紐解く
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ。やっぱ繋がらないかあ……」
何度もリヴァイの番号に架けてもコール音の後、留守番電話になるだけ。この様子じゃ折り返しの連絡も期待しないほうがいいだろう。
(話したくないってことだろうけど。拗れたら余計に大変なんだけどねえ)
まだカズサから事情は聞いてないが、リヴァイのこの様子は二人の間でわだかまりがあると言っているようなもんだ。
ただ、その内容がわからないと対応できない。
「さて、行くか」
図書室のドアに手をかけノブを回そうとしても全く動かない。
今までこんなことはなかった。
「あちゃー、こっちもか」
当事者の二人が揃って事情を話すどころか、拒絶している。
リヴァイはまだいい。だがカズサは別だ。
実際、図書室に入れないし様子を伺うこともできない。
念の為、この屋敷内のあちこちにカメラを付けてはいるが、図書室だけはカメラも役に立たなかった。
「ん〜。参ったな。お腹が空けば出てきてくれるかなぁ。微妙だなぁ。とにかくエルヴィンに報告しておくか」
確か、今日は接待やらなんやらはなかったはず。
手元のスマホでエルヴィンの番号を呼び出すとこちらも繋がらなかったが、しばらくすると折返しの連絡があった。
「どうした?」
「あー。私もよくはわからないんだけどさ、リヴァイとカズサ、なんかあったっぽくて、リヴァイは連絡取れないしカズサは図書室に立てこもってて、私も入れなくて困ってるんだ」
しばらくの沈黙の後、エルヴィンもリーベン邸に来ると返事があった。こっちに来る前にリヴァイに連絡はするだろうが、今の状況だとリヴァイが事情を話したとしてもカズサが自分の意思で出てこない限り図書室が開くことはないだろうし、そもそも話もできやしない。
「たく、あいつ何してんだよ」
リヴァイへの苛立ちを隠さずに呟き、もう一度、図書室のドアを叩くしかなかった。
※※※
リヴァイの電話番号に何度、架けても折り返しはない。
プライベートに踏込むつもりはないんだが。エルヴィンはリヴァイの住まいを訪ねた。インターフォンに応答があり、機嫌が悪い声と顔が返答をする。
「少し話がしたいんだが」
「俺はねぇ」
「リヴァイ」
大きな溜息が嫌味なほど聞こえ、オートロックを外す。
「取り込み中だ。手早くしてくれ」
エルヴィンは無言で応じリヴァイの部屋まで向かう。
(以前、フロントロックのある部屋を探していたが今となってはまだよかった)
部屋の前に来ると見計らっていたのか、すぐにドアが開いた。
「で?用件はなんだ。俺は休日のはずだ」
「……用件は知っているだろう?」
チッと舌打ちしているリヴァイは自宅でリラックスしているという格好ではなく上半身は何も着ていない。
どうやら家にあげるつもりは更々なく、玄関先で用を済ませるつもりらしい。
「ハッ。カズサについてだろ。価値観の相違ってやつだ。不用意にちからを使った。その危険性を言った。これでいいか」
「価値観の相違?それでお前は荒れてるわけか」
敢えて挑発するように言ってみるとただでさえ不機嫌なリヴァイはいっそう不機嫌になる。
「あの訳のわからん女が知らないのは仕方ねえのかもしれねえな、だが人の忠告も聞けねぇ、受け入れられねえならどうしようもないだろ」
ドアを閉めようとするリヴァイの後ろから艶っぽい声でリヴァイを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほお。お前はカズサに良かれと思った言動が理解されなかったと年甲斐なく拗ねて荒れているのはわかった」
玄関先で険悪な空気を振りまいているなか、リヴァイが返事をしないことに焦れたのか、先程の女性の声がリヴァイに呼びかけている。
「もういいだろ。話は終いだ」
「ああ、そうだな。カズサが篭城してもいつかは出てくるだろうしな」
エルヴィンはリヴァイに投げかけたがそれ以上の会話はなくドアは閉じられた。
※※※
「もう、何度呼んでも返事しないんだから、ほんと自分勝手な男ね」
寝室に戻ったリヴァイの首に絡みつく腕を引き離しベッドへ突き飛ばしてリヴァイは女に覆いかぶさった。
※※※
「やっと来たよ。それで?リヴァイはなんだって?」
リーベン邸の図書室ドア前で座り込んでいるハンジはエルヴィンの顔をみるなり問いただした。
「それよりもカズサはまだ出てこないのか?」
「ああ。リヴァイはなんだって?」
「玄関先で話した。価値観とやらの相違らしい。どうやら、カズサがちからを使ったらしいんだが、あいつの話では不用意だったらしくてな。それを咎 」めたらしい。あいつのことだ、強い言葉を使ったかも知れないしカズサが意地を張って閉じこもっているだけかもしれん。両方の可能性もあるか」
難しい表情でハンジは聞いていたが、次第に怒りを帯びている。
「ちょっと、あっちに行こうか」
ハンジが滞在する部屋の方向へ親指をクイッっと動かし移動を促す。
「リヴァイが言うのも一理ある。カズサが私たち以外の前でちからをよく考えることなく使ったなら私だって慌てるし注意だってする。でもカズサにとってそれが"当たり前"だったんだ。それを
責めるのは少し違うだろ。
ちゃんと説明していない私たちが悪い。あいつが慌ててたなら絶対に口調がきつくなってたはずだ。カズサからすれば理不尽と感じても不思議じゃない」
一気に捲し立てるハンジに困りながらエルヴィンは別のことを考えていた。
「聞いてる?エルヴィン。あいつを引きずってでも連れてくるべきだったよ
「いや、それは悪手だろう。今は距離をおいたほうが二人の為だ。それよりもカズサに何があって、どうやって図書室から出てくるかが先決だろう」
さっきの勢いはどこにいったのかハンジはうつむき、小声で話し始める。
「私がここに来たときにはリヴァイはいなかった。ペトラから聞いた分としては、リヴァイが雑草を気にしていて庭の雑草むしりをリヴァイとペトラでしていたらしい。カズサも手伝うとリヴァイに言って断られたらしいんだけど離れたとこでカズサも手伝ってたらしい。
そしたらリヴァイのキツイ声が聞こえてカズサは屋敷に入ってしまってリヴァイも帰ってしまってペトラもどうしたらいいか困っていたところに私が来たってわけ」
はぁ。エルヴィンにしては珍しく手立てが見つからないのか、片手は額にあてている。
「ハンジ、我々のなかで一番カズサの側にいたのはお前だ。この状況を打破する良い方法は浮かばないか?」
「そんなのあったらリヴァイやあなたに頼ったりしない」
そうならばお手上げだ。エルヴィンからすれば確かにカズサは迂闊だった。
しかし自分たちはカズサを知ることも知らせることもなく要求ばかりを押し付けていたのも事実でハンジの言い分ももっともだが……
「まるで子供のケンカだな」
「なに呑気なこと言ってるのさ!もし出てこなかったらフォローも言い訳すらできやしないんだ!彼女がどう感じて、何を考えて思ってるかすらわからないんだ!」
「起こってしまったことはどうしようもない。自分から出てきてくれるのを祈るしかないな」
※※※
あれから三日がたった。その間、カズサは出て来ない。
ハンジがそっと食事と水を置いているが水だけ減っている。
「ねぇ。人間って水だけでどのくらい生きられるもんなの?」
「一般的に一〜二週間と聞いたことがあるが、衰弱するのは間違いないだろう」
「このままじゃカズサが危ないことに変わりないよね。あいつは何してんだよ」
「普通に仕事しているな」
「エルヴィン、頼むから首根っこつかんででも連れてきてくれ」
「俺もそうしたいんだが、言えば言う程頑なに無視してる」
「……わかった、なら私が行ってくる。エルヴィンはここにいて」
「おい、ハンジ!」
ハンジはハイスピードで研究室に向かい、いつもよりも早く到着すると迷いなくリヴァイのオフィスへ怒鳴り込む。
「リヴァイ!!そのしかめっ面でいいから私のオフィスに顔貸してくれるかい!」
ハンジにしては激怒し、いつもの茶化した態度はない。周りはハンジの勢いに押され、自然とリヴァイのデスクまで海が割れるように避ける。
「あ”?こっちは仕事で忙しいんだ、てめえの下らないことに関わってる暇はどこにもない」
「聞いてから、くだらないか、どうかを判断しろよ。いいから、来なよ。じゃなきゃ、あんたの秘密をうっかりここで言っちゃってしまうかもなぁ〜」
「クソが。聞くだけだ」
「いいさ。じゃ場所を移そう」
※※※
ハンジのオフィスに行くとハンカチを鼻にあて埃、刺激臭などを間違っても吸い込んだりしないよう、物に触れないように気をつけるほど汚いのが常だが、いつもよりはマシにみえる。
(ああ、こいつは向こうに行ってばかりだったからか)
リーベン邸、カズサが頭の片隅を掠め、ハンジがこれから話すのもどうせカズサのことだろうとうんざりする。
「カズサのことなんだろ」
「ああ、そうだよ。今カズサがどうしてるかは知ってるよね」
「水は飲んでるハンガーストライキのことなら知ってるが、だからなんだ」
「そうだよね。エルヴィンからいろいろ聞いてるんだろ。このままじゃカズサは死んでしまうけど?あなたには関係ないんだっけ。後味悪くなること請け合いだ」
「……」
「おや、だんまりか。あなたにしては卑怯なことするじゃないか。私はあなたが全面的に悪いと思わない。確かに同じ状況に立たされたら私だってカズサに強く注意するさ、事情を知らないペトラもいた訳だし。だけど引き籠ってしまうほど拗れるようなことをしたのかい?そうじゃないなら、カズサに説明するべきと思う。だってカズサにとってちからは使って当たり前だった。そして私たちはカズサの時代と違うんだってちゃんと説明しなかったんだよ」
一気に捲し立てるハンジにリヴァイは口を挟むこともなく黙っている。
「お願いだ。私たちが何を言ってもどんな方法を取っても動かないんだ。このままじゃカズサは近いうち衰弱死してしまう。その前にあなたに縋りたい。あなたの言い分はわかってる。でも人ひとりが危険なんだ。頼むよ」
必死に言い募るハンジにリヴァイは内心で驚いていた。てっきり、研究絡みを言ってくるとか、頭ごなしに非難されるか、それとも泣き落としか。と予想はついていた。泣き落としなのはあっていたが言葉とハンジの表情は鬼気迫るものがあった。それより自分とのやり取りで人が死ぬのは目覚めが悪いにも程がある。
「俺にどうしろってんだ。俺が原因なら余計に悪くなるだけだ」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。行こう。リヴァイ」
軟化したリヴァイの様子にハンジは今を逃せないと手を引く。
リヴァイがカズサを気にかけてるのはみていればすぐにわかること。
ただ二人とも意固地な部分がある。もしリヴァイにさえ反応を示さないなら……。これからも根気強く声をかけ続けるしか手はない。
※※※
シンとした屋敷内の図書室の前に置いてある丸テーブルとドアの死角にエルヴィンは立っていた。もしカズサがドアを開ければ乱暴だが引きずり出すつもりだ。
おそらく、カズサが水分は取っているとは言え限界はすぐそこだろう。
ジッと待っていると、ハンジの声が聞こえてきた。声の調子からすると、リヴァイを連れてくるのに成功したらしい。
まだ何もしていない、何も解決していないのにエルヴィンはホッとしている自分に笑った。
何度もリヴァイの番号に架けてもコール音の後、留守番電話になるだけ。この様子じゃ折り返しの連絡も期待しないほうがいいだろう。
(話したくないってことだろうけど。拗れたら余計に大変なんだけどねえ)
まだカズサから事情は聞いてないが、リヴァイのこの様子は二人の間でわだかまりがあると言っているようなもんだ。
ただ、その内容がわからないと対応できない。
「さて、行くか」
図書室のドアに手をかけノブを回そうとしても全く動かない。
今までこんなことはなかった。
「あちゃー、こっちもか」
当事者の二人が揃って事情を話すどころか、拒絶している。
リヴァイはまだいい。だがカズサは別だ。
実際、図書室に入れないし様子を伺うこともできない。
念の為、この屋敷内のあちこちにカメラを付けてはいるが、図書室だけはカメラも役に立たなかった。
「ん〜。参ったな。お腹が空けば出てきてくれるかなぁ。微妙だなぁ。とにかくエルヴィンに報告しておくか」
確か、今日は接待やらなんやらはなかったはず。
手元のスマホでエルヴィンの番号を呼び出すとこちらも繋がらなかったが、しばらくすると折返しの連絡があった。
「どうした?」
「あー。私もよくはわからないんだけどさ、リヴァイとカズサ、なんかあったっぽくて、リヴァイは連絡取れないしカズサは図書室に立てこもってて、私も入れなくて困ってるんだ」
しばらくの沈黙の後、エルヴィンもリーベン邸に来ると返事があった。こっちに来る前にリヴァイに連絡はするだろうが、今の状況だとリヴァイが事情を話したとしてもカズサが自分の意思で出てこない限り図書室が開くことはないだろうし、そもそも話もできやしない。
「たく、あいつ何してんだよ」
リヴァイへの苛立ちを隠さずに呟き、もう一度、図書室のドアを叩くしかなかった。
※※※
リヴァイの電話番号に何度、架けても折り返しはない。
プライベートに踏込むつもりはないんだが。エルヴィンはリヴァイの住まいを訪ねた。インターフォンに応答があり、機嫌が悪い声と顔が返答をする。
「少し話がしたいんだが」
「俺はねぇ」
「リヴァイ」
大きな溜息が嫌味なほど聞こえ、オートロックを外す。
「取り込み中だ。手早くしてくれ」
エルヴィンは無言で応じリヴァイの部屋まで向かう。
(以前、フロントロックのある部屋を探していたが今となってはまだよかった)
部屋の前に来ると見計らっていたのか、すぐにドアが開いた。
「で?用件はなんだ。俺は休日のはずだ」
「……用件は知っているだろう?」
チッと舌打ちしているリヴァイは自宅でリラックスしているという格好ではなく上半身は何も着ていない。
どうやら家にあげるつもりは更々なく、玄関先で用を済ませるつもりらしい。
「ハッ。カズサについてだろ。価値観の相違ってやつだ。不用意にちからを使った。その危険性を言った。これでいいか」
「価値観の相違?それでお前は荒れてるわけか」
敢えて挑発するように言ってみるとただでさえ不機嫌なリヴァイはいっそう不機嫌になる。
「あの訳のわからん女が知らないのは仕方ねえのかもしれねえな、だが人の忠告も聞けねぇ、受け入れられねえならどうしようもないだろ」
ドアを閉めようとするリヴァイの後ろから艶っぽい声でリヴァイを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほお。お前はカズサに良かれと思った言動が理解されなかったと年甲斐なく拗ねて荒れているのはわかった」
玄関先で険悪な空気を振りまいているなか、リヴァイが返事をしないことに焦れたのか、先程の女性の声がリヴァイに呼びかけている。
「もういいだろ。話は終いだ」
「ああ、そうだな。カズサが篭城してもいつかは出てくるだろうしな」
エルヴィンはリヴァイに投げかけたがそれ以上の会話はなくドアは閉じられた。
※※※
「もう、何度呼んでも返事しないんだから、ほんと自分勝手な男ね」
寝室に戻ったリヴァイの首に絡みつく腕を引き離しベッドへ突き飛ばしてリヴァイは女に覆いかぶさった。
※※※
「やっと来たよ。それで?リヴァイはなんだって?」
リーベン邸の図書室ドア前で座り込んでいるハンジはエルヴィンの顔をみるなり問いただした。
「それよりもカズサはまだ出てこないのか?」
「ああ。リヴァイはなんだって?」
「玄関先で話した。価値観とやらの相違らしい。どうやら、カズサがちからを使ったらしいんだが、あいつの話では不用意だったらしくてな。それを
難しい表情でハンジは聞いていたが、次第に怒りを帯びている。
「ちょっと、あっちに行こうか」
ハンジが滞在する部屋の方向へ親指をクイッっと動かし移動を促す。
「リヴァイが言うのも一理ある。カズサが私たち以外の前でちからをよく考えることなく使ったなら私だって慌てるし注意だってする。でもカズサにとってそれが"当たり前"だったんだ。それを
責めるのは少し違うだろ。
ちゃんと説明していない私たちが悪い。あいつが慌ててたなら絶対に口調がきつくなってたはずだ。カズサからすれば理不尽と感じても不思議じゃない」
一気に捲し立てるハンジに困りながらエルヴィンは別のことを考えていた。
「聞いてる?エルヴィン。あいつを引きずってでも連れてくるべきだったよ
「いや、それは悪手だろう。今は距離をおいたほうが二人の為だ。それよりもカズサに何があって、どうやって図書室から出てくるかが先決だろう」
さっきの勢いはどこにいったのかハンジはうつむき、小声で話し始める。
「私がここに来たときにはリヴァイはいなかった。ペトラから聞いた分としては、リヴァイが雑草を気にしていて庭の雑草むしりをリヴァイとペトラでしていたらしい。カズサも手伝うとリヴァイに言って断られたらしいんだけど離れたとこでカズサも手伝ってたらしい。
そしたらリヴァイのキツイ声が聞こえてカズサは屋敷に入ってしまってリヴァイも帰ってしまってペトラもどうしたらいいか困っていたところに私が来たってわけ」
はぁ。エルヴィンにしては珍しく手立てが見つからないのか、片手は額にあてている。
「ハンジ、我々のなかで一番カズサの側にいたのはお前だ。この状況を打破する良い方法は浮かばないか?」
「そんなのあったらリヴァイやあなたに頼ったりしない」
そうならばお手上げだ。エルヴィンからすれば確かにカズサは迂闊だった。
しかし自分たちはカズサを知ることも知らせることもなく要求ばかりを押し付けていたのも事実でハンジの言い分ももっともだが……
「まるで子供のケンカだな」
「なに呑気なこと言ってるのさ!もし出てこなかったらフォローも言い訳すらできやしないんだ!彼女がどう感じて、何を考えて思ってるかすらわからないんだ!」
「起こってしまったことはどうしようもない。自分から出てきてくれるのを祈るしかないな」
※※※
あれから三日がたった。その間、カズサは出て来ない。
ハンジがそっと食事と水を置いているが水だけ減っている。
「ねぇ。人間って水だけでどのくらい生きられるもんなの?」
「一般的に一〜二週間と聞いたことがあるが、衰弱するのは間違いないだろう」
「このままじゃカズサが危ないことに変わりないよね。あいつは何してんだよ」
「普通に仕事しているな」
「エルヴィン、頼むから首根っこつかんででも連れてきてくれ」
「俺もそうしたいんだが、言えば言う程頑なに無視してる」
「……わかった、なら私が行ってくる。エルヴィンはここにいて」
「おい、ハンジ!」
ハンジはハイスピードで研究室に向かい、いつもよりも早く到着すると迷いなくリヴァイのオフィスへ怒鳴り込む。
「リヴァイ!!そのしかめっ面でいいから私のオフィスに顔貸してくれるかい!」
ハンジにしては激怒し、いつもの茶化した態度はない。周りはハンジの勢いに押され、自然とリヴァイのデスクまで海が割れるように避ける。
「あ”?こっちは仕事で忙しいんだ、てめえの下らないことに関わってる暇はどこにもない」
「聞いてから、くだらないか、どうかを判断しろよ。いいから、来なよ。じゃなきゃ、あんたの秘密をうっかりここで言っちゃってしまうかもなぁ〜」
「クソが。聞くだけだ」
「いいさ。じゃ場所を移そう」
※※※
ハンジのオフィスに行くとハンカチを鼻にあて埃、刺激臭などを間違っても吸い込んだりしないよう、物に触れないように気をつけるほど汚いのが常だが、いつもよりはマシにみえる。
(ああ、こいつは向こうに行ってばかりだったからか)
リーベン邸、カズサが頭の片隅を掠め、ハンジがこれから話すのもどうせカズサのことだろうとうんざりする。
「カズサのことなんだろ」
「ああ、そうだよ。今カズサがどうしてるかは知ってるよね」
「水は飲んでるハンガーストライキのことなら知ってるが、だからなんだ」
「そうだよね。エルヴィンからいろいろ聞いてるんだろ。このままじゃカズサは死んでしまうけど?あなたには関係ないんだっけ。後味悪くなること請け合いだ」
「……」
「おや、だんまりか。あなたにしては卑怯なことするじゃないか。私はあなたが全面的に悪いと思わない。確かに同じ状況に立たされたら私だってカズサに強く注意するさ、事情を知らないペトラもいた訳だし。だけど引き籠ってしまうほど拗れるようなことをしたのかい?そうじゃないなら、カズサに説明するべきと思う。だってカズサにとってちからは使って当たり前だった。そして私たちはカズサの時代と違うんだってちゃんと説明しなかったんだよ」
一気に捲し立てるハンジにリヴァイは口を挟むこともなく黙っている。
「お願いだ。私たちが何を言ってもどんな方法を取っても動かないんだ。このままじゃカズサは近いうち衰弱死してしまう。その前にあなたに縋りたい。あなたの言い分はわかってる。でも人ひとりが危険なんだ。頼むよ」
必死に言い募るハンジにリヴァイは内心で驚いていた。てっきり、研究絡みを言ってくるとか、頭ごなしに非難されるか、それとも泣き落としか。と予想はついていた。泣き落としなのはあっていたが言葉とハンジの表情は鬼気迫るものがあった。それより自分とのやり取りで人が死ぬのは目覚めが悪いにも程がある。
「俺にどうしろってんだ。俺が原因なら余計に悪くなるだけだ」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。行こう。リヴァイ」
軟化したリヴァイの様子にハンジは今を逃せないと手を引く。
リヴァイがカズサを気にかけてるのはみていればすぐにわかること。
ただ二人とも意固地な部分がある。もしリヴァイにさえ反応を示さないなら……。これからも根気強く声をかけ続けるしか手はない。
※※※
シンとした屋敷内の図書室の前に置いてある丸テーブルとドアの死角にエルヴィンは立っていた。もしカズサがドアを開ければ乱暴だが引きずり出すつもりだ。
おそらく、カズサが水分は取っているとは言え限界はすぐそこだろう。
ジッと待っていると、ハンジの声が聞こえてきた。声の調子からすると、リヴァイを連れてくるのに成功したらしい。
まだ何もしていない、何も解決していないのにエルヴィンはホッとしている自分に笑った。