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ペルソナ5 短編
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※祐介が吸血鬼の血を引いているという特殊設定※
今日が満月だと気が付いたのは、いつもより重い体と、普段とは違った空腹感を覚えたからだった。こんな日は早く寮へと戻るに限る……俺は、メメントスから帰還しリーダーから解散を告げられてすぐ、帰路へとついた。
自分が吸血鬼の血を引いていると知ったのは、高校入学と同時に斑目から母の手紙を受け取った時だ。その頃は吸血衝動に駆られることは無く、そのような事実があったのかと何処か他人事のように受け止めていた。
それを強く感じ始めたのは、ペルソナに目覚めた後。抑圧していた自己を開放したからなのか――食欲とは違った衝動で、酷く空腹感を覚える日が月に一度、満月の日に訪れるようになる。
恥を忍んでリーダーにこの事を相談し、彼のなじみの医者から少量の医療用血液を融通してもらい、吸血鬼としての本能が出た日はそれで凌いで過ごすようになった。
しかし、最近は――
「祐介!」
「……ななしか。」
解散後、早くななしと離れようとしたのだが、声を掛けられてしまった。長く話をしていてはマズい。彼女には悪いが、早々に話を切り上げてしまおう。
「どうした?」
「なんか……祐介、今日ずっと具合悪そうだったから。大丈夫?また、なにも食べてないの?」
「心配を掛けてすまなかった。俺は大丈夫だ。それより、もう日が暮れる。ななしも早く帰ったほうがいい。」
少し強引だったろうか?彼女は心配そうな表情を、怪訝な表情に変えてこちらを見ている。
「熱でもあるの?」
「……っ!」
ななしは一歩近づき、俺の額に手を当てた。彼女から芳醇だが澄んだ香りがし、吸血欲をそそられる。ここが屋外であって良かった……。その細い手首に唇を押し付け、牙を立てたくなる衝動をなんとか抑える事ができた。
「熱は無さそうだけど。ぼーっとして、本当に平気?寮よりうちの方が近いし、ちょっと休んで何か食べていきなよ。」
「……本当に大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく。」
「いつもならご飯に食いつくのに――きゃっ!」
家路を急ぐサラリーマンにぶつかられ、よろけた彼女を抱きとめた。瞬間、彼女の纏う香りをより強く感じる。髪の間から覗く、ななしの健康的な白さを持った首筋から目が離せない。舌で舐め、牙を突き立てて、空腹を満たしたい――。
「祐介?」
ななしに声を掛けられ、意識を取り戻す。俺はなんと恐ろしい事を考えていたのだろう!慌てて抱きとめていた彼女を開放する。
「……すまない!」
「ううん、こっちこそごめんね。支えてくれて、どうもありがとう。……ねえ、本当に平気?冷や汗かいて体調悪そうだよ…。心配だから、やっぱりうちに寄ってって!」
「……あぁ。」
ななしに手を引かれ、彼女の自宅へと誘われる。吸血衝動を抑えるのに必死だった俺に、彼女の誘いを断る判断力はもう残っていなかった。
ななしに出会った頃は、彼女の香りに強く惹かれる事はなかった。しかし、怪盗団として長く共に過ごし、その美しい心と生き方に、いつしか心惹かれる自分がいる事に気付いた。それが恋だと自覚した時、彼女の香りは本能に訴えかけるものとなっていく――それは、医療用血液を摂取しても物足りなくなるほどに。
「……――すけ、祐介!ちょっと、大丈夫?ほら、ソファ座って。いまお水持ってくるから。」
ななしの呼ぶ声にはっとする。いつの間にか、彼女の家に着いていたらしい。このままでは、彼女を傷付けてしまう。彼女の持ってきた水を受け取り、飲み干したら早々に帰らなければと思い腰を上げようとした。しかし彼女が隣に座り、汗を拭うためハンカチを額に当ててきた事に動揺し、立ち上がる事ができなかった。
「俺に触れるな…っ。」
慌てた俺は思ったよりも強くななしの手を弾いてしまう。もう片方の手で少し赤くなった手を擦りながら、彼女は言葉を紡いだ。
「……っ!ごめん……。でも、苦しそうな祐介ほっとけなくて……。私じゃ頼りない?なにもしてあげられない……?」
「そうじゃない……。」
「なら……。」
「……このままでは、俺は君を傷付けてしまうんだ…っ!」
ななしを怯えさせてしまう事になるが、仕方がない。傷付けるよりよっぽどいい。この恋心も儚く散ってしまうが、彼女を想えばどうってことはない――そう思い、俺の体質を彼女に伝える。
「そう、だったんだ……。」
「ああ。だからもう俺には――」
「いいよ。」
「え?」
「私、祐介になら血を吸われてもいい。」
そう言って微笑む彼女をみた瞬間、息を飲んだ。血を吸われてもいい、と?そう言ったのか?
「だって、私、祐介の事が――」
「俺は君を好いている。」
「……えっ。」
「愛しているからこそ、君を傷付けたくないんだ……っ!」
片手で顔を覆い俯きながら、彼女に訴える。しかし、彼女がそこから動く気配はなかった。
「……もし、逆の立場なら。祐介は私に血を分けてたと思う。」
ななしの優しい声色に、そっと顔をあげ彼女の瞳を見つめる。
「好きな人が苦しんでるなら……助けたいもの。」
「純粋な人間ではない俺を……好いてくれるのか……?」
「うん。別に人間じゃなくても、祐介は祐介だもん。好きなのは変わらないよ。……だから、いいよ。」
「……本当に後悔しないか?」
「もちろん。」
さあどうぞ。そう言って、ななしは少し首を傾けた。俺の為に身を捧げるいじらしさと、想いの通じ合った嬉しさで、今まで以上の愛しさが込み上げる。そっと彼女を両腕の中に閉じ込め、首筋に唇を寄せた。
しっとりとした肌にそっと舌を這わせると、ななしは息を呑み、ピクリと体を震わせる。素直な反応が可愛らしい。
「吸血は初めてだからな……。なるべく痛くしないようにはするが、痛かったら言ってくれ。」
「う、うん……」
「力を抜けるか?その方が牙が通りやすく、痛みが少ないと思う。」
「わかった…っ」
「いい子だ。」
片手をななしの後頭部に添え、髪を梳くように撫でる。安心したのか段々と力が抜けて来たのを感じ、再び首筋に舌を這わせ、柔らかな肌に牙を突き立てた。
あぁ…っ!ななしの血は、なんて甘美で馥郁 とした香りなのだろう!ななしの痛みに耐える吐息が意識の向こうで微かに聞こえる。労る様に傷口を舐め取るが、溢れ出てくる彼女の血を飲めば飲むほど飢餓感が増し、本能がもっと求めろと訴えかける。
「う…ん……っ、ぁ…は…っ」
「……ななし……っ!」
吸血行為が性的快楽に似た刺激を与えるという俗説は、どうやら本当だったようだ。ななしが痛みに喘ぐ声も、段々と甘いものに変わっていく。
「ゆ…うす……もう…っ……んあぁ…っ!」
ななしの体が弓なりにしなり、俺は首筋から顔を離した。初めての吸血の酔いしれて本能のままに求めた結果、彼女に無理をさせすぎてしまったらしい。
くたりと俺に身を預ける彼女の顔を覗き込む。気をやって意識を飛ばした彼女は貧血のせいか顔色が白く、いつも星が輝く瞳はその瞼の奥に仕舞われ、さながら眠り姫のようだ。俺は彼女の薄く開いた京紫色の唇に、愛しさが伝わるよう願いを込めて、そっと口づけた。
俺にとっての初めてのキスは、檸檬なんかよりも瑞々しくて、芳醇で、甘美な――血の味がした。
―――――――
2025/07/01
今日が満月だと気が付いたのは、いつもより重い体と、普段とは違った空腹感を覚えたからだった。こんな日は早く寮へと戻るに限る……俺は、メメントスから帰還しリーダーから解散を告げられてすぐ、帰路へとついた。
自分が吸血鬼の血を引いていると知ったのは、高校入学と同時に斑目から母の手紙を受け取った時だ。その頃は吸血衝動に駆られることは無く、そのような事実があったのかと何処か他人事のように受け止めていた。
それを強く感じ始めたのは、ペルソナに目覚めた後。抑圧していた自己を開放したからなのか――食欲とは違った衝動で、酷く空腹感を覚える日が月に一度、満月の日に訪れるようになる。
恥を忍んでリーダーにこの事を相談し、彼のなじみの医者から少量の医療用血液を融通してもらい、吸血鬼としての本能が出た日はそれで凌いで過ごすようになった。
しかし、最近は――
「祐介!」
「……ななしか。」
解散後、早くななしと離れようとしたのだが、声を掛けられてしまった。長く話をしていてはマズい。彼女には悪いが、早々に話を切り上げてしまおう。
「どうした?」
「なんか……祐介、今日ずっと具合悪そうだったから。大丈夫?また、なにも食べてないの?」
「心配を掛けてすまなかった。俺は大丈夫だ。それより、もう日が暮れる。ななしも早く帰ったほうがいい。」
少し強引だったろうか?彼女は心配そうな表情を、怪訝な表情に変えてこちらを見ている。
「熱でもあるの?」
「……っ!」
ななしは一歩近づき、俺の額に手を当てた。彼女から芳醇だが澄んだ香りがし、吸血欲をそそられる。ここが屋外であって良かった……。その細い手首に唇を押し付け、牙を立てたくなる衝動をなんとか抑える事ができた。
「熱は無さそうだけど。ぼーっとして、本当に平気?寮よりうちの方が近いし、ちょっと休んで何か食べていきなよ。」
「……本当に大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく。」
「いつもならご飯に食いつくのに――きゃっ!」
家路を急ぐサラリーマンにぶつかられ、よろけた彼女を抱きとめた。瞬間、彼女の纏う香りをより強く感じる。髪の間から覗く、ななしの健康的な白さを持った首筋から目が離せない。舌で舐め、牙を突き立てて、空腹を満たしたい――。
「祐介?」
ななしに声を掛けられ、意識を取り戻す。俺はなんと恐ろしい事を考えていたのだろう!慌てて抱きとめていた彼女を開放する。
「……すまない!」
「ううん、こっちこそごめんね。支えてくれて、どうもありがとう。……ねえ、本当に平気?冷や汗かいて体調悪そうだよ…。心配だから、やっぱりうちに寄ってって!」
「……あぁ。」
ななしに手を引かれ、彼女の自宅へと誘われる。吸血衝動を抑えるのに必死だった俺に、彼女の誘いを断る判断力はもう残っていなかった。
ななしに出会った頃は、彼女の香りに強く惹かれる事はなかった。しかし、怪盗団として長く共に過ごし、その美しい心と生き方に、いつしか心惹かれる自分がいる事に気付いた。それが恋だと自覚した時、彼女の香りは本能に訴えかけるものとなっていく――それは、医療用血液を摂取しても物足りなくなるほどに。
「……――すけ、祐介!ちょっと、大丈夫?ほら、ソファ座って。いまお水持ってくるから。」
ななしの呼ぶ声にはっとする。いつの間にか、彼女の家に着いていたらしい。このままでは、彼女を傷付けてしまう。彼女の持ってきた水を受け取り、飲み干したら早々に帰らなければと思い腰を上げようとした。しかし彼女が隣に座り、汗を拭うためハンカチを額に当ててきた事に動揺し、立ち上がる事ができなかった。
「俺に触れるな…っ。」
慌てた俺は思ったよりも強くななしの手を弾いてしまう。もう片方の手で少し赤くなった手を擦りながら、彼女は言葉を紡いだ。
「……っ!ごめん……。でも、苦しそうな祐介ほっとけなくて……。私じゃ頼りない?なにもしてあげられない……?」
「そうじゃない……。」
「なら……。」
「……このままでは、俺は君を傷付けてしまうんだ…っ!」
ななしを怯えさせてしまう事になるが、仕方がない。傷付けるよりよっぽどいい。この恋心も儚く散ってしまうが、彼女を想えばどうってことはない――そう思い、俺の体質を彼女に伝える。
「そう、だったんだ……。」
「ああ。だからもう俺には――」
「いいよ。」
「え?」
「私、祐介になら血を吸われてもいい。」
そう言って微笑む彼女をみた瞬間、息を飲んだ。血を吸われてもいい、と?そう言ったのか?
「だって、私、祐介の事が――」
「俺は君を好いている。」
「……えっ。」
「愛しているからこそ、君を傷付けたくないんだ……っ!」
片手で顔を覆い俯きながら、彼女に訴える。しかし、彼女がそこから動く気配はなかった。
「……もし、逆の立場なら。祐介は私に血を分けてたと思う。」
ななしの優しい声色に、そっと顔をあげ彼女の瞳を見つめる。
「好きな人が苦しんでるなら……助けたいもの。」
「純粋な人間ではない俺を……好いてくれるのか……?」
「うん。別に人間じゃなくても、祐介は祐介だもん。好きなのは変わらないよ。……だから、いいよ。」
「……本当に後悔しないか?」
「もちろん。」
さあどうぞ。そう言って、ななしは少し首を傾けた。俺の為に身を捧げるいじらしさと、想いの通じ合った嬉しさで、今まで以上の愛しさが込み上げる。そっと彼女を両腕の中に閉じ込め、首筋に唇を寄せた。
しっとりとした肌にそっと舌を這わせると、ななしは息を呑み、ピクリと体を震わせる。素直な反応が可愛らしい。
「吸血は初めてだからな……。なるべく痛くしないようにはするが、痛かったら言ってくれ。」
「う、うん……」
「力を抜けるか?その方が牙が通りやすく、痛みが少ないと思う。」
「わかった…っ」
「いい子だ。」
片手をななしの後頭部に添え、髪を梳くように撫でる。安心したのか段々と力が抜けて来たのを感じ、再び首筋に舌を這わせ、柔らかな肌に牙を突き立てた。
あぁ…っ!ななしの血は、なんて甘美で
「う…ん……っ、ぁ…は…っ」
「……ななし……っ!」
吸血行為が性的快楽に似た刺激を与えるという俗説は、どうやら本当だったようだ。ななしが痛みに喘ぐ声も、段々と甘いものに変わっていく。
「ゆ…うす……もう…っ……んあぁ…っ!」
ななしの体が弓なりにしなり、俺は首筋から顔を離した。初めての吸血の酔いしれて本能のままに求めた結果、彼女に無理をさせすぎてしまったらしい。
くたりと俺に身を預ける彼女の顔を覗き込む。気をやって意識を飛ばした彼女は貧血のせいか顔色が白く、いつも星が輝く瞳はその瞼の奥に仕舞われ、さながら眠り姫のようだ。俺は彼女の薄く開いた京紫色の唇に、愛しさが伝わるよう願いを込めて、そっと口づけた。
俺にとっての初めてのキスは、檸檬なんかよりも瑞々しくて、芳醇で、甘美な――血の味がした。
―――――――
2025/07/01