黒で塗りつぶしたキャンバス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもと変わらない、ディスコの夜。
私の目の前には、いつものようにリヴァイがいる。
私たちは、ここでは決して口にしない。
店の外で秘密のデートを重ねていることも。
何度も、何度も情熱的なキスを交わしたことも。
リヴァイが私のためだけに見せてくれた、あの激しい感情の昂ぶりも。
(好き……)
心の中でそう呟くたびに、胸の奥に冷たい風穴が開いたみたいにヒンヤリと冷えていく。
(……好き……)
でも、あの電話は一体何だったの? リヴァイは、私が電話したことが嬉しくなかったの?
——私からの電話は、ただの迷惑だったんだろうか。
自分でも何がしたいのか、どうしたいのかが、もう何も分からない。だから私は、一歩も動けなくなっていた。
以前の私は、こんな臆病な女じゃなかったはずだ。
邪魔な男には容赦ないキツイ言葉を投げつけて退け、無遠慮に伸ばされた手は冷たく振り払う。時には思わせぶりに微笑んでみせて、寄ってきた男をすげなく突き放す。ずっとそんな風に生きてきたのに……今の私はどうだろう。
たったひ言、「あの電話、迷惑だった?」というその言葉すら、どうしても口に出てこない。
不自然なほど明るく振る舞い、どうでもいい世間話を繰り出しては、目の前にいるリヴァイに相手をしてもらう。
リヴァイは呆れ顔を浮かべたり、時には鼻でフッと笑ったりしながら、ほんの少しだけ、あの無愛想な顔を柔らかく崩す。
彼が私に見せるその温度を「知らないふり」をするには、もう遅すぎた。
なのに、たった一言が喉の奥にへばりついて離れてくれない。
こんなにも弱くて意地汚い女なんて、私は知らない。
「 カズサ、今度はいつ会える?」
ふと、リヴァイが尋ねてくる。
「あ、ごめんね。その日の夜はちょっと……」
「そうか。気にするな」
気にしてるよ。気にしてるに決まってる。
リヴァイはどこに住んでいるの? 誕生日はいつ? 普段はどんな風に過ごしているの?
……知らない。血液型すら、家族構成だって。
私は、彼のことを何ひとつとして知らないのだ。
一体、私たちはどういう関係なの?
——何者でもない私が、リヴァイのプライベートに踏み込んじゃいけない。リヴァイが話さないのなら、私から聞いてもいけない。
だって私たちは、どこまでいっても"名前のない関係"なんだから。
リヴァイが最近好きになったという、紅茶の茶葉について話し始める。
今度買ってみるね。
そういえば紅茶のリキュールってあるよね、知ってる?
え? あれはまがい物?
じゃあロングアイランド・アイスティーは?
ちょっと待ってよ、リヴァイ、客にオーダーされたら普通に作ってるじゃない!
くだらない会話で場を繋ぐ。けれど、本当に聞きたいことは何一つ声にならない。
こんなことが聞きたいわけじゃないのに。
妹さん、元気?
リヴァイはお父さんとお母さん、どっちに似てるの?
そんな当たり前のことすら聞けないのに……。
あの電話、迷惑だった? 大丈夫だったの?
本当に問い詰めたい想いはすべて、冷えたスクリュードライバーと一緒に喉の奥へと飲み込んだ。
もう、あの甘くて危険なロングアイランドはいらない。