第三章【秋季大会・地区大会編】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「不良だからゲーセンって……なんだかすごく安直だねぇ……」
電子音とメダルが弾ける音が絶え間なく響き渡る、賑やかなゲームセンター。
連れてこられた悟は、呆けたような声を出しながらも、珍しそうにきょろきょろと店内を見回していた。
その脳裏を、ふと懐かしい記憶が掠める。幼い頃、まだ確執などなく、兄たちと共に無邪気にアーケードゲームに興じた仲睦まじかったあの頃。薄れかけていた温かい記憶の残香に、悟の目が僅かに細められる。
「でも、明日は西部戦なのに、こんなところで遊んでる場合じゃ……」
「……お前は少し、肩の力抜けよ」
生真面目に咎めようとする悟の言葉を、十文字がぶっきらぼうに遮った。その不器用で優しい響きに、悟は小さく息を吐き出す。
「……じゃあ、少しだけ」
十文字と共にUFOキャッチャーやリズムゲームを巡り、ひとしきり息抜きをした後、悟がある筐体の前でピタリと立ち止まった。
「私……これ得意だった」
プラスチックの
「エアホッケーか。いいぜ、勝負だ」
十文字が不敵に笑い、対面に立つ。
ゲーム開始の合図と共に、十文字が力任せに、パックを壁に乱反射させるような強烈なショットを放った。しかし。
カァンッ!
「……おっ!」
十文字が目を見開く。
決まったと思ったパックは、ゴールに入る寸前、悟によって完璧に弾き返されていた。
十文字がいかにフェイントを混ぜ、何度も打ち込もうとも、彼女は「神速のインパルス」によるその圧倒的な反射神経でパックの軌道をすべて視認し、寸分の狂いもなく打ち返してみせるのだ。
一切の抜け目がない鉄壁の防御から、瞬時に的確なカウンターが打ち出される。十文字が反応する間もなく、彼のゴールで鈍い得点音が鳴り響いた。
「お、いたいた」
「カカッ! 十文字、負けてんのかよ」
十文字が手も足も出ず圧倒されていると、背後から聞き慣れた声が響いた。黒木と戸叶だ。悟が十文字に視線を向けると、十文字が小さく頷いた。
「ハメ外すのに、二人きりでってのも物寂しいだろ?」
十文字の呼び出しによって、二人がわざわざこのゲーセンまで参上してきたのだ。
ゲーム好きの黒木は、腕をまくりながら意気揚々と悟の対面へと回った。
「ゲーセンといやぁ、この俺様がいなきゃ始まんねぇだろ! 手始めに十文字、助太刀してやるとするか!」
「……言っとくけど悟、めちゃくちゃ強ぇぞ。どんな速い球打っても、全部見切られて弾き返される」
戸叶が悟の隣に並び、サングラス越しに悟へと視線を落とす。
「じゃ、俺は悟につくぜ。負けた方がジュース驕りな」
2対2のタッグマッチが開始された。
自信満々の黒木だったが、パワーやフィジカルよりも、圧倒的に「動体視力」と「反射神経」が物を言うこのゲームにおいて、彼女に勝てる者がいるとすれば、それこそ同じ才を持つ阿含くらいなものだろう。
結果は火を見るより明らかだった。
「やったね、戸叶くん! 私たちの勝ち!」
「俺ほとんど何もしてねぇけどな」
一方的に勝ちをもぎ取った悟と戸叶が、パンッ!と軽い音を立ててハイタッチを交わす。
「クソッ!! !!」
本気で悔しがり、バンッと台を叩く黒木に、十文字が呆れ顔で呟いた。
「超反応でゴリ押しされりゃ、勝ち目も無ぇわな。黒木、たかがゲームに熱くなり過ぎなんだよ」
「あぁ!? 勝負事はムキになってこそなんぼなんだよ、じゃないとつまんねーの!」
黒木の負け惜しみとも取れるその言葉に、悟は深く感銘を受けたようにコクリと頷いた。
「確かに……一理あるかも」
ゲームだろうとアメフトだろうと、勝負事には違いない。勝負をする上で勝ちを求めないのはナンセンスだ。それに泥臭くムキになるからこそ、限界を超える力が出る。
そんな悟の反応を見て、黒木がニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「てことでだ、悟。次は俺の十八番で勝負しよーぜ」
連れられてきたのは、格闘ゲームの筐体だった。
「十八番」と言ったのは嘘ではないらしく、黒木は巧みなコマンド入力でキャラクターを縦横無尽に操り、無双していく。
流石の悟もゲーム自体のセオリーを知らないため、最初はサンドバッグのように一方的に負け続けていた。
だが――数戦交えるうちに、悟の操るキャラクターの動きが、劇的に洗練されていく。
「……悟お前、 初心者ってマジかよ?上達のスピードが並じゃねぇ!」
焦る黒木の攻撃を、悟は完璧なタイミングでガードし、鋭い反撃を返し始めたのだ。両者の体力ゲージが削り合いになり、黒木も徐々に追い詰められていく。
「これ、対戦相手がどんな動きをして、どのタイミングで技を繰り出すかを『予測』するのがコツかなって。私、自分がどう動くかよりも、黒木くんのキャラクターの動かし方の癖だけを今追い続けてるから、徐々にパターンが見えてきた気がする」
「ハァ!?」
「対戦相手が変わればまた一からだから、ゲーム自体が上達してる訳じゃないんだけどね」
まさかの理由に、背後で見ていた戸叶と十文字も唖然とする。
「ゲームに『悪魔の予言』持ち込むのは反則だろ……!!」
「ムキになるのが楽しいって、黒木くんが教えてくれたんでしょ?」
煽りとも取れる悟の言動に、追い詰められた黒木のゲーマーとしての意地が爆発した。
「システムを知り尽くした俺様を舐めんじゃねぇ!!」
黒木はムキになってレバーを弾き、よりトリッキーな、熟練者ならではの高度な連続コンボをギリギリのところで叩き込んだ。
『K.O.!』
画面に大きく表示された文字。
勝ったのは、僅かな体力ゲージを残した黒木だった。
「ああっ、負けちゃった! あと少しだったのにー!」
コントローラーから手を離した悟が、本気で悔しそうに声を上げる。
一方の黒木は、勝ったというのに額にびっしょりと冷や汗をかき、ぜえぜえと肩で息をしていた。
「ハァ、ハァ……マジでギリギリじゃねぇか。心臓に悪ィわ……」
疲労困憊の黒木を見て、悟はふふっと吹き出した。
「負けたのは悔しいけど、すっごく楽しかった」
そこには、つい先刻までの陰りを一切感じさせない、年相応の無邪気で明るい笑顔が咲き誇っていた。
悟の背後で、その光景を静かに見守っていた十文字。
今日一日、ずっと失われていた彼女の笑顔。自分がどうしても取り戻したかったその表情を目の当たりにし、十文字もまた、腕を組みながら満足げで優しい笑みを浮かべていたのであった。