短編
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「リタ、お風呂おまたせ」
「りょーかい」
風呂上り後の少し赤らんだ顔のナミに呼びかけられ、リタは上機嫌に返事をした。
着替えとバスタオルを持って風呂場に向かう。
脱衣所で腰まである薄桃色のロングヘアを取り外し、着用していたフェミニンな洋服を脱いで、リタは浴室に入った。
「あー……きもちー。この船、風呂あるのほんといいよなぁ」
常日頃変装し、違う性で自身を美しく着飾ることも多いリタにとって、入浴というのは化粧を落とし服を脱ぎウィッグを解き、素の自分でいられる唯一の時間だった。
変装は慣れたものだし、女装は趣味であるから疲れるわけでもないのだが、やはり誰かの視線や評価から一切解放されるというのは気持ち良い。
風呂の面前に取り付けられた大きな曇った姿見を指先でキュキュと磨いてやれば、すらりと均整のとれたリタ本来の顔と身体が映し出された。
「んー、あったかくて寝そうになるけどそろそろ上がるかぁ。長風呂するとあいつが煩えし」
まぁ「いつまで入ってんだ」と毎度うざったいあいつのことはさておき、野郎で毎日入浴するのがあいつだけってなかなかこの船のやつらは汚いよなぁなどとリタが考えていたところでふっと風呂場の電気が消えた。
「停電?」
少し経てば回復するだろうか、と風呂に入ったまま待ってみるものの一向に着く気配がない。
電気の消えた広い風呂場は光ひとつなく真っ暗で、夜目はあまり聴かないリタにとっては辛いところだが、これはあがるしかないだろう。近くの縁に手をかけて、そろそろと湯船から身体を引き上げる。
床まで上がって仕舞えば扉までは一直線。先に髪やら身体やらを洗っていて良かったとつい油断してなんの警戒なしに一歩を踏み出した。
「うわっ!?」
シャンプーだかの流し残しがあったのか、つるりと勢いよく足を取られた。
抗いようのない床の滑りの良さにそのままリタはひっくり返る。ガン、と頭を打った鈍い音が風呂場にこだました。
「あー、これはやばい」
と思った時には、視界が暗転した。
「あの野郎まだ風呂入ってんのか? 長風呂すぎんだよったく」
仕込みを終え、先に入浴したリタが上がったら風呂に入ろうと思っていたサンジは、いつまでもリタが「上がった」と呼びにこないのに痺れを切らし風呂場に向かっていた(たしかに、リタが呼びにくる前にそのあまりの長風呂にサンジの方が「早く出ろ」と風呂場に出向いていくこともしばしばあった)。
途中、道すがら確認した男子部屋にはリタはおらず、(生意気なことによくナミさんやロビンちゃんとお話ししに通ってやがる)女子部屋に行っても「私が上がった後リタには声かけたけど、随分前よ」とナミに笑いながら返され、サンジはただでさえ気の食わないリタの長風呂に苛ついてタバコをギリギリと噛み締めた。
しかし、風呂場の電気は消えている。
「暗いし音もしねぇな、まぁ入れるならいいか」
無駄足にならなかったことを喜びながら、ジャケットを脱ぎつつ脱衣所に足を一本踏み入れた
ところで
「うおっ」
「わっ」
なにかと衝突し、サンジはその勢いのままに前に倒れた。少し遅れて鈍い音が響く。
思わしくない身体の浮遊間に咄嗟に両手を着くが、その先の感触は脱衣所の床ではないようで「ひうっ」とこの場に似つかわしくない声が上がった。
「いってて……、……! この変態野郎! どこ触ってるんだ! そしてさっさとオレの上からどけ!」
「いやすまない……ってこの声リタかよ! なんで電気消えてるん、だ……」
リタの罵倒に咄嗟にサンジが応酬した途端、あれだけつかなかったはずの電気がふっと点いた。それでも弱々しく点いたり消えたり明滅する電気は、やはり寿命が近いのだろう。
何にせよ、その断続的に齎される明るさは、サンジの視界がリタの姿を捉えるには十分なものであった。
まず目に飛び込んだのは自身のより色素の薄い金髪。男にしては普通だろうが女がするにはベリーショートのその髪は、随分儚くその影をリタの白い肌に落としている。
常日頃メイクでさまざまな人格を創っているその顔は、普段の女性らしさとはかけ離れながらも、男というにはあまりに可憐で女性性を秘めた顔つきであった。なるほど女性らしいメイクを施して映えるわけである。
「お前、こんなだったんだな……」
普段見ることのないリタの真の容姿にサンジが思わず、手を無意識にずらした。
「ひゃ! ……んの変態ゲイ野郎!!!」
「テメェ言うに事欠いて何言い出すんだ!! どこに手を置いてるか、って、……」
謂れのない妄言に言い返しながら、リタのいう手を確認すれば、サンジの骨張った手はしっかりとリタの薄い胸板を掴んでいた。
そしてリタの顔を見ているうち意識するのを忘れていたが、サンジの今の体制は同様に倒れ込んだリタの上にうつ伏せになっているわけで。さらりと揺れる髪も驚いたその顔もなぜかドアップで、自身の鼻と目の先にあって……。
「うおおおお!! お、おま、何晒してくれとんじゃあ!!!」
驚異的な背筋を使って、サンジは瞬時にリタの上から飛び泣いた。
「しかもお前裸じゃねぇか、何してんだよ! あぁ、こんな野郎組み敷いてたのかと思うと鳥肌が立つぜ……! ……。あ? お前もいつまでも裸でそうしていないで起き上がれよ、間抜けだぜ」
女を愛する自身の神への冒涜のような自身の体制に震えながら、サンジはリタを見る。常日頃女を気取っておきながら、局部丸出しで倒れているリタを笑ってやろうと思ったのだ。
「……や、あんたが押し倒してきたから頭打った。さっきも、ころんで、おなじとこ」
「押し倒してねぇ! ……ておい、え、リタ?」
なんとか会話をしていたものの、サンジが勢いよくぶつかったせいで頭を打ってしまったのは本当なのだろう。呂律の回らない喋り方になったと思うと、リタはぐったりと意識を失った。
サンジは真っ青になったリタを慌てて担ぐ。
恐らく脳震盪だろう、キッチンにある氷をまず取って、チョッパーに見せればいいか。
揺らさないほうがいいから、走らないほうがいいだろう。脱衣所を出ようとしたところでちょっと考えて、バスタオルと自身のジャケットでリタの身体を包んだ。
「これはあれだ、諸々丸出しのお前なんか目にしたら麗しいナミさんやロビンちゃんの目が汚れちまうし、あとはあまりにお前が男の威厳失ってかわいそうなことにならないための配慮だからな!」
気を失っているリタには届き用のない言葉を1人で呟きながら、サンジはリタを抱いて早足で歩き出した。
裸の男と密着していたにもかかわらず、鳥肌が立っていない自分に内心ちっと舌打ちしながら。
「りょーかい」
風呂上り後の少し赤らんだ顔のナミに呼びかけられ、リタは上機嫌に返事をした。
着替えとバスタオルを持って風呂場に向かう。
脱衣所で腰まである薄桃色のロングヘアを取り外し、着用していたフェミニンな洋服を脱いで、リタは浴室に入った。
「あー……きもちー。この船、風呂あるのほんといいよなぁ」
常日頃変装し、違う性で自身を美しく着飾ることも多いリタにとって、入浴というのは化粧を落とし服を脱ぎウィッグを解き、素の自分でいられる唯一の時間だった。
変装は慣れたものだし、女装は趣味であるから疲れるわけでもないのだが、やはり誰かの視線や評価から一切解放されるというのは気持ち良い。
風呂の面前に取り付けられた大きな曇った姿見を指先でキュキュと磨いてやれば、すらりと均整のとれたリタ本来の顔と身体が映し出された。
「んー、あったかくて寝そうになるけどそろそろ上がるかぁ。長風呂するとあいつが煩えし」
まぁ「いつまで入ってんだ」と毎度うざったいあいつのことはさておき、野郎で毎日入浴するのがあいつだけってなかなかこの船のやつらは汚いよなぁなどとリタが考えていたところでふっと風呂場の電気が消えた。
「停電?」
少し経てば回復するだろうか、と風呂に入ったまま待ってみるものの一向に着く気配がない。
電気の消えた広い風呂場は光ひとつなく真っ暗で、夜目はあまり聴かないリタにとっては辛いところだが、これはあがるしかないだろう。近くの縁に手をかけて、そろそろと湯船から身体を引き上げる。
床まで上がって仕舞えば扉までは一直線。先に髪やら身体やらを洗っていて良かったとつい油断してなんの警戒なしに一歩を踏み出した。
「うわっ!?」
シャンプーだかの流し残しがあったのか、つるりと勢いよく足を取られた。
抗いようのない床の滑りの良さにそのままリタはひっくり返る。ガン、と頭を打った鈍い音が風呂場にこだました。
「あー、これはやばい」
と思った時には、視界が暗転した。
「あの野郎まだ風呂入ってんのか? 長風呂すぎんだよったく」
仕込みを終え、先に入浴したリタが上がったら風呂に入ろうと思っていたサンジは、いつまでもリタが「上がった」と呼びにこないのに痺れを切らし風呂場に向かっていた(たしかに、リタが呼びにくる前にそのあまりの長風呂にサンジの方が「早く出ろ」と風呂場に出向いていくこともしばしばあった)。
途中、道すがら確認した男子部屋にはリタはおらず、(生意気なことによくナミさんやロビンちゃんとお話ししに通ってやがる)女子部屋に行っても「私が上がった後リタには声かけたけど、随分前よ」とナミに笑いながら返され、サンジはただでさえ気の食わないリタの長風呂に苛ついてタバコをギリギリと噛み締めた。
しかし、風呂場の電気は消えている。
「暗いし音もしねぇな、まぁ入れるならいいか」
無駄足にならなかったことを喜びながら、ジャケットを脱ぎつつ脱衣所に足を一本踏み入れた
ところで
「うおっ」
「わっ」
なにかと衝突し、サンジはその勢いのままに前に倒れた。少し遅れて鈍い音が響く。
思わしくない身体の浮遊間に咄嗟に両手を着くが、その先の感触は脱衣所の床ではないようで「ひうっ」とこの場に似つかわしくない声が上がった。
「いってて……、……! この変態野郎! どこ触ってるんだ! そしてさっさとオレの上からどけ!」
「いやすまない……ってこの声リタかよ! なんで電気消えてるん、だ……」
リタの罵倒に咄嗟にサンジが応酬した途端、あれだけつかなかったはずの電気がふっと点いた。それでも弱々しく点いたり消えたり明滅する電気は、やはり寿命が近いのだろう。
何にせよ、その断続的に齎される明るさは、サンジの視界がリタの姿を捉えるには十分なものであった。
まず目に飛び込んだのは自身のより色素の薄い金髪。男にしては普通だろうが女がするにはベリーショートのその髪は、随分儚くその影をリタの白い肌に落としている。
常日頃メイクでさまざまな人格を創っているその顔は、普段の女性らしさとはかけ離れながらも、男というにはあまりに可憐で女性性を秘めた顔つきであった。なるほど女性らしいメイクを施して映えるわけである。
「お前、こんなだったんだな……」
普段見ることのないリタの真の容姿にサンジが思わず、手を無意識にずらした。
「ひゃ! ……んの変態ゲイ野郎!!!」
「テメェ言うに事欠いて何言い出すんだ!! どこに手を置いてるか、って、……」
謂れのない妄言に言い返しながら、リタのいう手を確認すれば、サンジの骨張った手はしっかりとリタの薄い胸板を掴んでいた。
そしてリタの顔を見ているうち意識するのを忘れていたが、サンジの今の体制は同様に倒れ込んだリタの上にうつ伏せになっているわけで。さらりと揺れる髪も驚いたその顔もなぜかドアップで、自身の鼻と目の先にあって……。
「うおおおお!! お、おま、何晒してくれとんじゃあ!!!」
驚異的な背筋を使って、サンジは瞬時にリタの上から飛び泣いた。
「しかもお前裸じゃねぇか、何してんだよ! あぁ、こんな野郎組み敷いてたのかと思うと鳥肌が立つぜ……! ……。あ? お前もいつまでも裸でそうしていないで起き上がれよ、間抜けだぜ」
女を愛する自身の神への冒涜のような自身の体制に震えながら、サンジはリタを見る。常日頃女を気取っておきながら、局部丸出しで倒れているリタを笑ってやろうと思ったのだ。
「……や、あんたが押し倒してきたから頭打った。さっきも、ころんで、おなじとこ」
「押し倒してねぇ! ……ておい、え、リタ?」
なんとか会話をしていたものの、サンジが勢いよくぶつかったせいで頭を打ってしまったのは本当なのだろう。呂律の回らない喋り方になったと思うと、リタはぐったりと意識を失った。
サンジは真っ青になったリタを慌てて担ぐ。
恐らく脳震盪だろう、キッチンにある氷をまず取って、チョッパーに見せればいいか。
揺らさないほうがいいから、走らないほうがいいだろう。脱衣所を出ようとしたところでちょっと考えて、バスタオルと自身のジャケットでリタの身体を包んだ。
「これはあれだ、諸々丸出しのお前なんか目にしたら麗しいナミさんやロビンちゃんの目が汚れちまうし、あとはあまりにお前が男の威厳失ってかわいそうなことにならないための配慮だからな!」
気を失っているリタには届き用のない言葉を1人で呟きながら、サンジはリタを抱いて早足で歩き出した。
裸の男と密着していたにもかかわらず、鳥肌が立っていない自分に内心ちっと舌打ちしながら。