Halloween
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冬の準備をするように次第に風が冷たくなって木々も色を変えてきた頃、ハンジがモブリットを捕まえて大騒ぎしている声が執務室まで聞こえてくる。いつものことと我慢していたが徐々に近いてくる大声にたまらず扉を開き怒鳴った。
「おい、静かにしろ。迷惑だろうが!」
「あー!リヴァイ。聞いてくれよ〜」
ハンジの勢いにリヴァイは我慢出来ず扉を開けたことを早くも後悔した。
「ちょっとしたお祭りをしたいなあと思ってさ、君にもぜひ協力してほしいんだ〜」
ヘラヘラとしながらもスルッとリヴァイの横からすり抜け勝手に執務室へ入ってしまったハンジにうんざりしながら出ていけというも堪えた様子もなくソファに座って手招きしている。
この状態になると梃子でも動かないのは経験上わかっているので話すだけ話させてさっさと終わらせるほうがいいと判断した。
「手短にまとめて話せ。そして出てけ」
「もう。相変わらず無愛想だね。君は。今回はさ常日頃から頑張っている仲間の息抜きなんだよ!」
実験やらなんやらであれば、実力行使で追い出すが、仲間の息抜きと言われれば聞いてみてもいい。と向かい側に座る。
ニヤリと笑うハンジに早く言え。と急かしてみるとそう悪い話しではないな。とリヴァイも癪だが乗ることにした。
※※※
「みんな集まったかな。それでは今回のミッションを話そう」
整列した兵士は神妙な顔をしているが内心の嫌な予感を抑えられない表情で一段上の箱で話し始めたハンジに注目した。
「なあ。隣にリヴァイ兵長もいるから、大丈夫、だよな?」
「そうだと信じたいところだ……」
「では諸君。私は偶然だが古い文献にハロウィンというお祭りがあると見つけた。それで今日はまさにその日だ!」
ニンマリと笑うハンジに兵士たちは心持ち不安になりながらも身振り手振りで嬉しそうなハンジを見つめる。
「ハロウィンとは収穫際が主だとあったが、もうひとつの面がある。生者の世界に死者が遊びにくる。という内容だ。しかし死者に会えるのは一握りらしい。で、だ。会えないけども仲間たちに私たちは元気にしている、と知らせる為のイベントを考えてきた!」
首を傾げながら、何をするのかがわからないがここにいる者は全員参加らしい。
「まずひとつ目。兵舎内にこれと同じものをあちこちに隠した。それを多く見つけた人が優勝だ。もちろん賞品もある!」
黙っていた兵士もどんな賞品なのかと活気がでてくる。
「優勝者にはなんと!エルヴィンとミケ秘蔵の酒!もし飲めないなら王都で人気のかぼちゃパイ一年分だ!」
酒はほぼ男性が多い兵士たちの目の色を変えた。しかも団長秘蔵の酒とはどんな味だろうか?
「そして残念ながら一番成績が悪かった不運な人には一週間みっちりリヴァイの鍛錬をしてもらう。どっちも素敵な賞品だろ。さあ、十時開始だ。諸君の検討を祈る!!」
ざわざわとする兵士のなかで酒に目がないゲルガーが最初に走り出し、ダッと他の者たちも走り出した。
「あいつら……現金すぎるだろ」
「まあまあ。競争なら張り切るだろ?」
微笑まし気にエルヴィンとミケが笑い、執務に戻ると会場を離れた。
※※※
終了時刻になり、それぞれ集めたかぼちゃのミニチュアを籠を手に数えてみると圧倒的な数でゲルガーがぶっちぎりの一位だった。
「いくら酒だからといってもさ、この場合は譲るだろ」
呆れた様子のナナバが溢すがゲルガーは勝負はいつだって真剣だろうが!と聞く耳をもたない。
「みんな、お疲れ様!じゃあ、優勝者のゲルガーに秘蔵の酒を贈ろう。後でゲルガーから奪い取ってくれ!そして。残念で気の毒な運のない人……おや。エレン。君か」
真っ青な顔色で立ち尽くしているエレンにハンジは「おめでとう、これが君の運命だね」
さして残念そうでもなくハンジが宣告する。
「一週間覚悟しておけ」
無表情でリヴァイがエレンに言うと更にエレンの顔色は悪くなっている。
「さて。次の試練だ!」
皆が試練、とは?と嫌な予感を抱いているなか、飄々とハンジが続ける。
「立体機動装置は万全だね。これから、私、リヴァイ、エルヴィン、ミケの四人が参加する。みんなはとにかく逃げてくれ。最後まで残った幸運な人にはマリアの有名な温泉へのチケットだ。効能は疲労回復らしい。うんっと羽を伸ばして欲しい。そして……鍛錬不足な下位十名には三日間、リヴァイの元で掃除、だ!!」
最後を聞いた兵士たちがわかりやすく動揺する。
「なんで俺がババみたいな扱いなのか、あとでじっくり聞いてやるぞ」
壇上のハンジを睨みつけたがどこ吹く風のハンジはウィンクしてみせた。
「エルヴィンたちを連れてきたかい?」
「ああ、こちらも準備万端だ」
モブリットがそれぞれの執務室から連れてきた二人も楽しそうだ。
「ハンデとして私たちは十五分後に始める。みんなはいまから始めよう!」
慌てて走り出す兵士たちを横目にハンジ含めの四人は時計をみている。
「さて。一位は誰だと思う?」
「エルヴィン。お前までこれに乗っかるのか」
「私とミケの秘蔵酒がなくなったんだ。少しくらいいいだろう?」
ミケが頷く横でニシシとハンジが笑う。
※※※
「よーし。タイムアップだ。集合!」
見るも無惨な兵士たちは息を切らし地面に座り込んでいる。
「さてさて。今回の成績優勝者はおっと。ナナバか。面白くないなあ」
あからさまな言い分だがナナバの顔は涼しい。
「う〜ん。それでは下位は……うん。ここで真っ白な顔色の十人!!あ、エレン、また君か。お祓いにいったほうが良いんじゃないか?」
ハンジの考えたお祭りが無事終了、片付けを済ますと食堂で飲めや歌えやの馬鹿騒ぎにうつった。
「お前にしてはなかなかいい考えだったな」
「でしょ!もっと褒めてもいいんだよ!!」
得意げなハンジにエルヴィン、ミケ、リヴァイは苦笑いし、みんなの元へ行き、一緒に飲んでいる。
「リヴァイも部屋に帰るのかい?」
「まだ急ぎの仕事が残っているのと、上官の俺がいると羽目を外せないだろうからな」
「全く融通のきかない男たちだなぁ。ま、いっか!」
兵士たちの中にハンジが突撃していくのを見送りモブリットに見張っておけとリヴァイが声をかけようとするがすでに飲みに飲んでいた。
※※※
執務室まで微かに騒ぎの声が聞こえ、いつもなら注意するが今日だけは見逃しておこう。と書類仕事を捌き終えると椅子の背にもたれ、仮眠をとることにした。
ウトウトと微睡みはじめていると窓にかけているカーテンがそよそよと揺れ、一気にリヴァイの目は覚めた。
「誰だ」
警戒しながら誰何するが気配はしない。窓から離れ懐のナイフを握るとカーテンをすり抜け、女が出てきた。
『さすが兵長ですね』
柔らかい声はリヴァイが忘れないように何度も思い返し続けた声。
だけど二度と聞くはずのない声。
「なんだ。仮装なら趣味が悪いにもほどがある」
突然現れた女に嫌悪と警戒を示していると女は気にせずリヴァイに近づく。
揺らめく灯火に照らされ、女の姿がはっきり確認できるまで近づく。
『そのナイフを仕舞っていただけると、いや大丈夫か』
ナイフを握りしめながら女を見つめるリヴァイはあり得ない光景に息を飲んだ。
「カズサ、か?」
にっこりと穏やかな顔がうなずく。
「お、前はもう」
『はい。そうです。でもちょっと遊びにきちゃいました』
変わらない笑顔と仕草でカズサは一定の距離を保っている。
『すみません。驚かせて。今日はこっちに来てもいい日なので』
笑顔で説明するカズサにリヴァイは一歩ずつ距離を近づける。
「なんで、だ」
『いつも見守っていましたよ。でも最近は元気がないのが心配で』
にわかに信じられないが目の前のカズサはリヴァイが会いたくて 会いたくて仕方なく眠れない夜に記憶を思い起こさせる女だった。
「恨んでいるか?」
カズサは両手を振る。
『まさか!そんなことはないですよ。気にし過ぎです』
「天国とやらにいけねえのか」
『天国とはちょっと違うんですけど。みんな心配しているんです。と言ってもだいたいは家族の側に行ったんですけどね』
バツが悪そうに答えるカズサは頬をかく。
「会いたいと思う時には夢にも出てきやがらねえ」
『だって、死者ですよ?生者の邪魔はしちゃいけないから……』
「さっき、今日は。と言っていたな。今日だけなのか」
『そうです。すいません。ほんとは姿を見せるつもりはなかったんですが、私も兵長に会いたくなっちゃって。あ、消えろというなら消えます!』
「バカか、俺が会いたがってる時は来ねえくせに。びっくりしただろうが。今日だけじゃなく、ずっといらねぇのか?」
悲しそうな顔でカズサはリヴァイを見つめる。
『ごめんなさい。今日だけなんです。今日だけは見逃してくれる、そんな日なんです』
腑に落ちない。見逃す。誰がだ。
それに気づいたようにカズサは続ける。
『ほら、ハンジさんも言ってたじゃないですか。今日だけは死者と生者の境目が薄くなる日なんです。だからいつでも、というわけにもいかないんです。誰でしょうね?境目を薄めてるのは。私たちも知らないんです』
「そうか」
正気を失ってるのかと思いつつも、それよりなによりカズサがいる。夢でもなんでもいい。深く考えることを放棄した。
『今も椅子で寝てるんですね。疲れが取れないのでちゃんとベッドで寝てください、って口うるさく言ってたの忘れちゃいましたか?』
「ベッドだと落ち着かねぇんだよ」
『困った人ですね〜』
「なあ、カズサ。お前は今日だけと言ってたが、来年も再来年も来てくれるか」
どこか寂しそうなカズサは、はい。ともいいえ。とも答えない。
「駄目か?」
『あんまり来ちゃうと逆に兵長を惑わせてしまうので約束しません。でももしかしたら……いつか。それでよりも兵長が天寿をまっとうしたその時は絶対に私がお迎えに来ます。あ、できれば老衰でお願いします。そして幸せなお土産話を聞かせてほしい。そうじゃなきゃお迎えに来ませんから』
「随分と勝手を言いやがる」
『だって、すぐ会えたら感動の再会にならないじゃないですか』
ふくれっ面でカズサが言う。それが懐かしく恋しくリヴァイの胸を温かくする。
「お前がいられるのは今日だけと言ってたな。なら、カズサ。頼むから抱きしめさせてくれ」
今度は困ったように眉を八の字にカズサは答える。
『肉体がないのですり抜けちゃいます。それでもいい、ですか?』
「構わねぇ。少しでも近くにいたい」
『この人、いつからそんな殺し文句を覚えてきたんでしょうね』
「お前と会ってからだ。あの時はうまく言えなかった。いやになるくらい言っとけばよかったな」
『兵長だからなあ。じゃ来てください』
カズサの側にできるだけ寄る。いつかの、そうカズサのぬくもりが当たり前だったのに今はぬくもりも抱きしめる感触も感じられない。それでも、それでも。カズサに会えた瞬間が愛おしい。
「できるなら……会いにきてくれ。お前の声から失っていくんだ。忘れたくない。だから会いにきてくれ。思い出させてくれ」
『わがまま』
「カズサにしか言わない」
『生きてる人は死者を悼んでも引きづって生きてはいけないんです、幸せを目指して兵長から会いにきてください』
「迎えに来るんじゃねぇのか」
『そうでした』
クスクスと笑うカズサの姿を声が遠くにいかないようリヴァイはカズサを見つめ、聞き逃さないようにカズサだけに意識を向ける。
「兵長なんて他人行儀な呼び方はやめろ。名前で呼んでくれ」
『──リヴァイ』
「もう一度」
『リヴァイ』
「カズサ、カズサ」
『気が変わりました。来年また来ます。──だから泣かないで』
ぽたりと雫が床に落ちる。
「約束だ。でもまずは今日が終わるまで側にいてくれ」
『はい。喜んで』
「待ち遠しい、な」
『そう言われると日付変わるまでいたくなるじゃない』
「いろ、側に今日だけでもいいからくれ」
『はい。だから、まずはその隈をなんとかしましょう?』
スーッと寝室へカズサが向かう。
『ベッドに横になって』
「消えるなよ」
『はい、います。約束です』
ベッドに向かい合わせに、リヴァイとカズサは時間が許す限り、側にいた。
ボーン、ボーン。壁掛け時計が鳴る。
『そろそろ行かなきゃ』
そう言いながらもカズサリヴァイからリヴァイはカズサと離れようとしない。
チリン、チリン、チリン
どこからか澄んだ音が聞こえてきた。
『無粋だなぁ。催促されました』
「カズサ、待ってる。だから約束違えるな」
『はい、ちゃんと守ります。嘘言ったことないでしょう?』
「先に逝くなって言っただろ、なのに逝っちまっただろうが」
カズサはアワアワしながらリヴァイの耳に顔を寄せた。
『約束は守るし、もう嘘はつきません』
凛とした音が消えると同時にカズサの姿は消えた。
「今度はもっと早めに来い。色々と足りないだろうが」
リヴァイは呟いた思いは夜の静寂にとけ込んだ。
「おい、静かにしろ。迷惑だろうが!」
「あー!リヴァイ。聞いてくれよ〜」
ハンジの勢いにリヴァイは我慢出来ず扉を開けたことを早くも後悔した。
「ちょっとしたお祭りをしたいなあと思ってさ、君にもぜひ協力してほしいんだ〜」
ヘラヘラとしながらもスルッとリヴァイの横からすり抜け勝手に執務室へ入ってしまったハンジにうんざりしながら出ていけというも堪えた様子もなくソファに座って手招きしている。
この状態になると梃子でも動かないのは経験上わかっているので話すだけ話させてさっさと終わらせるほうがいいと判断した。
「手短にまとめて話せ。そして出てけ」
「もう。相変わらず無愛想だね。君は。今回はさ常日頃から頑張っている仲間の息抜きなんだよ!」
実験やらなんやらであれば、実力行使で追い出すが、仲間の息抜きと言われれば聞いてみてもいい。と向かい側に座る。
ニヤリと笑うハンジに早く言え。と急かしてみるとそう悪い話しではないな。とリヴァイも癪だが乗ることにした。
※※※
「みんな集まったかな。それでは今回のミッションを話そう」
整列した兵士は神妙な顔をしているが内心の嫌な予感を抑えられない表情で一段上の箱で話し始めたハンジに注目した。
「なあ。隣にリヴァイ兵長もいるから、大丈夫、だよな?」
「そうだと信じたいところだ……」
「では諸君。私は偶然だが古い文献にハロウィンというお祭りがあると見つけた。それで今日はまさにその日だ!」
ニンマリと笑うハンジに兵士たちは心持ち不安になりながらも身振り手振りで嬉しそうなハンジを見つめる。
「ハロウィンとは収穫際が主だとあったが、もうひとつの面がある。生者の世界に死者が遊びにくる。という内容だ。しかし死者に会えるのは一握りらしい。で、だ。会えないけども仲間たちに私たちは元気にしている、と知らせる為のイベントを考えてきた!」
首を傾げながら、何をするのかがわからないがここにいる者は全員参加らしい。
「まずひとつ目。兵舎内にこれと同じものをあちこちに隠した。それを多く見つけた人が優勝だ。もちろん賞品もある!」
黙っていた兵士もどんな賞品なのかと活気がでてくる。
「優勝者にはなんと!エルヴィンとミケ秘蔵の酒!もし飲めないなら王都で人気のかぼちゃパイ一年分だ!」
酒はほぼ男性が多い兵士たちの目の色を変えた。しかも団長秘蔵の酒とはどんな味だろうか?
「そして残念ながら一番成績が悪かった不運な人には一週間みっちりリヴァイの鍛錬をしてもらう。どっちも素敵な賞品だろ。さあ、十時開始だ。諸君の検討を祈る!!」
ざわざわとする兵士のなかで酒に目がないゲルガーが最初に走り出し、ダッと他の者たちも走り出した。
「あいつら……現金すぎるだろ」
「まあまあ。競争なら張り切るだろ?」
微笑まし気にエルヴィンとミケが笑い、執務に戻ると会場を離れた。
※※※
終了時刻になり、それぞれ集めたかぼちゃのミニチュアを籠を手に数えてみると圧倒的な数でゲルガーがぶっちぎりの一位だった。
「いくら酒だからといってもさ、この場合は譲るだろ」
呆れた様子のナナバが溢すがゲルガーは勝負はいつだって真剣だろうが!と聞く耳をもたない。
「みんな、お疲れ様!じゃあ、優勝者のゲルガーに秘蔵の酒を贈ろう。後でゲルガーから奪い取ってくれ!そして。残念で気の毒な運のない人……おや。エレン。君か」
真っ青な顔色で立ち尽くしているエレンにハンジは「おめでとう、これが君の運命だね」
さして残念そうでもなくハンジが宣告する。
「一週間覚悟しておけ」
無表情でリヴァイがエレンに言うと更にエレンの顔色は悪くなっている。
「さて。次の試練だ!」
皆が試練、とは?と嫌な予感を抱いているなか、飄々とハンジが続ける。
「立体機動装置は万全だね。これから、私、リヴァイ、エルヴィン、ミケの四人が参加する。みんなはとにかく逃げてくれ。最後まで残った幸運な人にはマリアの有名な温泉へのチケットだ。効能は疲労回復らしい。うんっと羽を伸ばして欲しい。そして……鍛錬不足な下位十名には三日間、リヴァイの元で掃除、だ!!」
最後を聞いた兵士たちがわかりやすく動揺する。
「なんで俺がババみたいな扱いなのか、あとでじっくり聞いてやるぞ」
壇上のハンジを睨みつけたがどこ吹く風のハンジはウィンクしてみせた。
「エルヴィンたちを連れてきたかい?」
「ああ、こちらも準備万端だ」
モブリットがそれぞれの執務室から連れてきた二人も楽しそうだ。
「ハンデとして私たちは十五分後に始める。みんなはいまから始めよう!」
慌てて走り出す兵士たちを横目にハンジ含めの四人は時計をみている。
「さて。一位は誰だと思う?」
「エルヴィン。お前までこれに乗っかるのか」
「私とミケの秘蔵酒がなくなったんだ。少しくらいいいだろう?」
ミケが頷く横でニシシとハンジが笑う。
※※※
「よーし。タイムアップだ。集合!」
見るも無惨な兵士たちは息を切らし地面に座り込んでいる。
「さてさて。今回の成績優勝者はおっと。ナナバか。面白くないなあ」
あからさまな言い分だがナナバの顔は涼しい。
「う〜ん。それでは下位は……うん。ここで真っ白な顔色の十人!!あ、エレン、また君か。お祓いにいったほうが良いんじゃないか?」
ハンジの考えたお祭りが無事終了、片付けを済ますと食堂で飲めや歌えやの馬鹿騒ぎにうつった。
「お前にしてはなかなかいい考えだったな」
「でしょ!もっと褒めてもいいんだよ!!」
得意げなハンジにエルヴィン、ミケ、リヴァイは苦笑いし、みんなの元へ行き、一緒に飲んでいる。
「リヴァイも部屋に帰るのかい?」
「まだ急ぎの仕事が残っているのと、上官の俺がいると羽目を外せないだろうからな」
「全く融通のきかない男たちだなぁ。ま、いっか!」
兵士たちの中にハンジが突撃していくのを見送りモブリットに見張っておけとリヴァイが声をかけようとするがすでに飲みに飲んでいた。
※※※
執務室まで微かに騒ぎの声が聞こえ、いつもなら注意するが今日だけは見逃しておこう。と書類仕事を捌き終えると椅子の背にもたれ、仮眠をとることにした。
ウトウトと微睡みはじめていると窓にかけているカーテンがそよそよと揺れ、一気にリヴァイの目は覚めた。
「誰だ」
警戒しながら誰何するが気配はしない。窓から離れ懐のナイフを握るとカーテンをすり抜け、女が出てきた。
『さすが兵長ですね』
柔らかい声はリヴァイが忘れないように何度も思い返し続けた声。
だけど二度と聞くはずのない声。
「なんだ。仮装なら趣味が悪いにもほどがある」
突然現れた女に嫌悪と警戒を示していると女は気にせずリヴァイに近づく。
揺らめく灯火に照らされ、女の姿がはっきり確認できるまで近づく。
『そのナイフを仕舞っていただけると、いや大丈夫か』
ナイフを握りしめながら女を見つめるリヴァイはあり得ない光景に息を飲んだ。
「カズサ、か?」
にっこりと穏やかな顔がうなずく。
「お、前はもう」
『はい。そうです。でもちょっと遊びにきちゃいました』
変わらない笑顔と仕草でカズサは一定の距離を保っている。
『すみません。驚かせて。今日はこっちに来てもいい日なので』
笑顔で説明するカズサにリヴァイは一歩ずつ距離を近づける。
「なんで、だ」
『いつも見守っていましたよ。でも最近は元気がないのが心配で』
にわかに信じられないが目の前のカズサはリヴァイが会いたくて 会いたくて仕方なく眠れない夜に記憶を思い起こさせる女だった。
「恨んでいるか?」
カズサは両手を振る。
『まさか!そんなことはないですよ。気にし過ぎです』
「天国とやらにいけねえのか」
『天国とはちょっと違うんですけど。みんな心配しているんです。と言ってもだいたいは家族の側に行ったんですけどね』
バツが悪そうに答えるカズサは頬をかく。
「会いたいと思う時には夢にも出てきやがらねえ」
『だって、死者ですよ?生者の邪魔はしちゃいけないから……』
「さっき、今日は。と言っていたな。今日だけなのか」
『そうです。すいません。ほんとは姿を見せるつもりはなかったんですが、私も兵長に会いたくなっちゃって。あ、消えろというなら消えます!』
「バカか、俺が会いたがってる時は来ねえくせに。びっくりしただろうが。今日だけじゃなく、ずっといらねぇのか?」
悲しそうな顔でカズサはリヴァイを見つめる。
『ごめんなさい。今日だけなんです。今日だけは見逃してくれる、そんな日なんです』
腑に落ちない。見逃す。誰がだ。
それに気づいたようにカズサは続ける。
『ほら、ハンジさんも言ってたじゃないですか。今日だけは死者と生者の境目が薄くなる日なんです。だからいつでも、というわけにもいかないんです。誰でしょうね?境目を薄めてるのは。私たちも知らないんです』
「そうか」
正気を失ってるのかと思いつつも、それよりなによりカズサがいる。夢でもなんでもいい。深く考えることを放棄した。
『今も椅子で寝てるんですね。疲れが取れないのでちゃんとベッドで寝てください、って口うるさく言ってたの忘れちゃいましたか?』
「ベッドだと落ち着かねぇんだよ」
『困った人ですね〜』
「なあ、カズサ。お前は今日だけと言ってたが、来年も再来年も来てくれるか」
どこか寂しそうなカズサは、はい。ともいいえ。とも答えない。
「駄目か?」
『あんまり来ちゃうと逆に兵長を惑わせてしまうので約束しません。でももしかしたら……いつか。それでよりも兵長が天寿をまっとうしたその時は絶対に私がお迎えに来ます。あ、できれば老衰でお願いします。そして幸せなお土産話を聞かせてほしい。そうじゃなきゃお迎えに来ませんから』
「随分と勝手を言いやがる」
『だって、すぐ会えたら感動の再会にならないじゃないですか』
ふくれっ面でカズサが言う。それが懐かしく恋しくリヴァイの胸を温かくする。
「お前がいられるのは今日だけと言ってたな。なら、カズサ。頼むから抱きしめさせてくれ」
今度は困ったように眉を八の字にカズサは答える。
『肉体がないのですり抜けちゃいます。それでもいい、ですか?』
「構わねぇ。少しでも近くにいたい」
『この人、いつからそんな殺し文句を覚えてきたんでしょうね』
「お前と会ってからだ。あの時はうまく言えなかった。いやになるくらい言っとけばよかったな」
『兵長だからなあ。じゃ来てください』
カズサの側にできるだけ寄る。いつかの、そうカズサのぬくもりが当たり前だったのに今はぬくもりも抱きしめる感触も感じられない。それでも、それでも。カズサに会えた瞬間が愛おしい。
「できるなら……会いにきてくれ。お前の声から失っていくんだ。忘れたくない。だから会いにきてくれ。思い出させてくれ」
『わがまま』
「カズサにしか言わない」
『生きてる人は死者を悼んでも引きづって生きてはいけないんです、幸せを目指して兵長から会いにきてください』
「迎えに来るんじゃねぇのか」
『そうでした』
クスクスと笑うカズサの姿を声が遠くにいかないようリヴァイはカズサを見つめ、聞き逃さないようにカズサだけに意識を向ける。
「兵長なんて他人行儀な呼び方はやめろ。名前で呼んでくれ」
『──リヴァイ』
「もう一度」
『リヴァイ』
「カズサ、カズサ」
『気が変わりました。来年また来ます。──だから泣かないで』
ぽたりと雫が床に落ちる。
「約束だ。でもまずは今日が終わるまで側にいてくれ」
『はい。喜んで』
「待ち遠しい、な」
『そう言われると日付変わるまでいたくなるじゃない』
「いろ、側に今日だけでもいいからくれ」
『はい。だから、まずはその隈をなんとかしましょう?』
スーッと寝室へカズサが向かう。
『ベッドに横になって』
「消えるなよ」
『はい、います。約束です』
ベッドに向かい合わせに、リヴァイとカズサは時間が許す限り、側にいた。
ボーン、ボーン。壁掛け時計が鳴る。
『そろそろ行かなきゃ』
そう言いながらもカズサリヴァイからリヴァイはカズサと離れようとしない。
チリン、チリン、チリン
どこからか澄んだ音が聞こえてきた。
『無粋だなぁ。催促されました』
「カズサ、待ってる。だから約束違えるな」
『はい、ちゃんと守ります。嘘言ったことないでしょう?』
「先に逝くなって言っただろ、なのに逝っちまっただろうが」
カズサはアワアワしながらリヴァイの耳に顔を寄せた。
『約束は守るし、もう嘘はつきません』
凛とした音が消えると同時にカズサの姿は消えた。
「今度はもっと早めに来い。色々と足りないだろうが」
リヴァイは呟いた思いは夜の静寂にとけ込んだ。
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