第三章【秋季大会・地区大会編】
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実況『試合終了まで残り1分! ついに陸くんのロデオドライブを破り――アイシールド21、起死回生のタッチダァァゥン!!』
割れんばかりの歓声と絶叫が、スタジアムの空気を激しく振動させる。
電光掲示板の数字が書き換わった。
【西部 44 ― 42 泥門】
試合は進み、点差はわずか2点。キック1本、フィールドゴール1回で逆転できるところまで追いついた。泥門陣営の士気は間違いなく最高潮に達している。
歓声が、ベンチに座る悟の鼓膜を容赦なく打ち据えた。
目の前で繰り広げられる熱戦の中に、自分の居場所はない。
左手首にがっちりと巻かれたテーピングと、じんじんと伝わる氷の冷たさが、「自身は今、戦えない」という残酷な現実を否応なしに突きつけていた。
それでも、脳だけが「走れ」と無駄な信号を愚直に送り続けている。
試合を「観察」し、「分析」し続けてしまう自分の思考を止められない。ベンチに下がってなお、フィールドに戻れる可能性を探し続けてしまう。
「私も……私も、最後まで皆と戦いたい……」
呟きは、膨れ上がる歓声の波に呑み込まれて消えた。
チームの勝利を心から願いながらも、その中に自分が立てないという事実が、喉の奥へ苦い砂を流し込まれたように歯がゆく、苦しかった。
後半最後のタイムアウト。
ストップウォッチの数字は、残り60秒と僅かな端数を示している。
次のプレーは泥門のキックオフ。つまり、オフェンスは西部だ。西部に一度でもボールを確保されれば、彼らはそのまま時計を進めて逃げ切り、泥門の敗北が確定する。
泥門に残されたカードは、ただ1枚。
ボールを遠くへ蹴らず、あえて10ヤード付近へ短く転がして自チームで力ずくで奪い取る一か八かの奇襲――「オンサイドキック」。
「悟! 出んぞ! 来い!!」
突如放たれたヒル魔の鋭い声に、悟の身体が跳ね上がった。
「悟ちゃん!!」
「これ以上の無茶はいけねぇ!」
後ろから聞こえるまもりやどぶろくの悲痛な制止の声を振り切り、悟はヒル魔のもとへ駆け出していた。
まだ自身にできることがある事を示すヒル魔の呼び声に、悟の瞳に光が灯る。
「まだ死ぬには早ェぞ。敵陣の中をムチャクチャに跳ね回るボールを奪い取るんだ。テメーの超反応は有用だ」
ヒル魔はそう言い放つ。
だが、たった一つのボールを目掛けて両チーム22名もの選手が殺到する。激しい衝突が避けられない乱戦の中に、手負いの彼女を投げ込むなど常軌を逸している。
それでも――周囲の疑念を吹き飛ばすように、悟の瞳にはありありと闘志が宿っていた。
「やれます。ボールの動き、誰よりも早く……見切ってみせます!」
「ケケ、悪くねぇツラだ。最後はボールを取ったほうが勝つ。指令もクソもねぇ、行くぞ!」
運命のキックオフ。
ムサシの右足から放たれたボールが、芝生の上を不規則に、狂ったように跳ね回る。
その瞬間、両チームの選手が一斉に雪崩れ込んだ。あちこちで鈍い衝突音が上がり、人間と人間が激しくぶつかり合う。
その大混戦の中、悟の知覚は極限まで研ぎ澄まされていた。
自身の不調のすべてが思考の彼方へ吹き飛ぶ。
入り乱れる22人の動線、不規則にバウンドするボールの軌道、コンマ数秒先の位置関係――広大な視界に映るすべてを、彼女の脳は恐ろしい精度で高速処理していく。
(……勝ちたい……!!!!)
ただひたすらに、勝利が欲しい。この仲間たちと、このフィールドの上で掴み取りたい。その猛烈な欲望が、彼女の全身を突き動かす。
ボールのバウンドを見極めた瞬間、悟の「悪魔の予言」が最悪の未来を弾き出した。
(鉄馬さんとモン太くん……! いや、鉄馬さんの方が近い!!!)
このままでは、ボールは西部のエースレシーバー・鉄馬に奪われる。
腕を痛めた今の自分が鉄馬と競り合っても、弾き飛ばされて終わりだ。勝てる可能性など万に一つもない。
(なら――私がやるべきことは!!)
悟は一切の躊躇なく、鉄馬の進路へ向かって己の身体を投げ出した。体は竦まない。
ボールを獲るためではなく、鉄馬の突進に己の身を晒し、ボールへの到達をコンマ数秒遅らせるためだ。
ドカッ!!
悟の華奢な体は吹き飛ばされ、容赦なくフィールドの芝へ叩きつけられる。
息が詰まるような衝撃が全身に走った。
地面に伏せたまま、悟はすべての願いを込めてその名を叫んだ。
「モン太くん!!!!」
宙へ高く跳ね上がった楕円球。
悟が作った一瞬の隙に滑り込んだモン太が、鉄馬と同時に空中でボールへ喰らいついた。
二人の手が、確かにボールを捉える。
もつれ合うようにしてグラウンドへと落下する二人。
静寂がスタジアムを包み込む。
ピーッ――!!
無情な笛の音が、静寂を切り裂く。
「西部ボール! 両者ボール確保のまま、レシーブチームである鉄馬くんの肩が先に地面へ触れた時点で転倒 成立!!」
審判の手が、西部の陣地を指し示す。
それは、泥門デビルバッツの絶対的な敗北宣言だった。
「……あ」
声にならない掠れた音が、悟の喉から漏れた。
打ちつけられた全身の痛みすら感じない。ただ、目の前の光景が信じられず、倒れたまま指一本動かすことができなかった。
悟の視界の隅で、ヒル魔が静かにヘルメットを外す。
あの大胆不敵な悪魔が、何も言わず、ただ静かに目を閉じた。
割れんばかりの歓声と絶叫が、スタジアムの空気を激しく振動させる。
電光掲示板の数字が書き換わった。
【西部 44 ― 42 泥門】
試合は進み、点差はわずか2点。キック1本、フィールドゴール1回で逆転できるところまで追いついた。泥門陣営の士気は間違いなく最高潮に達している。
歓声が、ベンチに座る悟の鼓膜を容赦なく打ち据えた。
目の前で繰り広げられる熱戦の中に、自分の居場所はない。
左手首にがっちりと巻かれたテーピングと、じんじんと伝わる氷の冷たさが、「自身は今、戦えない」という残酷な現実を否応なしに突きつけていた。
それでも、脳だけが「走れ」と無駄な信号を愚直に送り続けている。
試合を「観察」し、「分析」し続けてしまう自分の思考を止められない。ベンチに下がってなお、フィールドに戻れる可能性を探し続けてしまう。
「私も……私も、最後まで皆と戦いたい……」
呟きは、膨れ上がる歓声の波に呑み込まれて消えた。
チームの勝利を心から願いながらも、その中に自分が立てないという事実が、喉の奥へ苦い砂を流し込まれたように歯がゆく、苦しかった。
後半最後のタイムアウト。
ストップウォッチの数字は、残り60秒と僅かな端数を示している。
次のプレーは泥門のキックオフ。つまり、オフェンスは西部だ。西部に一度でもボールを確保されれば、彼らはそのまま時計を進めて逃げ切り、泥門の敗北が確定する。
泥門に残されたカードは、ただ1枚。
ボールを遠くへ蹴らず、あえて10ヤード付近へ短く転がして自チームで力ずくで奪い取る一か八かの奇襲――「オンサイドキック」。
「悟! 出んぞ! 来い!!」
突如放たれたヒル魔の鋭い声に、悟の身体が跳ね上がった。
「悟ちゃん!!」
「これ以上の無茶はいけねぇ!」
後ろから聞こえるまもりやどぶろくの悲痛な制止の声を振り切り、悟はヒル魔のもとへ駆け出していた。
まだ自身にできることがある事を示すヒル魔の呼び声に、悟の瞳に光が灯る。
「まだ死ぬには早ェぞ。敵陣の中をムチャクチャに跳ね回るボールを奪い取るんだ。テメーの超反応は有用だ」
ヒル魔はそう言い放つ。
だが、たった一つのボールを目掛けて両チーム22名もの選手が殺到する。激しい衝突が避けられない乱戦の中に、手負いの彼女を投げ込むなど常軌を逸している。
それでも――周囲の疑念を吹き飛ばすように、悟の瞳にはありありと闘志が宿っていた。
「やれます。ボールの動き、誰よりも早く……見切ってみせます!」
「ケケ、悪くねぇツラだ。最後はボールを取ったほうが勝つ。指令もクソもねぇ、行くぞ!」
運命のキックオフ。
ムサシの右足から放たれたボールが、芝生の上を不規則に、狂ったように跳ね回る。
その瞬間、両チームの選手が一斉に雪崩れ込んだ。あちこちで鈍い衝突音が上がり、人間と人間が激しくぶつかり合う。
その大混戦の中、悟の知覚は極限まで研ぎ澄まされていた。
自身の不調のすべてが思考の彼方へ吹き飛ぶ。
入り乱れる22人の動線、不規則にバウンドするボールの軌道、コンマ数秒先の位置関係――広大な視界に映るすべてを、彼女の脳は恐ろしい精度で高速処理していく。
(……勝ちたい……!!!!)
ただひたすらに、勝利が欲しい。この仲間たちと、このフィールドの上で掴み取りたい。その猛烈な欲望が、彼女の全身を突き動かす。
ボールのバウンドを見極めた瞬間、悟の「悪魔の予言」が最悪の未来を弾き出した。
(鉄馬さんとモン太くん……! いや、鉄馬さんの方が近い!!!)
このままでは、ボールは西部のエースレシーバー・鉄馬に奪われる。
腕を痛めた今の自分が鉄馬と競り合っても、弾き飛ばされて終わりだ。勝てる可能性など万に一つもない。
(なら――私がやるべきことは!!)
悟は一切の躊躇なく、鉄馬の進路へ向かって己の身体を投げ出した。体は竦まない。
ボールを獲るためではなく、鉄馬の突進に己の身を晒し、ボールへの到達をコンマ数秒遅らせるためだ。
ドカッ!!
悟の華奢な体は吹き飛ばされ、容赦なくフィールドの芝へ叩きつけられる。
息が詰まるような衝撃が全身に走った。
地面に伏せたまま、悟はすべての願いを込めてその名を叫んだ。
「モン太くん!!!!」
宙へ高く跳ね上がった楕円球。
悟が作った一瞬の隙に滑り込んだモン太が、鉄馬と同時に空中でボールへ喰らいついた。
二人の手が、確かにボールを捉える。
もつれ合うようにしてグラウンドへと落下する二人。
静寂がスタジアムを包み込む。
ピーッ――!!
無情な笛の音が、静寂を切り裂く。
「西部ボール! 両者ボール確保のまま、レシーブチームである鉄馬くんの肩が先に地面へ触れた時点で
審判の手が、西部の陣地を指し示す。
それは、泥門デビルバッツの絶対的な敗北宣言だった。
「……あ」
声にならない掠れた音が、悟の喉から漏れた。
打ちつけられた全身の痛みすら感じない。ただ、目の前の光景が信じられず、倒れたまま指一本動かすことができなかった。
悟の視界の隅で、ヒル魔が静かにヘルメットを外す。
あの大胆不敵な悪魔が、何も言わず、ただ静かに目を閉じた。