第三章【秋季大会・地区大会編】
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自室のドアを閉めた瞬間、悟はほうっと長く深い息を吐き出した。
十文字たちとのゲームセンターでの時間は楽しかったが、家に帰ればまた別の緊張が待っていた。
左腕には、怪我を隠すためにアームスリーブがしっかりと装着されている。怪我を隠すためだ。
リビングで両親に顔を合わせた際、案の定そのアームスリーブについて尋ねられた。だが、悟はあらかじめ用意していた言い訳をすかさず口にした。
「左腕の傷跡が、天気のせいで少し痛む時があるでしょ? 冷やさないようにしてると少し楽なんだよね、秋になって気温も下がってきたし……」
事情を知る傷を理由にしたことで、両親は「無理しないようにね」と、それ以上深く追及してくることはなかった。
怪我の隠蔽はどうにかうまくいった。
しかし、自室のベッドに腰を下ろした悟の心を今最も占めているのは、その直後にリビングで起きた「想定外の出来事」だった。
鞄の中から、ヒル魔に与えられた携帯電話を取り出す。
両親にこの携帯の存在をどう誤魔化せばいいのかと頭を抱えていたのだが――。
「全くもう。自分がドジで携帯壊しちゃったからって、阿含に泣きつくなんて。阿含も阿含よ、甘やかして新しいの買い与えるんだから……なんだかんだ妹はかわいいのね。壊したならきちんと話せば怒らないよ。お金も払っておいたから」
母親から突然そう告げられ、悟は内心パニックになりながらも、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。
つまり、阿含が両親に対して『妹がドジで携帯を壊したから俺が買ってやった』という、悟自身も全く身に覚えのない作り話を吹き込んでいたのだ。
あの阿含が、自分のためにわざわざ先回りして両親を言いくるめてくれた。
都合よくまとまった状況に心底安堵しつつも、その事実が悟にはどうにも信じられなかった。
気まぐれなのか、それとも何か別の意図があるのか。確かめずにはいられなかった。
悟は意を決し、赤い携帯電話を操作して阿含の番号を呼び出した。
静かな部屋に、無機質なコール音が長く響き続ける。
……やはり、出るわけないか。
そう諦めかけ、悟が携帯を耳から離そうとした、まさにその瞬間だった。
画面の表示が『通話中』に切り替わった。
慌てて携帯を耳に当て直す。スピーカーの向こうからは、無言と、彼の気配だけが伝わってくる。
緊張で喉が渇くのを感じながらも、悟は静かに口を開いた。
「あの……携帯の事、上手く話してくれて助かったから、お礼を言いたくて……。ありがとう、阿含」
数秒の、重たい沈黙。
やがて、電話の向こうから低く、ひどく面倒くさそうな声が返ってきた。
『……くだらねぇことでかけてきてんじゃねぇ、潰すぞ』
「……ちゃっかりお金もらってるのは見なかったことにするね」
『あ゛〜?手間賃だよ手間賃』
少しの間の後、阿含はため息をつきながら言葉を続けた。
『……傷はどうなんだよ』
「えっ?」
『…………チッ』
ツーツーツー……。
舌打ちを落とし、通話は一方的に切断された。
耳元で響く電子音を聞きながら、悟は携帯の画面を見つめる。
相変わらず冷たく突き放すような言葉。けれど、彼が自分のために動いてくれた事実は変わらない。
悟は微かに肩の力を抜き、彼らしい不器用な反応に、ほんの少しだけ安堵の息を漏らした。
十文字たちとのゲームセンターでの時間は楽しかったが、家に帰ればまた別の緊張が待っていた。
左腕には、怪我を隠すためにアームスリーブがしっかりと装着されている。怪我を隠すためだ。
リビングで両親に顔を合わせた際、案の定そのアームスリーブについて尋ねられた。だが、悟はあらかじめ用意していた言い訳をすかさず口にした。
「左腕の傷跡が、天気のせいで少し痛む時があるでしょ? 冷やさないようにしてると少し楽なんだよね、秋になって気温も下がってきたし……」
事情を知る傷を理由にしたことで、両親は「無理しないようにね」と、それ以上深く追及してくることはなかった。
怪我の隠蔽はどうにかうまくいった。
しかし、自室のベッドに腰を下ろした悟の心を今最も占めているのは、その直後にリビングで起きた「想定外の出来事」だった。
鞄の中から、ヒル魔に与えられた携帯電話を取り出す。
両親にこの携帯の存在をどう誤魔化せばいいのかと頭を抱えていたのだが――。
「全くもう。自分がドジで携帯壊しちゃったからって、阿含に泣きつくなんて。阿含も阿含よ、甘やかして新しいの買い与えるんだから……なんだかんだ妹はかわいいのね。壊したならきちんと話せば怒らないよ。お金も払っておいたから」
母親から突然そう告げられ、悟は内心パニックになりながらも、ただ曖昧に頷くことしかできなかった。
つまり、阿含が両親に対して『妹がドジで携帯を壊したから俺が買ってやった』という、悟自身も全く身に覚えのない作り話を吹き込んでいたのだ。
あの阿含が、自分のためにわざわざ先回りして両親を言いくるめてくれた。
都合よくまとまった状況に心底安堵しつつも、その事実が悟にはどうにも信じられなかった。
気まぐれなのか、それとも何か別の意図があるのか。確かめずにはいられなかった。
悟は意を決し、赤い携帯電話を操作して阿含の番号を呼び出した。
静かな部屋に、無機質なコール音が長く響き続ける。
……やはり、出るわけないか。
そう諦めかけ、悟が携帯を耳から離そうとした、まさにその瞬間だった。
画面の表示が『通話中』に切り替わった。
慌てて携帯を耳に当て直す。スピーカーの向こうからは、無言と、彼の気配だけが伝わってくる。
緊張で喉が渇くのを感じながらも、悟は静かに口を開いた。
「あの……携帯の事、上手く話してくれて助かったから、お礼を言いたくて……。ありがとう、阿含」
数秒の、重たい沈黙。
やがて、電話の向こうから低く、ひどく面倒くさそうな声が返ってきた。
『……くだらねぇことでかけてきてんじゃねぇ、潰すぞ』
「……ちゃっかりお金もらってるのは見なかったことにするね」
『あ゛〜?手間賃だよ手間賃』
少しの間の後、阿含はため息をつきながら言葉を続けた。
『……傷はどうなんだよ』
「えっ?」
『…………チッ』
ツーツーツー……。
舌打ちを落とし、通話は一方的に切断された。
耳元で響く電子音を聞きながら、悟は携帯の画面を見つめる。
相変わらず冷たく突き放すような言葉。けれど、彼が自分のために動いてくれた事実は変わらない。
悟は微かに肩の力を抜き、彼らしい不器用な反応に、ほんの少しだけ安堵の息を漏らした。