毒と毒の競り合い
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私たちは、いつだってフリーパス。
どうしてかなんて知らない。
すっかり顔なじみになったセキュリティに目配せするだけでいい。
横のレーンでIDチェック待ちの軍人の視線を横目に 腹に響く爆音が聞こえるフロアへと滑り込む。
熱気と狂気が渦巻く、90年代。
そこに二十歳になったばかりの私たちは、知り合いの顔を見てハイタッチしながら、一階の陽気なバーテンダーに飲み物を頼む。
「よぉ!お前、本当に酔わないよな。いつものだろ?」
とっくに好みは把握されている。
見た目はただの紅茶なのに、ウォッカもジンもぶち込まれた最悪に強い酒——ロングアイランド・アイスティー。
今夜もスピリッツのサービス付きだ。
片手にグラスを持って、邪魔な奴らをひと言だけ鋭く強めの口調で蹴散らす。
「Move it!」
面白そうな顔をした男たちを尻目に空いてるソファ席に腰を下ろすと、何もしてないのに、もう喉が渇いた。
「ねえ!あの金髪の男、なかなか良くない?」
面食いな友人が、早速狙いを定めて小走りで駆けていく。
顔だけなんじゃない?——そんな私の呆れを置き去りにして。
踊る前から、これか。
少々、気が早くない?と思いながら軽いノリのスタッフに手を振れば、誰かの残したグラスを片付けながらニヤっと笑い返す。
ここは、まるで天国。
男も女も狂ったように踊り騒ぐ。
「Hey.girl!」
……うるさいな。呼んでないのにそばに寄るな。
鼻で笑って無視し続けると馴れ馴れしく肩に触れて気を引こうとする。
「Don't touch me. Back off!!」
やれやれ。とばかりに肩をすくめた男は次の獲物に狙いを定めて、すぐに離れていく。
ここは、そういう場所。
すぐに飲み込まれる女の子たちを観察してると踊りたいのか、男を引っ掛けにきてるのか、わからなくなる。
「あー。疲れた。マジで今日、ヤバくない?」
ドサリとだらしなく隣に座ったのは一つ上の親友。
「なにが?」
クイッと顎を向けた先には、もう出来上がってる友人が男に囲まれてるのが、ちらりと人混み越しに見える。
「さぁ?」
少し苦笑いしながら、彼女が本格的に嫌がってきたら、回収するか……と思ってたらスタッフが止めに入ったのが見えた。
「助けなくてもいいみたいね。あ、こっちに連れてくる。面倒くさいなぁ」
そう言いながら私の隣に人一人分空けた。
「ねぇー。見てたでしょ!助けてよね!」
クスクス笑いながら手がつけられてないグラスを彼女に渡すと、不満を飲み込むように気持ちがいいくらいの飲みっぷり。
「あのくらいならさ、なんとかできる。って信じてたから」
ヒラヒラと手を振ると
「あー。今日は失敗かな?とりあえず、あの人のとこに行ってくる!」
ついさっきまで困ってた顔の友人はまた風のように好きな男、目掛けて行く。
「悪い子じゃないけど、ちょっと警戒心とか……
気をつけたほうがいいと思うんだけど……いつか痛い目に遭いそう」
私も、そう思うよ。
そんな心の中の声はソッとしまって「まぁ、なんだかんだ言って帰ってくるって。今まで無事なんだからさ」
隣に戻ってきた親友に笑いかけると彼女は少し視線を落としながら「今夜……誘っても大丈夫だった?」
嫌な質問がきた。
大丈夫か、そうでないか。答えは決まってる。
大丈夫じゃないよ。……でも、そんな野暮なことはここで言えるはずない。
「問題ないよ。割と平和よ?」
心配も同情も、うっとうしい。
ホッとした顔の親友は別の友人に呼ばれる。
「 カズサ!行くよ!」
「はい、はい」
乗り気じゃない態度でついていく。
ここは、楽しい。ルールさえ守れば。
私のルールなんてきっと誰も知らない。
知らなくていい。
「喉渇いたからさ。 カズサがさっき飲んでたロングアイランド!」
「マジか?ぶっ倒れても知らねーぞ?カルアにしとけよ」
カウンターで割と冗談にならないオーダーをしてる友人に引きつってると、いつものバーテンダーがヘラリと笑いながら、カルアミルクを差し出す。
「あっち、大変みたいだけど?」
私が指さす先には、オーダーを無表情で
友人のオーダーしたロングアイランドに合わせて視線を寄越した?
「あいつなら、あのくらい問題ねぇよ。もうそろそろオーダー終わらせるだろうし、お前らにも顔見せしとかねぇとな」
悪巧みしてる顔で親友たちとケラケラと話続けてるのを、誰も手をつけてないカルアのグラスに口をつける。甘い。
シリアルにかけても美味しいかも。
盛り上がってる三人には、いつもの笑顔を見せながらボーっと何処ともなく眺めていた。
これが私たちの夜。
いつもと同じ、変わらない夜。