酒の功名
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それからプロジェクトに俺の部下も総出で関わり、エルヴィンの言う通りアホ女は積極的に仕事をこなし、最初の印象とは違い咄嗟の判断や行動力は目を見張るものがある。
そしてエルヴィンの予想通り上司は仕事してるつもりで邪魔にしかならなかったがそこはアホ女含めフォローしまくって問題なくプロジェクトは終了した。
先方のメンバーとうちのメンバーで打ち上げの飲み会をセッティングした。
大きな仕事を無事に終えた打ち上げにエルヴィンも向こうの上役も出席する。
妙に機嫌のいいエルヴィンは「無礼講だ」と微笑んでいるのが引っ掛かった。
※※※
打ち上げ当日。
雰囲気のいい店で和やかに打ち上げは始まり、お偉方の長い挨拶が終わると乾杯の声とグラスをあわせる音が響く。
俺はカズサが酔って醜態を晒すんじゃないかと気が気じゃなかったが心配しなくて良さそうだ。
それよりも責任者の一人のクソ上司は酔いはじめると自分が如何に優秀かと自慢をしてはカズサを貶し始め、労いの場を乱して俺達がそれを冷ややかな目で見ているのも気づいてねぇ。
アホ女、改めカズサは酒も喉を通らないのか申し訳なさそうに俯いてしまっている。
一緒に仕事してきた誰もが今回の功労者はカズサだと知っている。
知らないのはこいつくらいだ。
エスカレートしていく言い分に怒りが沸いてきた頃、突然エルヴィンが愛想のいい声で言い出した。
「私の部下も優秀ですが、そちらには更に優秀な人材がいて羨ましい限りです」
取引先に認められた。とでも思ったのか、だらしない顔をしてるが俺達は知っている。
あれはエルヴィンの皮肉だ。
そして何かする時の前触れだ。
「ああ、この場で言うことではないですが、優秀人材を我々も常に求めているのですよ」
赤ら顔の男の顔はニヤニヤと見苦しい。
「そのことはまた改めて話し合いましょう」
こいつの話し合いは交渉、だ。
誰を欲しがってるのか、ウチの連中はわかっている。
カズサ達に伝わってないし、わからないだろうがうちのは前祝いとばかりにカズサと乾杯しまわりを囲んで話しかけ、暴言が届かないようにしている。
交渉はエルヴィンの役目だ。
そしてエルヴィンが失敗するのは余程のことがない限りありえない。
俺もさっきまでの怒りが徐々に収まってエルヴィンの隣でグラスを傾ける。
※※※
「カズサ・サフィールと申します。以前ご一緒に気持ちよくお仕事させて頂きました。これからも宜しくお願い致します」
ほらな。あれからどんな手を使ったのか知らんがカズサはうちの会社に中途入社しエルヴィンが俺の課に加えた。
「そんなに固くなるな、お前の仕事っぷりは知ってる。これからもよろしくな」
仕事を一緒にしていると更にこいつの良いところがいくつも見えてくる。
それにつれて俺の中でカズサの存在が大きくなっていく。
目が離せない。気になって仕方ない。カズサのことをもっと知りたくてついつい構ってしまう。
はじめはその感情に戸惑ってよくわからなかったが、それが自分がカズサに惹かれているんだと気付いた。
だが、カズサの今までのことを考えると迂闊に距離をつめるのは逆効果だろう。
時間と信頼を得ないとカズサは心を開かない。
今はじっくりとお互いを知って話はそれからだ。
※※※
「な、言ったろ!良い娘だろ?!」
騒ぐハンジを黙らせ、カズサが警戒しないよう、あのクソ野郎とは違うと俺自身も態度で示す。
長期戦は覚悟の上だ。
一年目
上司と部下の適切な関係を大事に築いていく。
二年目
部下と含めての食事や飲み会に誘う。
三年目
タイミングを見計らって誘ってみる。
三年半
カズサが俺を意識し始めているのに気付いて本格的なアプローチをかけほんの少しずつ距離を縮めていく。
※※※
「最近はご機嫌だな、部下の幸せは見ていて良いものだ」
エルヴィンが微笑んでカズサを見る。
「どうしてカズサをうちに引っ張ってきた?」
「勘だよ。カズサは良い風をもたらす、そう感じたからな」
「ふん、お前はいつもそうだな、リーマン辞めて博打打ちに鞍替えしたほうがいいんじゃねえか?」
「それはひどいな、お前に一番の幸運を届けたはずだがな。違うか?」
「はっ、違いない」
笑って俺の悪態を流すと思い出したように別の話題に移った。
「そういえば、以前の関係者は大変らしいぞ。部下の手柄を横取りして左遷、出世コースから外れた途端に嫁は他の男に鞍替え。人生何が起こるか、わからないものだな」
結構悲惨な状況をいい笑顔で説明するもんだ。
「うちの敏腕部下は仕事もプライベートも成功するのがわかってるから安心だ」
それから、何度めかの食事の際にカズサはやめとけと言う俺の忠告を無視して軽めのカクテルを飲み干すと、フルフルしながら俺に、自分自身に大事な言葉を伝えて気持ちが通じた時に大泣きされ人の目が集まったのは恥ずかしかったが今では良い思い出とも言える。
「あ、リヴァイさん!」
「待ったか?寒かったろ、悪い。」
「大丈夫ですよ。それよりアポの時間が迫ってます!急ぎましょう!」
まだ、仕事が楽しくて飛び跳ねるカズサにいつ鞄に入れてる四角い箱を渡せるか、想像しながら次の取引先へと向かった。
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