時の狭間
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興奮を通り越したハンジの一方的な会話だがその内容は濃く、屋敷に着いた時には明かりが灯り、車寄せにはエルヴィンの車がある。
俺も車を止めて走って中へ入り、ハンジがいる場所、恐らくは図書室に向かった。近づくに連れハンジの大声が聞こえる。
この屋敷はドアが重厚なだけでなく中の会話が聞こえないように隙間がほぼない造りなのに詳しい内容ではなくても声が聞こえるのはかなり大声で話しているらしい。
普段ならこの段階で引き返すところだが今回はそういかない。
俺が見つからないと諦め、通常に戻ったのに反しハンジはむしろここに集中し、他の業務は部下に丸投げでサインだけ渋々している状態と聞いた。
とにかくハンジの言う内容を一から確認するのが先だ。
深呼吸をして図書室のドアを開くとエルヴィンに捲し立てていたハンジが血走った目でこちらをみて、「遅い!遅いよ、リヴァイ!!」と初っ端から怒鳴られる。
そんな謂れはない。と思いながらもいつも座っている席に座るとコホンと仕切り直すように立ち上がったままのハンジが一冊の本を掲げ演説し始める。
恐らく途中までは聞かされただろうエルヴィンも静かにしている。
「まず、私は初期の文献は敢えて彼女の名は記してない、そう仮定した。ならどうするか。どこかにうっかりさんがいないか調べることにした」
うっかりさんって一体誰だ。というツッコミは流石に今はマズいと口を噤 む。
「でも代々の文献の総当りはできないからね、中程の文献、後半の文献をランダムに抜いて当たったけど駄目だった……」
「お前の愚痴はどうでもいい、要点を話せ」
両手を広げ芝居がかったハンジの話を最初から聞くとなると時間がいくらあっても足りない。
あからさまに機嫌が悪くなり、大きな溜息をつくハンジ。
「まったく、あなたはせっかちだね」
至極真っ当なことを言ったはずだがハンジに呆れられたのに苛立つがここで口を挟めば話がいつまでたっても進まない。
「ここの文献のどっかにあるか一生懸命に探してたんだけどさ、一番のヒントをくれたのは?って発想の転換してみた。誰か?もうわかるよね!そうキリアンさんだ」
ハンジの言うところのヒントらしきものはあったか?首を傾げる。
「ではハンジ、遺品から何かを見つけたとでも言うのか?遺品はほぼ分家などに渡したぞ」
人差し指を横に降りチッチッチッと煩いことをするハンジだが次の言葉を待つ。
「あなた達なら分家だろうがなんだろうが渡したくないものはどうする?わかりやすく置いておくかい?私ならわかりにくいとこに隠すね」
「てめえの話はまどろっこしいな、要するにその隠したもんを見つけた、それにあの女の名前があった。ってことだろ?」
「くぅ〜!あなたは本当にムカつくね。ここまでの苦労を簡単に纏めないでくれるかなぁ」
心底悔しそうに地団駄踏むハンジに冷たい視線を向けているとエルヴィンがハンジに話しかけた。
「よく見つけた、と言いたいが隠し場所はどうやって見つけた?」
よくぞ聞いてくれました!とばかりにハンジは喜色満面で説明し始める。
「ここで一番金目にならないもの、目に止まらないところ、それでいて屋敷内にあることだよ。つまり……」
勿体ぶるハンジに蹴りを入れたくなるが我慢しているとエルヴィンが答えを奪い取った。
「使用人部屋、もしくは執事部屋、あたりか?」
あからさまにガックリしたハンジはなんでだよ。と呟き頷く。
「隠すところは沢山あるだろうが使用人がほぼ居ない、執事も一人残っているだけの屋敷内でわざわざ金目当てで探すのは居ないだろう。金目当てなら当主、それに準ずる者の場所だろう」
はぁー。とため息をつきながらハンジは肯定する。
「私達もそこまでは詳しく調べはしなかったよね。ほぼ使われてない部屋で最低限のそれもボロっちい家具しかないからね。そこを探しまくった。そこにいかにも訳ありそうな日記って書かれた年季が入ったものがあったらさ、人のプライベートを暴くようで躊躇しない?それもどこの誰かも知らない人のものだ」
経緯はわかったが要点はわかったのだから後は蛇足だ。
「日記であの女の名前がわかったのはいいが俺からすれば、だからなんだとしか言えねぇな。博物館で名前のプレートができるだけだろ」
「かぁー!わかってない。彼女の名前がわかったのは私達にとって重要なんだよ!私達じゃなきゃならない何か理由があるはずなんだ!巻いて話すと日記の主は使用人じゃなくて当時の次期当主候補だった。次期当主として一族の秘密を聞かされたのはいいけど重責に押しつぶされそうになって日記を書いたんだ。それを当時の恋人でもあった使用人の女の子に預けた。もちろん鍵をかけてライティングデスクの二重引き出しのなかにね」
「待て。それだとおかしい。話すことも記しておくのもできないはずだろう?」
「そこが落とし穴というか、抜け道だった。まだ当主じゃなくてあくまでも当主候補。この人は直系だけど結局、当主になれなかった。残念ながら毒杯が決定して嘆いた恋人は遺品の一つも持つことができなかったけど、最後のページで生前に渡された日記を絶対に隠し通して欲しいと遺言を受けた、とあった。この部分は恋人の子が書き足したっぽい。結局持ち出せなかったんだろうな」
「一族として認められなかった。一族から追放、抹消ということか」
「そう。教育を受け、有望であったんだろうけど。挫折してからは一族の大切なことを漏らさない為の毒杯ってとこだろうね」
その本は古びて丁寧に扱わないとページがばらけそうだ。
その場で内容をサッと確認する。古代語ではないことと、新しいわけでもないがとても古いようには見えない。
ところどころ掠れてはいるが読むには問題はないそうで今の言語より少し古い程度、解読すら必要ないらしい。
まずエルヴィンが読んで珍しく険しい顔をしている
「まさに意趣返し、恨み節だな。恋人との仲を反対され、その頃から自由の利かない当主よりも分家になることを願ったが秘密を知っている。逃げようと考えてたようだが、それより早く死ぬ運命が決まった。自分に制限がかかっているか試す為に書いて、記すことができたなら交渉の材料にするつもりでいた。か」
「うん。ここにあるってことは失敗したんだろうけど。そこは深く考えたくはないな。見た目はボロボロだけどかなり強い保護がされてて廃棄出来ずに残った、この日記をここに隠したんだ」
それぞれ思うところはあんだろうが、そのおかげで俺たちは求めていたことの一端は得られた。
だからといって肝心の俺達との関係性は不明なままだ。
モヤモヤした空気を飛ばすようにハンジが次の話題に移る。
「で、前半は当主、一族についてなんだけど立場が不安定になってきて一族が何代にも渡って守り通してきた彼女について記しているんだ。彼女があのなかからでる条件はたった一つ。定められた人物が名前を呼ぶこと。当主になった時、一番にするのはこれらしい」
ここで何故そうするのかがわからない。護るならあの状態がいいに決まってる。試す必要はないはずだ。
エルヴィンも何か考えてるのか口を開かない。
「どうしてキリアンさんは私達に託して更にジェームスさんに手紙まで預けた?さっきの日記が正しいなら歴代の当主は全員試してることになる。逆を言えば当主以外してはならないことだよ」
「そりゃ、俺達が見つけるはずもないし試す方法を探し当てられるとも思ってなかった。仮にたどり着いたとしてもだ、中から出せるかどうかも不確定だ。それに当人は死亡しているから思惑なんざ知りようもないだろ」
「確信していたなら?我々が彼女をあの中から出せると彼が確信を持っていたなら」
エルヴィンが独り言のように呟く。
「それでもおかしい。確かに俺達は、ここの文献やら古文書やらに書かれてる魔法とか言うもんが使える。でも他にもいるだろう。キリアンは俺達ならと見込んだとしても自分は死んだ後だ。そもそも何故俺達なんだ」
知らないうちにキリアンの手のなかで踊らされてる気がしてリヴァイは気分が悪い。
「それはわからない。ならば図書室は?リヴァイが見つけた彼女は?あの夢は?すべてが繋がっているとしたら?」
「あああーあ!もうっ!ここで仮定をひねくり回したって何もわからないだろ!彼女のとこに行くよっ!」
痺れをきらしたハンジが足音立てて例の地下へと降りて行く。
それにエルヴィンが続き、仕方なくリヴァイも気乗りしないまま歩いて行く。
※※※
相変わらずどんな仕組みかわからない壁の光が足元を照らしている。
これまでハンジ達に知られないように何度かここへ来た。
まるで眠っているような女は穏やかな顔をしているように見え、この閉ざされた世界から引っ張り出すのは果たして女にとって幸せだろうか。
いつもそう考えていた。それは女が生きている前提のことで自分でも妙に感じ、場に当てられてると苦笑いしそうになり立ち去るのが常だった。
その場所で自分がどこか不安に思ってたことが本当になりそうな予感がして一歩一歩が重い。
それでも階段を降りれば女に近づく。
「リヴァイ!!早く来なよ!」
人の気も知らないでハンジが大声だす。響く声が勘に障る。
「やっと揃ったね。さあ始めよう!」
「ハンジ、もし予想があっていたとして彼女が……」
「ここまできて尻込みすんなよ、もし彼女が生きているなら私が責任もってお世話する」
屈託なく笑うハンジをみて、俺はもしハンジに世話されることになったら地獄でしかねえ。と関係ないことを女を見ながら思っていた。
※※※
誰が最初に試すかを決めるまでもなくハンジが手を挙げたが、エルヴィンは渋っていた。
エルヴィンが渋っていたのは万が一彼女が生きていた際のことで、無責任なことはできないとハンジを説得しようとしている。
ぎゃあぎゃあと騒ぐハンジは自分が世話する!と言い張りエルヴィンは文献や古文書が事実であれば迂闊なことは避けるべきで彼女の今後を考え準備してからが良いと正論で説得している。
未だに言い合っている二人を尻目にきっと優しい世界にいる女へ遮る鉱物越しに囁く。
……カズサ……
ピシッ
一つ亀裂が入った。
ピキピキビキ
立て続けに鳴る音にハンジとエルヴィンが気づいた。
目の前で割れていくが目を逸らせない。
パキパキパキ
亀裂は広がり続け、端から崩れ落ちていく。
何も言えずにいると崩れきった中から冷たい鉱物越しじゃない女がユラリと椅子から倒れてきたのを受け止めた。
女は柔く今にも止まってしまいそうなほどか細い呼吸を何度か繰り返していると溺れた人のように咽 た。呼吸のしやすい体勢にすると徐々に落ち着いてきた。
傍にハンジ達も集まっている。
「えっ、生きてる!?生きてるよね!」
エルヴィンが唇に人差し指をあて静かにとサインを送るとハンジは両手で口を押さえた。
大声で意識が戻りつつあるのか、うつ伏せにした体をゆっくりと起き上がらせようとする。
揺れる視線でハンジをとらえたのか、一言(ハンジさん……)とか細い声を出すと俺の腕の中で意識を失った。
※※※
一番近い客室のベッドで横にしてハンジが装飾品や服を脱がせ自分の新しい部屋着に着替えさせてる間、医者を呼び診せると特に異常はなく眠っているだけでじき起きる。と言われ安堵した。
※※※
何か急変があっては、とカズサにはずっとハンジが付き添った。
流石に起きた時、知らない男がいたら怯えてしまうだろう。
俺達二人は部屋の前に椅子を持ってきて陣取ると話したいことは山ほどあるが黙ってジッとしている。
もう朝とも昼ともいえない中途半端な時間に客室からハンジがドア半分開け手招きしている。
「起きそうだよ」
それを聞いてソッと中に入ると微睡みから覚めそうなカズサがいる。
眩しそうに目を細めながら起き上がり周りを見渡すと目を大きく見開いた。
「っ!リ、ヴァイ様にエルヴィン様……ハンジさん?わ、たしは」
俺達を認識した途端パニックに陥りそうになるカズサをハンジが優しく背をさすりながら「大丈夫だ、落ち着いて。そう。ゆっくり息を吸って吐くんだ」と宥めている。
その間もカズサは周りを見渡し何かを確かめようとしている。
「姉様、姉様!帰りたい!帰して!!」
カズサは意識を失い、俺達は初めて会うカズサが名前を知っていること、言葉が俺達と通じることに驚愕した。
「……落ち着いてからだね」
いち早くこの状況に順応したハンジがカズサにシーツを首までかけて水や食べやすそうなアップルソースでも持ってきて。と言った。
俺達はまだ訳もわからないまま部屋を出た。
俺は次に目覚めた時はあの視線に耐えられるだろうか、どうしてそう思うのかわからないまま、カズサが起きたときに必要なものをリストアップしながら屋敷を出た。
俺も車を止めて走って中へ入り、ハンジがいる場所、恐らくは図書室に向かった。近づくに連れハンジの大声が聞こえる。
この屋敷はドアが重厚なだけでなく中の会話が聞こえないように隙間がほぼない造りなのに詳しい内容ではなくても声が聞こえるのはかなり大声で話しているらしい。
普段ならこの段階で引き返すところだが今回はそういかない。
俺が見つからないと諦め、通常に戻ったのに反しハンジはむしろここに集中し、他の業務は部下に丸投げでサインだけ渋々している状態と聞いた。
とにかくハンジの言う内容を一から確認するのが先だ。
深呼吸をして図書室のドアを開くとエルヴィンに捲し立てていたハンジが血走った目でこちらをみて、「遅い!遅いよ、リヴァイ!!」と初っ端から怒鳴られる。
そんな謂れはない。と思いながらもいつも座っている席に座るとコホンと仕切り直すように立ち上がったままのハンジが一冊の本を掲げ演説し始める。
恐らく途中までは聞かされただろうエルヴィンも静かにしている。
「まず、私は初期の文献は敢えて彼女の名は記してない、そう仮定した。ならどうするか。どこかにうっかりさんがいないか調べることにした」
うっかりさんって一体誰だ。というツッコミは流石に今はマズいと口を
「でも代々の文献の総当りはできないからね、中程の文献、後半の文献をランダムに抜いて当たったけど駄目だった……」
「お前の愚痴はどうでもいい、要点を話せ」
両手を広げ芝居がかったハンジの話を最初から聞くとなると時間がいくらあっても足りない。
あからさまに機嫌が悪くなり、大きな溜息をつくハンジ。
「まったく、あなたはせっかちだね」
至極真っ当なことを言ったはずだがハンジに呆れられたのに苛立つがここで口を挟めば話がいつまでたっても進まない。
「ここの文献のどっかにあるか一生懸命に探してたんだけどさ、一番のヒントをくれたのは?って発想の転換してみた。誰か?もうわかるよね!そうキリアンさんだ」
ハンジの言うところのヒントらしきものはあったか?首を傾げる。
「ではハンジ、遺品から何かを見つけたとでも言うのか?遺品はほぼ分家などに渡したぞ」
人差し指を横に降りチッチッチッと煩いことをするハンジだが次の言葉を待つ。
「あなた達なら分家だろうがなんだろうが渡したくないものはどうする?わかりやすく置いておくかい?私ならわかりにくいとこに隠すね」
「てめえの話はまどろっこしいな、要するにその隠したもんを見つけた、それにあの女の名前があった。ってことだろ?」
「くぅ〜!あなたは本当にムカつくね。ここまでの苦労を簡単に纏めないでくれるかなぁ」
心底悔しそうに地団駄踏むハンジに冷たい視線を向けているとエルヴィンがハンジに話しかけた。
「よく見つけた、と言いたいが隠し場所はどうやって見つけた?」
よくぞ聞いてくれました!とばかりにハンジは喜色満面で説明し始める。
「ここで一番金目にならないもの、目に止まらないところ、それでいて屋敷内にあることだよ。つまり……」
勿体ぶるハンジに蹴りを入れたくなるが我慢しているとエルヴィンが答えを奪い取った。
「使用人部屋、もしくは執事部屋、あたりか?」
あからさまにガックリしたハンジはなんでだよ。と呟き頷く。
「隠すところは沢山あるだろうが使用人がほぼ居ない、執事も一人残っているだけの屋敷内でわざわざ金目当てで探すのは居ないだろう。金目当てなら当主、それに準ずる者の場所だろう」
はぁー。とため息をつきながらハンジは肯定する。
「私達もそこまでは詳しく調べはしなかったよね。ほぼ使われてない部屋で最低限のそれもボロっちい家具しかないからね。そこを探しまくった。そこにいかにも訳ありそうな日記って書かれた年季が入ったものがあったらさ、人のプライベートを暴くようで躊躇しない?それもどこの誰かも知らない人のものだ」
経緯はわかったが要点はわかったのだから後は蛇足だ。
「日記であの女の名前がわかったのはいいが俺からすれば、だからなんだとしか言えねぇな。博物館で名前のプレートができるだけだろ」
「かぁー!わかってない。彼女の名前がわかったのは私達にとって重要なんだよ!私達じゃなきゃならない何か理由があるはずなんだ!巻いて話すと日記の主は使用人じゃなくて当時の次期当主候補だった。次期当主として一族の秘密を聞かされたのはいいけど重責に押しつぶされそうになって日記を書いたんだ。それを当時の恋人でもあった使用人の女の子に預けた。もちろん鍵をかけてライティングデスクの二重引き出しのなかにね」
「待て。それだとおかしい。話すことも記しておくのもできないはずだろう?」
「そこが落とし穴というか、抜け道だった。まだ当主じゃなくてあくまでも当主候補。この人は直系だけど結局、当主になれなかった。残念ながら毒杯が決定して嘆いた恋人は遺品の一つも持つことができなかったけど、最後のページで生前に渡された日記を絶対に隠し通して欲しいと遺言を受けた、とあった。この部分は恋人の子が書き足したっぽい。結局持ち出せなかったんだろうな」
「一族として認められなかった。一族から追放、抹消ということか」
「そう。教育を受け、有望であったんだろうけど。挫折してからは一族の大切なことを漏らさない為の毒杯ってとこだろうね」
その本は古びて丁寧に扱わないとページがばらけそうだ。
その場で内容をサッと確認する。古代語ではないことと、新しいわけでもないがとても古いようには見えない。
ところどころ掠れてはいるが読むには問題はないそうで今の言語より少し古い程度、解読すら必要ないらしい。
まずエルヴィンが読んで珍しく険しい顔をしている
「まさに意趣返し、恨み節だな。恋人との仲を反対され、その頃から自由の利かない当主よりも分家になることを願ったが秘密を知っている。逃げようと考えてたようだが、それより早く死ぬ運命が決まった。自分に制限がかかっているか試す為に書いて、記すことができたなら交渉の材料にするつもりでいた。か」
「うん。ここにあるってことは失敗したんだろうけど。そこは深く考えたくはないな。見た目はボロボロだけどかなり強い保護がされてて廃棄出来ずに残った、この日記をここに隠したんだ」
それぞれ思うところはあんだろうが、そのおかげで俺たちは求めていたことの一端は得られた。
だからといって肝心の俺達との関係性は不明なままだ。
モヤモヤした空気を飛ばすようにハンジが次の話題に移る。
「で、前半は当主、一族についてなんだけど立場が不安定になってきて一族が何代にも渡って守り通してきた彼女について記しているんだ。彼女があのなかからでる条件はたった一つ。定められた人物が名前を呼ぶこと。当主になった時、一番にするのはこれらしい」
ここで何故そうするのかがわからない。護るならあの状態がいいに決まってる。試す必要はないはずだ。
エルヴィンも何か考えてるのか口を開かない。
「どうしてキリアンさんは私達に託して更にジェームスさんに手紙まで預けた?さっきの日記が正しいなら歴代の当主は全員試してることになる。逆を言えば当主以外してはならないことだよ」
「そりゃ、俺達が見つけるはずもないし試す方法を探し当てられるとも思ってなかった。仮にたどり着いたとしてもだ、中から出せるかどうかも不確定だ。それに当人は死亡しているから思惑なんざ知りようもないだろ」
「確信していたなら?我々が彼女をあの中から出せると彼が確信を持っていたなら」
エルヴィンが独り言のように呟く。
「それでもおかしい。確かに俺達は、ここの文献やら古文書やらに書かれてる魔法とか言うもんが使える。でも他にもいるだろう。キリアンは俺達ならと見込んだとしても自分は死んだ後だ。そもそも何故俺達なんだ」
知らないうちにキリアンの手のなかで踊らされてる気がしてリヴァイは気分が悪い。
「それはわからない。ならば図書室は?リヴァイが見つけた彼女は?あの夢は?すべてが繋がっているとしたら?」
「あああーあ!もうっ!ここで仮定をひねくり回したって何もわからないだろ!彼女のとこに行くよっ!」
痺れをきらしたハンジが足音立てて例の地下へと降りて行く。
それにエルヴィンが続き、仕方なくリヴァイも気乗りしないまま歩いて行く。
※※※
相変わらずどんな仕組みかわからない壁の光が足元を照らしている。
これまでハンジ達に知られないように何度かここへ来た。
まるで眠っているような女は穏やかな顔をしているように見え、この閉ざされた世界から引っ張り出すのは果たして女にとって幸せだろうか。
いつもそう考えていた。それは女が生きている前提のことで自分でも妙に感じ、場に当てられてると苦笑いしそうになり立ち去るのが常だった。
その場所で自分がどこか不安に思ってたことが本当になりそうな予感がして一歩一歩が重い。
それでも階段を降りれば女に近づく。
「リヴァイ!!早く来なよ!」
人の気も知らないでハンジが大声だす。響く声が勘に障る。
「やっと揃ったね。さあ始めよう!」
「ハンジ、もし予想があっていたとして彼女が……」
「ここまできて尻込みすんなよ、もし彼女が生きているなら私が責任もってお世話する」
屈託なく笑うハンジをみて、俺はもしハンジに世話されることになったら地獄でしかねえ。と関係ないことを女を見ながら思っていた。
※※※
誰が最初に試すかを決めるまでもなくハンジが手を挙げたが、エルヴィンは渋っていた。
エルヴィンが渋っていたのは万が一彼女が生きていた際のことで、無責任なことはできないとハンジを説得しようとしている。
ぎゃあぎゃあと騒ぐハンジは自分が世話する!と言い張りエルヴィンは文献や古文書が事実であれば迂闊なことは避けるべきで彼女の今後を考え準備してからが良いと正論で説得している。
未だに言い合っている二人を尻目にきっと優しい世界にいる女へ遮る鉱物越しに囁く。
……カズサ……
ピシッ
一つ亀裂が入った。
ピキピキビキ
立て続けに鳴る音にハンジとエルヴィンが気づいた。
目の前で割れていくが目を逸らせない。
パキパキパキ
亀裂は広がり続け、端から崩れ落ちていく。
何も言えずにいると崩れきった中から冷たい鉱物越しじゃない女がユラリと椅子から倒れてきたのを受け止めた。
女は柔く今にも止まってしまいそうなほどか細い呼吸を何度か繰り返していると溺れた人のように
傍にハンジ達も集まっている。
「えっ、生きてる!?生きてるよね!」
エルヴィンが唇に人差し指をあて静かにとサインを送るとハンジは両手で口を押さえた。
大声で意識が戻りつつあるのか、うつ伏せにした体をゆっくりと起き上がらせようとする。
揺れる視線でハンジをとらえたのか、一言(ハンジさん……)とか細い声を出すと俺の腕の中で意識を失った。
※※※
一番近い客室のベッドで横にしてハンジが装飾品や服を脱がせ自分の新しい部屋着に着替えさせてる間、医者を呼び診せると特に異常はなく眠っているだけでじき起きる。と言われ安堵した。
※※※
何か急変があっては、とカズサにはずっとハンジが付き添った。
流石に起きた時、知らない男がいたら怯えてしまうだろう。
俺達二人は部屋の前に椅子を持ってきて陣取ると話したいことは山ほどあるが黙ってジッとしている。
もう朝とも昼ともいえない中途半端な時間に客室からハンジがドア半分開け手招きしている。
「起きそうだよ」
それを聞いてソッと中に入ると微睡みから覚めそうなカズサがいる。
眩しそうに目を細めながら起き上がり周りを見渡すと目を大きく見開いた。
「っ!リ、ヴァイ様にエルヴィン様……ハンジさん?わ、たしは」
俺達を認識した途端パニックに陥りそうになるカズサをハンジが優しく背をさすりながら「大丈夫だ、落ち着いて。そう。ゆっくり息を吸って吐くんだ」と宥めている。
その間もカズサは周りを見渡し何かを確かめようとしている。
「姉様、姉様!帰りたい!帰して!!」
カズサは意識を失い、俺達は初めて会うカズサが名前を知っていること、言葉が俺達と通じることに驚愕した。
「……落ち着いてからだね」
いち早くこの状況に順応したハンジがカズサにシーツを首までかけて水や食べやすそうなアップルソースでも持ってきて。と言った。
俺達はまだ訳もわからないまま部屋を出た。
俺は次に目覚めた時はあの視線に耐えられるだろうか、どうしてそう思うのかわからないまま、カズサが起きたときに必要なものをリストアップしながら屋敷を出た。