You know what.
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「ふぅ。待ち合わせから約2時間」
いつも通りなら、そろそろモブリットさんか、ハンジ本人から連絡が入るはず。
マナーモードのスマホが新着メッセージを通知する。
アイコンはハンジ。
はぁ。開く前から、なんとなく内容が分かる。
"ごめん!いま手が離せなくて、悪いけど今度の日曜にズラしてくれないかな?"
"わかった"
自由すぎるハンジにさすがにイラッときて、返す言葉も素っ気なくなる。でもハンジはごめん!と言いながら返事を見たあとには、そう気にしてないはず。
コーヒーと紅茶の香りが漂う空間からでる前に一人の男性が目についた。
それ自体は別に何も変じゃない。PC作業してる人はそこそこいるし、そのうちの一人。
ふっと男性が眼鏡を外して目頭を揉んだ。疲れてるんだろうな、位に思えたけど、それだけ。
──────────
「やぁ!先週はほんっとーにごめん!」
この言葉から始まったハンジの話は専門的なことが多くて私の頭まで良くなった気もするけど残念ながら分かってない。だんだんと相槌も重くなってくる。
「食事中に止めてくださいよ!」
モブリットさんが周りに気を使いながらハンジをたしなめている。
それはそう。ぼんやりと私の頭と同じようにうまく絡まないパスタを巻き直していると、ハンジが一段と大きな声を私の背後にかけた。一瞬私にかけられたのか!?と驚いたけど相手の落ち着いた、でも通りのいい声がして背後に誰かがいるのだ。とわかった。
「そう大きな声を出さなくても聞こえてるよ」
テーブルに近づいてきたのは長身の大柄な男性で……あれ?どこかで……
「エルヴィン!食事なら一緒に食べたらいいよ!ね、 カズサ!」
反射的にこくんと首を縦に振ると男性は少し困った顔をしてから「ハンジの友人のエルヴィン・スミスだ。初めまして。ここ、お邪魔するよ」と4人がけのテーブル、私の横に座ってメニューを眺めては注文をタップしている。
微かに香るコーヒーの香ばしい香り。
思い出した。先週のカフェで見かけた人、かもしれない。
オーダーし終えたのか、理知的な瞳が私を見ている。
「ハンジの友人のカズサです」慌てて伝えると、
にこやかな笑顔でこちらに「先週カフェにいたね」というのを耳聡くハンジが捉え、なに?なに?2人とも知り合いなの!?と騒ぐのをモブリットさんが強めに止めに入ってる。
エルヴィンさんは慣れっこなのか私に話しかけてきた。
「もしかして先週はハンジにすっぽかされたのかな?」
「顔に書いてあるよ」
なんで知ってるの?と急に恥ずかしくなってしまった。
そんなに顔に出るタイプだっただろうか?
「ああ、気を悪くしたなら、済まない。つい人を観察する癖ができててね」
「いえ、よく覚えてらしたな?と思っただけです。ハンジとお仕事は同じなんですか?」
カチャ。エルヴィンさんの目の前のクラブサンドにコーヒー。
がぶり。見た目に似合わず豪快な一口。
(クラブサンド、綺麗に食べるの大変じゃないのかな)
思わず見ていると目尻を下げたエルヴィンさんと視線があった。
「食べ方が気になったかな?」
「あ、いえ。ハンジとは仲良さそうだな、と思って 」
「ハンジとは同じ大学で働いてるけど専攻は違うよ。まあ、ハンジは有名なんだけどな」
納得した。きっと今みたいにアチコチで騒いでるけど決めるところは決めてるのだろう。
思わずクスリと笑う
「ところで カズサさんはハンジとは長い友人なのかな?」
─────────
(あれ?)
あれから1週間後、雰囲気が気に入ったハンジとお茶するはずのカフェによると見覚えのある金髪のエルヴィンさんがいた。PCとにらめっこしてるので、挨拶するべきか?とアイスチャイラテを手に悩んでいたら、あちらから声がかかった。
「やあ、 カズサさん。ここに座るとといい」
お仕事の邪魔じゃないですか?と聞けば、「ちょうど休憩しようと思ってたんだ」PCをパタンと閉じる。
なんだか申し訳ない気がしてきたけど勧められるままに腰を下ろすとニッコリと笑顔を向けられる。
「ここで カズサさんと会った。と言ったらハンジがズルい!と騒ぎそうだけど、会えて良かったよ」
「あ…私もびっくりしました。またここで会うとは思ってなかったので…」
「カズサさんは、ここによく来るのかい?私は最近からなんだけどね。行きつけの喫茶店が改装中なんだ。そろそろ営業開始するらしいが……」
ふむふむ。と聞いていると、エルヴィンさんの笑顔が深まった。
「もしよければ、今度行かないか?ここも悪くはないけど、あっちは飲み物も……特に紅茶は上手いし手の込んだスイーツもあるんだ」
「スイーツ!」
「はは。やっぱり女性は甘い物が好きだね。じゃあ、連絡先を交換しようか?詳しい日時はまたあとで」
「はい!」
……?これ、デート?まさかね。ハンジも……
「申し訳ないけどハンジは呼ばないでくれるかな?彼女が来るとややこしくなるからね」
ニコリ。さわやかな笑顔で意味深なのに断れなくて、気づいたらこくんと頷いていた。
──────────
ハンジが約束をなかなか守れないくらい忙しいのにエルヴィンさんは『3日後の15時頃はどうだろう?』と早い日程のメッセージを送ってきた。
ちょうど週末前で、さみしいことに一人で趣味のお菓子でも作ろうかな?なんて予定。
二つ返事で了承するとすぐにピンの刺されたマップが送られてきた。
『少し分かりづらいところだから、近くに来たら連絡してほしい』
『お気遣いありがとうございます!』
ピコン。翼でOK!と表現してるスタンプが返ってきて、本人とスタンプの違いに思わず笑ってしまった。
うん。迷った。
ピン通りのはずだけど、看板なんて見当たらない。
住宅地、に見える。
『……エルヴィンさん?カズサです。近くまで来てると思うんですが……』
5分もしないうちに少し大きめの路地からエルヴィンさんが出てきて、私がエルヴィンさんを認識する前にエルヴィンさんがこっちだよ。と手を振っている。
「すみません!」
「いや、こちらこそ迎えに行けば良かった。と思ってたんだ」
気まずそうに笑うエルヴィンさんに、いえいえ、と答えてると住宅地にしても少しレトロな建物のドアへ招かれた。
目を見回していると、シックな店内に鋭い目つきの男性がカウンター越しにあごをクイッとする。
その接客業と思えない態度に一歩後退ると背中がトンとエルヴィンさんの胸に当たった。
「お客さんにその態度は止めなさい。怖がってるじゃないか」
「は?どこがだ」
遠慮のないやりとりの中でスッとエスコートされたのはカウンター席で向こうの男性は悪びれせずポコポコと音を立てるサイフォンの様子をみている。
「すまないね、どうにも愛想がないが腕はたしかなんだ」
どう反応していいか、わからない時にコトン。とすっきりとした香りが立ちのぼる。
「紅茶が好きだと聞いた。ウバだと甘いものにも合う」
ぶっきらぼうな説明とは裏腹に目の前の紅茶は澄んだ水色。
「いただきます」
コクン。一口含めば、キレのある香りと力強い紅茶の味がする。
今まで飲んだ紅茶のなかで一番いい香り。
「言っただろう?この男は悪人顔だが腕がいいんだよ」
「黙ってろ」
フィっとカウンター後ろに行ったかと思えば手にはミルフィーユが乗ったお皿とカトラリーが目の前に並べられた。
ベリーソースがラインを描くミルフィーユは食べやすいように横に倒されている。
「リヴァイにしては丁寧な接客だな、カズサ、こちらはリヴァイ、リヴァイ、 カズサさんだ」
クツクツ笑うエルヴィンさんは自然で初めの疲れた顔よりも少年のような笑顔。
「他に必要なものがあれば言え。エルヴィン、お前の分はあとだ。後、あいつは来ないな?」
さっきよりも目力が強く感じられる。あいつ?
「今回はね。俺も今日は抜きにして静かに会話を愉しみたいからね」
もしかして……
「ハンジ?」
しまった。という顔のエルヴィンさんと苦虫を噛み潰した顔のリヴァイさん。
断ることを許さないような口調で淡々と一言だけ。
「あいつは出禁中だ」
それを受けて苦笑いのエルヴィンさん。
「少し説明するとね、ハンジがはしゃぎ過ぎてね。リヴァイは少し怒ってるんだよ」
なにかを思い出したかのように笑うエルヴィンさんと対照的なリヴァイさん。
話し方も態度も温度差があるようでいて、バランスが取れている感じ。目の前のミルフィーユを一口。パイを崩してしまった。きれいなパイが……
「手強いだろう?リヴァイはとても繊細に作るからね、俺もきれいに食べられたことがないんだ」
「余計なことを気にして食べるな。うまさは変わらないからな」
手にしたコーヒーカップを口にしてエルヴィンさんは今度は意地悪そうにしている。
ここに来てから、いろんな表情のエルヴィンさんがいて、口が悪くても細やかな接客のリヴァイさん。
2人のどこか飄々とした掛け合いに仲間に入れてもらって私もすっかりリラックスしたひとときを過ごした。
リヴァイさんにお礼を言って帰るために席を立つ。
「ハンジなしなら、いつでも来い」
ハンジは一体何をしたんだろう?と思いながら、近いうちに来ますね。ごちそうさまでした。と返すと口の端が少し上がったリヴァイさんが手をヒラヒラと振った。
「とても楽しかったです、リヴァイさんも初めはびっくりしましたけど話題も豊富で……今度はハンジも」
「それは、やめたほうがいいな。リヴァイを抑えるのとハンジを止めるのは骨が折れるよ」
「……皆さん、お付き合いは長いんですか?」
そうだな……大学を卒業してからか。と半ば独り言のように言うと、「時間が全てでもなくてね、気が合う。それだけでいいんだよ」
困った顔のエルヴィンさんの視線だけでドキっとしたのを、なんとか反らしたくて、ニッコリ笑って話をハンジのことに戻そうとすると、車道側へ移動したエルヴィンさんが一つウインクした。
「知ってるかい?俺はね……」
話しかけたエルヴィンさんの顔を見上げると、傾き始めた太陽の光がエルヴィンさんの髪色を柔らかく照らしている。
「君がね、ハンジといる時に笑っている顔をもっと見たいな。と思ったんだ」
え?
「今日2人になったのは、俺が君との時間が欲しかったからなんだ。嫌だったかい?」
「いや、じゃないです」
「そうか、また会ってくれるかな」
初めのつかれた顔でも、にじむ理知的な顔でもなく。リヴァイさんと冗談を言い合う少年のようでもなく。
ただ、そこには熱のある男性の瞳があった。
ソッと触れる指先がスルッと様子を見るように次第に絡んでいく。
「振りほどくなら、今だ。知ってるかい?俺は欲深いんだ」
「!」
「研究や仕事に没頭する毎日だった。だが……君の笑顔を見た瞬間、自分の世界がいかに色を失っていたかに気づかされたんだ」どこか揺れる声。
ぐっと距離が縮まり、彼の大きな手が、私の頬をそっと包み込む。
その手は少し震えていて、彼ほどの男が私一人にこれほど翻弄されているのだと伝わってくる。
夕日が影を近づける。
そして私は瞳を閉じた。
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