デフォルトで「名もなき ななし」になります。
ペルソナ5 短編
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家事代行サービス ヴィクトリア
文字通り家事代行を業務とする会社であるが、ある特色があるために男性人気が高い。その特色とは、女性店員がメイド姿で客先に訪問し業務行うということ。時にはムフフなサービスを期待して、電話をしてくる客もいるが、あくまで家事代行サービスなのでそのような事はしていない。
そんな会社に、アルバイトとして私は所属していた。昼は普通の会社員として働き、夜は副業としてここで働く。喜多川くんのパトロンになると言った手前、私まで金欠になってしまっては元も子もないからだ。もともとこの会社に所属はしていたが、今月からシフトの量を増やしてもらった。
……ただ、指名は若い子に入ることが多く、私みたいなある程度年齢のいった店員は待機が多い。今日も例にもれず、待機所で暇を持て余していた。
プルルル――――
「お電話ありがとうございますぅ♡家事代行サービス、ヴィクトリアです♡」
自分なりに"ご主人様にメロメロなメイド"という設定で、あざとい声色を出しながら店内の電話をとる。お金のため、これはお金のためなんだ……!
「お疲れさまです。べっきぃです」
「あ、お疲れさまですー」
電話の相手はべっきぃこと、川上さんだった。年も近いこともあって、アルバイトの中では一番仲が良い。まぁ、お互いのプライベートまでは知らないけれど。声色を素に戻し、用件を聞く。
「どうかしました?今、客先ですよね?」
「それが……事故渋滞で車が全然進まなくて」
「あー。次のお客さんのとこ、間に合いそうに無い感じですか?」
「そうなのよ〜…。んで、待機所にいる誰かに代わりに客先に行って欲しいんだけど、名もなきさん行けます?」
「大丈夫ですよ。新規の方ですか?」
「それが、私の指名客……」
「えっ?!それ私が行って大丈夫な感じですか?」
川上さんに来て欲しいのに、違うメイドが来たら逆に迷惑なんじゃないだろうか。ここは、こっち都合のキャルセルって事で割引券あたりで手を打ってもらうべきでは…?
「あー…向こうも試験や何やらで忙しくて、家事に手が回らないからどうしても来て欲しいらしくて。私以上に可愛いメイドが行きまぁす♡って言ってあるから、大丈夫なはず!」
「可愛いメイド希望なら、るりるりちゃんに代わりに行って貰いましょうか?」
「若い子は口が軽いから、口が硬い名もなきさんにできるなら行って欲しい…」
「は、はぁ……。そういう事ならわかりました。今から向かいます」
「ありがとう!場所は――――」
依頼先の場所を聞くと、なんと学生時代に時々行っていた喫茶店だった。でもあそこは確か、渋いマスター一人で切り盛りしてたはず。
「お客さんって、あのちょいワルな感じのマスターさん?」
「え?名もなきさんあの店知ってたの?あー…お客さんはマスターじゃなくて、屋根裏に……まぁ、バイト君みたいな子が今住んでてるんだけど、その子なのよ」
「なるほど。了解です」
「急にごめんね!よろしくお願いしますっ!」
※ ※ ※ ※
電話を切ったあと急いで待機所を出たおかげで、指定された時間に喫茶ルブランへと着くことができた。ドアを開ける前に、深呼吸を一回。名もなき ななしから、"家事代行メイドみるく"へと意識を切り替える。ドアのガラス部分から中で男性が立っているのが見えた。営業スマイルを張り付け、ドアを開け中に入る。
「お電話ありがとうございますっ♡魔法の練習でべっきぃが来れなくってごめんなさい……(しくしく)代わりに、みるくがご主人様に一生懸命お仕えしまぁす♡」
みるく完璧。可愛く謝って、軽く両の手を握って顎下に添えながら、小首を傾げての必殺☆スマイル。さぁ、今日もお金のために――――
「……ななし?」
「さよなら」
終 わ っ た
急いで180度回転し、ドアの取っ手を握る。
ウソだといってよっ!よりにもよって!なんで!どうして! 蓮くんなのっ!!
「待って、ななし」
そう言って、空いている方の手を掴まれたと思うと、思ったよりも強い力で引っ張られた。とっさの事で踏ん張りが利かず、後ろへ倒れるかと覚悟したが、ぽすりと柔らかい壁に当たった。
「―っと、ごめん」
頭上から 蓮くんの声が聞こえて、初めて彼が後ろにいることを理解する。私がそのままでいると、お腹に腕が回ってもう逃げられない状態になっていた。
「あわわわ…っ!」
「びっくりした。まさか、川上先生の代わりがななしだなんて」
「……へっ?べっきぃの本名……って、先生?」
「川上先生は俺の学校の担任だから」
あー、なるほどなるほど。だから、川上さん口の硬い人がいいって言ってたんだ。つか、担任ってわかってて川上さん指名するこの子って……。いや、今は私はみるく。お客様のプライベートには干渉しない――ってなんか、抱きしめる力強くなってない?
「……ななしのメイド姿可愛い」
「ひえ…っ」
後ろから首元に顔を埋め、呟かれる。彼の身の上話を聞いてあげてから、今まで以上に懐かれ始めた気がする。周りで受け入れてくれる大人が少なくて、心細かったのもあるだろうけど――この状態は甘えてるというには過剰だ。
「あ、あの、もう逃げないから!ちゃんとお仕事はじめるから!」
「……わかった」
やっと 蓮くんの腕から開放され、後ろを向いて彼と向き合う。
「川上さんから、忙しくて家事がおろそかになってるって聞いたよ。今日は何すればいいの?」
「みるく」
「え?」
「素じゃなくて、みるくでやって欲しい」
こ……こいつ…っ。絶対私をからかってるな…っ。口押さえてたって、肩細かく震えてんの分かってるんだから!……でも、今はお金を払ってくれてるお客様 。アクシデントで一度剥がれたみるくの仮面をかぶり直し、ご主人様に話しかける。お金の為、お金の為――
「ご主人様のご要望にお答えしまぁす♡みるくは何をすればいいですかぁ?(きゅるん)」
「……」
「ちょっと、何か言ってよ」
「ぶりっ子してるななしを噛み締めてた」
「やっぱり帰っていい?」
すぐにみるくの仮面剥がすのやめてくれませんかね。はぁ、とため息をつくとごめんって謝る 蓮くん。何もしてないのに、なんだか仕事終わりくらい疲れてる。
「今日は、夕飯を作って欲しい」
「わかりましたぁ♡みるくの愛情たーっぷりのお料理、ご主人様のために頑張って作りまぁす♡」
「……っ。よろしく……っ」
「 蓮くんがみるくでって言ったんだからねっ!笑うのナシッ!」
※ ※ ※ ※
「ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでしたご主人様」
食べ終わった食器を回収し、手早く洗う。とりあえず、依頼された夕飯作りは終わった。食事の際、普段は自炊しているか聞いてみると、ファストフードやカップ麺が多いという。これは喜多川くんと同じく、食事の大切さをよくよく説かなければならないと心に決めた。
「すごく美味しかった。今度、会うときにお弁当作ってきて欲しいな」
「……若いからってファストフードばかりじゃダメだしね。いいよ」
「本当に?……やった」
そうやって年相応な笑顔で素直に喜んでくれれば可愛げがあるのに、なーんかいつも妙な色気をまとってるんだよなこの子……。
「終了までまだちょっと時間あるね……」
私の一言を聞き、おもむろに自身のスマホを取り出して何かを調べ始める 蓮くん。
「みるくの得意な家事は、愛情たっぷりの手料理♡と疲れが吹っ飛ぶスペシャル☆マッサージ……か」
「もしかして、ヴィクトリアに載せてるプロフィール見てる?」
「うん。せっかくなら得意な家事してもらおうかな、と」
「本人目の前に居るんだから、直接聞けばいいのに!」
「素直に答えてくれそうに無いし、適当に部屋の掃除して帰りそうな雰囲気だったから」
図星を突かれて黙り込むしかなくなる。これは、マッサージコース一択になりそうな予感。
「スペシャルマッサージよろしく」
「……わかった。ヴィクトリア仕込みのマッサージで全身解してやるっ!」
「なんで妙に好戦的なんだ」
ついてきて、と言われ二階への階段を登る。川上さんが言っていた通り、本当に屋根裏部屋に住んでいるとは。
長年物置として使っていたのか、まだ物が雑然としてはいるが、ソファの前にはテレビとゲーム機、棚には色んな友達と行ったであろう観光地のお土産品、作業机も使用感があったり……と、生活感がある部屋だ。思ったよりは寂しく無さそうな生活が垣間見れて安心する。
「じゃあ、ベットにうつ伏せになって」
「わかった」
「ちょっと失礼〜…」
蓮くんにベットにうつ伏せになってもらい、その上に跨って乗る。我ながら大胆だとは思うが、横から押すより力が入りやすいから仕方ない。
「……他の男にもこういう事してるの?」
「え?まぁ、リクエストがあればね。メイドの中でも私は若い方じゃないから、そんなに頼まれる事ないけど」
「………」
「思ったより凝ってるし、筋肉あるね。何かスポーツやってる?」
「ジム通ったりしてる」
「なるほどね。だからか〜」
ジム通ってるなんて知らなかった。今まで結構色んな話してきたと思うけど、まだまだ彼の知らない一面があったんだ。
「そういえば、なんでこの仕事を?」
「……病気がちの弟がいて…薬代が必要?みたいな…」
「前に一人っ子だって言ってなかったっけ?」
「う…弟みたいに思ってる甥っ子がいるの!」
「ふぅん……?川上先生と似たような事情なんだ。先生は妹の為って言ってたけど」
「そう、なんだ…」
川上さんにそんな事情があったとは。そういえば、体調悪そうな時も無理に出勤してた事を思い出す。だから蓮くん川上さんを指名してあげてるのかな。
「あ、もう時間だね。お疲れさまでした、ご主人様」
「今日このあと仕事入ってる?」
「いや、今日はラストまで待機だけど――」
「なら延長で」
「延長?」
蓮くんがくるりと仰向けになったかと思うと、上体を起こして私と向き合う。急いでと降りようとしたが、太ももと腰に手を添えられる。この体勢は…色々マズいような気が……。
「あ、あの 蓮くん…離してくれると嬉しいなーなんて…」
「ななし、無防備すぎない?」
「え……」
「マッサージはいいけど上に乗るのはやり過ぎだ。それに、この後の仕事無いってわかったら何されるかわからないだろ?」
「そんな…大丈夫だよ」
「現に俺から逃げられないのに?」
腰に添える手に力が入り、ぐっと 蓮くんとの距離が縮まる。私を見上げる瞳は、少し怒気を含んでいるように見えた。なんて答えようか迷っていると視界がぐるりと回り、……押し倒された。
「こうされてもわかんない?」
そう、耳元で囁くように告げられる。腰にまわっていた手は頬に添えられ、太ももは怪しく撫でられる。
「まってまって……っ」
「待たない」
「……んっ」
蓮くんは囁くと同時に唇で優しく耳を食んだ。これは、大人への甘えというより、男女のそれに近い。わずかな吐息さえも敏感に拾う私の耳はすでに真っ赤だ。両手で 蓮くんの胸元を押すが、鍛えてる体はびくともしない。このままエスカレートしたら絶対にマズい…っ!
「わ、わかった!マッサージメニューは指定できないようにしてもらうから……っ」
「……この期に及んでこの仕事辞めるって選択肢はないんだ?」
「…っ、さすがに…収入減るのは…」
「なら俺以外の指名全部断って」
「…………」
蓮くんの提案に答えられないでいると、無言で太ももに触れる手を上へ進ませる 蓮くん。慌てて腕を掴んで止める。
「もう、わかった!わかったから……っ!ひゃっ…」
最後にちゅっとリップ音を鳴らしながら頬ににキスを落とすと、ようやく 蓮くんは上から退いてベットを降りる。私も慌てて体を起こして、ベットを降りた。
「も、もう!大人に甘えるのはいいけど、からかってこういう事するのはナシ…っ」
「からかったつもりは無いけど?ななしが自覚なく平気で危ない事するのが悪い」
「…………はぁ…………もう延長ナシでいいね?私帰るから。」
軽く髪を手櫛で整え、服を伸ばす。先ほどのように 蓮くんの後に付いて階段を降り、出入り口に向かうと 蓮くんがドアを開けて見送ってくれた。
「また連絡する。出勤の日は必ずチャットして。指名するから」
「……もう、わかったってば」
「今日はもう仕事上がって、家帰ったら連絡くれる?」
「過保護かっ!」
「どちらかと言うと独占欲」
「はぁ……」
なんかどっと疲れた体を引きずり、店に戻って業務報告をしたあと、素直に家へ向かう。家に着くと約束通り 蓮くんへ連絡を入れ、人生の中で最も濃厚な一日を終えたのだった……。
後日、約束の時間より早くルブランに着いた私が、 蓮くんのところに遊びに来ていた喜多川くんと出入り口でバッタリ会った事でちょっとしたドタバタがあったのだけれど、それはまた別の話――――
――――――――――
2025/05/04
文字通り家事代行を業務とする会社であるが、ある特色があるために男性人気が高い。その特色とは、女性店員がメイド姿で客先に訪問し業務行うということ。時にはムフフなサービスを期待して、電話をしてくる客もいるが、あくまで家事代行サービスなのでそのような事はしていない。
そんな会社に、アルバイトとして私は所属していた。昼は普通の会社員として働き、夜は副業としてここで働く。喜多川くんのパトロンになると言った手前、私まで金欠になってしまっては元も子もないからだ。もともとこの会社に所属はしていたが、今月からシフトの量を増やしてもらった。
……ただ、指名は若い子に入ることが多く、私みたいなある程度年齢のいった店員は待機が多い。今日も例にもれず、待機所で暇を持て余していた。
プルルル――――
「お電話ありがとうございますぅ♡家事代行サービス、ヴィクトリアです♡」
自分なりに"ご主人様にメロメロなメイド"という設定で、あざとい声色を出しながら店内の電話をとる。お金のため、これはお金のためなんだ……!
「お疲れさまです。べっきぃです」
「あ、お疲れさまですー」
電話の相手はべっきぃこと、川上さんだった。年も近いこともあって、アルバイトの中では一番仲が良い。まぁ、お互いのプライベートまでは知らないけれど。声色を素に戻し、用件を聞く。
「どうかしました?今、客先ですよね?」
「それが……事故渋滞で車が全然進まなくて」
「あー。次のお客さんのとこ、間に合いそうに無い感じですか?」
「そうなのよ〜…。んで、待機所にいる誰かに代わりに客先に行って欲しいんだけど、名もなきさん行けます?」
「大丈夫ですよ。新規の方ですか?」
「それが、私の指名客……」
「えっ?!それ私が行って大丈夫な感じですか?」
川上さんに来て欲しいのに、違うメイドが来たら逆に迷惑なんじゃないだろうか。ここは、こっち都合のキャルセルって事で割引券あたりで手を打ってもらうべきでは…?
「あー…向こうも試験や何やらで忙しくて、家事に手が回らないからどうしても来て欲しいらしくて。私以上に可愛いメイドが行きまぁす♡って言ってあるから、大丈夫なはず!」
「可愛いメイド希望なら、るりるりちゃんに代わりに行って貰いましょうか?」
「若い子は口が軽いから、口が硬い名もなきさんにできるなら行って欲しい…」
「は、はぁ……。そういう事ならわかりました。今から向かいます」
「ありがとう!場所は――――」
依頼先の場所を聞くと、なんと学生時代に時々行っていた喫茶店だった。でもあそこは確か、渋いマスター一人で切り盛りしてたはず。
「お客さんって、あのちょいワルな感じのマスターさん?」
「え?名もなきさんあの店知ってたの?あー…お客さんはマスターじゃなくて、屋根裏に……まぁ、バイト君みたいな子が今住んでてるんだけど、その子なのよ」
「なるほど。了解です」
「急にごめんね!よろしくお願いしますっ!」
※ ※ ※ ※
電話を切ったあと急いで待機所を出たおかげで、指定された時間に喫茶ルブランへと着くことができた。ドアを開ける前に、深呼吸を一回。名もなき ななしから、"家事代行メイドみるく"へと意識を切り替える。ドアのガラス部分から中で男性が立っているのが見えた。営業スマイルを張り付け、ドアを開け中に入る。
「お電話ありがとうございますっ♡魔法の練習でべっきぃが来れなくってごめんなさい……(しくしく)代わりに、みるくがご主人様に一生懸命お仕えしまぁす♡」
みるく完璧。可愛く謝って、軽く両の手を握って顎下に添えながら、小首を傾げての必殺☆スマイル。さぁ、今日もお金のために――――
「……ななし?」
「さよなら」
終 わ っ た
急いで180度回転し、ドアの取っ手を握る。
ウソだといってよっ!よりにもよって!なんで!どうして! 蓮くんなのっ!!
「待って、ななし」
そう言って、空いている方の手を掴まれたと思うと、思ったよりも強い力で引っ張られた。とっさの事で踏ん張りが利かず、後ろへ倒れるかと覚悟したが、ぽすりと柔らかい壁に当たった。
「―っと、ごめん」
頭上から 蓮くんの声が聞こえて、初めて彼が後ろにいることを理解する。私がそのままでいると、お腹に腕が回ってもう逃げられない状態になっていた。
「あわわわ…っ!」
「びっくりした。まさか、川上先生の代わりがななしだなんて」
「……へっ?べっきぃの本名……って、先生?」
「川上先生は俺の学校の担任だから」
あー、なるほどなるほど。だから、川上さん口の硬い人がいいって言ってたんだ。つか、担任ってわかってて川上さん指名するこの子って……。いや、今は私はみるく。お客様のプライベートには干渉しない――ってなんか、抱きしめる力強くなってない?
「……ななしのメイド姿可愛い」
「ひえ…っ」
後ろから首元に顔を埋め、呟かれる。彼の身の上話を聞いてあげてから、今まで以上に懐かれ始めた気がする。周りで受け入れてくれる大人が少なくて、心細かったのもあるだろうけど――この状態は甘えてるというには過剰だ。
「あ、あの、もう逃げないから!ちゃんとお仕事はじめるから!」
「……わかった」
やっと 蓮くんの腕から開放され、後ろを向いて彼と向き合う。
「川上さんから、忙しくて家事がおろそかになってるって聞いたよ。今日は何すればいいの?」
「みるく」
「え?」
「素じゃなくて、みるくでやって欲しい」
こ……こいつ…っ。絶対私をからかってるな…っ。口押さえてたって、肩細かく震えてんの分かってるんだから!……でも、今はお金を払ってくれてる
「ご主人様のご要望にお答えしまぁす♡みるくは何をすればいいですかぁ?(きゅるん)」
「……」
「ちょっと、何か言ってよ」
「ぶりっ子してるななしを噛み締めてた」
「やっぱり帰っていい?」
すぐにみるくの仮面剥がすのやめてくれませんかね。はぁ、とため息をつくとごめんって謝る 蓮くん。何もしてないのに、なんだか仕事終わりくらい疲れてる。
「今日は、夕飯を作って欲しい」
「わかりましたぁ♡みるくの愛情たーっぷりのお料理、ご主人様のために頑張って作りまぁす♡」
「……っ。よろしく……っ」
「 蓮くんがみるくでって言ったんだからねっ!笑うのナシッ!」
※ ※ ※ ※
「ごちそうさま」
「はい、お粗末さまでしたご主人様」
食べ終わった食器を回収し、手早く洗う。とりあえず、依頼された夕飯作りは終わった。食事の際、普段は自炊しているか聞いてみると、ファストフードやカップ麺が多いという。これは喜多川くんと同じく、食事の大切さをよくよく説かなければならないと心に決めた。
「すごく美味しかった。今度、会うときにお弁当作ってきて欲しいな」
「……若いからってファストフードばかりじゃダメだしね。いいよ」
「本当に?……やった」
そうやって年相応な笑顔で素直に喜んでくれれば可愛げがあるのに、なーんかいつも妙な色気をまとってるんだよなこの子……。
「終了までまだちょっと時間あるね……」
私の一言を聞き、おもむろに自身のスマホを取り出して何かを調べ始める 蓮くん。
「みるくの得意な家事は、愛情たっぷりの手料理♡と疲れが吹っ飛ぶスペシャル☆マッサージ……か」
「もしかして、ヴィクトリアに載せてるプロフィール見てる?」
「うん。せっかくなら得意な家事してもらおうかな、と」
「本人目の前に居るんだから、直接聞けばいいのに!」
「素直に答えてくれそうに無いし、適当に部屋の掃除して帰りそうな雰囲気だったから」
図星を突かれて黙り込むしかなくなる。これは、マッサージコース一択になりそうな予感。
「スペシャルマッサージよろしく」
「……わかった。ヴィクトリア仕込みのマッサージで全身解してやるっ!」
「なんで妙に好戦的なんだ」
ついてきて、と言われ二階への階段を登る。川上さんが言っていた通り、本当に屋根裏部屋に住んでいるとは。
長年物置として使っていたのか、まだ物が雑然としてはいるが、ソファの前にはテレビとゲーム機、棚には色んな友達と行ったであろう観光地のお土産品、作業机も使用感があったり……と、生活感がある部屋だ。思ったよりは寂しく無さそうな生活が垣間見れて安心する。
「じゃあ、ベットにうつ伏せになって」
「わかった」
「ちょっと失礼〜…」
蓮くんにベットにうつ伏せになってもらい、その上に跨って乗る。我ながら大胆だとは思うが、横から押すより力が入りやすいから仕方ない。
「……他の男にもこういう事してるの?」
「え?まぁ、リクエストがあればね。メイドの中でも私は若い方じゃないから、そんなに頼まれる事ないけど」
「………」
「思ったより凝ってるし、筋肉あるね。何かスポーツやってる?」
「ジム通ったりしてる」
「なるほどね。だからか〜」
ジム通ってるなんて知らなかった。今まで結構色んな話してきたと思うけど、まだまだ彼の知らない一面があったんだ。
「そういえば、なんでこの仕事を?」
「……病気がちの弟がいて…薬代が必要?みたいな…」
「前に一人っ子だって言ってなかったっけ?」
「う…弟みたいに思ってる甥っ子がいるの!」
「ふぅん……?川上先生と似たような事情なんだ。先生は妹の為って言ってたけど」
「そう、なんだ…」
川上さんにそんな事情があったとは。そういえば、体調悪そうな時も無理に出勤してた事を思い出す。だから蓮くん川上さんを指名してあげてるのかな。
「あ、もう時間だね。お疲れさまでした、ご主人様」
「今日このあと仕事入ってる?」
「いや、今日はラストまで待機だけど――」
「なら延長で」
「延長?」
蓮くんがくるりと仰向けになったかと思うと、上体を起こして私と向き合う。急いでと降りようとしたが、太ももと腰に手を添えられる。この体勢は…色々マズいような気が……。
「あ、あの 蓮くん…離してくれると嬉しいなーなんて…」
「ななし、無防備すぎない?」
「え……」
「マッサージはいいけど上に乗るのはやり過ぎだ。それに、この後の仕事無いってわかったら何されるかわからないだろ?」
「そんな…大丈夫だよ」
「現に俺から逃げられないのに?」
腰に添える手に力が入り、ぐっと 蓮くんとの距離が縮まる。私を見上げる瞳は、少し怒気を含んでいるように見えた。なんて答えようか迷っていると視界がぐるりと回り、……押し倒された。
「こうされてもわかんない?」
そう、耳元で囁くように告げられる。腰にまわっていた手は頬に添えられ、太ももは怪しく撫でられる。
「まってまって……っ」
「待たない」
「……んっ」
蓮くんは囁くと同時に唇で優しく耳を食んだ。これは、大人への甘えというより、男女のそれに近い。わずかな吐息さえも敏感に拾う私の耳はすでに真っ赤だ。両手で 蓮くんの胸元を押すが、鍛えてる体はびくともしない。このままエスカレートしたら絶対にマズい…っ!
「わ、わかった!マッサージメニューは指定できないようにしてもらうから……っ」
「……この期に及んでこの仕事辞めるって選択肢はないんだ?」
「…っ、さすがに…収入減るのは…」
「なら俺以外の指名全部断って」
「…………」
蓮くんの提案に答えられないでいると、無言で太ももに触れる手を上へ進ませる 蓮くん。慌てて腕を掴んで止める。
「もう、わかった!わかったから……っ!ひゃっ…」
最後にちゅっとリップ音を鳴らしながら頬ににキスを落とすと、ようやく 蓮くんは上から退いてベットを降りる。私も慌てて体を起こして、ベットを降りた。
「も、もう!大人に甘えるのはいいけど、からかってこういう事するのはナシ…っ」
「からかったつもりは無いけど?ななしが自覚なく平気で危ない事するのが悪い」
「…………はぁ…………もう延長ナシでいいね?私帰るから。」
軽く髪を手櫛で整え、服を伸ばす。先ほどのように 蓮くんの後に付いて階段を降り、出入り口に向かうと 蓮くんがドアを開けて見送ってくれた。
「また連絡する。出勤の日は必ずチャットして。指名するから」
「……もう、わかったってば」
「今日はもう仕事上がって、家帰ったら連絡くれる?」
「過保護かっ!」
「どちらかと言うと独占欲」
「はぁ……」
なんかどっと疲れた体を引きずり、店に戻って業務報告をしたあと、素直に家へ向かう。家に着くと約束通り 蓮くんへ連絡を入れ、人生の中で最も濃厚な一日を終えたのだった……。
後日、約束の時間より早くルブランに着いた私が、 蓮くんのところに遊びに来ていた喜多川くんと出入り口でバッタリ会った事でちょっとしたドタバタがあったのだけれど、それはまた別の話――――
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