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何かが、絶対におかしい。
胸の奥に冷たい違和感が渦巻いているのに、私の心の天秤は、もう止めようもなくリヴァイへと大きく傾いていた。
(別れよう……)
最近、やたらと私に甘い言葉をかけてくる彼氏の顔を、頭の中でリヴァイの姿で上書きしていく。
別れよう。
こんな浮ついた気持ちで付き合い続けるなんて、もう無理だ。
だから、近いうちにちゃんと会って、顔を見て話そう。
きっと、「どうしてだ」「なんでなんだ」と詰問される。
……彼を傷つけ、悲しませる。
……でも、それはリヴァイのせいじゃない。
私自身のずるさを、私が許せないからだ。
彼氏を苦しめることになる。それでも……私の未来のためにも、彼のためにも、それが唯一の最適解なのだから。
━━━━━━
「リヴァイ、あのさ……」
「どうした?」
「なんでもない」
「は? おかしなやつだな」
「おかしいのは最初からだし」
「何、ふくれっ面してんだ?」
「なんでもなーい」
━━━━━━
ただ、声が聞きたかった。
それだけだった。
出会ったばかりの頃、まだリヴァイのことを何とも思っていなかった時に渡された、あのコースターを机の引き出しから取り出す。
……どうしよう。電話をかけてもいいのかな。迷惑にならないかな。
何度も引き出しから取り出しては、迷ってまた元に戻す。
私、一体何やってるんだろう。
でも、あと一歩が踏み出せない。
——それでも、ただ声が聞きたい。
家だと親や周りの邪魔が入るから。
小銭をしっかりと掌に握りしめ、近くの公衆電話へと向かう。急ぎ足で歩いているはずなのに、足取りは鉛のように重かった。
━━━━━━
プルルルル……、プルルルル……。
緑色の公衆電話で、受話器を握り直す。
汗ばんだ手の持ち手を左から右へと変えながら、受話器から流れる呼び出し音をじっと数える。
『はい、もしもし?』
……女性の、声だ。
「すみません……アッカーマンさんのお宅でしょうか……」
『 カズサか?』
電話口から、急に切り替わったリヴァイの低い声。
「うん……ごめん」
『悪い、また今度な』
ツーツーツー……。
返事を待たずに切れた、無機質な電子音。
受話器を握っていた掌は、じっとりと冷や汗をかいていた。
電話の向こう側で聞こえた、リヴァイの少し乱れた呼吸。
そして、何かを鈍く叩きつけるような、重い音。
どこかで聞き覚えのある、あの不吉な音。
(……リヴァイ? 彼は、一体何をしているの……? 大丈夫なの……?)
夏の終わり。秋を纏いはじめた風が、まだ生暖かく私の頬を通り過ぎていった。
何かが、致命的におかしい。
けれど根拠はまだぼんやりとしていて、手応えがない。
だから私は——見ないふりをした。