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衣装を持ってくると一点ずつ懐かしむように手触りや意匠を切なげになぞり時間をかけ確かめるようにしている。
その様子を興味深くハンジは観察しているが突然カズサは泣き出した。
ハンジがワタワタしている中、俺はハンカチを差し出す。
カズサは小さな声で震える手で「ありがとうございます」と言って受け取ると目元にあて涙がハンカチに染み込んでいく。
カズサの嗚咽が響く間、誰も何も言えなかった。
もし、もしだ。自分だけが意識ないまま、いきなりとんでもない時間を過ごしたんだと言われ、周りに家族も友人も誰もいない。
そんな状況に放り込まれたら。
俺ならどうする? いや想像すら出来ない。
本当なら一人でそっとしてやりたいが
躊躇いなく行動したカズサがもう一度そうしない保証はない。
特に家族が残した手記を読んだ後だ。
監視しても一歩遅れれば手遅れになる可能性だってある。
※※※
落ち着いてくれるだろうかと俺の気に入っている茶葉を使い紅茶を差し出すと
香りを纏った湯気に誘われたのか、カズサはやっと顔を上げた。
目を赤くしているが涙は止まったようだ。
紅茶を口にしても沈黙が続く。
「少し落ち着いた?」
ハンジが心配そうに訊ねるとまだ気持ちの整理は着いてないだろうと思っていたカズサはやはり小さな声で「はい」と答えた。
ハンジにしては気を使っているほうだが落ちついたか?と聞かれれば大体の人間はそう答えざる得ないだろうとハンジを心の中で殴っておく。
「一人、にしてほしいと言ってもだめですよね」
「あーっと。申し訳ないけど一人にはできない、けどここは広いからさ。貴女の視界にできるだけ入らないようにするのではだめかな?」
言いにくそうにカズサは俺達に訊ねる。
「今の状況と今後を考えたいのです」
「それは心配はいらない。リーベン家は君が目覚めた時の用意をしていたらしい。私達が望むのは君が良ければここの本の内容を私達にも教えて欲しい」
エルヴィンがそう言うとカズサはなにかを諦めたかのように微笑み、図書室を見渡す。
「ここにある本はどのような本でしょうか」
「たぶん主にリーベン家当主の手記とかだと思う。時代は違うけど兵法やら、当時の魔法とか、まあいろいろな感じ」
少し考えているのか一点を見つめると納得したように頷く。
それは俺達に向かってではない、空間に向かっての頷きだった。
「では言葉がわからない本もあるので、すべて、とはいきませんが順序よく読んでもいいですか。基本この場所で寝起きしたいです。もうバカな真似はしないと誓います」
カズサの言葉に嘘はないだろう。
しかしこの図書室は限られた者しか入れない。そこに一人にするのは躊躇う。
これに空気を読まずに歓喜したのがハンジだ。
おおかた難航していた解読についてのスピードアップが望め研究も進むからだろう。
興奮し喜色満面でカズサの手を包んでブンブンと振っている。
いきなりの奇行に目を見開きエルヴィンに助けを求める視線をおくる。
エルヴィンがハンジを諌めると反省したかのように手を放した。
俺じゃない、エルヴィンを頼った。
「じゃあさ!早速取り掛かる??あ、でも」
「寝ているのにも飽きましたし、これからすぐでも構いません」
自虐なのか苦笑いをすると椅子から立ち上がって次の本を読み始める。
ハンジによれば確かその後のリーベン家についてだ。
静かにページを捲るカズサの側でハンジが近すぎる距離でいちいち騒ぐ。
「おい、いい加減にしろ。そんな急かしても集中できねえだろ、ちったあ考えろ」
ぶーたれるハンジを図書室から放り出し部下のモブリットに連絡すると、思ったより早く到着したモブリットに引きずってでも連れて行け。というと慣れているのか首根っこを掴んで退場し一気に騒がしさが消えた。
それを見届けて俺が戻るとエルヴィンが組んだ両手に顎を置いて黙っている。
「さて。ハンジはいない。残念だが私もずっとここにいられるわけじゃない」
「俺がつく」
「そうもいかない。……では順番ということにするか。ハンジに暴走しないように釘を刺しておこう」
俺に話しかけているようだが、実際にはカズサに問いかけている。
途端にカズサは不安そうな顔でエルヴィンをみる。
「あの……できればハンジさんだけではだめ、でしょうか?」
戸惑う声で俺達は気がついた。今だって男女だけの密室に近いここにいるのはマズいだろ。
ましてやカズサが生きてきた時代の常識なら尚更だ。
「考えなしで申し訳なかった。私達も少々浮かれていたようだ。ただそうするとここで女性一人は心配だな」
「エルヴィン、もし本をここから持ち出せるならハンジをつきっきりにしなくてもいいんじゃないか?試しに持ち出してみるのはどうだ?」
試しになんていっているが俺は確信していた。カズサはできる。
カズサ以外は出来ない。
案の定、何の問題もなくカズサは何冊か図書室から持ち出すことができ、俺達がずっとついてなくてもいいことがわかった。
「驚いたな。それならずっと私達が側にいなくてもいい訳だ。同性ならナナバやペトラはどうだ?」
急に知らない名前が出てきたことで カズサが緊張しているのが手に取るようにわかるが二人とも人好きなタイプだ。
何かあればすぐに連絡出来るようにして俺の仕事も遠隔でこっちで出来るようにセッティングしておけばいい。
俺がいない間はエルドに臨時で任せることもできる。
「リヴァイ」
段取りを考えてるとエルヴィンが首を横に振る。
俺は何を?ついさっき、ナナバ達を付けるって話だろ。何で俺がここに留まる算段を?
「ハンジを遠ざけた理由をよく思い出せ。それはお前にも言える」
ちっ。思わず舌打ちすると意外に カズサが笑った。声をたてたわけじゃないが目覚めて初めて笑顔をみせた。
「変わらないものもあるんですね」
意味を尋ねても答えてはくれなかったが。
顔合わせは早いほうがいい。と俺もエルヴィンも意見が一致し早速二人にこちらへ呼び寄せた。
「初めまして。私はナナバ、こっちはペトラ。むさ苦しいのばっかりで大変だったね。その点、私達には気軽に接してほしい」
「初めまして、ペトラと言います!趣味はお菓子づくりなの!ティータイムは任せて!」
初めは警戒していたカズサも一時間弱で二人に慣れ始めてきたのか少しづつ会話をしている。
「大丈夫そうだな」
「ああ」
もちろん二人にはカズサについての詳細は話していない。そして二人も首を突っ込む真似はしない。
ただ、この屋敷の直系だがずっと海外にいたと前置きして、この屋敷の図書室にも入れるし古代語も読めるよう教育されている。と説明した。
おそらくすべてを信じてはいないだろうが知るべきことと知らずにいることを理解している。
もちろんカズサにも万が一、尋ねられたら、その様に答えてほしいと言い、その様にするとカズサも納得してくれた。
とりあえず三人の相性もいいことがわかり、後は任せる。とエルヴィンは先に出た。
俺はわかっちゃいるがなんとなく離れがたくて女同士のおしゃべりをBGMに紅茶を飲んでいた。
「早く出なよ。部屋割りも済んだし、また明日仕事を終わらせてからこっちに来たらいいだろ?」
いつまでも居座りそうだ、とナナバが
呆れた様子でため息をついている。
「紅茶を飲む時間くらいゆっくりさせろ」
「あのさ。そのカップ、もう空なんだけど?」
半ば追い出されるように屋敷から出され仕方なしに車に乗り、研究所へハンドルをきった。
※※※
研究所のスタッフフロアに到着するとハンジの叫びがここまで聞こえてくる。
あいつのとこは防音設備が必要だな。
モブリットやニファが必死になっている様子が目に浮かぶ。
俺の部屋に入れば長く留守にしていたわけでもないのに落ち着かず、とりあえず掃除でもするかと掃除セットを取り出し準備をしているとエルヴィンがドアを開けている。
「ノックしたんだが返事がなかったからまだ屋敷のいや、カズサのところにいるかと思ったぞ」
「仕事に戻れって言ったのはお前だろ、
それに俺もそろそろ仕事に戻る頃合いだったからな」
「掃除しようとしてるように見えるのは俺だけか?」
「いちいち人のやり方にまで口出すんじゃねえよ」
「だいぶ気がたっているようだな、そんなに気になるのか」
「何がだ。別に問題はない」
「そうか。それならいい」
妙な含みを持った言い方のエルヴィンはそのまま立ち去っていき掃除すらやる気をなくしそうになった。
せっかく準備したからには軽く掃除をしとくか。
気分を切り替えはたきで棚を掃除しているとドアが壊れる勢いで開いた。
こんなことするのは一人しかいない。
「ちょっと!リヴァイ!聞いてくれよ!!」
「黙れ。そして出ていけ」
ショックを受けたようなオーバーな態度で項垂れているがこいつの手に乗ってやる気はないし、そもそも話を聞いてやるつもりもない。
「ほんの少しでいいんだ、ね?」
何が「ね?」だ。面倒くさいにも程がある。
それに俺は今、掃除中なのに邪魔されてるばかりか、ハンジの靴底の汚れが床についている。腕を組んで顎で帰れと合図をしても泣き崩れた演技を続けるハンジを力ずくで追い出してやろうかと決めた時にガバっと顔だけを上げる。
一瞬の隙をついてこちらの事などお構いなしに勝手に話始める。
「私が追い出された後、カズサは大丈夫だった?エルヴィンからはナナバとペトラの三人で意気投合してた、って言ってたけど本当?ねぇ本当?」
こいつ、自分が仲間外れにされて捻くれてやがる。
「ああ、まともな同性で話しも盛り上がってたぞ。どっかの誰かみてぇな奇行に走ることもねぇし安心だな」
そんな。とがっくりしているがこの程度でめげるタマじゃない。
明日も仕事も放って朝食前に突撃しているだろう。
「はぁ、あなたに聞いたのが間違いだった。カズサがどんなに強気でいても突然、いろんなことが彼女に起こったんだ。せめて事情を知る私たちの一人でも残るべきだったんだよ~」
一理あるが、だからと言ってハンジに任せれば眠ることもできない。それに異性の俺たちがいても居心地が悪いだろう。
そう言うとハンジは勢いを失くし呆然としていると思ったが、急に真剣な表情になった。
「あのさ、確認したいんだけど」
「なんだ。早くしろ。お前に付き合ってるほどこっちは暇じゃねぇんだ」
「私たちと話している時とナナバたちと話している時に違いはなかった?」
「ねぇよ。むしろ楽しんでいたと思うが」
「そう。なら余計におかしいと思わないかい?」
「は?なんでそうなる。まどろっこしい言い方はやめろ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「今、カズサの事情を知って頼れるのは私たちのはずなんだ。そんな人間が一人もいない状況で、いくらナナバたちだとしても初めて会う相手だけで心細くないのはおかしいだろ」
言われてみればそうかも知らんが、見ている感じだと無理してる様子は感じられなかった。そう伝えるとハンジは頭を抱えて「だぁ~これだから気の利かない男ってのは!!」
こいつにだけは言われたくないセリフだ。
「エルヴィンに話したのか?」
「ああ、話はしたよ。よし!今から私が行くっ!」
「よせ、お前が行くくらいなら俺が行く」
それを聞いたハンジは真剣な顔で「あなただけじゃ行っちゃだめだ」と宣う。
「言い切る根拠はなんだ?」
「あなたがいる時、カズサはあなたと視線を合わさないのに気づいてないの?」
思い返せば確かに俺に素気ない気もするが俺と初対面の人間は大体そんなもんだ。カズサもそんなとこだろう。
そう言ってみるとハンジは「カズサからしたらあなたも私も同じなんだよ。それなのに目もできるだけ合わさない、会話しようとしない。私やエルヴィンとの違いは一体何だろうね」
ハンジの言い分を聞いているとまるで嫌われもんのようだが、嫌われる覚えもない。
「とにかく私が行くからあなたはエルヴィンを誤魔化しておいて。じゃ!」
言うだけ言ってハンジは飛び出していった。
ハンジの言い分は勘違いか思い込みだ。
それなのに俺はどこかに棘が刺さったような気持ちと仕方ないと訳の分からない気持ちを持て余している自分に戸惑っているしかなかった。
その様子を興味深くハンジは観察しているが突然カズサは泣き出した。
ハンジがワタワタしている中、俺はハンカチを差し出す。
カズサは小さな声で震える手で「ありがとうございます」と言って受け取ると目元にあて涙がハンカチに染み込んでいく。
カズサの嗚咽が響く間、誰も何も言えなかった。
もし、もしだ。自分だけが意識ないまま、いきなりとんでもない時間を過ごしたんだと言われ、周りに家族も友人も誰もいない。
そんな状況に放り込まれたら。
俺ならどうする? いや想像すら出来ない。
本当なら一人でそっとしてやりたいが
躊躇いなく行動したカズサがもう一度そうしない保証はない。
特に家族が残した手記を読んだ後だ。
監視しても一歩遅れれば手遅れになる可能性だってある。
※※※
落ち着いてくれるだろうかと俺の気に入っている茶葉を使い紅茶を差し出すと
香りを纏った湯気に誘われたのか、カズサはやっと顔を上げた。
目を赤くしているが涙は止まったようだ。
紅茶を口にしても沈黙が続く。
「少し落ち着いた?」
ハンジが心配そうに訊ねるとまだ気持ちの整理は着いてないだろうと思っていたカズサはやはり小さな声で「はい」と答えた。
ハンジにしては気を使っているほうだが落ちついたか?と聞かれれば大体の人間はそう答えざる得ないだろうとハンジを心の中で殴っておく。
「一人、にしてほしいと言ってもだめですよね」
「あーっと。申し訳ないけど一人にはできない、けどここは広いからさ。貴女の視界にできるだけ入らないようにするのではだめかな?」
言いにくそうにカズサは俺達に訊ねる。
「今の状況と今後を考えたいのです」
「それは心配はいらない。リーベン家は君が目覚めた時の用意をしていたらしい。私達が望むのは君が良ければここの本の内容を私達にも教えて欲しい」
エルヴィンがそう言うとカズサはなにかを諦めたかのように微笑み、図書室を見渡す。
「ここにある本はどのような本でしょうか」
「たぶん主にリーベン家当主の手記とかだと思う。時代は違うけど兵法やら、当時の魔法とか、まあいろいろな感じ」
少し考えているのか一点を見つめると納得したように頷く。
それは俺達に向かってではない、空間に向かっての頷きだった。
「では言葉がわからない本もあるので、すべて、とはいきませんが順序よく読んでもいいですか。基本この場所で寝起きしたいです。もうバカな真似はしないと誓います」
カズサの言葉に嘘はないだろう。
しかしこの図書室は限られた者しか入れない。そこに一人にするのは躊躇う。
これに空気を読まずに歓喜したのがハンジだ。
おおかた難航していた解読についてのスピードアップが望め研究も進むからだろう。
興奮し喜色満面でカズサの手を包んでブンブンと振っている。
いきなりの奇行に目を見開きエルヴィンに助けを求める視線をおくる。
エルヴィンがハンジを諌めると反省したかのように手を放した。
俺じゃない、エルヴィンを頼った。
「じゃあさ!早速取り掛かる??あ、でも」
「寝ているのにも飽きましたし、これからすぐでも構いません」
自虐なのか苦笑いをすると椅子から立ち上がって次の本を読み始める。
ハンジによれば確かその後のリーベン家についてだ。
静かにページを捲るカズサの側でハンジが近すぎる距離でいちいち騒ぐ。
「おい、いい加減にしろ。そんな急かしても集中できねえだろ、ちったあ考えろ」
ぶーたれるハンジを図書室から放り出し部下のモブリットに連絡すると、思ったより早く到着したモブリットに引きずってでも連れて行け。というと慣れているのか首根っこを掴んで退場し一気に騒がしさが消えた。
それを見届けて俺が戻るとエルヴィンが組んだ両手に顎を置いて黙っている。
「さて。ハンジはいない。残念だが私もずっとここにいられるわけじゃない」
「俺がつく」
「そうもいかない。……では順番ということにするか。ハンジに暴走しないように釘を刺しておこう」
俺に話しかけているようだが、実際にはカズサに問いかけている。
途端にカズサは不安そうな顔でエルヴィンをみる。
「あの……できればハンジさんだけではだめ、でしょうか?」
戸惑う声で俺達は気がついた。今だって男女だけの密室に近いここにいるのはマズいだろ。
ましてやカズサが生きてきた時代の常識なら尚更だ。
「考えなしで申し訳なかった。私達も少々浮かれていたようだ。ただそうするとここで女性一人は心配だな」
「エルヴィン、もし本をここから持ち出せるならハンジをつきっきりにしなくてもいいんじゃないか?試しに持ち出してみるのはどうだ?」
試しになんていっているが俺は確信していた。カズサはできる。
カズサ以外は出来ない。
案の定、何の問題もなくカズサは何冊か図書室から持ち出すことができ、俺達がずっとついてなくてもいいことがわかった。
「驚いたな。それならずっと私達が側にいなくてもいい訳だ。同性ならナナバやペトラはどうだ?」
急に知らない名前が出てきたことで カズサが緊張しているのが手に取るようにわかるが二人とも人好きなタイプだ。
何かあればすぐに連絡出来るようにして俺の仕事も遠隔でこっちで出来るようにセッティングしておけばいい。
俺がいない間はエルドに臨時で任せることもできる。
「リヴァイ」
段取りを考えてるとエルヴィンが首を横に振る。
俺は何を?ついさっき、ナナバ達を付けるって話だろ。何で俺がここに留まる算段を?
「ハンジを遠ざけた理由をよく思い出せ。それはお前にも言える」
ちっ。思わず舌打ちすると意外に カズサが笑った。声をたてたわけじゃないが目覚めて初めて笑顔をみせた。
「変わらないものもあるんですね」
意味を尋ねても答えてはくれなかったが。
顔合わせは早いほうがいい。と俺もエルヴィンも意見が一致し早速二人にこちらへ呼び寄せた。
「初めまして。私はナナバ、こっちはペトラ。むさ苦しいのばっかりで大変だったね。その点、私達には気軽に接してほしい」
「初めまして、ペトラと言います!趣味はお菓子づくりなの!ティータイムは任せて!」
初めは警戒していたカズサも一時間弱で二人に慣れ始めてきたのか少しづつ会話をしている。
「大丈夫そうだな」
「ああ」
もちろん二人にはカズサについての詳細は話していない。そして二人も首を突っ込む真似はしない。
ただ、この屋敷の直系だがずっと海外にいたと前置きして、この屋敷の図書室にも入れるし古代語も読めるよう教育されている。と説明した。
おそらくすべてを信じてはいないだろうが知るべきことと知らずにいることを理解している。
もちろんカズサにも万が一、尋ねられたら、その様に答えてほしいと言い、その様にするとカズサも納得してくれた。
とりあえず三人の相性もいいことがわかり、後は任せる。とエルヴィンは先に出た。
俺はわかっちゃいるがなんとなく離れがたくて女同士のおしゃべりをBGMに紅茶を飲んでいた。
「早く出なよ。部屋割りも済んだし、また明日仕事を終わらせてからこっちに来たらいいだろ?」
いつまでも居座りそうだ、とナナバが
呆れた様子でため息をついている。
「紅茶を飲む時間くらいゆっくりさせろ」
「あのさ。そのカップ、もう空なんだけど?」
半ば追い出されるように屋敷から出され仕方なしに車に乗り、研究所へハンドルをきった。
※※※
研究所のスタッフフロアに到着するとハンジの叫びがここまで聞こえてくる。
あいつのとこは防音設備が必要だな。
モブリットやニファが必死になっている様子が目に浮かぶ。
俺の部屋に入れば長く留守にしていたわけでもないのに落ち着かず、とりあえず掃除でもするかと掃除セットを取り出し準備をしているとエルヴィンがドアを開けている。
「ノックしたんだが返事がなかったからまだ屋敷のいや、カズサのところにいるかと思ったぞ」
「仕事に戻れって言ったのはお前だろ、
それに俺もそろそろ仕事に戻る頃合いだったからな」
「掃除しようとしてるように見えるのは俺だけか?」
「いちいち人のやり方にまで口出すんじゃねえよ」
「だいぶ気がたっているようだな、そんなに気になるのか」
「何がだ。別に問題はない」
「そうか。それならいい」
妙な含みを持った言い方のエルヴィンはそのまま立ち去っていき掃除すらやる気をなくしそうになった。
せっかく準備したからには軽く掃除をしとくか。
気分を切り替えはたきで棚を掃除しているとドアが壊れる勢いで開いた。
こんなことするのは一人しかいない。
「ちょっと!リヴァイ!聞いてくれよ!!」
「黙れ。そして出ていけ」
ショックを受けたようなオーバーな態度で項垂れているがこいつの手に乗ってやる気はないし、そもそも話を聞いてやるつもりもない。
「ほんの少しでいいんだ、ね?」
何が「ね?」だ。面倒くさいにも程がある。
それに俺は今、掃除中なのに邪魔されてるばかりか、ハンジの靴底の汚れが床についている。腕を組んで顎で帰れと合図をしても泣き崩れた演技を続けるハンジを力ずくで追い出してやろうかと決めた時にガバっと顔だけを上げる。
一瞬の隙をついてこちらの事などお構いなしに勝手に話始める。
「私が追い出された後、カズサは大丈夫だった?エルヴィンからはナナバとペトラの三人で意気投合してた、って言ってたけど本当?ねぇ本当?」
こいつ、自分が仲間外れにされて捻くれてやがる。
「ああ、まともな同性で話しも盛り上がってたぞ。どっかの誰かみてぇな奇行に走ることもねぇし安心だな」
そんな。とがっくりしているがこの程度でめげるタマじゃない。
明日も仕事も放って朝食前に突撃しているだろう。
「はぁ、あなたに聞いたのが間違いだった。カズサがどんなに強気でいても突然、いろんなことが彼女に起こったんだ。せめて事情を知る私たちの一人でも残るべきだったんだよ~」
一理あるが、だからと言ってハンジに任せれば眠ることもできない。それに異性の俺たちがいても居心地が悪いだろう。
そう言うとハンジは勢いを失くし呆然としていると思ったが、急に真剣な表情になった。
「あのさ、確認したいんだけど」
「なんだ。早くしろ。お前に付き合ってるほどこっちは暇じゃねぇんだ」
「私たちと話している時とナナバたちと話している時に違いはなかった?」
「ねぇよ。むしろ楽しんでいたと思うが」
「そう。なら余計におかしいと思わないかい?」
「は?なんでそうなる。まどろっこしい言い方はやめろ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「今、カズサの事情を知って頼れるのは私たちのはずなんだ。そんな人間が一人もいない状況で、いくらナナバたちだとしても初めて会う相手だけで心細くないのはおかしいだろ」
言われてみればそうかも知らんが、見ている感じだと無理してる様子は感じられなかった。そう伝えるとハンジは頭を抱えて「だぁ~これだから気の利かない男ってのは!!」
こいつにだけは言われたくないセリフだ。
「エルヴィンに話したのか?」
「ああ、話はしたよ。よし!今から私が行くっ!」
「よせ、お前が行くくらいなら俺が行く」
それを聞いたハンジは真剣な顔で「あなただけじゃ行っちゃだめだ」と宣う。
「言い切る根拠はなんだ?」
「あなたがいる時、カズサはあなたと視線を合わさないのに気づいてないの?」
思い返せば確かに俺に素気ない気もするが俺と初対面の人間は大体そんなもんだ。カズサもそんなとこだろう。
そう言ってみるとハンジは「カズサからしたらあなたも私も同じなんだよ。それなのに目もできるだけ合わさない、会話しようとしない。私やエルヴィンとの違いは一体何だろうね」
ハンジの言い分を聞いているとまるで嫌われもんのようだが、嫌われる覚えもない。
「とにかく私が行くからあなたはエルヴィンを誤魔化しておいて。じゃ!」
言うだけ言ってハンジは飛び出していった。
ハンジの言い分は勘違いか思い込みだ。
それなのに俺はどこかに棘が刺さったような気持ちと仕方ないと訳の分からない気持ちを持て余している自分に戸惑っているしかなかった。