短編
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「いやぁ、クソうまかったな。この店にして正解だった」
「うん、ほんとに」
「それにしてもこのドルチェ、果物以外の甘さは何使ってんだ……あとで聞いてみるかな」
私の目の前に座るのはクルーのサンジ。カトラリーを手にまじまじと考え込む姿は、その白磁の肌、色素の薄い切りそろえられた髪、アンニュイな重めの目蓋と透き通った色の瞳といった容姿の良さと相まって、料理人としてなかなか様になっている。
時は昼時、観光に力を入れる某島のレストラン。
食材持ち担当としてサンジに同行したリタは、無事に必要な食材を購入するミッションを達成し(荷物持ちのはずがその殆どを彼が持ってしまったが)、彼と共に昼食を取っていた。
「ふふ。私は普通に美味しい〜ってだけで食べちゃった。流石コックだね」
「! 悪りぃ、つい職業病で。……にしても、リタちゃんとこうしてデートできるなんて、オレはなんて幸福なんだ!」
「……はぁ、これさいなければなぁ」
口から零れ落ちた言葉は思った以上に険のある陰湿な響きで、はっと口を噤む。目をハートにして私にラブリンしていたサンジを思わず見れば、少しだけ目を見開いているような気もする。いけない、普段のスーツとは違うややラフな格好に身を包んで、けれどきちんとした所作で食事をするサンジが格好良かっただけに、なにかと残念なんだなぁということを言いたかっただけなのに。
私が女にうつつを抜かすサンジを冷たくあしらうのはいつものことだが、それにしても言い方ってものはある。
「や、別に、怒ってない。……ごめん、お手洗い行ってくるわ、戻ってきたら船戻ろう」
気まずい空気を壊したくて少し不自然に立ち上がる。これだから生理は嫌だ。なんとなく優れない体調は、無意識に言動もなんとなく優れないものにしてしまう。
……これだから生理は嫌だ。
思わず胸の内で毒突く。毒突いていないと、真っ白になった頭では思わず泣きそうになってしまう。
始まって数日は出血量が多いから、対策はしていたのに。下着だけでなく、着ていた淡い水色のズボンにもはっきりと血がついている。この色は誤魔化せない。きっと座っていた木製の椅子も汚してしまったことだろう。
同性クルーのロビンやナミと一緒ならどうとでもなったけど、今待たせているはサンジ。彼は紳士だから事情を告げたところで迷惑そうにすることはないだろうが、やはり異性に生理事情を突きつけるなんて申し訳ない。何より、どうしようもなく恥ずかしい。
サンジの背中側にお手洗いはあったから、服の汚れにも気付かれていないと思う。帰るときも即座に座って仕舞えばごまかせる。
でも椅子の汚れはレストランのものだし取らなければいけないし、服も更に汚れるのは嫌だ。
何より、この後ろから見て明らかに生理の血が付いた服で、歩きたくない。
……どうしよう。
どうしようもなかった。泣きそうになるのをグッと堪えて、半ば呆然としたままリタはお手洗いの扉を開いた。
「あぁ、お帰りリタちゃん。さ、そろそろ行こうか」
結構待たせたはずなのに、流石紳士だ。
「……リタちゃん?」
荷物を持つわけでも無く、椅子に座るわけでも無く呆然と俯くリタを、サンジが怪訝そうな顔で覗き込む。
リタは机に置かれていたボールペンで、同じく机の上からとった紙ナプキンにペンを走らせた。
その紙を持った震える手は一旦動きを止めたものの、サンジの目の下へ差し出された。
「……」
端的に、生理で服とレストランの椅子を汚してしまったこと、この服では歩けないことを書いた。
リタは嫌な緊張でバクバクと自身の心臓が不快に響くのを感じた。恥ずかしい、申し訳ない、嫌だ、もうこの場から消えちゃいたい……。
その沈黙は一瞬のはずだったが、リタには永遠のものに感じられたその時。
「おー、わかった」
なんら変哲のないサンジの声。はっとその顔を見上げた。
柔らかいものがふわりと肩にかけられた。嗅ぎ慣れた煙草の匂いが鼻をかすめる。
「あ、やっぱちょうどいいな。……むふ。なんかいいな、リタちゃんがオレの上着着てるの」
サンジの上着をリタは着ていた。彼の身長に合わせても少し丈の長いデザインのカーディガンはリタの足元近くまでを覆った。
「あ、でも、汚しちゃうかも、」
「そんなの気にしないで。それより服屋寄ってこ。集合時間までは余裕あるしさ」
先に会計して置くから、といつもなら一緒に席を立つはずのサンジはスタスタと席を後にした。
「……ありがとう」
本人に言い損ねたお礼をリタは呟く。
濡れティッシュで汚れは綺麗に拭き取られたが、念のため通りかかった女性店員に汚してしまった旨を書いたメモを見せ謝罪すると「お気になさらないでください! 大丈夫ですか?」と優しく答えてくれた。
店外に出ると
「体調悪くねぇ? 折角だし色々洋服買ってこうよ、ナミさんから貰った小遣いオレまだ結構残ってるからさ」
そう言っていつも以上に本人の足から自然にもたらされるそれよりも小さな歩幅で歩いてくれるサンジ。
「うん。大丈夫。じゃあこれから私とデートしよう!」
そう戯けていえば、驚いた後「うおー! リタちゃんかわいいー!!」と叫ぶ彼はやっぱり兎に角勿体ないなと思って、リタは吹き出した。
厄日でも吉日
「うん、ほんとに」
「それにしてもこのドルチェ、果物以外の甘さは何使ってんだ……あとで聞いてみるかな」
私の目の前に座るのはクルーのサンジ。カトラリーを手にまじまじと考え込む姿は、その白磁の肌、色素の薄い切りそろえられた髪、アンニュイな重めの目蓋と透き通った色の瞳といった容姿の良さと相まって、料理人としてなかなか様になっている。
時は昼時、観光に力を入れる某島のレストラン。
食材持ち担当としてサンジに同行したリタは、無事に必要な食材を購入するミッションを達成し(荷物持ちのはずがその殆どを彼が持ってしまったが)、彼と共に昼食を取っていた。
「ふふ。私は普通に美味しい〜ってだけで食べちゃった。流石コックだね」
「! 悪りぃ、つい職業病で。……にしても、リタちゃんとこうしてデートできるなんて、オレはなんて幸福なんだ!」
「……はぁ、これさいなければなぁ」
口から零れ落ちた言葉は思った以上に険のある陰湿な響きで、はっと口を噤む。目をハートにして私にラブリンしていたサンジを思わず見れば、少しだけ目を見開いているような気もする。いけない、普段のスーツとは違うややラフな格好に身を包んで、けれどきちんとした所作で食事をするサンジが格好良かっただけに、なにかと残念なんだなぁということを言いたかっただけなのに。
私が女にうつつを抜かすサンジを冷たくあしらうのはいつものことだが、それにしても言い方ってものはある。
「や、別に、怒ってない。……ごめん、お手洗い行ってくるわ、戻ってきたら船戻ろう」
気まずい空気を壊したくて少し不自然に立ち上がる。これだから生理は嫌だ。なんとなく優れない体調は、無意識に言動もなんとなく優れないものにしてしまう。
……これだから生理は嫌だ。
思わず胸の内で毒突く。毒突いていないと、真っ白になった頭では思わず泣きそうになってしまう。
始まって数日は出血量が多いから、対策はしていたのに。下着だけでなく、着ていた淡い水色のズボンにもはっきりと血がついている。この色は誤魔化せない。きっと座っていた木製の椅子も汚してしまったことだろう。
同性クルーのロビンやナミと一緒ならどうとでもなったけど、今待たせているはサンジ。彼は紳士だから事情を告げたところで迷惑そうにすることはないだろうが、やはり異性に生理事情を突きつけるなんて申し訳ない。何より、どうしようもなく恥ずかしい。
サンジの背中側にお手洗いはあったから、服の汚れにも気付かれていないと思う。帰るときも即座に座って仕舞えばごまかせる。
でも椅子の汚れはレストランのものだし取らなければいけないし、服も更に汚れるのは嫌だ。
何より、この後ろから見て明らかに生理の血が付いた服で、歩きたくない。
……どうしよう。
どうしようもなかった。泣きそうになるのをグッと堪えて、半ば呆然としたままリタはお手洗いの扉を開いた。
「あぁ、お帰りリタちゃん。さ、そろそろ行こうか」
結構待たせたはずなのに、流石紳士だ。
「……リタちゃん?」
荷物を持つわけでも無く、椅子に座るわけでも無く呆然と俯くリタを、サンジが怪訝そうな顔で覗き込む。
リタは机に置かれていたボールペンで、同じく机の上からとった紙ナプキンにペンを走らせた。
その紙を持った震える手は一旦動きを止めたものの、サンジの目の下へ差し出された。
「……」
端的に、生理で服とレストランの椅子を汚してしまったこと、この服では歩けないことを書いた。
リタは嫌な緊張でバクバクと自身の心臓が不快に響くのを感じた。恥ずかしい、申し訳ない、嫌だ、もうこの場から消えちゃいたい……。
その沈黙は一瞬のはずだったが、リタには永遠のものに感じられたその時。
「おー、わかった」
なんら変哲のないサンジの声。はっとその顔を見上げた。
柔らかいものがふわりと肩にかけられた。嗅ぎ慣れた煙草の匂いが鼻をかすめる。
「あ、やっぱちょうどいいな。……むふ。なんかいいな、リタちゃんがオレの上着着てるの」
サンジの上着をリタは着ていた。彼の身長に合わせても少し丈の長いデザインのカーディガンはリタの足元近くまでを覆った。
「あ、でも、汚しちゃうかも、」
「そんなの気にしないで。それより服屋寄ってこ。集合時間までは余裕あるしさ」
先に会計して置くから、といつもなら一緒に席を立つはずのサンジはスタスタと席を後にした。
「……ありがとう」
本人に言い損ねたお礼をリタは呟く。
濡れティッシュで汚れは綺麗に拭き取られたが、念のため通りかかった女性店員に汚してしまった旨を書いたメモを見せ謝罪すると「お気になさらないでください! 大丈夫ですか?」と優しく答えてくれた。
店外に出ると
「体調悪くねぇ? 折角だし色々洋服買ってこうよ、ナミさんから貰った小遣いオレまだ結構残ってるからさ」
そう言っていつも以上に本人の足から自然にもたらされるそれよりも小さな歩幅で歩いてくれるサンジ。
「うん。大丈夫。じゃあこれから私とデートしよう!」
そう戯けていえば、驚いた後「うおー! リタちゃんかわいいー!!」と叫ぶ彼はやっぱり兎に角勿体ないなと思って、リタは吹き出した。
厄日でも吉日