣エンドゾーン内。得も言われぬ興奮と喜びとが湧き上がってくる。
(楽しい…!アメフトが楽しい!!)
これは、彼女が初めてのタッチダウンを達成した瞬間だったのだ。
セナの
試合後。全身泥だらけで肩を上下させる十文字たちのもとへ悟は駆け寄った。
「十文字くん、黒木くん、戸叶くん! ありがとう!三人がいてくれて、本当に心強かったよ!」
悟が真っ直ぐに感謝を伝えると、十文字の顔が和ぎ、微かに頬が赤く染まる。
「……別に、お前のためにやったんじゃねぇ。賊学の輩が気に食わなかっただけだ。それに、手ぇ抜いたらヒル魔に何されるか分からねぇしな」
不器用に顔を背ける十文字。
「……ふふっ」
きまりが悪そうに振る舞う十文字が少し可笑いと、悟から自然と小さな笑い声が漏れる。
その様子を見ていたのだろう、「ケケッ」という聞き覚えのある笑い声があがる。
「ケケケ、腑抜けた顔してんじゃねぇぞ
言うが早いか、ヒル魔が悟の肩に腕を回し、ぐいっと自分の傍へ引き寄せた。
「わっ!ちょっと……!」
「こいつはこれから俺と反省会だ。……行くぞ、悟」
そのままヒル魔は悟の腕を掴み歩き出す。
ヒル魔の十文字への牽制ともとれる行動。
「……チッ、腑抜けた顔してんのはテメーもか」
ヒル魔はそう吐き捨て、どことなく不機嫌さを滲ませている。
強く引き寄せられた悟の戸惑い、それを見て顔を険しくする十文字。
勝利の歓喜の中で、彼女の居場所は、少しずつ、けれど確実に熱を帯び始めていた。