第三章【秋季大会・地区大会編】
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銃撃音が鳴り響くアーケードゲームの筐体前。
画面内で激しく動き回るターゲットに対し、悟は持ち前の超反応で次々とトリガーを引いていた。
「すげぇ早撃ちだな!西部のキッドに張れんじゃねぇの?」
「……うーん、命中率が話になってないからなぁ。動く的に当てるのって難しいんだね……」
黒木の感嘆の声にも、悟は不満げに唇を尖らせる。
その時、画面に集中する悟の背後に、ふと影が落ちた。
「――ンな持ち方じゃブレんに決まってんだろ」
「えっ」
背後から悟の身体がすっぽりと包み込まれ、長く節くれだった指が、ガンコントローラーを握る彼女の手に重ねられる。見間違えようのない、ヒル魔の手だった。
「構え方、教えたろうが」
耳元で囁かれたその低い声と、背中越しにぴったりと伝わってくる確かな体温。
その瞬間、悟の脳裏に、かつてアメリカで彼と共に立ち寄ったガンショップでの記憶が鮮明にフラッシュバックした。実銃の重み、火薬の匂い、そして背後から彼に密着された時の、あの心臓が跳ねるような感覚。
「ヒル魔さ……」
「前向け。実銃と違って反動ねぇうえに、ご丁寧に着弾地点まで表示されてんだ」
ヒル魔の的確なポジション修正により、悟の命中精度は目に見えて跳ね上がった。
数秒後、満足したのかふっと体を離したヒル魔は、隣で呆気にとられていた黒木からガンコントローラーを強引にひったくった。そして、片手で無造作に銃を構えると、余裕綽々といった様子で次々と敵を粉砕していく。
「俺といりゃ、実銃なんざいくらでも触れるってぇのに、こんなママゴトするなんざ物好きだな」
「……銃を触りたいんじゃなくて、ゲーム自体を楽しんでるんですから、水差すような事言わないでくださいよ!」
むくれながら銃を構える悟の横で、軽口を叩きながらもヒル魔は的確に敵を撃ち抜き続け、画面には『最高得点(ハイスコア)』の文字が躍り出た。
ガンコントローラーを放り投げると、ヒル魔は鋭い視線を十文字に向けた。
着替えを済ませている悟や黒木、戸叶に対し、十文字だけが練習着のままである。その情報だけで、ヒル魔は悟がこのゲームセンターにいる経緯を完璧に組み上げていた。
「ケケケ、騎士 の次は盗人 に転職 か? 糞長男」
「……やっぱり、追ってきやがったか」
十文字が鋭く睨み返す。
「くだらねぇ事してんじゃねぇ」と、ヒル魔がそう言い放とうとした矢先――彼の目は、悟の纏う張り詰めていた空気が、幾分か柔らかいものへと変化しているのを捉えた。
彼女にとって、この時間は決して「くだらない事」では無かった。そう思い直したヒル魔は、口先まで出かかった言葉をそっと飲み込んだ。
「悟。……行くぞ。西部戦前の最終ミーティングだ」
それだけ言うと、ヒル魔はくるりと背を向け、店の出口へと歩き出してしまった。
「……行けよ、悟。急に付き合わせちまってすまねぇな」
「そんな……むしろ、嬉しかった。私を励まそうとしてくれてるんだって、ちゃんと伝わってるよ」
背中を押す十文字の前に立つと、悟は深々と頭を下げて感謝を伝えた。
「十文字くん、黒木くん、戸叶くん。今日はありがとう。とても楽しかったから……また、連れてきてくれる?」
紫がかった黒髪が、小さく揺れる。そこには、憑き物が落ちたような清々しい笑顔が咲いていた。
悟の言葉に、十文字たちは顔を見合わせ、照れくさそうに頷き合った。黒木がニヤリと笑みを浮かべる。
「格ゲーのセンスに見込みあっからな。この黒木様の弟子にしてやるよ。……また来ようぜ」
「うん!」
黒木の言葉に悟は柔らかな微笑みを浮かべ、もう一度「ありがとう」と告げると、ヒル魔の背中を追いかけて小走りで去っていった。
残されたハァハァ三兄弟。賑やかな喧騒の中、悟の小さくなっていく後ろ姿を見つめながら、黒木がぽつりとこぼした。
「たまにする悟のあの笑い方、良いよな……」
「同意。わかるわ〜……」
しみじみと同意する戸叶。その気の抜けた声に、横に立っていた十文字の眉間がピクリと動いた。
「……オイ」
低くドスを効かせた十文字の声に、黒木と戸叶がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて振り返る。
「お? なんだなんだ、嫉妬か?」
「心配しなくても盗りゃしねーっての」
「そもそも、あのヒル魔相手に張り合おうなんて命知らず、お前くらいなもんだろ」
からかうように肩を小突いてくる二人。
しかし十文字は、その言葉を聞いて反射的に「二人が悟への好意を否定したこと」に対する安堵を覚えてしまった自分自身に気づき、呆れ果てていた。
(俺はどんだけ余裕がねぇんだ……)
顔にじわじわと熱が集まるのを感じながら、顔を背け、絞り出すように「……うるせェ」と言い返すのが精一杯だった。
画面内で激しく動き回るターゲットに対し、悟は持ち前の超反応で次々とトリガーを引いていた。
「すげぇ早撃ちだな!西部のキッドに張れんじゃねぇの?」
「……うーん、命中率が話になってないからなぁ。動く的に当てるのって難しいんだね……」
黒木の感嘆の声にも、悟は不満げに唇を尖らせる。
その時、画面に集中する悟の背後に、ふと影が落ちた。
「――ンな持ち方じゃブレんに決まってんだろ」
「えっ」
背後から悟の身体がすっぽりと包み込まれ、長く節くれだった指が、ガンコントローラーを握る彼女の手に重ねられる。見間違えようのない、ヒル魔の手だった。
「構え方、教えたろうが」
耳元で囁かれたその低い声と、背中越しにぴったりと伝わってくる確かな体温。
その瞬間、悟の脳裏に、かつてアメリカで彼と共に立ち寄ったガンショップでの記憶が鮮明にフラッシュバックした。実銃の重み、火薬の匂い、そして背後から彼に密着された時の、あの心臓が跳ねるような感覚。
「ヒル魔さ……」
「前向け。実銃と違って反動ねぇうえに、ご丁寧に着弾地点まで表示されてんだ」
ヒル魔の的確なポジション修正により、悟の命中精度は目に見えて跳ね上がった。
数秒後、満足したのかふっと体を離したヒル魔は、隣で呆気にとられていた黒木からガンコントローラーを強引にひったくった。そして、片手で無造作に銃を構えると、余裕綽々といった様子で次々と敵を粉砕していく。
「俺といりゃ、実銃なんざいくらでも触れるってぇのに、こんなママゴトするなんざ物好きだな」
「……銃を触りたいんじゃなくて、ゲーム自体を楽しんでるんですから、水差すような事言わないでくださいよ!」
むくれながら銃を構える悟の横で、軽口を叩きながらもヒル魔は的確に敵を撃ち抜き続け、画面には『最高得点(ハイスコア)』の文字が躍り出た。
ガンコントローラーを放り投げると、ヒル魔は鋭い視線を十文字に向けた。
着替えを済ませている悟や黒木、戸叶に対し、十文字だけが練習着のままである。その情報だけで、ヒル魔は悟がこのゲームセンターにいる経緯を完璧に組み上げていた。
「ケケケ、
「……やっぱり、追ってきやがったか」
十文字が鋭く睨み返す。
「くだらねぇ事してんじゃねぇ」と、ヒル魔がそう言い放とうとした矢先――彼の目は、悟の纏う張り詰めていた空気が、幾分か柔らかいものへと変化しているのを捉えた。
彼女にとって、この時間は決して「くだらない事」では無かった。そう思い直したヒル魔は、口先まで出かかった言葉をそっと飲み込んだ。
「悟。……行くぞ。西部戦前の最終ミーティングだ」
それだけ言うと、ヒル魔はくるりと背を向け、店の出口へと歩き出してしまった。
「……行けよ、悟。急に付き合わせちまってすまねぇな」
「そんな……むしろ、嬉しかった。私を励まそうとしてくれてるんだって、ちゃんと伝わってるよ」
背中を押す十文字の前に立つと、悟は深々と頭を下げて感謝を伝えた。
「十文字くん、黒木くん、戸叶くん。今日はありがとう。とても楽しかったから……また、連れてきてくれる?」
紫がかった黒髪が、小さく揺れる。そこには、憑き物が落ちたような清々しい笑顔が咲いていた。
悟の言葉に、十文字たちは顔を見合わせ、照れくさそうに頷き合った。黒木がニヤリと笑みを浮かべる。
「格ゲーのセンスに見込みあっからな。この黒木様の弟子にしてやるよ。……また来ようぜ」
「うん!」
黒木の言葉に悟は柔らかな微笑みを浮かべ、もう一度「ありがとう」と告げると、ヒル魔の背中を追いかけて小走りで去っていった。
残されたハァハァ三兄弟。賑やかな喧騒の中、悟の小さくなっていく後ろ姿を見つめながら、黒木がぽつりとこぼした。
「たまにする悟のあの笑い方、良いよな……」
「同意。わかるわ〜……」
しみじみと同意する戸叶。その気の抜けた声に、横に立っていた十文字の眉間がピクリと動いた。
「……オイ」
低くドスを効かせた十文字の声に、黒木と戸叶がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて振り返る。
「お? なんだなんだ、嫉妬か?」
「心配しなくても盗りゃしねーっての」
「そもそも、あのヒル魔相手に張り合おうなんて命知らず、お前くらいなもんだろ」
からかうように肩を小突いてくる二人。
しかし十文字は、その言葉を聞いて反射的に「二人が悟への好意を否定したこと」に対する安堵を覚えてしまった自分自身に気づき、呆れ果てていた。
(俺はどんだけ余裕がねぇんだ……)
顔にじわじわと熱が集まるのを感じながら、顔を背け、絞り出すように「……うるせェ」と言い返すのが精一杯だった。