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すっかり食事やちょっとした会話に使われる家族用の食堂にノロノロ足を運ぶとドアの向こうから騒がしくはない、はずんだ声が聞こえてくる。
女性の声、というのはドア越しにもわかるが嬉しさを隠しきれない明るい声音。
そのまま立っていても仕方ないので静かにドアを開くとリヴァイと最近紹介されたペトラが席に着いて甲斐甲斐しく料理を皿に取り分けている。
「あ、カズサ、やっときた」
ペトラがやっぱり明るい声で迎えてくれ、リヴァイはチラリと視線を向けた。
「さあ、こっちに座って!私の料理が口に合えばいいんだけど」
少しだけはにかんだ様子は同性からみても可愛らしい。
ペトラの向かいに腰をおろし、並んでいる料理の大皿にどんな味だろうと興味が湧きながら、あの頃とは全く違う味付け、食材に手をのばす。
「嫌いな食べ物はないって聞いてはいるんだけど、どれがいいかわかんなかったから、すきな物を取ってね」
返事をしながら用意されていたスープ皿の横に置かれている取皿に多分、好きそうな料理を乗せる。それでも少量にしてパンと果物をメインに食べているとリヴァイから食欲がねえのか?と訊ねられるが、体を動かないので食欲もそんなにないと答える。
用意したペトラは表情が曇っていてカズサはあまり食欲がわかないなりに取皿に追加の料理をのせた。
食べてみるとスパイスなのか、初めての味だが苦手じゃない。
素直に美味しい、と答えるとホッとした顔になり、残ってしまった分はアレンジして昼食にだすと張り切っていた。
食事が終われば食後のお茶が出てくるが、カズサも手伝うとペトラについていき紅茶の淹れ方を教えてもらった。
目が覚めてからあの時代とは全く異なる食事、味、お茶に戸惑ってはいるが、濃い味付けではあるが嫌いというほどではない。
ただ味が濃い分、少しだけでいい。というだけ。
お茶の淹れ方は茶葉の量を計って温度、蒸らし時間をきちんとするのが美味しいお茶の淹れ方と笑顔で教えてくれた。
カズサは喉が渇けば水で十分だったので、飲み物一つ取っても種類がたくさんあっていつも選ぶのに時間がかかる。
お茶の淹れ方を教えてもらったので水以外の気分のときは自分で用意できるだろう。
「カズサって、ずっと海外にいたって聞いたけど、どこの国なの?」
これは予めハンジたちと口あわせしていたことでこの国から遠くにある小さな国に家族と一緒に物心つく前に住んでいたこと。家族は全員亡くなり、そのままその国で過ごしていたが今回、事情がわかり帰国したことと話した。
全部が嘘ではないが真実でもないので疚しさもあるがペトラは同情的でこれからどうするの?と聞いてきた。
曖昧に笑っているとペトラはハッとした様子で「ごめんね、込み入ったこと聞いちゃって」と謝ってしまいカズサは首を横に振った。
「そろそろいいかな」
ティーポットと人数分のカップをワゴンにのせて元の部屋へ戻るとリヴァイは外の庭を見ていた。
アプローチから続く花が咲き誇る庭は手入れが行き届かず雑草がちらほら伸び始めている。
「お茶が入りました。どうぞ!」
リヴァイの前に優しい香りの紅茶が置かれ、ペトラもカズサもそれぞれの席で香りと味を楽しんでいた。
その間もペトラはリヴァイに仕事の話だろうか、カズサはよくわからない内容で静かにお茶を飲んでいた。
※※※
『わぁ!王都には珍しいものがたくさんあるわ!』
不意によぎったのは自分の声で目の前にきれいに飾り付けされた菓子と多くの茶缶が並んでいる。
『まあまあ。お嬢様、少しは落ち着いてくださいな』
『だって!このお菓子食べるのがもったいないくらいよ?』
___
『あら、身の程知らずの田舎者が王宮でなにしてるのかしらね。姫様とリヴァイさまの邪魔だってわからないのね』
『仕方ないわ。だって辺境のものに繊細な気持ちは分かりづらいものなんでしょ』
『それにしてもお気の毒よね。野蛮な品のない者がお二人の間に入っているなんて』
王都へ行く前の記憶はあるが、その後についてのことが急に出てくるのは今までなかった。
それよりも脳に直接浮かんだからか、頭痛が襲ったのと記憶に引きづられ動揺してしまった。
「どうした、顔色が悪い」
「いいえ、大したことではないですから」
「うん、確かに少し顔色が悪いみたい」
「本当に大したことはないんですが。お言葉に甘えて無作法ですが部屋で休んでもいいでしょうか?」
「……ああ。もしなにかあればすぐに知らせろ」
「大丈夫?部屋まで送るから」
「そこまでしなくても平気ですよ」
もつれそうになる足に力を入れ、部屋に戻るとさっきの記憶について考える。
(王都へいくのを、王宮務めも姉さまたちは嫌がっていた。きっと辺境であるリーベンのことを王都の人が良く思ってなかったから。それに加えて悪く言われてたのは、きっと王宮で誰かに言われてた事だと思う。でも……リヴァイさまと姫様の間にはいる?……なんのこと?わからない)
ベッドに寝転がり溜息をついて整理をしても断片すぎて、混乱する。
「ねえ、どうして記憶がないの?なぜ封じられたの?リヴァイさんがどうして出てきたの?」
カズサの周りの妖精たちも心配そうな様子でフワフワと留まっている。
考えれば考えるほど余計に気が滅入ってくる。腕を目に当て溢れる涙を隠す。
もし記憶がはっきりしたなら、こんな気分は消える?それとも。
寂しい。ここに自分を知る人はいない。姉さまの残した手記だって何も手がかりはなかった。帰りたい。戦場であっても臆さずに戦うみんなを癒やし姉さまや兄さまたちと笑い合ってたのに。戻りたい。ここは違う。私のいる場所じゃない。
泣きながらも頭痛はひどくなり意識を失うようにカズサは眠りについた。
※※※
「本当に大丈夫でしょうか」
「悪いが、後で様子を見て来てくれないか」
「はい、だいぶ顔色も悪かったですし。なにか怯えているようにもみえました」
リヴァイとペトラはカズサを心配しているが、席を立ったときのカズサからは誰も寄せ付けない空気を醸し出していた。無理やり傍にいるよりも一人のほうが気も楽だろうと部屋に戻したが長時間一人にするのも心配だ。
その後、リヴァイとペトラは仕事と今後のスケジュール、仕事の現状などを打ち合わせて、リヴァイは気になっていた庭にでた。
ちゃんと手入れをされていたときは様々な花が季節ごとに咲いていただろうが、今は雑草が紛れ、花も元気がない。
(まるでカズサのようだな。知らん時代の知らん人間に囲まれてる)
「雑草、気になりますね。仕事とは違いますが、せっかく時間ありますから、ちょっと草むしりしておきますね」
「ああ、それなら俺もしよう。お前はカズサの様子を先にみてきてくれ」
「わかりました、行ってきます」
屋敷に戻っていくペトラを見送ってから改めて庭の花をみる。
「確か、車に手袋くらいはおいてあったはずだ」
※※※
『王よ。我が妹をこれ以上利用するのは、いい加減にされよ!』
『カズサ、無理することはない。こんな馬鹿げた話なんか蹴ってもいい。彼らはあなたの加護を狙っている、それはカズサが一番わかっているでしょう?』
両肩を掴んで説得しようとする姉さまが怒った顔で言っている。
『領地に戻ってきなさい、皆も待ってる。ここでカズサがどんな風に扱われているか、私たちは知っているのよ』
―――
『ねえ、カズサ。本当にいいの?ここに貴方を残したいにしても、あの提案を飲まなきゃいけないわけじゃないんだ』
―――
『あら。貴女ね?お父様も何を考えているのかしら。悪いことは言わないわ。さっさと領地にお帰りなさいな』
―――
『お前がなぜ受け入れたか、俺はわからん。だが宮廷で言われてることはデマだ』
―――
『落ち着くんだ!!カズサ!息を吸って!!』
「っ!! 」
バッと飛び起きて見れば夢の名残なのか、心臓も飛び跳ね汗をかき服もじっとりとしている。
「はっあ、夢。そう、夢……」
リアリティすぎる夢。深呼吸を何度か繰り返すと少しだけ落ち着いてきた。
「なに?夢だけど、あれは私に起こったこと……」
すべて夢にするのは無理があり、何よりそのときに感じた自分の感情がはっきりとわかる。それに姉さま以外にもハンジさんやリヴァイさんも出てきた。
(何かの理由で私がリヴァイさんを選んだ?姉さまやハンジさんが反対する理由を押し切って?)
夢の中のカズサはそれを望み、正しいと感じていた。風当たりが強くなる。それもわかっていた。
「綺麗な方だった」
トントントン。
「カズサ、入ってもいい?」
遠慮がちなノックの後、ペトラの声が聞こえた。
(そういえば途中で部屋に戻ったんだった)
サッと服を払ってしわをのばしベッドから立ち上がる。
「どうぞ」
「体調はどう?なにか食べる?」
「大丈夫ですよ。ちょっと眠たかったみたいです」
ニコリと笑って部屋を出てみるとペトラが安心したように微笑んだ。
「もう少し休んでもいいよ」
「夜眠れなくなるかも」
ふふふ、と控えめに笑い「それじゃ、庭の雑草とりに行ってくるね!」と明るい声で庭へ足取り軽く行こうとするのを一瞬迷ってカズサもついていく事にした。
天気も良く陽射しも和らいでいる午後。
すでに草を抜いているリヴァイがいる。
ペトラが声をかけると姿を確認せずに手袋を渡しすぐにペトラも草をむしり始めた。
「あの。私もいいですか?」
カズサが声をかけるとリヴァイが振り向いた。
「顔色は良くなったようだが、まだ無理すんな。もう少しでうるせえ奴も来る。休んでろ」
にべもない断りにカズサは無性に腹がたって離れた場所で雑草取りをしようと返事もせずに早足で庭の端へ行く。
端だからか、花は一層元気がなく、雑草は元気だ。
(このくらいなら)
土に手を置き、力を流す。じんわりと馴染んでいく。
雑草は萎びて枯れ、花はその養分を得たかのように勢いを取り戻す。
範囲を広げようと更に力を注ぎ込むと見える範囲からそのほかの範囲まで行き届くのが感じられる。
「何してる?」
冷えた声にはっとすると見下ろすようにリヴァイが傍にいてカズサの様子を見ている。
「すぐにやめろ。お前の時代では当たり前でもこっちで力を扱えるのは少数だ、あまり目立つことはするな」
「この方法が一番効率がいいですし、誰にも見られてません。迷惑はかけてません」
「話しをそらすな。お前にとって効率が良かろうと気づかれると面倒だ。それに見られてないという自信はどっからくる?もしも。を考えろ」
言うだけ言ってリヴァイは踵を返した。残されたカズサはしばらく立ち尽くしていたがペトラの呼び声を聞いて見られないよう裏口から屋敷に戻った。
※※※
「おや、なにこの重い空気」
ハンジが仕事が終わってすぐさまリーベン邸に来たがペトラが暗い顔で出迎えた。
事情を聞くとカズサが食事中に顔色が悪く休ませ、その間打ち合わせなどが終わって雑草取りすることになりカズサも来ていたがリヴァイは休めと言ったらしく、その後リヴァイはもちろん、カズサも機嫌が悪いのか、リヴァイは帰ってしまいカズサは図書室に籠もってしまい、ペトラもどうしたらいいかと悩んでいたらしい。
「うーん。原因がわかんないね。十中八九リヴァイのせいだと思うんだけど。カズサが閉じこもっちゃどうしようもなくなるか。よし後は私に任せて、ペトラも上がっていいよ!」
頭を下げバッグを肩にかけてペトラが屋敷から出るのを笑顔で見送って、ハンジは呟いた。
「どっちから話そうかな」
両手を後頭部で組みながらハンジはうーんと唸ったが先に話すのは決まっていた。
女性の声、というのはドア越しにもわかるが嬉しさを隠しきれない明るい声音。
そのまま立っていても仕方ないので静かにドアを開くとリヴァイと最近紹介されたペトラが席に着いて甲斐甲斐しく料理を皿に取り分けている。
「あ、カズサ、やっときた」
ペトラがやっぱり明るい声で迎えてくれ、リヴァイはチラリと視線を向けた。
「さあ、こっちに座って!私の料理が口に合えばいいんだけど」
少しだけはにかんだ様子は同性からみても可愛らしい。
ペトラの向かいに腰をおろし、並んでいる料理の大皿にどんな味だろうと興味が湧きながら、あの頃とは全く違う味付け、食材に手をのばす。
「嫌いな食べ物はないって聞いてはいるんだけど、どれがいいかわかんなかったから、すきな物を取ってね」
返事をしながら用意されていたスープ皿の横に置かれている取皿に多分、好きそうな料理を乗せる。それでも少量にしてパンと果物をメインに食べているとリヴァイから食欲がねえのか?と訊ねられるが、体を動かないので食欲もそんなにないと答える。
用意したペトラは表情が曇っていてカズサはあまり食欲がわかないなりに取皿に追加の料理をのせた。
食べてみるとスパイスなのか、初めての味だが苦手じゃない。
素直に美味しい、と答えるとホッとした顔になり、残ってしまった分はアレンジして昼食にだすと張り切っていた。
食事が終われば食後のお茶が出てくるが、カズサも手伝うとペトラについていき紅茶の淹れ方を教えてもらった。
目が覚めてからあの時代とは全く異なる食事、味、お茶に戸惑ってはいるが、濃い味付けではあるが嫌いというほどではない。
ただ味が濃い分、少しだけでいい。というだけ。
お茶の淹れ方は茶葉の量を計って温度、蒸らし時間をきちんとするのが美味しいお茶の淹れ方と笑顔で教えてくれた。
カズサは喉が渇けば水で十分だったので、飲み物一つ取っても種類がたくさんあっていつも選ぶのに時間がかかる。
お茶の淹れ方を教えてもらったので水以外の気分のときは自分で用意できるだろう。
「カズサって、ずっと海外にいたって聞いたけど、どこの国なの?」
これは予めハンジたちと口あわせしていたことでこの国から遠くにある小さな国に家族と一緒に物心つく前に住んでいたこと。家族は全員亡くなり、そのままその国で過ごしていたが今回、事情がわかり帰国したことと話した。
全部が嘘ではないが真実でもないので疚しさもあるがペトラは同情的でこれからどうするの?と聞いてきた。
曖昧に笑っているとペトラはハッとした様子で「ごめんね、込み入ったこと聞いちゃって」と謝ってしまいカズサは首を横に振った。
「そろそろいいかな」
ティーポットと人数分のカップをワゴンにのせて元の部屋へ戻るとリヴァイは外の庭を見ていた。
アプローチから続く花が咲き誇る庭は手入れが行き届かず雑草がちらほら伸び始めている。
「お茶が入りました。どうぞ!」
リヴァイの前に優しい香りの紅茶が置かれ、ペトラもカズサもそれぞれの席で香りと味を楽しんでいた。
その間もペトラはリヴァイに仕事の話だろうか、カズサはよくわからない内容で静かにお茶を飲んでいた。
※※※
『わぁ!王都には珍しいものがたくさんあるわ!』
不意によぎったのは自分の声で目の前にきれいに飾り付けされた菓子と多くの茶缶が並んでいる。
『まあまあ。お嬢様、少しは落ち着いてくださいな』
『だって!このお菓子食べるのがもったいないくらいよ?』
___
『あら、身の程知らずの田舎者が王宮でなにしてるのかしらね。姫様とリヴァイさまの邪魔だってわからないのね』
『仕方ないわ。だって辺境のものに繊細な気持ちは分かりづらいものなんでしょ』
『それにしてもお気の毒よね。野蛮な品のない者がお二人の間に入っているなんて』
王都へ行く前の記憶はあるが、その後についてのことが急に出てくるのは今までなかった。
それよりも脳に直接浮かんだからか、頭痛が襲ったのと記憶に引きづられ動揺してしまった。
「どうした、顔色が悪い」
「いいえ、大したことではないですから」
「うん、確かに少し顔色が悪いみたい」
「本当に大したことはないんですが。お言葉に甘えて無作法ですが部屋で休んでもいいでしょうか?」
「……ああ。もしなにかあればすぐに知らせろ」
「大丈夫?部屋まで送るから」
「そこまでしなくても平気ですよ」
もつれそうになる足に力を入れ、部屋に戻るとさっきの記憶について考える。
(王都へいくのを、王宮務めも姉さまたちは嫌がっていた。きっと辺境であるリーベンのことを王都の人が良く思ってなかったから。それに加えて悪く言われてたのは、きっと王宮で誰かに言われてた事だと思う。でも……リヴァイさまと姫様の間にはいる?……なんのこと?わからない)
ベッドに寝転がり溜息をついて整理をしても断片すぎて、混乱する。
「ねえ、どうして記憶がないの?なぜ封じられたの?リヴァイさんがどうして出てきたの?」
カズサの周りの妖精たちも心配そうな様子でフワフワと留まっている。
考えれば考えるほど余計に気が滅入ってくる。腕を目に当て溢れる涙を隠す。
もし記憶がはっきりしたなら、こんな気分は消える?それとも。
寂しい。ここに自分を知る人はいない。姉さまの残した手記だって何も手がかりはなかった。帰りたい。戦場であっても臆さずに戦うみんなを癒やし姉さまや兄さまたちと笑い合ってたのに。戻りたい。ここは違う。私のいる場所じゃない。
泣きながらも頭痛はひどくなり意識を失うようにカズサは眠りについた。
※※※
「本当に大丈夫でしょうか」
「悪いが、後で様子を見て来てくれないか」
「はい、だいぶ顔色も悪かったですし。なにか怯えているようにもみえました」
リヴァイとペトラはカズサを心配しているが、席を立ったときのカズサからは誰も寄せ付けない空気を醸し出していた。無理やり傍にいるよりも一人のほうが気も楽だろうと部屋に戻したが長時間一人にするのも心配だ。
その後、リヴァイとペトラは仕事と今後のスケジュール、仕事の現状などを打ち合わせて、リヴァイは気になっていた庭にでた。
ちゃんと手入れをされていたときは様々な花が季節ごとに咲いていただろうが、今は雑草が紛れ、花も元気がない。
(まるでカズサのようだな。知らん時代の知らん人間に囲まれてる)
「雑草、気になりますね。仕事とは違いますが、せっかく時間ありますから、ちょっと草むしりしておきますね」
「ああ、それなら俺もしよう。お前はカズサの様子を先にみてきてくれ」
「わかりました、行ってきます」
屋敷に戻っていくペトラを見送ってから改めて庭の花をみる。
「確か、車に手袋くらいはおいてあったはずだ」
※※※
『王よ。我が妹をこれ以上利用するのは、いい加減にされよ!』
『カズサ、無理することはない。こんな馬鹿げた話なんか蹴ってもいい。彼らはあなたの加護を狙っている、それはカズサが一番わかっているでしょう?』
両肩を掴んで説得しようとする姉さまが怒った顔で言っている。
『領地に戻ってきなさい、皆も待ってる。ここでカズサがどんな風に扱われているか、私たちは知っているのよ』
―――
『ねえ、カズサ。本当にいいの?ここに貴方を残したいにしても、あの提案を飲まなきゃいけないわけじゃないんだ』
―――
『あら。貴女ね?お父様も何を考えているのかしら。悪いことは言わないわ。さっさと領地にお帰りなさいな』
―――
『お前がなぜ受け入れたか、俺はわからん。だが宮廷で言われてることはデマだ』
―――
『落ち着くんだ!!カズサ!息を吸って!!』
「っ!! 」
バッと飛び起きて見れば夢の名残なのか、心臓も飛び跳ね汗をかき服もじっとりとしている。
「はっあ、夢。そう、夢……」
リアリティすぎる夢。深呼吸を何度か繰り返すと少しだけ落ち着いてきた。
「なに?夢だけど、あれは私に起こったこと……」
すべて夢にするのは無理があり、何よりそのときに感じた自分の感情がはっきりとわかる。それに姉さま以外にもハンジさんやリヴァイさんも出てきた。
(何かの理由で私がリヴァイさんを選んだ?姉さまやハンジさんが反対する理由を押し切って?)
夢の中のカズサはそれを望み、正しいと感じていた。風当たりが強くなる。それもわかっていた。
「綺麗な方だった」
トントントン。
「カズサ、入ってもいい?」
遠慮がちなノックの後、ペトラの声が聞こえた。
(そういえば途中で部屋に戻ったんだった)
サッと服を払ってしわをのばしベッドから立ち上がる。
「どうぞ」
「体調はどう?なにか食べる?」
「大丈夫ですよ。ちょっと眠たかったみたいです」
ニコリと笑って部屋を出てみるとペトラが安心したように微笑んだ。
「もう少し休んでもいいよ」
「夜眠れなくなるかも」
ふふふ、と控えめに笑い「それじゃ、庭の雑草とりに行ってくるね!」と明るい声で庭へ足取り軽く行こうとするのを一瞬迷ってカズサもついていく事にした。
天気も良く陽射しも和らいでいる午後。
すでに草を抜いているリヴァイがいる。
ペトラが声をかけると姿を確認せずに手袋を渡しすぐにペトラも草をむしり始めた。
「あの。私もいいですか?」
カズサが声をかけるとリヴァイが振り向いた。
「顔色は良くなったようだが、まだ無理すんな。もう少しでうるせえ奴も来る。休んでろ」
にべもない断りにカズサは無性に腹がたって離れた場所で雑草取りをしようと返事もせずに早足で庭の端へ行く。
端だからか、花は一層元気がなく、雑草は元気だ。
(このくらいなら)
土に手を置き、力を流す。じんわりと馴染んでいく。
雑草は萎びて枯れ、花はその養分を得たかのように勢いを取り戻す。
範囲を広げようと更に力を注ぎ込むと見える範囲からそのほかの範囲まで行き届くのが感じられる。
「何してる?」
冷えた声にはっとすると見下ろすようにリヴァイが傍にいてカズサの様子を見ている。
「すぐにやめろ。お前の時代では当たり前でもこっちで力を扱えるのは少数だ、あまり目立つことはするな」
「この方法が一番効率がいいですし、誰にも見られてません。迷惑はかけてません」
「話しをそらすな。お前にとって効率が良かろうと気づかれると面倒だ。それに見られてないという自信はどっからくる?もしも。を考えろ」
言うだけ言ってリヴァイは踵を返した。残されたカズサはしばらく立ち尽くしていたがペトラの呼び声を聞いて見られないよう裏口から屋敷に戻った。
※※※
「おや、なにこの重い空気」
ハンジが仕事が終わってすぐさまリーベン邸に来たがペトラが暗い顔で出迎えた。
事情を聞くとカズサが食事中に顔色が悪く休ませ、その間打ち合わせなどが終わって雑草取りすることになりカズサも来ていたがリヴァイは休めと言ったらしく、その後リヴァイはもちろん、カズサも機嫌が悪いのか、リヴァイは帰ってしまいカズサは図書室に籠もってしまい、ペトラもどうしたらいいかと悩んでいたらしい。
「うーん。原因がわかんないね。十中八九リヴァイのせいだと思うんだけど。カズサが閉じこもっちゃどうしようもなくなるか。よし後は私に任せて、ペトラも上がっていいよ!」
頭を下げバッグを肩にかけてペトラが屋敷から出るのを笑顔で見送って、ハンジは呟いた。
「どっちから話そうかな」
両手を後頭部で組みながらハンジはうーんと唸ったが先に話すのは決まっていた。