A happy new year with you!!
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クリスマスが終わる頃には早くも新年に向け一斉に街は衣替えする。移り変わりが早すぎて置いてけぼりな感覚がしてちょっと寂しい期間だ。
友人や同僚はそれぞれプランをたて仕事も早めに終え休みに入っている。
私は別段どこに行くと決めていない。仕事仲間に誘われはするし久しぶりに初詣に行ってみたいと思うけど思うだけでせっかくのお誘いも結局断っている。そのうち誘われることもなくなるだろう。
そして毎年なんとなく休みが終わっている。
「今年こそは行ってみるかな〜」
※※※
大晦日から長蛇の列ですでに挫けそう。この列から離れ、家に戻っていつものように気ままに過ごすほうがいいじゃないかな。
「サフィールか?」
抜け出そうとした列の後ろから聞き慣れた声がする。
そろりと振り向くと取引先のアッカーマンさんが切れ長の目で見ている。
「アッカーマンさん、奇遇ですねぇ」
できるだけ自然に笑顔で応えるとアッカーマンさんは何故か1歩踏み出して隣に並んだ。
「お前も初詣か?」
初詣以外に並んでいる理由はないと思うけど愛想よく答える。
「はい、でも人が多すぎて帰ろうかな〜と」
「そうか。確かに尋常じゃねえな。こんだけいると神社の神もうんざりするだろうよ」
なかなか辛口な言葉だが私も人の事は言えない。
「良ければ一緒に行ってもいいか」
「そうですね、1人だとめげちゃいますよね」
「決まりだな」
うまい断りの理由もなく、これも何かの縁かも知れないと2人並んで当たり障りない会話を続ける。
残念なことに私とアッカーマンさんの共通の話題は仕事に関することしかない。
脳内で会話の糸口を探すもそんなものはなかった。
「カズサはいつも1人で来ているのか?」
「いえいえ、偶々です。いつもは家でゴロゴロしてるんですけど今回はなんとなくです」
「さみしいやつだな」
口角を少しあげアッカーマンさんはわずかに笑うけど、人のことは言えないでしょと言いたい。
いや言ってもいいだろう。
「えっと、アッカーマンさんこそお連れの方は?」
「俺もお前と一緒だ。人混みは嫌いだが1度くらいは、な」
なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
1人気まずくなっているとアッカーマンさんは急に肩に手をまわしたから驚いて顔を見ると前の人とぶつかりそうなのをそれとなく庇ってくれたらしい。
「ありがとうございます」
妙に肩が温かくてドギマギしてしまう。
「これ使え」
コートのポケットからカイロを出して握らせようとするがそれではアッカーマンさんが寒くなる。遠慮しているとニヤリと笑って自分のコートにカイロを戻したあとに私の手もポケットの中に入れた。
「これなら文句ねえだろ」
固まってしまった私を面白そうにアッカーマンさんが見ている間も列は進み境内に入ると賑やかさにあてられて次第に緊張も解けてきた。
我ながらは挙動不審になってるのはわかっている。でも好きな人と偶然でもこんなシチュエーションは心臓に悪い。
※※※
お参りもなんとか無事に日頃は意識しない神様に1年のお願いをした。
おみくじを引いたり甘酒で温まったりしながら、まだ混雑しているなかやっと神社の出口が近づいてきた。
ふぅ。と思わず安心の息が漏れるとアッカーマンさんはどこか疲れた顔をしている。
さて、挨拶をして解散。
挨拶しようとするとちょうど日付が変わったのか、ハッピーニューイヤー!と大勢の声が飛び交い、どこからか花火の音がする。
「新年おめでとう、今年もよろしくな」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
いつもと違う雰囲気のなかで定番の挨拶が妙におかしくて笑顔になる。
「なぁ、よければなんだが。」
「はい?」
「茶でも飲んで行かねぇか?うまい茶をだす店が近くにあるんだ」
ん?んん?
「寒くて仕方ねえ。おっさんで悪いが付き合ってくれねぇか」
いやいや、アッカーマンさんはおっさんじゃないと思う。
「はい。私でよければ」
私の口は勝手に承諾のことばを返していた。
※※※
アッカーマンさんの行きつけだというお店は案外近くにあって年末年始でも営業しているらしい。
徒歩で向かっているがしきりに寒ぃと手を擦りあわせている。
「カズサ、手貸せ」
「え。」
さっきみたいに暖を取るつもりだろうか。
あれは反則だ。わかってるんだろうか?
戸惑っていると手をとってスルリとポケットに手が入りお互いの指が絡まる。
アッカーマンさんの体温が伝わってきて恥ずかしいのに振り払えないどころか案外大きな手の感触に安心している。
「ここだ。古い店構えだがうまい茶が飲める」
ドアを開けるとカランとベルの音がしてお店の店主なのか、こちらを見てカップを磨く作業に戻った。
何人かが席についているが雰囲気からなんとなく皆さん常連なんだろうな。と感じさせる。
「どれがいい?」
紅茶の種類が豊富すぎてどれがいいのか、さっぱりわからない。
「アッカーマンさんのおすすめで……」
「そうか、これなんかいいかもな」
注文をするとなんだか手持ち無沙汰になってしまう。
さっきの手つなぎといい、ずっとアッカーマンさんのペースに振り回されてどうしたらいいかわからない。
紅茶がきて香りを楽しんでから一口含むと広がる紅茶の風味と味、飲み頃の温かさが体をホカホカにする。
「どうだ、好みにあってたらいいんだが」
「美味しいです!ティーバッグの味と全然違いますね。アッカーマンさんの行きつけなのわかります!」
「……リヴァイだ」
「え」
「アッカーマンさんじゃ固いだろ、リヴァイでいい」
「いや、その……」
「会社じゃねぇんだ、そのアッカーマンさんはやめてくれ」
「でもですね」
「本人が言ってんだから構わねぇだろ。ほら練習だ。呼んでみろ」
「リ、リ、リヴァイさん?」
「まあ、いいだろう」
そういうと変わったカップの持ち方で紅茶を口にすると見たことのない表情で微笑む。
「リヴァイさん」
「なんだ、カズサ」
返事の声だけで顔に熱が集まる。
「赤いな」
からかうような、楽しそうな声で言われ、余計に暑くなる。
今の私はおかしい、きっと夢をみてるんだ。
「カズサ。顔見せろ。新年そうそう悲しいだろうが」
「無理です」
「なら、慣れるしかねぇ」
テーブルに置かれたお店のアンケート用紙の裏に何か書いて差し出した。
リヴァイ ☓☓☓−☓☓☓☓−☓☓☓☓
「プライベート用だ。登録しておけ。あとカズサの分も教えてくれ」
「あの、そういうのはちょっとあれかなぁと」
「ちょっと?俺は十分待ったつもりだが?」
「軽い女じゃないですよ、適当ならやめ」
「そんなんじゃねぇよ、そんな女じゃねぇってのは知ってる。適当とかそんな風に考えたこともねぇよ。お前じゃなきゃ次に繋げねぇし、あの人混みも耐えられた」
「いつから、ですか?」
リヴァイさんは柔らかく笑って「さあな、気づいたときには手遅れだったな」
急な展開に追いつけない。けど。きっと始まったばかりのこの年は私達にとって始まりの年になる。そんな予感がした。
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