Will you marry me?
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横長のソファに二人で座って、読書していると突然、リヴァイが爆弾を落とした。
「結婚しないか」
それはストレートなプロポーズで、そしてムードのない突然なプロポーズだった。
「えっ?」
不機嫌な眉間のシワが深くなっている。
「結婚しよう」
多分、わたしの顔は強張ってる。
「いやか」
いや、あの、その。と口ごもっていると焦れたのか、 近づいてくるリヴァイに混乱して返事どころか目を合わせることもできずにいた。
「わかった」
フイっとリヴァイは自分の部屋に入ってそれからずっと出て来ない。
部屋のドアをノックしても先に寝てろ。と顔を合わす気もないようでどうしたらいいかわからないまま、興奮と焦りで眠れぬ夜は更けていった。
※※※
「はあ」
自分の部屋に入って机の上の結婚情報誌を眺めた。
そこには色々な情報を幸せそうな笑顔と青空が彩っている。
俺の部屋にあるとかなり違和感がある。
そもそも俺は結婚願望自体が薄く、このまま一人で過ごしていくもんと思っていた。
家と仕事を往復してたまに飲み会に顔を出して。
気心知れた友人もいて、仕事も面白い。
そして一人の時間も俺にとっては大切なもんで特定の女と付き合って気を配りながら時間のやりくりをするのは億劫だった。
友人からは『だからモテないんだよ』と揶揄われたが知ったこっちゃない。
ひとりの女と続くことはなくても誘われれば、よっぽどじゃなけりゃ断ることはしない。
だから別に困るということもなく今までやってきた。
そんな俺に転機が訪れたのは仕事帰りなんとなく目に入った花屋だった。
花屋の店員らしき女が客と楽しそうに花を選んでる。
通り過ぎる際に聞こえる内容で判断するとニコニコした女が客の男にあれこれ説明しているようだ。
(女にでも渡すんだろうな)
ぼんやりそう思いながら通り過ぎる。
店員の女と目があった気がしたが別段なにも思わず、いつものように帰宅の道を歩く。
自宅で読みかけの本をめくっていると賑やかしにつけてたTVの特集なのか、プロポーズやら結婚やら俺には縁のないことをキャスターが大袈裟じゃないか?と思うくらいに花の本数にも意味があってと言っている。
(んなもん、適当でいいだろ)
興味も薄れてTVを消し、好きな音楽をかけて本の内容に切り替えた。
※※※
しばらくして部下から結婚すると報告があった。
相手も同じ会社で働いている相手でいつも張り合って相性が悪いのか、と見ていたがどうやらそうじゃなかったらしい。
結婚後も働くと言う二人を周りは生暖かい目で見ているが当人たちは気にならないらしくふんわりと幸せな空気が流れている。
仕事に支障をきたすようなことはしないのはわかっているし、なにより部下の幸せそうな姿は俺としても喜ばしいもんがある。
そんな日々のやっぱり仕事帰り。
あの花屋が目についた。
花の名前は有名なもの以外は知らんが、せっかくの機会に花くらい送るのも悪くない。
いつもならそんな発想すら浮かばないのに思い立ったのは、今日も笑顔でパタパタと接客している店員を見たからだろう。
前は通り過ぎただけなのでわからなかったが、どうやら客の要望や花の色、花の形などをバランス良く束ねたり、差し色を変えたりしているみたいだ。
立ち止まってその様子を見ていると俺の視線に気づいたのか、先客になにかを言って俺のいる方向に首を傾けた。
なんでもない。と手を振ってその場を立ち去り歩き慣れた道を進んだ。
(あの店に頼むか)
花の良し悪しは全くわからんが、用途を言えば応えてくれそうな店員なら頼むのも悪くない。
翌日、外回りから帰社する途中であの花屋に寄ってみた。
元気そうな店員は贈る花束について二〜三話すのをじっと聞き、部下のイメージを尋ねてきた。
結婚する二人のイメージは正反対で説明するのに時間がかかったが、その間メモしているのか何か書き留めている。
「いつ頃、お渡しされますか?」
受取日と予算を伝えて頼んだといって店を出た。
※※※
結婚前祝いの食事会を開くことになっていたので、それとなく渡そうと当日に受け取りに行くとカラフルなのに統一感のある華やかな花束を渡された。
支払いのためカードを取り出すと代金は予算よりもだいぶ少なくて値引きでもしたのか?と無粋なことを聞くと優しい笑顔で「喜んでもらますように」とだけ言った。
礼を言って食事会の場に向かい、いざ俺が花束を渡す段になると気恥ずかしくなったが他よりずっと良くて当人も喜んで涙ぐみ他の部下も羨ましがって自分のときもお願いしますね!と言われ、悪い気はしなかった。むしろどこか自慢したい気分になったが表情に出にくい質で良かった。
好評だったと礼を言う為に花屋に行けば、あのときの店員は居らず尋ねてみると他の店の応援に行っていると返ってきた。
客の一人に過ぎない俺を覚えているか、わからんが受取日を言って作ってもらった花束をとても喜んでもらえた、ありがとうと名刺とともに伝言を残した。
自宅に帰り、ふと名刺まで渡す必要はあったか?と気になったが渡したもんは渡したもんだ、といつものように過ごした。
それからだ。帰り道に接客中でなければ声をかけたり挨拶したり客でもないのに一輪の花をくれたりと細やかな交流が続いた。
いつしか店員の顔が見れる帰り道をゆっくり歩き、気づいてくれるとくすぐったい気持ちになっていった。
以前、名刺を渡していたので店員も名乗り、それぞれ名前で呼ぶようになったが俺はカズサと呼び、カズサはアッカーマンさんと呼ぶ。
なんとなく面白くなくてリヴァイでいい。と言えば戸惑いながらも名前で呼ぶようになり、俺とカズサの距離は縮まっていた、と思う。
帰宅前に一言、二言話すのが当たり前になっていたが繁忙期に入り残業が続き、いつものようにカズサの顔をみるどころか話す機会もない。
ソワソワと落ち着かない気持ちを抑えきれず昼休み抜け出してカズサの元へいった。
そしてプライベートのスマホの番号を伝え、残業が落ち着く頃を急いで伝えて会社に戻った。
たぶんもう俺はカズサに惚れていた。
ふとした瞬間にカズサが俺をどう思っているのか、迷惑だと思われてやしないか、気になって仕方がない。
こんなのは初めてではっきりさせたいのと、このままでいたい気持ちがしばらくせめぎ合っていたが、はっきりさせたい気持ちのほうが上回った。
食事に誘い、俺の休日は店の終わる時間帯にカズサの最寄り駅まで送ったりしてストーカーすれすれの慣れないアピールをし、友人のやたらモテる奴(俺と正反対の男だ)に女を口説くのに効果的なのはどうしたらいいかと恥を忍びながらレクチャーを受け、カズサに嫌われてなさそうな手応えを得てから、思春期よろしく心臓が忙しなく動く人生初めての告白をしてカズサも真っ赤になりながら応えてくれて俺達は付き合うことになった。
※※※
幸せなのに俺の独占欲はどんどん増して朝も夜も一緒にいたいと思うのにそう時間はかからなかった。
同棲を提案してカズサの承諾を取付け、予め目をつけていたカズサの職場 に近い物件を契約して二人で暮らすようになると相性がいいのか、居心地がいい。
次第にもっと確かな関係を望み、性急すぎる、いや今だ、とおかしいくらいに考えていた。
既婚者やネット、情報誌から得た思いつく限りのシチュエーションを浮かべてもなかなか良いイメージが湧かない。
俺の頭のなかはそういった情報やタイミングを見計らったりやらでいっぱいなのを当たり前だがカズサは知らない。
一緒に住み始めて気づいたがカズサは案外鈍い。
匂わせ程度では気づかない。
どうしたもんか、ストレートに言うしかないんだが言葉が浮かんでは消えを繰り返している。
いつものように二人で寄り添っていると練りに練って考えてた言葉と反対の飾り気のない一言が口をついて出た。
しまった、と思うのとは裏腹に同じ言葉を言ってしまった時にゃ、半ば開き直っていた。
それでもYESと言ってほしい。せめて時間がほしいとかなんとかでもいい。
近づくとカズサが動揺してるのがわかる。
失敗した。こんな素っ気ない語彙力に今までのシミュレーションはなんだったのか?と居た堪れない。
まともにカズサの顔が見れずに部屋に逃げ込んだ。
※※※
翌日から、カズサが起きる前には仕事に行き、眠っている時刻を見計らってから帰宅し、なるべくカズサと顔を会わせない生活を始めた。
カズサが嫌いだとか、返事がすぐに返ってこなくて拗ねてる、とかではなくて、単純に会わせる顔がなかった。
強引に同棲をしたのに情けないほどカズサに会うのが、どこか申し訳ない。
肝心なときに失敗する奴がいるか。と自分を責めても、あのときに時間を戻せるわけでもない。
このままの状態でいいわけがない。わかってはいるが一歩が踏み出せない。一体、いつから俺はこんな男になったんだ。
※※※
避けられている。それはそれはあからさまに。
あのリヴァイの言葉に嘘はなく、思わず出たって感じた。だから予想外で嬉しくて妙な言語になって返事すらできなかったのだけど。
リヴァイを傷つけてしまった。
謝りたいし、きちんと返事もしたい。話したい、会いたい。
リヴァイの気持ちが落ち着くまでは。
そう思ってたけど。
テーブルに残したメモはなくなってるしきっと読んでるはずなのに電話もメッセージもでないし返事もない。なら、朝まで起きて話をしようとしてもそんな日は帰ってこない。
徹底的な避けように手をこまねいている。
「ふあぁあ」
寝不足で仕事中なのに欠伸とため息の混じった声が出て、聞こえてないよね?周りを見ると一人で安心のため息が出る。
仕事に集中しなきゃ。でも考えるのはリヴァイとのこれからで。
どうしてすぐに嬉しい、大好きと四文字を言えなかったんだろう。
「すみませんー」
仕事モードに切り替えて今日は絶対に残業もなにもしない。と決めた。
※※※
「ここ、だよね?」
そびえ立つビルは屋上が見えない。
以前、リヴァイの職場の名刺をもらったとき、有名な会社でびっくりしたことがある。そこに住所も代表電話番号などの情報が最低限のスペースに記載されていた。
エントランス入るのですらセキュリティが厳しいらしい。
こんにちは、では入れないしリヴァイの会社名だしても入れるだろうか?
躊躇する自分に嫌になりながら、突撃なんて馬鹿げたことをすれば警備か警察か。
中の人たちが訝しげに私をチラチラとみている視線を考えると時間の問題な気もする。
リヴァイの番号に架ける。出てくれない。
メッセージを送る。しばらく待っても返事は来ない。
なら。リヴァイがこのビルから出てくるまで待とう。
幸い遅い時間まで営業しているカフェは見つけているし、そこが閉まれば次の店でもいい。
「あいつ、なに考えてんだ」
自分のしていることが、カズサに無茶をさせている。夜の街で女一人なんて普段のカズサならしない。
誰か知らん馬の骨がこの瞬間にもカズサに声をかけてるかもしれない。
「ふざけんな」
近くの店で時間を潰してた俺はカズサのメッセージのマップが示す場所へいつもより早足で焦りながらカズサのもとへ苛立ちを共に店へ向かう。
「お客様、そろそろ」
時計を見れば閉店時間が近い。
「すみません、すぐ出ます」
次は別の店。
ここで怖いことを思いついてしまった。
(もし、どこだろうと、なんだろうとリヴァイがこないとしたら?)
ゴクリと喉が狭まる。
でもリヴァイに丁寧にマップ付きのメッセージと時間が間に合わなければどこか別の店に入ると送ってしまった。
とにかく、閉店なら仕方ない。
フラフラと歩いているつもりだったのにリヴァイの会社近くに来ているのに気づいた。
いくつか明かりがついているフロアのどこかにリヴァイはいるのだろうか。
ふぅ。と中が見えるはずないのに上を見ていると首が痛い。
「カズサ!」
人通りの少ない場所に聞きなれた声が響く。
「お前、何してる?!危ねぇだろうが!」
両肩を痛いほど掴んで理由を尋ねてくる。
「痛っ」
「わ、悪い」
「……帰ろう、リヴァイ」
「ああ、わかった」
何とかつかまえたタクシーのなかで二人とも無言のままで家についても気まずい空気が漂っている。
それを何とかしたくてカモミールティーを淹れてテーブルにコトリと置く。
リヴァイはジャケットを自分でハンガーに掛けて黙っている。
「あのね、リヴァイ」
ピクッとほんの少し、気付くか気付かないかの動きだったけどリヴァイも緊張してるのがわかる。
「お互い明日も仕事だろ。飲んだら寝ろ」
「いつまで大切なことは後回しにするの?」
「そうじゃない」
「違わない。ずっとこのまま先延ばしには出来ないでしょ」
ダンっとテーブルを叩いた勢いでハーブティーは揺れてソーサーに溢れる。
「何が言いたい?」
「最初にあの時、すぐに答えられなくてリヴァイを傷つけてごめんなさい」
落ちついたカズサに最も聞きたくない言葉を目の前に突きつけられる予感が怖くて苛立ちに変わる。
「ねぇ、リヴァイ。あの時の言葉はまだ有効かな?それとも」
「お前はどうしたい、終わりにしたいならはっきり言え」
「……リヴァイって、一人で考えて一人で答えをだしちゃうんだね」
そうじゃない、そんなんじゃないのに。うつ向いたカズサからはどっちなのか、わからない。
「大事なことをちゃんと話し合えなかったら、この先うまくいかない。ねぇ、あの時の言葉はもうリヴァイのなかでは終わったこと?失敗だった?」
せっかく淹れてくれたカップの中身の湯気は消えて、かすかにりんごの香りだけになっている。
「終わってねぇ!俺にとっちゃ一世一代の」
「リヴァイ、不器用なあなたが大好きだよ。リヴァイとこれからも今よりずっとずっと一緒に居たいし、二人だけのサインだって続けたい」
ドクドクと身体中の血が巡る音がうるさい程に聞こえてカズサにも聞こえてんじゃねぇか?と冷静なはずの部分がささやく。
「そりゃ、お前 」
「私、リヴァイと結婚したい。リヴァイとちゃんと話し合えるパートナーになりたい」
「あんな、情けねぇ俺でもか」
「リヴァイが良い。リヴァイじゃなきゃ嫌なの。形なんて人それぞれでしょ?ちょっといきなり過ぎて答えが遅くなっちゃったけど」
「後から無しなんてねぇぞ」
クスクスとカズサが笑う。
「リヴァイこそ、やっぱりやめた。なんて言っても聞かないよ?いい?」
もう駄目だった。二人の間のテーブルが邪魔だ。
カズサの傍に回り、抱きしめカズサの体温を、呼吸する胸の動きを噛み締める。
「やめたなんて絶対言わねぇ、一生言えるはずねぇ、だから俺と結婚してくれ。俺を カズサの唯一にしてくれ」
「うん。私をリヴァイの唯一にして」
「逆プロポーズなんて情けねぇな」
「リヴァイのプロポーズがなかったらyesの逆プロポーズもできなかったよ?」
恋しい、愛しい気持ちだけが溢れて夢なんじゃねぇか。とカズサの髪に触れて頬を手で包むとカズサも同じ仕草で俺の頬を包んで優しくつねる。
「痛てぇ」
いたずらに成功した子供のようなカズサが私もつねって?と言うから代わりに額に目に鼻に頬に唇にキスを落としていく。
「くすぐったい」
そう笑うカズサは幸せそうに俺にキスをした。
※※※
「なあ、式場どこが良い?ドレスはやっぱり白か、いや、別の色も似合うな。どうせなら全部にするか?花は カズサの好きな花を式場に飾るか 、それでもガーデンウェディングか?ハネムーンの希望は」
「待って、ちょっと待って!その前に挨拶からしようよ!ケニーさんとか、リヴァイのお友達とか、」
急に不機嫌になったリヴァイは小声で「あいつらに カズサを会わせたくない 。カズサが減る 」
「減らないからっ!」
※※※
途端に勇み足なったリヴァイに振り回されながらも段取りよく最短で着々と準備をするリヴァイにほんの少しだけ呆れながらも、その日はあっという間にやって来た。
雲一つない眩しいくらいの青空の下、誓いを交わしてパートナーになって初めてのキスをした。
集まってくれたみんなが冷やかすなか眉間にシワをよせたリヴァイにケニーさんが、「あー、あれだ。車にバカみてえにカンつけてJust married!とか、やんねぇのか」
「そりゃ、いつの時代の話だ」
憎まれ口を言いながらも、その声は柔らかく花弁の舞うなかを家族や友人に祝福され、ゆっくりと教会を後にした。
「たまには喧嘩もすると思うけど、これからもヨロシクね」
「俺こそよろしくな、隠し事はしねえ、喧嘩しても何でも話し合うから捨てないでくれよ?」
降り注ぐ花弁が二人を飾り付けた。
「結婚しないか」
それはストレートなプロポーズで、そしてムードのない突然なプロポーズだった。
「えっ?」
不機嫌な眉間のシワが深くなっている。
「結婚しよう」
多分、わたしの顔は強張ってる。
「いやか」
いや、あの、その。と口ごもっていると焦れたのか、 近づいてくるリヴァイに混乱して返事どころか目を合わせることもできずにいた。
「わかった」
フイっとリヴァイは自分の部屋に入ってそれからずっと出て来ない。
部屋のドアをノックしても先に寝てろ。と顔を合わす気もないようでどうしたらいいかわからないまま、興奮と焦りで眠れぬ夜は更けていった。
※※※
「はあ」
自分の部屋に入って机の上の結婚情報誌を眺めた。
そこには色々な情報を幸せそうな笑顔と青空が彩っている。
俺の部屋にあるとかなり違和感がある。
そもそも俺は結婚願望自体が薄く、このまま一人で過ごしていくもんと思っていた。
家と仕事を往復してたまに飲み会に顔を出して。
気心知れた友人もいて、仕事も面白い。
そして一人の時間も俺にとっては大切なもんで特定の女と付き合って気を配りながら時間のやりくりをするのは億劫だった。
友人からは『だからモテないんだよ』と揶揄われたが知ったこっちゃない。
ひとりの女と続くことはなくても誘われれば、よっぽどじゃなけりゃ断ることはしない。
だから別に困るということもなく今までやってきた。
そんな俺に転機が訪れたのは仕事帰りなんとなく目に入った花屋だった。
花屋の店員らしき女が客と楽しそうに花を選んでる。
通り過ぎる際に聞こえる内容で判断するとニコニコした女が客の男にあれこれ説明しているようだ。
(女にでも渡すんだろうな)
ぼんやりそう思いながら通り過ぎる。
店員の女と目があった気がしたが別段なにも思わず、いつものように帰宅の道を歩く。
自宅で読みかけの本をめくっていると賑やかしにつけてたTVの特集なのか、プロポーズやら結婚やら俺には縁のないことをキャスターが大袈裟じゃないか?と思うくらいに花の本数にも意味があってと言っている。
(んなもん、適当でいいだろ)
興味も薄れてTVを消し、好きな音楽をかけて本の内容に切り替えた。
※※※
しばらくして部下から結婚すると報告があった。
相手も同じ会社で働いている相手でいつも張り合って相性が悪いのか、と見ていたがどうやらそうじゃなかったらしい。
結婚後も働くと言う二人を周りは生暖かい目で見ているが当人たちは気にならないらしくふんわりと幸せな空気が流れている。
仕事に支障をきたすようなことはしないのはわかっているし、なにより部下の幸せそうな姿は俺としても喜ばしいもんがある。
そんな日々のやっぱり仕事帰り。
あの花屋が目についた。
花の名前は有名なもの以外は知らんが、せっかくの機会に花くらい送るのも悪くない。
いつもならそんな発想すら浮かばないのに思い立ったのは、今日も笑顔でパタパタと接客している店員を見たからだろう。
前は通り過ぎただけなのでわからなかったが、どうやら客の要望や花の色、花の形などをバランス良く束ねたり、差し色を変えたりしているみたいだ。
立ち止まってその様子を見ていると俺の視線に気づいたのか、先客になにかを言って俺のいる方向に首を傾けた。
なんでもない。と手を振ってその場を立ち去り歩き慣れた道を進んだ。
(あの店に頼むか)
花の良し悪しは全くわからんが、用途を言えば応えてくれそうな店員なら頼むのも悪くない。
翌日、外回りから帰社する途中であの花屋に寄ってみた。
元気そうな店員は贈る花束について二〜三話すのをじっと聞き、部下のイメージを尋ねてきた。
結婚する二人のイメージは正反対で説明するのに時間がかかったが、その間メモしているのか何か書き留めている。
「いつ頃、お渡しされますか?」
受取日と予算を伝えて頼んだといって店を出た。
※※※
結婚前祝いの食事会を開くことになっていたので、それとなく渡そうと当日に受け取りに行くとカラフルなのに統一感のある華やかな花束を渡された。
支払いのためカードを取り出すと代金は予算よりもだいぶ少なくて値引きでもしたのか?と無粋なことを聞くと優しい笑顔で「喜んでもらますように」とだけ言った。
礼を言って食事会の場に向かい、いざ俺が花束を渡す段になると気恥ずかしくなったが他よりずっと良くて当人も喜んで涙ぐみ他の部下も羨ましがって自分のときもお願いしますね!と言われ、悪い気はしなかった。むしろどこか自慢したい気分になったが表情に出にくい質で良かった。
好評だったと礼を言う為に花屋に行けば、あのときの店員は居らず尋ねてみると他の店の応援に行っていると返ってきた。
客の一人に過ぎない俺を覚えているか、わからんが受取日を言って作ってもらった花束をとても喜んでもらえた、ありがとうと名刺とともに伝言を残した。
自宅に帰り、ふと名刺まで渡す必要はあったか?と気になったが渡したもんは渡したもんだ、といつものように過ごした。
それからだ。帰り道に接客中でなければ声をかけたり挨拶したり客でもないのに一輪の花をくれたりと細やかな交流が続いた。
いつしか店員の顔が見れる帰り道をゆっくり歩き、気づいてくれるとくすぐったい気持ちになっていった。
以前、名刺を渡していたので店員も名乗り、それぞれ名前で呼ぶようになったが俺はカズサと呼び、カズサはアッカーマンさんと呼ぶ。
なんとなく面白くなくてリヴァイでいい。と言えば戸惑いながらも名前で呼ぶようになり、俺とカズサの距離は縮まっていた、と思う。
帰宅前に一言、二言話すのが当たり前になっていたが繁忙期に入り残業が続き、いつものようにカズサの顔をみるどころか話す機会もない。
ソワソワと落ち着かない気持ちを抑えきれず昼休み抜け出してカズサの元へいった。
そしてプライベートのスマホの番号を伝え、残業が落ち着く頃を急いで伝えて会社に戻った。
たぶんもう俺はカズサに惚れていた。
ふとした瞬間にカズサが俺をどう思っているのか、迷惑だと思われてやしないか、気になって仕方がない。
こんなのは初めてではっきりさせたいのと、このままでいたい気持ちがしばらくせめぎ合っていたが、はっきりさせたい気持ちのほうが上回った。
食事に誘い、俺の休日は店の終わる時間帯にカズサの最寄り駅まで送ったりしてストーカーすれすれの慣れないアピールをし、友人のやたらモテる奴(俺と正反対の男だ)に女を口説くのに効果的なのはどうしたらいいかと恥を忍びながらレクチャーを受け、カズサに嫌われてなさそうな手応えを得てから、思春期よろしく心臓が忙しなく動く人生初めての告白をしてカズサも真っ赤になりながら応えてくれて俺達は付き合うことになった。
※※※
幸せなのに俺の独占欲はどんどん増して朝も夜も一緒にいたいと思うのにそう時間はかからなかった。
同棲を提案してカズサの承諾を取付け、予め目をつけていたカズサの職場 に近い物件を契約して二人で暮らすようになると相性がいいのか、居心地がいい。
次第にもっと確かな関係を望み、性急すぎる、いや今だ、とおかしいくらいに考えていた。
既婚者やネット、情報誌から得た思いつく限りのシチュエーションを浮かべてもなかなか良いイメージが湧かない。
俺の頭のなかはそういった情報やタイミングを見計らったりやらでいっぱいなのを当たり前だがカズサは知らない。
一緒に住み始めて気づいたがカズサは案外鈍い。
匂わせ程度では気づかない。
どうしたもんか、ストレートに言うしかないんだが言葉が浮かんでは消えを繰り返している。
いつものように二人で寄り添っていると練りに練って考えてた言葉と反対の飾り気のない一言が口をついて出た。
しまった、と思うのとは裏腹に同じ言葉を言ってしまった時にゃ、半ば開き直っていた。
それでもYESと言ってほしい。せめて時間がほしいとかなんとかでもいい。
近づくとカズサが動揺してるのがわかる。
失敗した。こんな素っ気ない語彙力に今までのシミュレーションはなんだったのか?と居た堪れない。
まともにカズサの顔が見れずに部屋に逃げ込んだ。
※※※
翌日から、カズサが起きる前には仕事に行き、眠っている時刻を見計らってから帰宅し、なるべくカズサと顔を会わせない生活を始めた。
カズサが嫌いだとか、返事がすぐに返ってこなくて拗ねてる、とかではなくて、単純に会わせる顔がなかった。
強引に同棲をしたのに情けないほどカズサに会うのが、どこか申し訳ない。
肝心なときに失敗する奴がいるか。と自分を責めても、あのときに時間を戻せるわけでもない。
このままの状態でいいわけがない。わかってはいるが一歩が踏み出せない。一体、いつから俺はこんな男になったんだ。
※※※
避けられている。それはそれはあからさまに。
あのリヴァイの言葉に嘘はなく、思わず出たって感じた。だから予想外で嬉しくて妙な言語になって返事すらできなかったのだけど。
リヴァイを傷つけてしまった。
謝りたいし、きちんと返事もしたい。話したい、会いたい。
リヴァイの気持ちが落ち着くまでは。
そう思ってたけど。
テーブルに残したメモはなくなってるしきっと読んでるはずなのに電話もメッセージもでないし返事もない。なら、朝まで起きて話をしようとしてもそんな日は帰ってこない。
徹底的な避けように手をこまねいている。
「ふあぁあ」
寝不足で仕事中なのに欠伸とため息の混じった声が出て、聞こえてないよね?周りを見ると一人で安心のため息が出る。
仕事に集中しなきゃ。でも考えるのはリヴァイとのこれからで。
どうしてすぐに嬉しい、大好きと四文字を言えなかったんだろう。
「すみませんー」
仕事モードに切り替えて今日は絶対に残業もなにもしない。と決めた。
※※※
「ここ、だよね?」
そびえ立つビルは屋上が見えない。
以前、リヴァイの職場の名刺をもらったとき、有名な会社でびっくりしたことがある。そこに住所も代表電話番号などの情報が最低限のスペースに記載されていた。
エントランス入るのですらセキュリティが厳しいらしい。
こんにちは、では入れないしリヴァイの会社名だしても入れるだろうか?
躊躇する自分に嫌になりながら、突撃なんて馬鹿げたことをすれば警備か警察か。
中の人たちが訝しげに私をチラチラとみている視線を考えると時間の問題な気もする。
リヴァイの番号に架ける。出てくれない。
メッセージを送る。しばらく待っても返事は来ない。
なら。リヴァイがこのビルから出てくるまで待とう。
幸い遅い時間まで営業しているカフェは見つけているし、そこが閉まれば次の店でもいい。
「あいつ、なに考えてんだ」
自分のしていることが、カズサに無茶をさせている。夜の街で女一人なんて普段のカズサならしない。
誰か知らん馬の骨がこの瞬間にもカズサに声をかけてるかもしれない。
「ふざけんな」
近くの店で時間を潰してた俺はカズサのメッセージのマップが示す場所へいつもより早足で焦りながらカズサのもとへ苛立ちを共に店へ向かう。
「お客様、そろそろ」
時計を見れば閉店時間が近い。
「すみません、すぐ出ます」
次は別の店。
ここで怖いことを思いついてしまった。
(もし、どこだろうと、なんだろうとリヴァイがこないとしたら?)
ゴクリと喉が狭まる。
でもリヴァイに丁寧にマップ付きのメッセージと時間が間に合わなければどこか別の店に入ると送ってしまった。
とにかく、閉店なら仕方ない。
フラフラと歩いているつもりだったのにリヴァイの会社近くに来ているのに気づいた。
いくつか明かりがついているフロアのどこかにリヴァイはいるのだろうか。
ふぅ。と中が見えるはずないのに上を見ていると首が痛い。
「カズサ!」
人通りの少ない場所に聞きなれた声が響く。
「お前、何してる?!危ねぇだろうが!」
両肩を痛いほど掴んで理由を尋ねてくる。
「痛っ」
「わ、悪い」
「……帰ろう、リヴァイ」
「ああ、わかった」
何とかつかまえたタクシーのなかで二人とも無言のままで家についても気まずい空気が漂っている。
それを何とかしたくてカモミールティーを淹れてテーブルにコトリと置く。
リヴァイはジャケットを自分でハンガーに掛けて黙っている。
「あのね、リヴァイ」
ピクッとほんの少し、気付くか気付かないかの動きだったけどリヴァイも緊張してるのがわかる。
「お互い明日も仕事だろ。飲んだら寝ろ」
「いつまで大切なことは後回しにするの?」
「そうじゃない」
「違わない。ずっとこのまま先延ばしには出来ないでしょ」
ダンっとテーブルを叩いた勢いでハーブティーは揺れてソーサーに溢れる。
「何が言いたい?」
「最初にあの時、すぐに答えられなくてリヴァイを傷つけてごめんなさい」
落ちついたカズサに最も聞きたくない言葉を目の前に突きつけられる予感が怖くて苛立ちに変わる。
「ねぇ、リヴァイ。あの時の言葉はまだ有効かな?それとも」
「お前はどうしたい、終わりにしたいならはっきり言え」
「……リヴァイって、一人で考えて一人で答えをだしちゃうんだね」
そうじゃない、そんなんじゃないのに。うつ向いたカズサからはどっちなのか、わからない。
「大事なことをちゃんと話し合えなかったら、この先うまくいかない。ねぇ、あの時の言葉はもうリヴァイのなかでは終わったこと?失敗だった?」
せっかく淹れてくれたカップの中身の湯気は消えて、かすかにりんごの香りだけになっている。
「終わってねぇ!俺にとっちゃ一世一代の」
「リヴァイ、不器用なあなたが大好きだよ。リヴァイとこれからも今よりずっとずっと一緒に居たいし、二人だけのサインだって続けたい」
ドクドクと身体中の血が巡る音がうるさい程に聞こえてカズサにも聞こえてんじゃねぇか?と冷静なはずの部分がささやく。
「そりゃ、お前 」
「私、リヴァイと結婚したい。リヴァイとちゃんと話し合えるパートナーになりたい」
「あんな、情けねぇ俺でもか」
「リヴァイが良い。リヴァイじゃなきゃ嫌なの。形なんて人それぞれでしょ?ちょっといきなり過ぎて答えが遅くなっちゃったけど」
「後から無しなんてねぇぞ」
クスクスとカズサが笑う。
「リヴァイこそ、やっぱりやめた。なんて言っても聞かないよ?いい?」
もう駄目だった。二人の間のテーブルが邪魔だ。
カズサの傍に回り、抱きしめカズサの体温を、呼吸する胸の動きを噛み締める。
「やめたなんて絶対言わねぇ、一生言えるはずねぇ、だから俺と結婚してくれ。俺を カズサの唯一にしてくれ」
「うん。私をリヴァイの唯一にして」
「逆プロポーズなんて情けねぇな」
「リヴァイのプロポーズがなかったらyesの逆プロポーズもできなかったよ?」
恋しい、愛しい気持ちだけが溢れて夢なんじゃねぇか。とカズサの髪に触れて頬を手で包むとカズサも同じ仕草で俺の頬を包んで優しくつねる。
「痛てぇ」
いたずらに成功した子供のようなカズサが私もつねって?と言うから代わりに額に目に鼻に頬に唇にキスを落としていく。
「くすぐったい」
そう笑うカズサは幸せそうに俺にキスをした。
※※※
「なあ、式場どこが良い?ドレスはやっぱり白か、いや、別の色も似合うな。どうせなら全部にするか?花は カズサの好きな花を式場に飾るか 、それでもガーデンウェディングか?ハネムーンの希望は」
「待って、ちょっと待って!その前に挨拶からしようよ!ケニーさんとか、リヴァイのお友達とか、」
急に不機嫌になったリヴァイは小声で「あいつらに カズサを会わせたくない 。カズサが減る 」
「減らないからっ!」
※※※
途端に勇み足なったリヴァイに振り回されながらも段取りよく最短で着々と準備をするリヴァイにほんの少しだけ呆れながらも、その日はあっという間にやって来た。
雲一つない眩しいくらいの青空の下、誓いを交わしてパートナーになって初めてのキスをした。
集まってくれたみんなが冷やかすなか眉間にシワをよせたリヴァイにケニーさんが、「あー、あれだ。車にバカみてえにカンつけてJust married!とか、やんねぇのか」
「そりゃ、いつの時代の話だ」
憎まれ口を言いながらも、その声は柔らかく花弁の舞うなかを家族や友人に祝福され、ゆっくりと教会を後にした。
「たまには喧嘩もすると思うけど、これからもヨロシクね」
「俺こそよろしくな、隠し事はしねえ、喧嘩しても何でも話し合うから捨てないでくれよ?」
降り注ぐ花弁が二人を飾り付けた。
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