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意地しか、なかった。数週間、ずっと。
周囲からのどんなに冷たい視線だろうと、スタッフたちの冷ややかな態度だろうと関係ない。
"私"は、ここに遊びに来たのだから。
誰の許可もいらない。誰も私を止めることなんてできない。
……ルールさえ守ればいいんだ。
私は、絶対に二階へは行かない。
リヴァイと目を合わせない。話しかけない。
だから、ちゃんと守るから……。
光の洪水、空間を激しく揺らす重低音のなか、踊れ、騒げ。
私はここに帰ってきたんだ。
━━━━━━
「早く帰りゃいいのに」
「やりづら……」
「てかさ、よく来れたよな。マジで心臓強ぇよ」
フロアの陰から、スタッフたちのひそひそ話が聞こえてくる。
━━━━━━
「お。元気だったか? このトラブルメーカー」
「なりたくてなってないんだってば」
「で、何飲む?」
「……ロングアイランド以外で」
意外にも気さくに話しかけてきたのは、先ほどまで顔を固まらせていたノリの良いバーテンダーだった。リヴァイとは友人だと聞いていたけれど。
彼は何も聞いてこないし、余計なことも言わない。
そう。それが、この店のルールなんだから。
でも、本当に危険視されているのは私なの?
リヴァイはどうなの? 一階にやってきては、チラリとこちらに視線を送ってくるあの男は?
頭に浮かんだ疑問を、即座に打ち消す。心配する必要なんてない。
「お前はさー……」
ノリよくバーテンダーと話して笑っていた、まさにその時だった。
「露出してる女は嫌いだ」
背後から落とされた冷たい声に、頭の中でパキンと何かが砕ける音がした。
「あー……そう」
一瞬、見えたリヴァイの顔はショックを受けているように見えた。彼の手が私に向かって伸びかけようとしていたけれど、私はそれを振り切るように、すぐにカウンターから、彼から離れた。
居心地の悪い、重苦しい空気。
ノイズのように鼻につく甘い香水と、アルコールのツンとした匂い。
……もう、ここは私の場所じゃない。
ここはもう、いらない。
━━━━━━
「ちょっと、何なの!?」
「ここ(居酒屋)での仕事やめろよ! そうでなきゃ別れる!」
いいよ、別れよう。あともう一押し、背中を押してくれればいい。
「どこ見てんだよ!」
「どこも見てないよ」
「男と会ってたのを見たんだ!」
「会う男なんていないよ……!」
会うたびに言葉が噛み合わない彼氏。私を自分の所有物として束縛したいのか、居酒屋の早番が終わった後、常連グループと少し話しているだけで腕を力任せに引っ張り、引き離そうとしてくる。
「サフィール、約束してた食事のことなんだけど……」
常連客の誘いの声もなにもかも!
あっち行って! 私に関わらないで!
胸の奥がキュッと締め付けられ、冷や汗がダラダラと背中を伝う。
『サフィールさん、一ヶ月ほど仕事を休まれたほうがいいですね。診断書は要りますか?』
━━━━━━
はぁ……。
仕事に没頭して何も考えずにいられればいいと思ったのに、仕事でもプライベートでもごちゃごちゃとトラブルが重なって、もう全てにうんざりしていた。
プルルル、と鳴り響いた電話に出た瞬間、友人の怒声が耳を刺した。
「カズサ! あんたさ、自分の彼氏くらい手綱握っておきなよ!」
「え、何のこと……?」
「はぁ? あんたの彼氏、『人探しだ』ってフロントで大揉めしてさ! ついでに私らにまで『カズサはどこだ!』って詰め寄ってきたんだよ!? マジでウザいんだけど!」
「ごめん……私から言っとく」
(……あ、そういえば彼氏に、体調を崩して休むことを言ってなかったや……)
頭が重くて、思考がまとまらない。
━━━━━━
ピンポーン、と無機質なチャイムが響いた。
「カズサ、客だよ」
家族の冷めた声に促され、重い身体を引きずって玄関へ向かう。そこにいたのは居酒屋でしか会ってない常連客がいた。
「サフィール、体壊したって聞いたからさ。大丈夫? お見舞いに来たんだ」
——なんで? どうして私の家を知ってるの!? 家なんて一度も教えてないのに……!!
「あ、どうも……そろそろ復帰しますので。ありがとうございます」
パタンッ!
ドアを閉めた途端、震える手で鍵をガチャガチャと急いで掛けた。
何? どうして? もうやめて、お願いだから……!
私の周りも、日常も、私自身も——完全に崩壊していた。
周囲からのどんなに冷たい視線だろうと、スタッフたちの冷ややかな態度だろうと関係ない。
"私"は、ここに遊びに来たのだから。
誰の許可もいらない。誰も私を止めることなんてできない。
……ルールさえ守ればいいんだ。
私は、絶対に二階へは行かない。
リヴァイと目を合わせない。話しかけない。
だから、ちゃんと守るから……。
光の洪水、空間を激しく揺らす重低音のなか、踊れ、騒げ。
私はここに帰ってきたんだ。
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「早く帰りゃいいのに」
「やりづら……」
「てかさ、よく来れたよな。マジで心臓強ぇよ」
フロアの陰から、スタッフたちのひそひそ話が聞こえてくる。
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「お。元気だったか? このトラブルメーカー」
「なりたくてなってないんだってば」
「で、何飲む?」
「……ロングアイランド以外で」
意外にも気さくに話しかけてきたのは、先ほどまで顔を固まらせていたノリの良いバーテンダーだった。リヴァイとは友人だと聞いていたけれど。
彼は何も聞いてこないし、余計なことも言わない。
そう。それが、この店のルールなんだから。
でも、本当に危険視されているのは私なの?
リヴァイはどうなの? 一階にやってきては、チラリとこちらに視線を送ってくるあの男は?
頭に浮かんだ疑問を、即座に打ち消す。心配する必要なんてない。
「お前はさー……」
ノリよくバーテンダーと話して笑っていた、まさにその時だった。
「露出してる女は嫌いだ」
背後から落とされた冷たい声に、頭の中でパキンと何かが砕ける音がした。
「あー……そう」
一瞬、見えたリヴァイの顔はショックを受けているように見えた。彼の手が私に向かって伸びかけようとしていたけれど、私はそれを振り切るように、すぐにカウンターから、彼から離れた。
居心地の悪い、重苦しい空気。
ノイズのように鼻につく甘い香水と、アルコールのツンとした匂い。
……もう、ここは私の場所じゃない。
ここはもう、いらない。
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「ちょっと、何なの!?」
「ここ(居酒屋)での仕事やめろよ! そうでなきゃ別れる!」
いいよ、別れよう。あともう一押し、背中を押してくれればいい。
「どこ見てんだよ!」
「どこも見てないよ」
「男と会ってたのを見たんだ!」
「会う男なんていないよ……!」
会うたびに言葉が噛み合わない彼氏。私を自分の所有物として束縛したいのか、居酒屋の早番が終わった後、常連グループと少し話しているだけで腕を力任せに引っ張り、引き離そうとしてくる。
「サフィール、約束してた食事のことなんだけど……」
常連客の誘いの声もなにもかも!
あっち行って! 私に関わらないで!
胸の奥がキュッと締め付けられ、冷や汗がダラダラと背中を伝う。
『サフィールさん、一ヶ月ほど仕事を休まれたほうがいいですね。診断書は要りますか?』
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はぁ……。
仕事に没頭して何も考えずにいられればいいと思ったのに、仕事でもプライベートでもごちゃごちゃとトラブルが重なって、もう全てにうんざりしていた。
プルルル、と鳴り響いた電話に出た瞬間、友人の怒声が耳を刺した。
「カズサ! あんたさ、自分の彼氏くらい手綱握っておきなよ!」
「え、何のこと……?」
「はぁ? あんたの彼氏、『人探しだ』ってフロントで大揉めしてさ! ついでに私らにまで『カズサはどこだ!』って詰め寄ってきたんだよ!? マジでウザいんだけど!」
「ごめん……私から言っとく」
(……あ、そういえば彼氏に、体調を崩して休むことを言ってなかったや……)
頭が重くて、思考がまとまらない。
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ピンポーン、と無機質なチャイムが響いた。
「カズサ、客だよ」
家族の冷めた声に促され、重い身体を引きずって玄関へ向かう。そこにいたのは居酒屋でしか会ってない常連客がいた。
「サフィール、体壊したって聞いたからさ。大丈夫? お見舞いに来たんだ」
——なんで? どうして私の家を知ってるの!? 家なんて一度も教えてないのに……!!
「あ、どうも……そろそろ復帰しますので。ありがとうございます」
パタンッ!
ドアを閉めた途端、震える手で鍵をガチャガチャと急いで掛けた。
何? どうして? もうやめて、お願いだから……!
私の周りも、日常も、私自身も——完全に崩壊していた。