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あの日のリヴァイの姿と、彼に向かって大きく手を振っていた女性の笑顔。
フロアでどれだけ踊っても、どれだけお酒をあおっても、頭の中から一向に振り切ることができない。
「 カズサ、最近どうしたの? 何かあった?」
友人の問いかける声に、ハッと正気に戻る。
……あの日のことは忘れよう。
きっと、その方が楽だ。だから——。
━━━━━━
「よう、久しぶりだな。何飲むんだ?」
(どうして……? どうしてそんな顔をしてるの? なんで、そんなに平気な顔でいられるの?)
「ううん。さっき下で飲んできたから。今はいいや」
きっと、今の私は不自然でぎこちない笑顔を貼り付けている。
「何か……あったのか?」
低い声に、隠しきれない心配の色を乗せてくる。
あなたは? あなたには何があるの?
「なんにも」
嘘。本当は聞きたい。あのキスは? あの女性は? あの優しさは、一体何なの?
「おい、一体どうしたんだ?」
「あ、ちょっと仕事で疲れてたみたい。ごめん」
「あ! ここにいた! カズサ、ちょっと来てよ! 彼氏紹介するから!」
友人が弾んだ声で私を呼ぶ。
「マジで!? あの人だよね!!」
「そう! やっと付き合えるまでになったの〜。あ、良かったら カズサにも誰か紹介してもらおうよ!」
「えー!? そんな目の悪い男がいるの? いたら紹介して!」
タン、タン、タン、と階段を駆け下り、リヴァイのいる2階から離れていく。
1階から押し寄せてくる騒がしい重低音と、眩しく明滅する照明の光の中へ。
そう、ここが私のいる場所。
「 カズサ! こっちー!」
「あ、いた! ねぇ カズサ、あの人がさー……」
遠い。まるで私の中に、もう一人の私がいるみたいだ。
もう止めよう。ここが私の生きる場所なんだから。
間違えちゃダメ。だから……。
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「ねぇ、最近さ、 カズサノリ悪くない? ずっと2階にいるし。あの男絡み? ヤバっ!」
「前はもっとパリッとしてたのに、ガチなの?」
「いや、どうなんだろ。微妙なんだよね」
「でもさ、あの距離感、付き合ってるって言われても驚かないわ」
「なになに? 私がどうしたって?」
「別にー! 行こう、あっちの方行ってみようよ!」
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スタンドテーブルの上に置かれた、氷が溶け切って薄まったスクリュードライバー。絶対においしくない。なのに、私はそれを一気に飲み干した。
アルコールが足りない。ウォッカが足りない。
「お前、最近おかしくねぇか?」
カウンターのスタッフが首を傾げる。
「何が?」
「なんていうか……顔がキツくなってるぞ」
「あー。ちょっと疲れてて」
「マジか。なら飲め飲め、特製のロングアイ……」
「あ、ごめん。今はスクリュードライバーの気分なんだ。少しウォッカ多めで」
バラバラだ。自分の心が、どんどん分裂していく。
2階に上がってはリヴァイと話し、今度いつ会うか、時間をどうするかを約束する。
嬉しいはずなのに、胸の奥に冷たい違和感がへばりついて離れない。
「おい、 カズサ」
「なに? ごめん、聞いてなかった」
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夜の空気の中に、まだムシムシとした夏の終わりが残っていた。
公園のベンチで他愛ない会話に笑い合い、リヴァイが差し出してきたスキットルを苦笑いで断る。
「アルコール、本当は弱いんだ」
訝しげな視線を向けて、リヴァイはひと言だけ呟いた。
「そうか」
流れる、穏やかな時間。
別に、気にしなきゃいい。
本当に? 本当にそれでいいの?
近づいてくるリヴァイの顔を、私は目を閉じて待つ。
繰り返される唇の感触。頬に添えられた、彼の大きな手のひらの温もり。
これでいい。間違ってない。
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トンッ、と背中に軽い衝撃が走った。
「あ、すみません、大丈夫ですか?」
ボーッと歩いていた大通り。人も車も多い街中で、スーツを着崩した男が酒の匂いを撒き散らしながら立っていた。
男の口から吐き出されるのは、私を愚弄する身勝手な暴言。
大丈夫。いつものことだ。受け流せばいい。言いたいだけ言わせておけばいい——。
「…………」
……は? なに? 嘘でしょ、ちょっと何やってんの!?
目の前には、さっきまで威勢よく毒づいていた男と、その男に静かに、けれど逃れられない殺気を孕んで近づいていくリヴァイの姿があった。
一瞬で顔色を失い、威勢を無くしていく男。
待って、これ完全にマズい……!
「気にしてないから! 早く行こう!」
私はリヴァイのジャケットの上から、夢中でその腕を引っ張った。
グッと力が入っていたリヴァイの腕から、すっと緊張が緩むのが伝わってくる。
「……大丈夫だから」
怖くなんてなかった。
彼が腹を立てていたのは、私を愚弄したあの男にだ。
だから、目の前でブチギレているリヴァイの姿は、ちっとも怖くなかった。
むしろ——胸の奥が、熱く痺れるように愛おしかった。