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「リヴァイ兵長ー!」
リヴァイ兵長の後ろ姿を見つけて声をかけるけど聞こえなかったのか振り向かない。
足を早めて近づき再度呼びかけてもドンドン距離が開いてしまうから廊下を駆け足で迫る。
「かわいい部下が呼んでるのに無視しないでくださいよ」
「どこにかわいい部下がいるのか教えてくれ。いや、いい。遠慮する」
「ここ、ここ!」
息を切らしながら自分を指差しながら足をとめない兵長にしっかりついていく。
「寝言はいいから、さっさと訓練にいけ。油売ってる場合か」
「残念でしたー!今日の訓練は終了してますよ〜」
ため息が聞こえたが気にしない。特別な日の話なのだ。ちゃんと約束しておかないと誰かに先を越されてしまう。
「毎年、毎年。お前は暇なのか」
「暇ではないです。最優先で忙しいです」
「意味がわからねえな」
バタンと無情にも閉じられた執務室のドア。
歩いているうちに着いてしまうとは。
「開けてくだーさい!大事な話があるんですー」
通りかかる人の目が集まっているが、気にならない。
それより目の前のドアが問題だ。
トントンと控えめにノックをしても返事ないドアの向こう側。 よし。気合入れて。
「兵長ー!開けてください!開けるまで居座りますからー」
ダン!
ドアの向こうから重い音がした。多分兵長が蹴った音だ。
「へーいーちょーってばー」
このドアが開いたとき、怖い顔の兵長から蹴りの一発、二発くらい食らう。その覚悟はできている。
さあ、来い!
「あー。なんと言うか。カズサ、君ってリヴァイに蹴られる趣味でもあるのかな?」
私よりも蹴られているハンジさんが呆れたように話しかけてくる。
「覚悟できてますし、ハンジさん邪魔です」
大げさに肩をすくめたハンジさんが私と一緒になって執務室のドアを叩く。
「リヴァイー開けてくれー!こっちは仕事だ、蹴るならカズサだけでいいからさー」
「えぇ?ウソ!」
二人でしつこくドアを叩いて兵長に呼びかけ続けるとドアが軽くなり鬼の形相をした兵長がいる。
「テメエら、さっきからうるせぇ……」
「お邪魔しますっ」
失礼は承知で兵長を押しのけ執務室へ入るとこ私に気をとられた隙にハンジさんも素早く入ってくる。
「やったね!」
「はい!ナイスアシストです!」
ハイタッチして執務室に入れたことを喜んでいると後頭部にパシンっと衝撃が走った。
「う、今日は叩かれた……」
「こっちは足が痛いよ。カズサ」
「お前ら、迷惑にもほどがあるぞ。もう一発食らったら少しはマシになるか?」
「いりません!」「いらない!」
ジリジリと迫ってくる鬼と距離を保ちながら諦めてくれるのを待つ。ま、本気出されたらどうしようもない。潔くこちらが諦めよう。
「ハンジ、その手にあるのは書類のようだが締め切り前だろうな」
「あ、うん。大丈夫、ここ置いておくから、ゆっくり、あとで」
ハンジさん。怪しすぎます。
胡散臭さ満載です。
案の定、出ていこうとするハンジさんの首根っこを捕まえた兵長は書類をそのまま確認し眉間にシワが深くなった瞬間、ハンジさんは呻きながら蹲っている。
「とっくに過ぎている」
「そうだっけ?おかしいな〜ついさっき届いて─」
「回したのは二週間前の日付になっている」
「え、うそ」
「馬鹿が、書類の上の部分に発行日が記載されてるだろう。脳だけじゃなく目まで腐ったか」
「それは、ねえ、置いてさ。──じゃ!」
入室した時よりずっと素早く出ていったハンジさんを呆然と見送っていると「クソが」渓谷のようなシワを寄せた兵長が振り返った。
「お茶淹れますので、そちらでお待ちください」
これ以上の状況悪化を防ぐため、丁寧に申し出るがそれで誤魔化されてくれるはずがない。
「あ’'?人の執務室に無理やり押し入ったクセに何を偉そうにしてんだ。お前は」
マズい。ハンジさん分の苛立ちが上乗せされてこっちに向けられている。
どうして一人で逃げたの!?ハンジさん!
「言い訳があるなら聞いてやる」
言葉にも声にも兵長の圧が滲んでいる。下手なことを言えば強烈なお叱りを……
そうだ。ちゃんと話があった。そもそもハンジさんと一緒にオチャラケて兵長を怒らせてる場合じゃなかった。
ジワリと背中を流れる冷や汗を感じながらもピシっと背筋を伸ばす。
「業務中失礼しました!本日は24日の前夜祭、25日の本祭りの件について──」
「出てけ」
「え?」
「速やかに出ていけ、いますぐだ」
襟元を捕まれ、追い出されそうになるが足に力を入れ踏ん張る。
「いい加減にしろ、カズサ」
ほんの少しだけ甘さを含んだ声が降りてくるけど、話もしないまま出ていくわけにはいかない。
「ちょっとでいいんです、話を聞いてください!」
「うざってぇ」と言いながらも追い出そうとする動きが止まった。
結構、案外、優しい兵長は部下を無下にしないのだ。
「一分だ。とっとと話せ」
「はい!さっきも言いましたが兵長のお誕生日を祝う許可をください、そして参加してください!」
息継ぎなしで一気に言い切ると目の前には脱力した兵長がいる。
「勝手にしろ。ただ俺は参加しない。誕生日なんて名目つけずに楽しめ」
うん。想定内の答え。
「いえ、兵長が参加することに意味があるんです!だから─」
ポイっとドアから投げ出された私は前のめりに倒れた。
その後ろからはバタンとドアが閉じる音が廊下に響く。
「くっ。今日も駄目か、よし、少し時間をおいて再突撃!」
「闘志に燃えてるとこ悪いんだけど、
カズサ。準備もあるんだろ?リヴァイと話すのは後にして準備から終わらせなよ」
ハンジさん。ずっといたんですか。
「置いてくなんてひどいです。ハンジさん」
「え、私のせい?いやいや、私の用件と
カズサの用件は別だし。あれ以上は私の生命に関わる」
「んー、それは困りますね。はあ。一時撤退します」
トボトボと擬音が似合う足取りで使用許可をもらった空き部屋に入れば、カラフルな紙で作った飾りに、誕生日を祝う言葉を大きく書いた横断幕、ツマミに、参加者リスト。
「おや、カズサどうしたのかな?」
穏やかな声が頭上から振ってくる。
「団長」
「せっかく部屋も用意したのに発案者の君が項垂れては準備も進まないだろう?」
「準備はみんなが頑張ったおかげでほぼ終わってまして、あとは主役の参加を取り付けるだけです」
「はは、それで君はふてくされてたのか。良ければ団長命令でも出そうか?」
ノリのいい声で団長が確実な解決案を出してくれるけど、それでは意味がないんだ。
ふるふると首を振れば団長は困った顔で笑いかけてくる。
「カズサ?どうして君はそこに拘っているんだ?無理強いは嫌なんだろう?ならリヴァイをダシにしないで楽しめばいい。ダシにされたと思うリヴァイの参加したくない気持ちもわかるよ」
「ダシにしたい訳ではなく、ただ兵長の誕生日を祝いたいだけなんです。今年は一緒に祝えます。でも来年、私も一緒に祝えるか、と思うと……兵長と一緒の思い出を一つでも増やしたい、ただの我儘です」
だんだん情けない声になる私の頭を団長の大きな手がポンポンと軽く叩く。
「健気で悲観的な恋人をもってリヴァイは幸せ者だな」
「兵長はウザいと思ってますし、いまは恋人なんて思ってませんね、忘れてるんです」
ククっと口を押さえて笑う団長を睨むと更におかしそうにしている。
「そう睨まないでくれ。そうだな、参加を求めるだけじゃなくて、いま話したことをそのまま話すといい。私なら嬉しくて首を縦に振るな」
穏やかな瞳で団長が私の手を取って立ち上がらせる。
「私の知っているカズサは、めげない強さを持っているはずだ。そのままリヴァイのところに行くと門前払いで困るなら私も協力しよう。どうだ?」
助力してくれる、でも団長のメリットはなんだろう?
私が差し出せるものはなに一つないんだけど。
「そう警戒する必要しなくていい。そうだな、私の親切心と私の誕生日も祝ってくれと言ったら信じるかい」
「兵長に団長の親切は絶対に信じるな、と忠告されています」
「ひどいな」と言いつつも嬉しそうな団長は掴みどころがない。
「リヴァイは色々な私を見ているからね、君には近づいてほしくないし、自分以外を信じてほしくないんだろうな。でも今回は下心もなにもない純粋な気持ちだよ」
すいません、私の知っている兵長と団長の言う兵長は同一人物でしょうか。
「カズサ、君が思っているよりリヴァイは君を大事にしてるよ。それなのに君にその姿は見せないように気を配っているんだ。要はカッコつけたいんだ。男としては理解できるし端から見ている分には面白いんだが、ちょっかいをかけたと思われると結構きついことになる独占欲と執着の強い男なんだ」
部屋に入って始めて団長の素の笑いを見せてくれたような気がしてホワッと笑うと団長が慌てて「これはセーフか?アウト、アウトだな」
ボソボソと呟いているが小さな声で聞き取れない。
「すいません。ちょっと聞きとれなくてもう一度お願いします」
「いや、大したことじゃない、気にしないでくれ」
煙に巻かれたが問いただすよりも兵長にどう伝えるかが頭の中で溢れている。
「ふむ、時間だな。カズサ、申し訳ないが私はここで失礼するよ。助けが必要なら団長室へきたらいい」
来た時と同じく爽やかな笑顔で出ていくとドアを閉める一瞬、ウィンクした。アワワ、すごく似合うというか、キザというか。モテるよね。計算づくなら怖い。
────
トントン。この叩き方はカズサだ。
懲りずにまた来たか、最近のカズサの行動は目に余る。
仕事とプライベートはきっちり分けると二人で決めたんだが。
「入れ」
「失礼、します」
今日も玉砕したばかりで、怒っている兵長に会うのはハードルが高い。だって嫌われたくない。しつこい、と一喝されるのは堪える。せっかく団長が背中を押してくれたんだから、もう一歩踏み出して、どうしても駄目なら別のアプローチにしよう。
「お前がこんなに意固地になってんだ、何か理由があるんだろ。そこに座れ。茶を淹れて来る。大人しくしてろ」
ほら。兵長はじっくりと話せる時間を作ってくれる。タイミングが合わないと怒って、その場では取り合ってくれないから迷惑かけないように気をつけないといけない。
兵長に甘えてばかりで恋人なんて名乗るのも烏滸がましいと馴れ馴れしく兵長に近づかないようにしているけど兵長はそんな面倒な私の変化を見逃さない。
「茶屋にいったら、女の好む香りと味だと勧められてな。口にあうといいんだが。ああ、砂糖とミルクはいれないほうが美味いらしい」
湯気のたつカップからは花のような香りがして、ミルクを入れたら別のものになりそう。
香りを楽しんでカップを傾け一口、喉を潤すと花の香りと甘みが広がる。
「美味しい」
こんなに美味しいのに上手く表現する語彙力がないのが悔しい。
「そうか、口にあったなら良かった」
話をしたいけど、せっかくの美味しいお茶を楽しんでからでも遅くはない。ゆっくりと味わっていると突然、兵長から切り出してきた。
「エルヴィンがカズサの話しをちゃんと聞いてやれ、って余計なことを言いにきた。お前、なにをエルヴィンと話してたんだ」
う。言葉に詰まってしまうが団長の助け舟。有り難い。
「エルヴィン団長は私を励ましてくれたんです」
途端に険しい表情と部屋の温度が冷えた感覚に団長の名前を出したのは失敗だったか。仕切り直しを考えていると兵長が不機嫌そうな声で続きを話してきた。
「エルヴィンがニヤついてカズサの話を真剣に聞いてやれ、カズサはかわいいな」余計なことを言ってきた。あいつが知っていて俺が知らないのはおかしいだろ。最初から最後まできっちり話せ」
カップをソーサーに戻して静かに戻して一呼吸おく。
「今回、兵長にしつこくお願いしていたのは、ただ騒ぎたいだけではなくて一番好きな人がこの世界に無事生まれてきた誕生日をお祝いしたくて。ううん、それだけじゃなくて今年は私は一緒にお祝いできるけど万が一、来年は一緒じゃないかもしれない。それでも最期に思い出せるように一緒にいた思い出を増やしたかった。そんな思い出をいっぱい欲しかったんです。いえ、本当は、本音は兵長を一人占めできないのはわかっています。でも今後いつか、私がいなくなったとして、兵長の誕生日、特別な日に私を思い出してくれるかもしれない。そんな下心が本音で本心です」
一旦、言葉にしてしまうと上手く言えず支離滅裂だ。
兵長の顔をまともにみれない。だって私のわがままを通そうと勝手な思いを押し付けている。
呆れられて、軽蔑される。今日でなにもかも終わりかもしれない。
シンと沈黙が広がる。その沈黙が痛くて逃げ出したくなる。
「お前が抱え込んでるもんは全部言えたか。ほかに一人で抱えて苦しんでることはないか?俺は知っての通りはっきり言ってくれねえとわからん。察してほしいと思っていても伝わらん。口があるんだ、不満や不安があれば隠すな。ましてや他の男に言うな。それくらいなら全部、その場で俺に叩きつけろ」
呆れられる、そう確信していた。
だから本当の気持ちを言ってしまったら止まらないし兵長と最後になりそうで表向きのきれいな理由で包んで説得したかった。
でもそんな私の浅知恵さえ、その奥に沈めた自分勝手も全部、受け止めるって言った、言ったの。
「私は自分本位で面倒で我儘で」
「カズサ。俺だってお前に言えない、見せられんダサいとこも汚えとこも、なんなら下心も人一倍ある。でもそれはカズサだからだ。自分は上辺はきれいに見せかけといてカズサに表も裏もきれいでいろ。なんて自分勝手の極みだろ、そっちのほうが不健全でおかしい」
なんて人タラシなんだろう。不安も恐れもスッと受けとめて昇華させてしまう。安心、してしまう。
「最近はお前がおかしなやり方でくるから冷たくしちまった。カズサ、来てくれ。カズサを補充したい」
「はい、私で、よければ」
「馬鹿、カズサだからいいんだ。忘れちまったか?」
グスグス鼻を鳴らしながら兵長の胸に抱きつくと優しく抱きしめ返してくれる。
「で、何だ。俺の誕生日会をしたかったんだな。もう用意万端なんだろ?俺がいても他の連中は気疲れしないかが心配だな」
「それは全然、大丈夫です!だって冬ですよ?ここに残っている人は大体わかるでしょう?」
冬には休暇があり、ほとんどの兵士は故郷や思い入れのある場所へ行くことが多く、兵舎に残るのは、同じメンツだったりする。
なぜかベテランの人が割と居残る。
そしてベテランに成ればなるほど、兵長への免疫は強い。
団長、ハンジさんが筆頭にミケさん達と普段ならそうそう、プライベートでは近づけなかったりする。
そのあたりを説明すると兵長は「変わり映えしないメンツだな」と苦笑いし、私がしまった!と思うと意地悪そうな笑顔を向けてきた。
「あいつら、ほぼ潰れる。残ったやつも無粋な真似はしない、か。いいじゃないか」
何が良いのか、分からないので聞いてみると要は早めに二人になれる。とのことだ。
うん?なんか違う。
「あの!私は兵長の!生まれてきて、ありがとう会をするんです!わかってます!?」
「ああ。十分過ぎるほどに理解している。俺の誕生日、だろ。なら俺がどうするか、楽しむかが優先されて良いと思わないか」
確かにそうなんだけど、え?
スタスタと歩き始めた兵長を追っていけば、準備に使ってる部屋の前で、引き留めようとするも無駄な抵抗だった。
「ほう。だいぶ力が入ってるじゃねえか。俺が手伝えることはあるか?」
「ない!です!どこの世界に主役が手伝う誕生日会がありますか!?いいから、大人しくしててください!」
フッと笑う兵長は振り返ると「楽しみだな」と額にキスをおとして戻っていった。
────
12月24日
「あー、どうなるかと心配だったけど、カズサの粘り勝ちだね」
「そりゃ、毎日リヴァイに突撃してたからね。いつキレるかヒヤヒヤした」
「いいじゃないか。ほとんどカズサが準備したんだ、リヴァイも嬉しいだろう」
「カズサ含め、居残り組でしょ」
「リヴァイが主役だろうとカズサと準備に関わった全員が主役だ」
「違いない」
「お、早速リヴァイがきた。かんぱーい!」
「お前ら、ありがとな。誕生日なんてのは年をくうだけの普段と変わらん日だと思ってたが、こうして祝われると嬉しいもんだ」
「ほら!主役は座って、飲め!」
「頼むからカズサに無理はさせるなよ。あとに差し障りがあると残念だからな」
「うわ、でた。本当はカズサが目当てだよね〜。このムッツリ」
「なんとでも言え。俺はいま気分がいい」
壇上に設置したひな壇の団長やミケさんたちが陽気に兵長に話しかけている。和やかで良かっ……
「気色悪いもん寄越すな、この巨人馬鹿が」
「力作になんてこと言うんだ!この巨人ちゃんぬいぐるみにどれだけ時間をかけたことかっ!ほら、ここなんかリアルだろう?!」
「お、なかなか良い酒じゃないか」
「ちょっとゲルガー!ビンごと飲むな!」
「まあ。こうなるよな」
「そうだな」
ベテランが暴走するのに焦れた兵長が私を強引に連れ出すまで、あと少し。
────
「ところでさ、あの二人いつから付き合ってたの?」
「えー。いつの間にかくっついてたんだよね」
「リヴァイにカズサは勿体なくないか?」
「それ、リヴァイの前では絶対言うなよ。恐ろしいことになるのは目に見えてるし馬に蹴られるのはごめんだ」
「我々はここで静かに飲んで他の兵士と親睦を深めるといい」
「カズサ、無事かなあ。今夜は前夜祭って言ってたけど明日一日中リヴァイが離さないよな」
「そしたら、ハンジ印の特製ドリンクを差し入れするさっ」
「やめて、ハンジ。碌なことにならないから」
────
「はあ、結構飲まされたな。カズサ、口直しの茶を淹れるから、寝るなよ」
「あれえ?兵長が二人います。分身ですか?便利ですねえ」
「おい。カズサ。寝るな、こっからが本番だろ…… クソ。寝ちまった。起きたら覚悟しておけよ。お預けくらったぶん手加減しねえからな」
夢のなかで兵長が笑って、髪を撫でて気持ちよくてずっと続けばいい。うん。最高。
「そろそろ、起きろ。十分、寝ただろう。ったく。お前が潰れてどうすんだ」
くすぐったくて、次第に目が覚めると朝になっていて、焦ると兵長がベッドで眠る私のすぐそばにいる。
12月25日
「頭、痛くないか?」
「あ、今は何日?」
「良かったな。25日の朝だ」
「あああー!25日になった瞬間にお祝い言いたかったのにー」
「加減知らずに飲むカズサが悪い」
「おっしゃるとおりです」
しょぼんとする私に兵長はグリグリと頭を撫で「まずは腹ごしらえだ」と食事を持ってくる。なんてこと。主役なのに。
「ほら、口開けろ」
ついでに餌付けされている。私がすると言っても譲ってくれない。
食事が終わると一旦、部屋に戻ってプレゼントの包みを渡す。
兵長は、その場で開くと私が厳選したマフラーと懐中時計が箱から出される。
「ほお、カズサにしては趣味のいいものを選んだな」
「それ、何気に失礼です」
「悪い、こういう時なんて言えばいいかがわからん。だが大切にする。来年も再来年も祝ってくれ」
「努力します」
「努力じゃ足んねえ。約束しろ」
「約束します」
「いい子だ。そんないい子にプレゼントがあるのを知ってたか?」
怪訝な顔で兵長を見つめると「着替えてこい」と意味不明な返事が返ってくる。深く尋ねず着替えて兵長の部屋に戻ると兵長は白のシャツ、黒のジャケットに黒のパンツをあわせ、温かそうなコートを着ている。
「よし行くぞ」
「はい?どこに行くんですか?」
「いいから」
行き先を知らずに着いて行くと、街一番の宝石店に入っていく。
その間、ずっと手はつないだままで、お店の恰幅のよく陽気な女将
さんが兵長をみると満開の笑顔で小さな袋を差し出し、兵長は黙って受け取る。
「用は済んだ。戻るぞ」
尋ねても一切説明せず、兵長の部屋にとんぼ帰りすると、いきなり兵長がひざまずく。驚いて立ち上がらせようとするもウンともスンとも動かない。
「なあ。カズサ。これを俺とお前の約束の印にしてくんねえか。指につけるのは無理かもしれないが鎖も用意してある。だから、いつも身につけてくれないか」
私の手を取って指にゆっくりと嵌めていく兵長はずっと私の顔をみている。
「ほら。お前の番だ」
差し出された少し大きめの指輪を兵長に震えながら嵌めていく。
「届けは追々だがな。虫除けもできる優れものだ」
足元が覚束ない私に貪るようなキスをしながら横抱きして私室のベッドにポヨンと降ろされると急に恥ずかしくなってジタバタする私に兵長は「諦めろ」掠れた声で耳元に囁く。
「言ったろ、覚悟しろってな」
私達の指にキラリと銀色が添えられた まま真夜中まで二人ベッドに沈んでいた。
来年も再来年もそれから先もずっと貴方とともに。
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