感情の行き着く先
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最近、彼と禄に会ってない。それどころか連絡が返って来ないことも珍しくなくなった。
先月の会社の飲み会帰り、同性の自分からみても可愛らしい女性と彼が一緒のタクシーに乗っていくのを見送ったのは生々しく記憶に残っている。
最初はどうして?とか、嫌われたの?と思い悩む日々が続いた。
一人でうじうじしても仕方ないと彼に連絡しても”忙しいから無理だ。” 素っ気ない一言が返ってきてそのまま。
確かに仕事が忙しくなるとは聞いてた。聞いてたけど。
でも声も聞けないくらい?
一言のメッセージもできないくらい?
自然消滅の文字が浮かぶ。
でも彼は良くも悪くも歯に衣着せぬ人だから別れたいなら、もし……他に好きな人ができたら絶対にあやふやにしない。
信じたり、疑ったりの悪循環の毎日は思ったより精神的にしんどい。
会社では同僚たちに顔色が悪いとか悩みがあるなら聞くよ?と心配されるけどプライベートな件は相談しにくい。
かろうじて仕事はできてるけど毎日暗い道を一人で歩いているようでため息の数も増えた。
もう、いいや。お風呂上がりに面白くもないTVをぼんやり眺めていると急にパズルのピースのように嵌った。
恋愛は一人じゃできないし、一人で答えのない考えを繰り返すのにもいい加減疲れた。
霧が晴れた気分だから早速彼に電話する。
コール音はすれど彼の声が聞こえない電話を溜息をつきながら切る。
しつこい。と思われたっていいと開き直ってメッセージアプリで”大事な話がある” と送信した。
これでレスポンスないなら……いや、きっと最後くらいは時間を作ってくれる。
怖くて不安でいっぱいなのは変わりないのに彼と終わったら私はどうなるんだろう。そんな思いをまだ心に抱えながら無理やり目を閉じすっかり浅くなった眠りについた。
※※※
着信履歴と送られてきたメッセージを見て(とうとう、この日がきた)と俯いた 。
深夜、帰宅のタクシー内でスマホを握りしめ目を閉じる。
カズサの笑顔を見たのはいつだった?と思い返してみるがかなり前だとしか思い出せないことに乾いた笑いが出そうになった。
重い足取りで鍵を開けると明かりのついてない部屋はひんやりとしていっそう冷えてくる。
明かりをつけなくても場所がわかるソファにそのまま座るともう一度無機質な光が示す彼女からのメッセージを見る。
四時間前に送信されたメッセージ。
カズサは別れを切り出す気かもしれない。
そうされても仕方ないくらい彼女を放っていた。
いくら仕事が忙しくてもメッセージくらいは返せたはずだ。
カズサはわかってくれる。そう勝手に思い込んで甘えたのは俺で自業自得なのは間違いない。
立ち上がって照明をつけジャケットを脱いでもハンガーに掛けるのも億劫でソファに放り投げ気持ちとは裏腹に習慣として浴室へ向かった。
熱めの温度のシャワーで汚れを落としながらも頭ん中はいつか見たカズサの寂しそうな顔が浮かんで消えていく。
それを打ち消すように頭から湯を流しても泡が体を伝っていくだけで何も変わりゃしない。
シャワーから出てめったに飲まない酒を飲みながらカズサへ言葉を選びながら返事を打っては消してを繰り返し、ふと壁掛け時計をみると深夜と明け方の間なのに気づいて結局スマホを鞄の中に突っ込んだ。
※※※
起きてすぐスマホのアプリを開いてみると既読とだけ。その既読の時間もかなり遅い時間だった。
起きてすぐに確認するんじゃなかった。
そう思いながらいつもと同じように淡々と出社の準備をして家を出る。
(会うのも嫌なのかな……)
早めの電車のなかで止まらない考えを止めるように降りる駅名のアナウンスが流れ構内を抜け惰性で会社へと歩いた。
「あらあら、いつもよりどんよりしてるのはどうしたのかしらねぇ?」
たまには外でランチしない?と同じ部署で割と仲の良い先輩は注文を決めると茶化してきた。
いつもなら笑ってドラマのイケメン俳優が!とか上司をネタにして話すのに案外弱ってたのか詳細は省いてただ付き合っている人とあまりうまくいってないと言ってしまった。
案の定、聞きたがってたけどいいタイミングで頼んだランチがテーブルに並んだ。
「美味しそうですね!早く食べましょう」
強引に話題を変え、これ以上は踏み込まないで下さいのサインを送る。
困った顔をしながら先輩はこれ以上この話題には触れずに美味しいね、と当たり障りのない時間をやり過ごした。
もしかしたら先輩が帰りに飲もうよ、なんて誘ってきたらどうしよう?
いっその事ぶっちゃけるのもいいかも知れない。それとも私から誘うのもありかな。終業時間間際に迷っているとクスリと笑ってしまった。
誰かに話したって慰めてくれるかもしれないけどそれじゃ意味がない。
二人で始めたから、二人で解決しなきゃ後悔する。
「あ、カズサ!今から予定とかある?」
同僚から焦った声がかかる。
「もし予定なかったら助けてほしいんだ。頼む!」
頭をさげながら両手をあわせて拝んでいるからきっと急ぎの仕事だろうなぁ。
ついさっき、お手洗いに行くふりでスマホを確認したけどやっぱり何もなかった。なら時間を持て余し家でジメジメとするだけだ。
「今度美味しいお菓子差し入れてくれるならいいよ」
助かったぁー!パァッと笑顔で答えて同僚の背にして帰り支度したバッグをロッカーにしまった。
「締切り明日なのに手伝えってちょっとひどくない?」
「ほんと、悪いっ!適役がカズサしかいなかったんだ」
何人かまだ残業して明日までの仕事を間に合わせようとバタバタしている。正直、こんな事態に陥らないよう計画たてるのがスケ管じゃないだろうか。
このセクションの姿勢にあきれても仕事は消えない。
今できることをするしかない。
「こっちの翻訳は終わったよ。後は?」
「さっすが!じゃあ、次はこの分をお願いっ」
なるほど、自分に助けを求めたのは主に翻訳担当なわけね。
子供のころ住んでいた地域は外国人も多く自然と子供同士で言葉もわからないけど楽しく遊んでいた。
その延長線で語学が好きになり社内で役立つ場面もある。
「ふっはぁー!おつかれ〜。なんとか間に合った!」
「うん、良かったね」
若干の素っ気ない返事をしてもバチは当たらない時間帯になっている。
「ほんと、ごめんなぁ」
もう電車はないからタクシーで帰ることにして後日タクシー代をもらうことで手を打った。
自宅前でタクシーを止め代金を支払い車を降りるとエントランスは明るく迎えてくれる。
「つっかれたー。今日は熟睡できそう」
バッグをソファにおくとバランスを崩して中身がばらけてしまった。
「あ〜。もう!」
今日は厄日だ、お風呂入ったらさっさと眠ろう。そう中身をバッグに戻しながらラグに転がったスマホを手にする。
「どうせ、何もないんだから」
充電しようと寝室のケーブルに繋ごうとしたとき点滅するランプに気づいた。
あんなに返事すらできないのかと不満を持っていたのに怖くなる。
相当急ぎでなければ大体メッセージで事足りる。
友人も通話でなかなか連絡してこない。
電話のマークをタップする。
着信一件
リヴァイ
表示されている名前を見て緊張する。
時計を見ると私にしては遅い時間帯でリヴァイからするときっと早い時間。
かけ直すかどうかを悩み、見なかったことにした。
※※※
翌日、同僚から感謝の言葉を頂き、お礼に食事を奢ると上機嫌で私もいいよ。と返事した。
美味しい食事を楽しみにしながら、仕事を終わらせ同僚とバカ話をしながら会社を出ると腕を急に引っ張られて転ぶ手前だった。
何?と驚きながら後ろを見ると険しい顔のリヴァイがいた。
「あーっと。またな」
流れる空気を察し同僚は私たちを残し立ち去っていく。
心の準備ができていないせいでギクシャクしてると腕を掴んだままのリヴァイについていく。
「……」
「……」
心のなかは荒れているのに気まずい雰囲気に一言も出ない。
一体どこへ行くんだろう。
それだけを考えるようにしているとゆっくりリヴァイは振り向いた。
「……あれが新しい男か?」
何を言ってるのよ。というか。新しい相手を見つけたのはリヴァイのほうでしょ?!
湧き上がる怒りに腕を振り払って正面に立つ。
リヴァイも不機嫌を通り越し怒りを隠せていないし私も負けていない。
街なかで睨み合う男女に通り過ぎる人は距離をおきながらもチラチラと眺めている。
「場所、変えるぞ」
「……」
近くのパーキングに停めてたらしいリヴァイの車の後部座席に乗り込もうとすると違ぇだろ、と助手席のドアを開いて背中を軽く押してくる。
癪に触るけどまだ、ここに座ってもいいんだ。どこか安心している自分に苦笑いする。
ハンドルを握る横顔をチラリと見ながらリヴァイの左手に繋がれた右手の温かさに涙腺がおかしくなりそう。
どんな結末でも泣かない。そう決めていたのに決意は脆い。
水分は何度も瞬きして誤魔化した。まだ好きな気持ちは消えてくれない。
※※※
男と一緒に笑ってるカズサをみて怒りでとにかくこいつを男から引き放すため腕を掴む。
冷静に話すなんてはなから無理だったんだ。
どこへ行くと決めてなかったがカズサを強引に連れて歩く。
その間も背中にカズサの視線が突き刺さっているのを感じる。
結局どこへいけばいいのかわからず自宅へ行こうと車に乗るとき、何を思ったのか後部座席に乗ろうとするカズサを急いで助手席に乗せた。
二人とも黙っているがカズサが横目で俺を見ているのは、手を重ねても拒絶されないのは期待しても良いんだろうか。
運転中なのにずっとそれを思っていた。
※※※
「入れ」
「お邪魔します」
他人行儀な言葉に心が折れそうになる。やっぱり駄目なのか。遅すぎたのか。
感情は乱れているが普段から表情に出にくい質で良かったような、そうでもない気もする。
「アイスティーでいいか?」
「ん」
お互いに頭も冷えて会話ができる雰囲気になった。
「ほら」
ローテーブルに飲み物を置いてカズサと一緒に飲むのはこれが最後かもしれねぇのか?と苦々しい思いを自分の飲み物で流し込む。
少し間があって以外にもカズサから切り出した。
「ねぇ。リヴァイ。もう私達は終わりなのかな?」
は?意味がわからねぇ。何言ってる?なんで疑問形なんだ?
「終わりってなんだ? それはカズサがそうしたいんじゃ 」
カズサが俺の言葉を遮る。
「ずっと我慢してた。いい彼女だって思われたくて連絡なくても忙しいから仕方ないんだって言い聞かせてた。けどね、好きな人ができたなら絶対リヴァイはきちんと言ってくれる。って思ってたのに。それもないんだね。だから私か 」
「待て。どこから説明すればいいのかわからんが、まずカズサを放ってばかりですまなかった」
ポロポロと静かにカズサの瞳から涙が溢れる。
その涙の意味はなんだ?戸惑いながらもここで間違えれば俺はカズサを失う。
テイッシュで丁寧に涙を吸い取ってカズサが落ち着くのを待つ。
「じゃ、ほんとにさよならなんだね」
おいおいおい。どうして俺がカズサを?逆じゃねぇのか?
何かが食い違っている。そこからなんとかしねぇと。
「どうしてそう思ったのか、わからねぇが俺が今、謝罪したのはカズサに甘えて胡座かいてたからだ。
カズサなら忙しいのも、連絡しなくても俺の気持ちはわかってくれていると思い上がってた。それは間違ってたしこれからはそんな思いさせない」
「……」
カズサの無言が長い。すぐに信用は取り戻せねぇだろうがカズサを失うくらいなら連絡も会う時間も優先して絶対に作る。
「……うそだよ。だって忙しい、って言っておきながら女の人と一緒にいる時間はあるんでしょ?」
は?なんだそりゃ。女?なんのことだ?
「悪い、本当に分からねぇ」
「だからっ!一ヶ月前!遅い時間に女の人と一緒にタクシーに乗ってっ!」
一ヶ月前?必死で記憶を漁るとカズサの言ってる状況がわかってきた。
連絡しねぇわ、挙句に女といるは、碌でもねぇ男そのものじゃねぇか。
寂しい思いさせて不安にさせておいて、カズサが怒るのも別れるって言い出すのも無理はねぇ。
それと同時にまだ油断できねぇのに今すぐ抱きしめたい。
「あのな、あの夜ようやく仕事の目処がついた、ってことで部下と呑んで潰れた部下の女を一人で帰すのは危ねぇからってことになったんだ。カズサから見えたかわからんが助手席に他の奴もいた」
きょとんとしたカズサはすぐ俯いてしまって顔が見えねぇ。
「まず俺の部下全員にカズサを紹介する。俺の女だってな」
バッと顔をあげてカズサは戸惑った表情と不安そうな瞳で俺を睨む。
「それって公私混同もいいとこじゃない。部下の人達だって迷惑だよ」
「いいじゃねぇか。こんなにいい女が俺の恋人だって俺が見せつけてぇんだよ。カズサ」
向かい合って座ってたがカズサの横に寄り添う。また俯いたカズサの両頬を包んで視線を絡ませる。
「なぁ、俺が一番怖いのが何かわかるか?お前と離れちまうと考えたらおかしくなりそうだし今日、男といたときにゃ頭に血が昇って男を殴りたかった」
「……電話もメッセージにも返事しなかった癖に?」
「……格好悪いがカズサが俺に愛想尽かして俺と別れる話かと思ったら電話もメッセージを返すのもできなかった。返事したらそうなっちまう気がして。だからできなかった。連絡しない間は恋人だからってな」
まだカズサの瞳には不安と疑いがある。
クソ。不謹慎かも知れんが可愛いにも程があるだろ。
俺を思って、嫉妬して挙げ句にしなくていいのに身を引こうとしてたなんて勝手すぎるがカズサがそれだけ思ってくれてる証拠じゃねぇか。
「そうだな。すぐに信用しろなんて言われても無理だよな。だから今までの分も行動で示す。だから別れるとかいうな」
※※※
信用できない、って赤信号が点っていたのに黄色信号になってる私はチョロい。でもリヴァイが好きでしょうがない
のも本当で。
泣いていると抱き寄られリヴァイのいつもより早いような心臓の音が聞こえてその音に妙に安心する。
リヴァイの背中に手を回すとはぁっとリヴァイの優しいため息がもれる。
「なぁ、今夜は泊まってくんねぇか。俺もかなり寂しいかったらしくてな。
カズサの体温を感じて眠りてぇんだ」
大好きな人に言われて断れるはずない。
まだ疑っている嫌な自分もいる。
でもリヴァイと離れるのはできっこ無いんだって心が叫んでる。ほんとチョロい。
「カズサがよければ仕事が一段落ついたら一緒に住まねぇか?朝おきたら一番にカズサの顔がみたいし夜も一緒にいたい」
「そんなの急に言われても」
「わかってる。だがそのつもりでいてくれ。俺も結構キテたみたいだ。とりあえず来週の週末は開けといてくれ。俺のカズサを全員にみせびらかしてぇからな」
抱きしめる力を少し強くするとと二人の隙間が無くなっていく。
初めての喧嘩はリヴァイに絆された私の負け。
リヴァイに言ったら俺が負けたに決まってんだろ。
どうしたって俺はカズサを離せねぇからな。
そう言うと久々のデートで賑わっている人並みの中、笑ってキスをした。
先月の会社の飲み会帰り、同性の自分からみても可愛らしい女性と彼が一緒のタクシーに乗っていくのを見送ったのは生々しく記憶に残っている。
最初はどうして?とか、嫌われたの?と思い悩む日々が続いた。
一人でうじうじしても仕方ないと彼に連絡しても”忙しいから無理だ。” 素っ気ない一言が返ってきてそのまま。
確かに仕事が忙しくなるとは聞いてた。聞いてたけど。
でも声も聞けないくらい?
一言のメッセージもできないくらい?
自然消滅の文字が浮かぶ。
でも彼は良くも悪くも歯に衣着せぬ人だから別れたいなら、もし……他に好きな人ができたら絶対にあやふやにしない。
信じたり、疑ったりの悪循環の毎日は思ったより精神的にしんどい。
会社では同僚たちに顔色が悪いとか悩みがあるなら聞くよ?と心配されるけどプライベートな件は相談しにくい。
かろうじて仕事はできてるけど毎日暗い道を一人で歩いているようでため息の数も増えた。
もう、いいや。お風呂上がりに面白くもないTVをぼんやり眺めていると急にパズルのピースのように嵌った。
恋愛は一人じゃできないし、一人で答えのない考えを繰り返すのにもいい加減疲れた。
霧が晴れた気分だから早速彼に電話する。
コール音はすれど彼の声が聞こえない電話を溜息をつきながら切る。
しつこい。と思われたっていいと開き直ってメッセージアプリで”大事な話がある” と送信した。
これでレスポンスないなら……いや、きっと最後くらいは時間を作ってくれる。
怖くて不安でいっぱいなのは変わりないのに彼と終わったら私はどうなるんだろう。そんな思いをまだ心に抱えながら無理やり目を閉じすっかり浅くなった眠りについた。
※※※
着信履歴と送られてきたメッセージを見て(とうとう、この日がきた)と
深夜、帰宅のタクシー内でスマホを握りしめ目を閉じる。
カズサの笑顔を見たのはいつだった?と思い返してみるがかなり前だとしか思い出せないことに乾いた笑いが出そうになった。
重い足取りで鍵を開けると明かりのついてない部屋はひんやりとしていっそう冷えてくる。
明かりをつけなくても場所がわかるソファにそのまま座るともう一度無機質な光が示す彼女からのメッセージを見る。
四時間前に送信されたメッセージ。
カズサは別れを切り出す気かもしれない。
そうされても仕方ないくらい彼女を放っていた。
いくら仕事が忙しくてもメッセージくらいは返せたはずだ。
カズサはわかってくれる。そう勝手に思い込んで甘えたのは俺で自業自得なのは間違いない。
立ち上がって照明をつけジャケットを脱いでもハンガーに掛けるのも億劫でソファに放り投げ気持ちとは裏腹に習慣として浴室へ向かった。
熱めの温度のシャワーで汚れを落としながらも頭ん中はいつか見たカズサの寂しそうな顔が浮かんで消えていく。
それを打ち消すように頭から湯を流しても泡が体を伝っていくだけで何も変わりゃしない。
シャワーから出てめったに飲まない酒を飲みながらカズサへ言葉を選びながら返事を打っては消してを繰り返し、ふと壁掛け時計をみると深夜と明け方の間なのに気づいて結局スマホを鞄の中に突っ込んだ。
※※※
起きてすぐスマホのアプリを開いてみると既読とだけ。その既読の時間もかなり遅い時間だった。
起きてすぐに確認するんじゃなかった。
そう思いながらいつもと同じように淡々と出社の準備をして家を出る。
(会うのも嫌なのかな……)
早めの電車のなかで止まらない考えを止めるように降りる駅名のアナウンスが流れ構内を抜け惰性で会社へと歩いた。
「あらあら、いつもよりどんよりしてるのはどうしたのかしらねぇ?」
たまには外でランチしない?と同じ部署で割と仲の良い先輩は注文を決めると茶化してきた。
いつもなら笑ってドラマのイケメン俳優が!とか上司をネタにして話すのに案外弱ってたのか詳細は省いてただ付き合っている人とあまりうまくいってないと言ってしまった。
案の定、聞きたがってたけどいいタイミングで頼んだランチがテーブルに並んだ。
「美味しそうですね!早く食べましょう」
強引に話題を変え、これ以上は踏み込まないで下さいのサインを送る。
困った顔をしながら先輩はこれ以上この話題には触れずに美味しいね、と当たり障りのない時間をやり過ごした。
もしかしたら先輩が帰りに飲もうよ、なんて誘ってきたらどうしよう?
いっその事ぶっちゃけるのもいいかも知れない。それとも私から誘うのもありかな。終業時間間際に迷っているとクスリと笑ってしまった。
誰かに話したって慰めてくれるかもしれないけどそれじゃ意味がない。
二人で始めたから、二人で解決しなきゃ後悔する。
「あ、カズサ!今から予定とかある?」
同僚から焦った声がかかる。
「もし予定なかったら助けてほしいんだ。頼む!」
頭をさげながら両手をあわせて拝んでいるからきっと急ぎの仕事だろうなぁ。
ついさっき、お手洗いに行くふりでスマホを確認したけどやっぱり何もなかった。なら時間を持て余し家でジメジメとするだけだ。
「今度美味しいお菓子差し入れてくれるならいいよ」
助かったぁー!パァッと笑顔で答えて同僚の背にして帰り支度したバッグをロッカーにしまった。
「締切り明日なのに手伝えってちょっとひどくない?」
「ほんと、悪いっ!適役がカズサしかいなかったんだ」
何人かまだ残業して明日までの仕事を間に合わせようとバタバタしている。正直、こんな事態に陥らないよう計画たてるのがスケ管じゃないだろうか。
このセクションの姿勢にあきれても仕事は消えない。
今できることをするしかない。
「こっちの翻訳は終わったよ。後は?」
「さっすが!じゃあ、次はこの分をお願いっ」
なるほど、自分に助けを求めたのは主に翻訳担当なわけね。
子供のころ住んでいた地域は外国人も多く自然と子供同士で言葉もわからないけど楽しく遊んでいた。
その延長線で語学が好きになり社内で役立つ場面もある。
「ふっはぁー!おつかれ〜。なんとか間に合った!」
「うん、良かったね」
若干の素っ気ない返事をしてもバチは当たらない時間帯になっている。
「ほんと、ごめんなぁ」
もう電車はないからタクシーで帰ることにして後日タクシー代をもらうことで手を打った。
自宅前でタクシーを止め代金を支払い車を降りるとエントランスは明るく迎えてくれる。
「つっかれたー。今日は熟睡できそう」
バッグをソファにおくとバランスを崩して中身がばらけてしまった。
「あ〜。もう!」
今日は厄日だ、お風呂入ったらさっさと眠ろう。そう中身をバッグに戻しながらラグに転がったスマホを手にする。
「どうせ、何もないんだから」
充電しようと寝室のケーブルに繋ごうとしたとき点滅するランプに気づいた。
あんなに返事すらできないのかと不満を持っていたのに怖くなる。
相当急ぎでなければ大体メッセージで事足りる。
友人も通話でなかなか連絡してこない。
電話のマークをタップする。
着信一件
リヴァイ
表示されている名前を見て緊張する。
時計を見ると私にしては遅い時間帯でリヴァイからするときっと早い時間。
かけ直すかどうかを悩み、見なかったことにした。
※※※
翌日、同僚から感謝の言葉を頂き、お礼に食事を奢ると上機嫌で私もいいよ。と返事した。
美味しい食事を楽しみにしながら、仕事を終わらせ同僚とバカ話をしながら会社を出ると腕を急に引っ張られて転ぶ手前だった。
何?と驚きながら後ろを見ると険しい顔のリヴァイがいた。
「あーっと。またな」
流れる空気を察し同僚は私たちを残し立ち去っていく。
心の準備ができていないせいでギクシャクしてると腕を掴んだままのリヴァイについていく。
「……」
「……」
心のなかは荒れているのに気まずい雰囲気に一言も出ない。
一体どこへ行くんだろう。
それだけを考えるようにしているとゆっくりリヴァイは振り向いた。
「……あれが新しい男か?」
何を言ってるのよ。というか。新しい相手を見つけたのはリヴァイのほうでしょ?!
湧き上がる怒りに腕を振り払って正面に立つ。
リヴァイも不機嫌を通り越し怒りを隠せていないし私も負けていない。
街なかで睨み合う男女に通り過ぎる人は距離をおきながらもチラチラと眺めている。
「場所、変えるぞ」
「……」
近くのパーキングに停めてたらしいリヴァイの車の後部座席に乗り込もうとすると違ぇだろ、と助手席のドアを開いて背中を軽く押してくる。
癪に触るけどまだ、ここに座ってもいいんだ。どこか安心している自分に苦笑いする。
ハンドルを握る横顔をチラリと見ながらリヴァイの左手に繋がれた右手の温かさに涙腺がおかしくなりそう。
どんな結末でも泣かない。そう決めていたのに決意は脆い。
水分は何度も瞬きして誤魔化した。まだ好きな気持ちは消えてくれない。
※※※
男と一緒に笑ってるカズサをみて怒りでとにかくこいつを男から引き放すため腕を掴む。
冷静に話すなんてはなから無理だったんだ。
どこへ行くと決めてなかったがカズサを強引に連れて歩く。
その間も背中にカズサの視線が突き刺さっているのを感じる。
結局どこへいけばいいのかわからず自宅へ行こうと車に乗るとき、何を思ったのか後部座席に乗ろうとするカズサを急いで助手席に乗せた。
二人とも黙っているがカズサが横目で俺を見ているのは、手を重ねても拒絶されないのは期待しても良いんだろうか。
運転中なのにずっとそれを思っていた。
※※※
「入れ」
「お邪魔します」
他人行儀な言葉に心が折れそうになる。やっぱり駄目なのか。遅すぎたのか。
感情は乱れているが普段から表情に出にくい質で良かったような、そうでもない気もする。
「アイスティーでいいか?」
「ん」
お互いに頭も冷えて会話ができる雰囲気になった。
「ほら」
ローテーブルに飲み物を置いてカズサと一緒に飲むのはこれが最後かもしれねぇのか?と苦々しい思いを自分の飲み物で流し込む。
少し間があって以外にもカズサから切り出した。
「ねぇ。リヴァイ。もう私達は終わりなのかな?」
は?意味がわからねぇ。何言ってる?なんで疑問形なんだ?
「終わりってなんだ? それはカズサがそうしたいんじゃ 」
カズサが俺の言葉を遮る。
「ずっと我慢してた。いい彼女だって思われたくて連絡なくても忙しいから仕方ないんだって言い聞かせてた。けどね、好きな人ができたなら絶対リヴァイはきちんと言ってくれる。って思ってたのに。それもないんだね。だから私か 」
「待て。どこから説明すればいいのかわからんが、まずカズサを放ってばかりですまなかった」
ポロポロと静かにカズサの瞳から涙が溢れる。
その涙の意味はなんだ?戸惑いながらもここで間違えれば俺はカズサを失う。
テイッシュで丁寧に涙を吸い取ってカズサが落ち着くのを待つ。
「じゃ、ほんとにさよならなんだね」
おいおいおい。どうして俺がカズサを?逆じゃねぇのか?
何かが食い違っている。そこからなんとかしねぇと。
「どうしてそう思ったのか、わからねぇが俺が今、謝罪したのはカズサに甘えて胡座かいてたからだ。
カズサなら忙しいのも、連絡しなくても俺の気持ちはわかってくれていると思い上がってた。それは間違ってたしこれからはそんな思いさせない」
「……」
カズサの無言が長い。すぐに信用は取り戻せねぇだろうがカズサを失うくらいなら連絡も会う時間も優先して絶対に作る。
「……うそだよ。だって忙しい、って言っておきながら女の人と一緒にいる時間はあるんでしょ?」
は?なんだそりゃ。女?なんのことだ?
「悪い、本当に分からねぇ」
「だからっ!一ヶ月前!遅い時間に女の人と一緒にタクシーに乗ってっ!」
一ヶ月前?必死で記憶を漁るとカズサの言ってる状況がわかってきた。
連絡しねぇわ、挙句に女といるは、碌でもねぇ男そのものじゃねぇか。
寂しい思いさせて不安にさせておいて、カズサが怒るのも別れるって言い出すのも無理はねぇ。
それと同時にまだ油断できねぇのに今すぐ抱きしめたい。
「あのな、あの夜ようやく仕事の目処がついた、ってことで部下と呑んで潰れた部下の女を一人で帰すのは危ねぇからってことになったんだ。カズサから見えたかわからんが助手席に他の奴もいた」
きょとんとしたカズサはすぐ俯いてしまって顔が見えねぇ。
「まず俺の部下全員にカズサを紹介する。俺の女だってな」
バッと顔をあげてカズサは戸惑った表情と不安そうな瞳で俺を睨む。
「それって公私混同もいいとこじゃない。部下の人達だって迷惑だよ」
「いいじゃねぇか。こんなにいい女が俺の恋人だって俺が見せつけてぇんだよ。カズサ」
向かい合って座ってたがカズサの横に寄り添う。また俯いたカズサの両頬を包んで視線を絡ませる。
「なぁ、俺が一番怖いのが何かわかるか?お前と離れちまうと考えたらおかしくなりそうだし今日、男といたときにゃ頭に血が昇って男を殴りたかった」
「……電話もメッセージにも返事しなかった癖に?」
「……格好悪いがカズサが俺に愛想尽かして俺と別れる話かと思ったら電話もメッセージを返すのもできなかった。返事したらそうなっちまう気がして。だからできなかった。連絡しない間は恋人だからってな」
まだカズサの瞳には不安と疑いがある。
クソ。不謹慎かも知れんが可愛いにも程があるだろ。
俺を思って、嫉妬して挙げ句にしなくていいのに身を引こうとしてたなんて勝手すぎるがカズサがそれだけ思ってくれてる証拠じゃねぇか。
「そうだな。すぐに信用しろなんて言われても無理だよな。だから今までの分も行動で示す。だから別れるとかいうな」
※※※
信用できない、って赤信号が点っていたのに黄色信号になってる私はチョロい。でもリヴァイが好きでしょうがない
のも本当で。
泣いていると抱き寄られリヴァイのいつもより早いような心臓の音が聞こえてその音に妙に安心する。
リヴァイの背中に手を回すとはぁっとリヴァイの優しいため息がもれる。
「なぁ、今夜は泊まってくんねぇか。俺もかなり寂しいかったらしくてな。
カズサの体温を感じて眠りてぇんだ」
大好きな人に言われて断れるはずない。
まだ疑っている嫌な自分もいる。
でもリヴァイと離れるのはできっこ無いんだって心が叫んでる。ほんとチョロい。
「カズサがよければ仕事が一段落ついたら一緒に住まねぇか?朝おきたら一番にカズサの顔がみたいし夜も一緒にいたい」
「そんなの急に言われても」
「わかってる。だがそのつもりでいてくれ。俺も結構キテたみたいだ。とりあえず来週の週末は開けといてくれ。俺のカズサを全員にみせびらかしてぇからな」
抱きしめる力を少し強くするとと二人の隙間が無くなっていく。
初めての喧嘩はリヴァイに絆された私の負け。
リヴァイに言ったら俺が負けたに決まってんだろ。
どうしたって俺はカズサを離せねぇからな。
そう言うと久々のデートで賑わっている人並みの中、笑ってキスをした。
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