時の狭間
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あれからというもの、エルヴィンは他の業務もあるなか日中はなかなか来ないがどんなに遅くとも差し入れを持って屋敷を訪れた。
ハンジを放っておくと寝食忘れて篭りっきりになるのと、自分自身の興味のためだろう。
この図書室にはそれだけの魅力があるのは認める。
なにしろ今までの知識を覆 すかも知れない。
そんな代物をホイホイと持ち出すわけにはいかない。
それに古い書物をコンディションも考えるとこの屋敷に置いておくのが最適となった。
しかし流石というかなんというか、そもそも図書室から持ち出そうとしても持ち出せないよう保護がされている。
そして図書室自体も入室できる者と出来ない者がまるで選別されるようになっているらしい。
どんな仕組みなのか、選別の基準はわからんがハンジ、エルヴィン、俺は問題なく入れることから許可されているんだろう。
ここで問題が生じた。
ハンジは研究のために必須の古代語もほぼ読める。
エルヴィンもそうだ。
だが残念ながら俺はほぼ読めない。
せっかく入室できても二人しか解読出来ない。
ハンジの研究仲間はある程度は読めるが彼等は入室出来ない。
持ち出し不能、出入り不可では解読にどのくらいの時間がかかるのか。
少なくとも俺達の寿命がくるのが先だろう。
うんうん悩むハンジは時折八つ当たりしてくる。
「深刻な人手不足だよ!!どうしてリヴァイは古代語を読めないんだ!今からでも死ぬ気で学んでこいよ!!」
そう言われてもスラスラ言語をマスターできたら苦労はない。
大抵はお互い怒鳴り合いになる。
これこそ無駄な時間だ。
「ハンジ、古代語の習得は難しいと知ってるだろう。リヴァイに当たって解決するのか」
エルヴィンがいれば仲裁に入りハンジも無理難題を吹っかけてるというのはわかってるので謝って終わりだ。
※※※
「あのさ!良いこと思いついたんだ!」
正直に言えばこいつの《良いこと》は碌でもない事が多い。ほぼ現状一人で解読に勤しんでいる今は余計に負担が大きいだろう。
「ここの本とか古代語を写本して私の部下にも携わってもらう。どうだい、良い案だろう?!リヴァイ、写本は任せたからね!」
こいつにしてはマシな部類の案だと採用され、ハンジの部下も屋敷に呼び寄せ俺が写本した分を解読することになった。
嫌々ながらも初めは少々写すのも時間がかかったが慣れてくるとそれなりにスピードも上がってくる。
それを他の部下が解読すればするほどに興奮は高まり解読自体も少しずつだが進んでいる。
まあ。全部を解読する!と勢いが過ぎるハンジはこの屋敷から一歩も出ないのでたまに太陽の光をあたらせると眩し過ぎる。と言っては屋敷に戻ろうとする。どこぞの化け物か。と言いたくもなる。
※※※
そんな調子で解読をしているハンジ、本業を終えたエルヴィンが進捗を話していると、どうやら何かにぶつかっている。
俺はそもそも内容がわからないのでひたすら写本を続けるだけなんだが同じ室内にいれば聞こえもする。
「明らかに多いね」
「そうだな。記述が多いということは彼らにとっては当たり前で大事なことなんだろうか」
それとなく窺っているとバッチリとハンジと目があった。
マズい。そう思って写本に取り掛かるも無駄だった。
「あのさ、割りかし取っ付きやすいとこから進めてるんだけどね。いつか貴方が言った絵本の中だけと思ってた精霊についての記述が多いんだ。まるで精霊がいるのは当たり前、って前提なんだよね」
「それにある記述についてはかなりぼかすなり、遠回しに記載されているのが興味深い」
「そんなことを言われても読めない俺には違いもわからん。推測するなら大っぴらには知られたくない、ってところか」
「そう!そうなんだよ。そこを重点的に調べるとこの屋敷が、というより一族にとってここにある書物は大事だろう。でももっと大事な何かがある。ってとこまできてるんだ。それが何かはうまくぼやかされて掴めないんだ」
「そこまで気をつかうなら目の届くところか彼らしか知らないところか。この図書室だけでもこれだけ保護されてる。そういことならここの非じゃないくらいの保護がなされているだろう」
「んなもん、どうやって探すんだ。仮に探し当てたとして強力な保護されてる可能性が高いんだろ?」
二人は黙っていたがその脳内は猛スピードで回転していることだろう。
「あー!もう!今までの文献に【護れ】としかないんだ。一体何を何から護る必要があるんだよ!!」
「……なあ。最後の当主キリアンが手掛かり位、残してねえか?そんなに大切ならことを当主として知ってるのが普通は当たり前じゃねぇのか?」
ハンジはキョトンとしているがエルヴィンは顎に手を当てて俺のほぼ思いつきに過ぎないことを検討している。
「キリアンさんがヒントを与えてくれてる?なら何故隠してたんだい。すべてを渡した私達にまで隠すことはないだろう?彼は私達が受け取らなかったら廃棄する。とまで言いきった。あれは嘘じゃない」
「我々が探し当てると確信していたのか、それとも知られたくはなかったか」
「ここでウダウダしててもわかんねえもんはわかんねぇだけだ。ハンジ。この屋敷、いやキリアンの執事は今どこにいるか把握しているか?」
「そりゃ、把握しているけど」
※※※
郊外より離れたログハウスの家には庭にさまざまな花木が植えられ都会の喧騒も郊外の近所付き合いも然程ないような場所に建っていた。
庭はきれいに手入れされリタイア後に住むにはうってつけだ。
ドアを三回叩く。
しばらく待つが応答はない。外出中か?もう一度ノックすると中から人の気配がしドアに近づきながら用心深くチェーンの隙間から訪問者を確認している。
俺の顔をみると驚きを見せずチェーンを外した。
家の中に招かれるとリビングに通され茶の用意のためにソファに座るよう促してきた。
暫くすると紅茶の香りと皿を乗せたトレイを持って俺と自分の分をセットした。
当主が亡くなって、俺達に部屋や図書室など屋敷の鍵を渡して早々に出て行った元執事は長年の染みついただろう物腰で向かい側のソファに座ると茶と茶菓子を勧めてくる。
茶菓子には手を付けず湯気の立ちのぼる茶の香りを楽しんで一口つけると、豊潤な香りと後味が広がる茶で茶葉にこだわりがあるらしい。
まどろっこしい天気の話やらなんやらはいらない。
直接、端的にあの屋敷のことを訊ねた。
髭もないのに顎を擦り、黙っていたが確認するように質問に質問を返してきた。
「それを知ってどうなさるおつもりですかな」
ここで迂闊なことを言えば目の前の老人はなにも話してはくれない予感がした。
俺は現状を話して古文書に何度もでてくる護れ。とは何を指すのか、それは何を意味するのか訊ねる。
好々爺の仮面はいらなくなったのか俺の質問には明確に答えずにキャビネットから一通の封蝋された手紙を差し出した。差出人は当主。
「本来、この手紙は日の目を見ることなく私と共にあるはずでした。しかし何事も例外はあります」
差し出された手紙を丁寧に開くと几帳面な字で時候の挨拶さえ省かれていた。
【この手紙が必要になったということは貴方たちは何らかの理由で行き詰まっているということでしょう。本来ならすべてを詳らかにするのが礼儀でもある。だが、あることについてだけは我々の一族には制約が課せられており話すことも書き示すこともできません。語れることは、あの屋敷には古文書よりも大事なことは屋敷内に。それを見つけるのは貴方たち以外にはいないこと。どうぞ孤独のなかの答えを見つけて下さい。幸運を祈ります】
何を伝えたいかサッパリだがわかっているのは屋敷に確実に秘密がある。そして見つけることを望んでいる。
元執事に詳細を問いただすも話す気はサラサラないようで「それが今の貴方たちに必要な情報となりますな」と言って沈黙を貫いた。
これを情報と言っていいのか、甚だ疑問だが礼を述べ帰りの道を急いだ。
※※※
よほど帰りを待ちかねていたのか、屋敷前でハンジがソワソワと歩きまわっている。
車のエンジン音に気づき止まるのを待つ時間も惜しいのか、車のすぐ側にいる。
ドアを開け、車から降りると縋り付くように質問と首尾について問い詰めてくる。
「どうだった?!何かわかったかい?ヒントは見つかった?ねえ、なんとか言ってくれよ!!」
近くでいつもの三割増しの早口で言われて答える暇もない。
それに気づかないほどにハンジは焦っている。
ここまで着実に進め、ぶちあった壁は分厚くそれをどうにかする術が今のところないのだ。
俺にその壁を突き崩す情報を持ち帰ってきて欲しいという希望とそうでない場合がハンジを焦らせている。
それはわかっているがとりあえず、屋敷内のテラスで少し休みたい。
ハンジをスルーしてテラスへいき手にもったペットボトルの水を一気に飲み干した。
追いついてきたハンジは文句を言いながらテラスまでついて来る。
ハンジの前に渡された手紙を置いた。
始めは怪訝な顔をしていたが、その中身を読んで考え込みそしてまた読んでの繰り返している。
「わざわざ行ってきたがこれだけだ。あの執事にも問い質したがダンマリでこれがすべてだとよ」
「あ、ああ。遠くまでありがとう」
「俺には屋敷内に隠されてるなんかがあるから探してくれ。としか読めねぇが俺達なのは何故だ?という感想しかねえ」
「うん。そうだね。図書室といい、この手紙の内容といい。まるで私達じゃなきゃならない風にもとれるね」
「エルヴィンが来るまでどのくらいだ」
「トラブルがなければそろそろだと思う」
「ならヤツを待つしかねぇな」
※※※
「よぉ、待ちくたびれてハンジが暴れるとこだったぞ」
いつもより早く来たが出迎えにしては棘を感じる。エルヴィンはテーブルに突っ伏して唸ってるハンジとは対象的にカップを傾けるリヴァイに首を傾げた。
「お前も早く座れ。言っとくが元執事の爺さんは何も話さなかったぞ。大した忠誠心だな」
曖昧過ぎてエルヴィンは眉を寄せた。
「まず、予定通りに元執事の爺さんのとこで用件を伝えたが、得られるもんはなかったな。知ってることはあるはずだが話す気はないらしい。その代わりに手紙を渡された」
エルヴィンは手紙を受取り中身を読む。
話せない事情はわかったが肝心のことは不明としか判断できない。ハンジが唸る理由もわかる。
「エルヴィン、私達は何度も屋敷内外を調査したよね、それこそキリアンさんが存命中もだ。でもおかしな点はなかった、だろ?」
そう。おかしい点は図書室くらいだった。しかしこの手紙が示しているのは図書室ではないだろう。
もし図書室なら気づいていてもおかしくない。地下への階段も貯蔵室に行き着く。
それに何故、我々ならと確信を持っていたのか。
「貴方が来るまでいろいろ考えたんだけどヒントになってないしキリアンさんが伝えたかったことが何なのかがわからないんだ」
お手上げのポーズを取りながらハンジは呟く。
「どうして私達なんだ?図書室だって私達だけしか入れない、他の部屋とかは誰でも入れるのに」
そう。そこだ。入れる者とそうではない者。
始めから決められていたかのような不可解さ。
「図書室もそうだが、その手紙には俺達しか行けない場所があるってことだろ。ならまずは屋敷中を探しまくるしかねぇが、そうすると今の解読はおいておくか?」
エルヴィンは沈思黙考し、優先順位について考える。
行き詰まっているとはいえ他の書物から精霊や魔法としかいえないちからについての解読も進めたい。
しばらく考えたエルヴィンはおそらく最善策として発言した。
「両方だ。両方並行して進める」
これに黙っていないのがハンジだ。
「冗談でしょ、今だって人手不足なうえに他のことまでするなんて無理だ」
「それはわかっている。だがこれからの解読にもつながると思わないか」
それでも駄々を捏ねるハンジだが、エルヴィンが方針を決めたなら無茶だろうが全力で取り組むしかない。
それはハンジも嫌というほど理解しているので、明日から解読班、調査班と二手に分かれることに渋々ながら同意した。
※※※
ハンジ率いる部下は主に解読を担当し(俺が写した量はまだすべて解読されていない)俺と俺の動かせる人員を調査に当たることになった。
解読班はそれなりに進捗がみられるが、問題は俺が担当する調査班だ。
どこにも不審な点は見当たらない。
ここは怪しいかと調べて見るとかつての子供部部屋であったり隠し部屋はないか、屋根裏はどうかと調べるが年代を感じさせる物がシーツに覆われていろんな物が溢れている。
その中になにかしら怪しげなところは重点をおくが結果はいまいち芳しくない。
力仕事が多いため、できるだけ休憩を取らせて俺自身もあちこちを探っている。こんな古い造りの昔ながらの屋敷に隠し通路や隠し部屋がまるっきりないとは考えにくい。実際、いくつかの隠し通路や隠し部屋が見つかり、そこも重要点として部下と入っていく。
仕方のないことといえばそれまでだがカビ臭く、埃の舞う空間は辟易した。仕事でなければこんなところにゃ一秒たりともいない。と断言できる。
ついで、といってはなんだが我慢できず掃除をしているとハンジから苦情がくるが知ったことか。
汚い雑巾を洗った汚水を捨てるため一人バケツを持ちながら廊下を歩いているとどこからか懐かしい香りがする。
換気のために開けた窓から庭の花の香りがするのか。
それとも殺風景過ぎるエントランスの花瓶にでも誰かが花でも活けたか。
換気は必要だが花瓶に花を飾るほどの余裕がある部下はいない。
なんとなく、本当になんとなくだった。
その懐かしい香りにつられるように調査済みの壁の前に立っていた。
香りはここから漂っているのか、先程よりも俺を引きつける。
この時、俺は何を思っていたか今でもよくわからない。
用心はしていたはずだ。
その壁を手で強く押すとすんなりと壁の向こう側に手が通った。
俺の部下が調査済の壁だが普段なら人を集め再調査する。
それなのに誰にも言わずに手から腕、終いには体全体が怪しげな向こう側へ入った。
俺が立っているのは踊り場なのか目の前には下り階段が延びている。
どういう仕掛けか進むごとに壁ごと明かりとなり足場の悪さもない。
(これ以上はマズいか、トラップはないか?)
そこまでは思いつくのに俺の足は階段を降っていく。
ある程度からトラップだの何だのと用心しているのはすっかり頭から消えた。
ただ進まなければとそれだけが俺の中を占めていた。
階段を下り降りると思いの外広く天井も高い空間が広がっている。
異様なのは奥に水晶のようなものに覆われた椅子に座った女らしき姿。
近づいてよく見ると目を閉じ姿勢良く両手は膝の上に重ねた女は生きているのか、死んでいるのか。
まともに考えると生きているはずがない。
なら、こいつはなんだ?
死んだ女を悼み、このようにしたのか。
とにかくエルヴィンやハンジ、他の連中にも知らせなけりゃなんねぇ。
降りる時とは違い階段を駆け上がった。
ハンジを放っておくと寝食忘れて篭りっきりになるのと、自分自身の興味のためだろう。
この図書室にはそれだけの魅力があるのは認める。
なにしろ今までの知識を
そんな代物をホイホイと持ち出すわけにはいかない。
それに古い書物をコンディションも考えるとこの屋敷に置いておくのが最適となった。
しかし流石というかなんというか、そもそも図書室から持ち出そうとしても持ち出せないよう保護がされている。
そして図書室自体も入室できる者と出来ない者がまるで選別されるようになっているらしい。
どんな仕組みなのか、選別の基準はわからんがハンジ、エルヴィン、俺は問題なく入れることから許可されているんだろう。
ここで問題が生じた。
ハンジは研究のために必須の古代語もほぼ読める。
エルヴィンもそうだ。
だが残念ながら俺はほぼ読めない。
せっかく入室できても二人しか解読出来ない。
ハンジの研究仲間はある程度は読めるが彼等は入室出来ない。
持ち出し不能、出入り不可では解読にどのくらいの時間がかかるのか。
少なくとも俺達の寿命がくるのが先だろう。
うんうん悩むハンジは時折八つ当たりしてくる。
「深刻な人手不足だよ!!どうしてリヴァイは古代語を読めないんだ!今からでも死ぬ気で学んでこいよ!!」
そう言われてもスラスラ言語をマスターできたら苦労はない。
大抵はお互い怒鳴り合いになる。
これこそ無駄な時間だ。
「ハンジ、古代語の習得は難しいと知ってるだろう。リヴァイに当たって解決するのか」
エルヴィンがいれば仲裁に入りハンジも無理難題を吹っかけてるというのはわかってるので謝って終わりだ。
※※※
「あのさ!良いこと思いついたんだ!」
正直に言えばこいつの《良いこと》は碌でもない事が多い。ほぼ現状一人で解読に勤しんでいる今は余計に負担が大きいだろう。
「ここの本とか古代語を写本して私の部下にも携わってもらう。どうだい、良い案だろう?!リヴァイ、写本は任せたからね!」
こいつにしてはマシな部類の案だと採用され、ハンジの部下も屋敷に呼び寄せ俺が写本した分を解読することになった。
嫌々ながらも初めは少々写すのも時間がかかったが慣れてくるとそれなりにスピードも上がってくる。
それを他の部下が解読すればするほどに興奮は高まり解読自体も少しずつだが進んでいる。
まあ。全部を解読する!と勢いが過ぎるハンジはこの屋敷から一歩も出ないのでたまに太陽の光をあたらせると眩し過ぎる。と言っては屋敷に戻ろうとする。どこぞの化け物か。と言いたくもなる。
※※※
そんな調子で解読をしているハンジ、本業を終えたエルヴィンが進捗を話していると、どうやら何かにぶつかっている。
俺はそもそも内容がわからないのでひたすら写本を続けるだけなんだが同じ室内にいれば聞こえもする。
「明らかに多いね」
「そうだな。記述が多いということは彼らにとっては当たり前で大事なことなんだろうか」
それとなく窺っているとバッチリとハンジと目があった。
マズい。そう思って写本に取り掛かるも無駄だった。
「あのさ、割りかし取っ付きやすいとこから進めてるんだけどね。いつか貴方が言った絵本の中だけと思ってた精霊についての記述が多いんだ。まるで精霊がいるのは当たり前、って前提なんだよね」
「それにある記述についてはかなりぼかすなり、遠回しに記載されているのが興味深い」
「そんなことを言われても読めない俺には違いもわからん。推測するなら大っぴらには知られたくない、ってところか」
「そう!そうなんだよ。そこを重点的に調べるとこの屋敷が、というより一族にとってここにある書物は大事だろう。でももっと大事な何かがある。ってとこまできてるんだ。それが何かはうまくぼやかされて掴めないんだ」
「そこまで気をつかうなら目の届くところか彼らしか知らないところか。この図書室だけでもこれだけ保護されてる。そういことならここの非じゃないくらいの保護がなされているだろう」
「んなもん、どうやって探すんだ。仮に探し当てたとして強力な保護されてる可能性が高いんだろ?」
二人は黙っていたがその脳内は猛スピードで回転していることだろう。
「あー!もう!今までの文献に【護れ】としかないんだ。一体何を何から護る必要があるんだよ!!」
「……なあ。最後の当主キリアンが手掛かり位、残してねえか?そんなに大切ならことを当主として知ってるのが普通は当たり前じゃねぇのか?」
ハンジはキョトンとしているがエルヴィンは顎に手を当てて俺のほぼ思いつきに過ぎないことを検討している。
「キリアンさんがヒントを与えてくれてる?なら何故隠してたんだい。すべてを渡した私達にまで隠すことはないだろう?彼は私達が受け取らなかったら廃棄する。とまで言いきった。あれは嘘じゃない」
「我々が探し当てると確信していたのか、それとも知られたくはなかったか」
「ここでウダウダしててもわかんねえもんはわかんねぇだけだ。ハンジ。この屋敷、いやキリアンの執事は今どこにいるか把握しているか?」
「そりゃ、把握しているけど」
※※※
郊外より離れたログハウスの家には庭にさまざまな花木が植えられ都会の喧騒も郊外の近所付き合いも然程ないような場所に建っていた。
庭はきれいに手入れされリタイア後に住むにはうってつけだ。
ドアを三回叩く。
しばらく待つが応答はない。外出中か?もう一度ノックすると中から人の気配がしドアに近づきながら用心深くチェーンの隙間から訪問者を確認している。
俺の顔をみると驚きを見せずチェーンを外した。
家の中に招かれるとリビングに通され茶の用意のためにソファに座るよう促してきた。
暫くすると紅茶の香りと皿を乗せたトレイを持って俺と自分の分をセットした。
当主が亡くなって、俺達に部屋や図書室など屋敷の鍵を渡して早々に出て行った元執事は長年の染みついただろう物腰で向かい側のソファに座ると茶と茶菓子を勧めてくる。
茶菓子には手を付けず湯気の立ちのぼる茶の香りを楽しんで一口つけると、豊潤な香りと後味が広がる茶で茶葉にこだわりがあるらしい。
まどろっこしい天気の話やらなんやらはいらない。
直接、端的にあの屋敷のことを訊ねた。
髭もないのに顎を擦り、黙っていたが確認するように質問に質問を返してきた。
「それを知ってどうなさるおつもりですかな」
ここで迂闊なことを言えば目の前の老人はなにも話してはくれない予感がした。
俺は現状を話して古文書に何度もでてくる護れ。とは何を指すのか、それは何を意味するのか訊ねる。
好々爺の仮面はいらなくなったのか俺の質問には明確に答えずにキャビネットから一通の封蝋された手紙を差し出した。差出人は当主。
「本来、この手紙は日の目を見ることなく私と共にあるはずでした。しかし何事も例外はあります」
差し出された手紙を丁寧に開くと几帳面な字で時候の挨拶さえ省かれていた。
【この手紙が必要になったということは貴方たちは何らかの理由で行き詰まっているということでしょう。本来ならすべてを詳らかにするのが礼儀でもある。だが、あることについてだけは我々の一族には制約が課せられており話すことも書き示すこともできません。語れることは、あの屋敷には古文書よりも大事なことは屋敷内に。それを見つけるのは貴方たち以外にはいないこと。どうぞ孤独のなかの答えを見つけて下さい。幸運を祈ります】
何を伝えたいかサッパリだがわかっているのは屋敷に確実に秘密がある。そして見つけることを望んでいる。
元執事に詳細を問いただすも話す気はサラサラないようで「それが今の貴方たちに必要な情報となりますな」と言って沈黙を貫いた。
これを情報と言っていいのか、甚だ疑問だが礼を述べ帰りの道を急いだ。
※※※
よほど帰りを待ちかねていたのか、屋敷前でハンジがソワソワと歩きまわっている。
車のエンジン音に気づき止まるのを待つ時間も惜しいのか、車のすぐ側にいる。
ドアを開け、車から降りると縋り付くように質問と首尾について問い詰めてくる。
「どうだった?!何かわかったかい?ヒントは見つかった?ねえ、なんとか言ってくれよ!!」
近くでいつもの三割増しの早口で言われて答える暇もない。
それに気づかないほどにハンジは焦っている。
ここまで着実に進め、ぶちあった壁は分厚くそれをどうにかする術が今のところないのだ。
俺にその壁を突き崩す情報を持ち帰ってきて欲しいという希望とそうでない場合がハンジを焦らせている。
それはわかっているがとりあえず、屋敷内のテラスで少し休みたい。
ハンジをスルーしてテラスへいき手にもったペットボトルの水を一気に飲み干した。
追いついてきたハンジは文句を言いながらテラスまでついて来る。
ハンジの前に渡された手紙を置いた。
始めは怪訝な顔をしていたが、その中身を読んで考え込みそしてまた読んでの繰り返している。
「わざわざ行ってきたがこれだけだ。あの執事にも問い質したがダンマリでこれがすべてだとよ」
「あ、ああ。遠くまでありがとう」
「俺には屋敷内に隠されてるなんかがあるから探してくれ。としか読めねぇが俺達なのは何故だ?という感想しかねえ」
「うん。そうだね。図書室といい、この手紙の内容といい。まるで私達じゃなきゃならない風にもとれるね」
「エルヴィンが来るまでどのくらいだ」
「トラブルがなければそろそろだと思う」
「ならヤツを待つしかねぇな」
※※※
「よぉ、待ちくたびれてハンジが暴れるとこだったぞ」
いつもより早く来たが出迎えにしては棘を感じる。エルヴィンはテーブルに突っ伏して唸ってるハンジとは対象的にカップを傾けるリヴァイに首を傾げた。
「お前も早く座れ。言っとくが元執事の爺さんは何も話さなかったぞ。大した忠誠心だな」
曖昧過ぎてエルヴィンは眉を寄せた。
「まず、予定通りに元執事の爺さんのとこで用件を伝えたが、得られるもんはなかったな。知ってることはあるはずだが話す気はないらしい。その代わりに手紙を渡された」
エルヴィンは手紙を受取り中身を読む。
話せない事情はわかったが肝心のことは不明としか判断できない。ハンジが唸る理由もわかる。
「エルヴィン、私達は何度も屋敷内外を調査したよね、それこそキリアンさんが存命中もだ。でもおかしな点はなかった、だろ?」
そう。おかしい点は図書室くらいだった。しかしこの手紙が示しているのは図書室ではないだろう。
もし図書室なら気づいていてもおかしくない。地下への階段も貯蔵室に行き着く。
それに何故、我々ならと確信を持っていたのか。
「貴方が来るまでいろいろ考えたんだけどヒントになってないしキリアンさんが伝えたかったことが何なのかがわからないんだ」
お手上げのポーズを取りながらハンジは呟く。
「どうして私達なんだ?図書室だって私達だけしか入れない、他の部屋とかは誰でも入れるのに」
そう。そこだ。入れる者とそうではない者。
始めから決められていたかのような不可解さ。
「図書室もそうだが、その手紙には俺達しか行けない場所があるってことだろ。ならまずは屋敷中を探しまくるしかねぇが、そうすると今の解読はおいておくか?」
エルヴィンは沈思黙考し、優先順位について考える。
行き詰まっているとはいえ他の書物から精霊や魔法としかいえないちからについての解読も進めたい。
しばらく考えたエルヴィンはおそらく最善策として発言した。
「両方だ。両方並行して進める」
これに黙っていないのがハンジだ。
「冗談でしょ、今だって人手不足なうえに他のことまでするなんて無理だ」
「それはわかっている。だがこれからの解読にもつながると思わないか」
それでも駄々を捏ねるハンジだが、エルヴィンが方針を決めたなら無茶だろうが全力で取り組むしかない。
それはハンジも嫌というほど理解しているので、明日から解読班、調査班と二手に分かれることに渋々ながら同意した。
※※※
ハンジ率いる部下は主に解読を担当し(俺が写した量はまだすべて解読されていない)俺と俺の動かせる人員を調査に当たることになった。
解読班はそれなりに進捗がみられるが、問題は俺が担当する調査班だ。
どこにも不審な点は見当たらない。
ここは怪しいかと調べて見るとかつての子供部部屋であったり隠し部屋はないか、屋根裏はどうかと調べるが年代を感じさせる物がシーツに覆われていろんな物が溢れている。
その中になにかしら怪しげなところは重点をおくが結果はいまいち芳しくない。
力仕事が多いため、できるだけ休憩を取らせて俺自身もあちこちを探っている。こんな古い造りの昔ながらの屋敷に隠し通路や隠し部屋がまるっきりないとは考えにくい。実際、いくつかの隠し通路や隠し部屋が見つかり、そこも重要点として部下と入っていく。
仕方のないことといえばそれまでだがカビ臭く、埃の舞う空間は辟易した。仕事でなければこんなところにゃ一秒たりともいない。と断言できる。
ついで、といってはなんだが我慢できず掃除をしているとハンジから苦情がくるが知ったことか。
汚い雑巾を洗った汚水を捨てるため一人バケツを持ちながら廊下を歩いているとどこからか懐かしい香りがする。
換気のために開けた窓から庭の花の香りがするのか。
それとも殺風景過ぎるエントランスの花瓶にでも誰かが花でも活けたか。
換気は必要だが花瓶に花を飾るほどの余裕がある部下はいない。
なんとなく、本当になんとなくだった。
その懐かしい香りにつられるように調査済みの壁の前に立っていた。
香りはここから漂っているのか、先程よりも俺を引きつける。
この時、俺は何を思っていたか今でもよくわからない。
用心はしていたはずだ。
その壁を手で強く押すとすんなりと壁の向こう側に手が通った。
俺の部下が調査済の壁だが普段なら人を集め再調査する。
それなのに誰にも言わずに手から腕、終いには体全体が怪しげな向こう側へ入った。
俺が立っているのは踊り場なのか目の前には下り階段が延びている。
どういう仕掛けか進むごとに壁ごと明かりとなり足場の悪さもない。
(これ以上はマズいか、トラップはないか?)
そこまでは思いつくのに俺の足は階段を降っていく。
ある程度からトラップだの何だのと用心しているのはすっかり頭から消えた。
ただ進まなければとそれだけが俺の中を占めていた。
階段を下り降りると思いの外広く天井も高い空間が広がっている。
異様なのは奥に水晶のようなものに覆われた椅子に座った女らしき姿。
近づいてよく見ると目を閉じ姿勢良く両手は膝の上に重ねた女は生きているのか、死んでいるのか。
まともに考えると生きているはずがない。
なら、こいつはなんだ?
死んだ女を悼み、このようにしたのか。
とにかくエルヴィンやハンジ、他の連中にも知らせなけりゃなんねぇ。
降りる時とは違い階段を駆け上がった。