短編
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与えられた部屋で物思いに耽っていると、
「レイジュよ。開けて」
と先程母の死の真相を教えた姉が、扉をノックした。
まだ何かあったのかと疑うことなく開けると、そこに佇むはレイジュではなくこの城の兵士だった。
「誰だ、お前!」
咄嗟に足技を仕掛けようとしたところで、口を塞がれる。
レイジュを騙っ前た兵士は器用にもう片方の手で扉を閉めた。
「リタだ」
目深に被った帽子から覗く瞳にはっと息を飲む。数日前、船長と共に切り捨てたかつての仲間がそこにはいた。
「時間がない、単刀直入に言う。あんた、プリンに騙されてる。プリンはーー」
自身の婚約者について、表情を変えずに知らしめようとするリタに
「……知ってるよ」
と答えた。酷くぶっきらぼうな声になった。
「……え? 知ってる?」
「あぁ」
「じゃああんた、騙されてるの知っててー!」
流石に予期していなかったのだろう。大きな声になったリタを抑えるべく
「いや。知ったのは昨日さ。……直接プリンちゃんがおれを殺すと言っていた」
と続けた。
「……そう」
リタは僅かばかり驚いた顔を引っ込め、真顔になった。
気まずい沈黙が流れた。
リタとこんなに近くで話すのは久しぶりだった。ルフィに容赦ない攻撃を仕掛けていた時も、こいつは遠くで震えながらおれのことを見ていたから。
飄々としているようで、いつだって誰かのことをからかって、誰かと笑って、誰かに怒ってーー。意外と表情豊かなこいつがこんな顔をするんだな。そうさせた不甲斐ない自身に罪悪感が募るが、当のおれがそれを悲しむなど許されない。
表情を引き締め
「用がないならルフィたちと帰れ」
と投げやりに告げる。
「……帰ってくれ」
今度は、懇願した。
自分がどんな表情をしているのかも分からないのに、リタの顔など見れなかった。
またしても一瞬の沈黙が落ちる。
「サンジ」
気づいた時には、リタの顔が自身の胸に埋められていて、その男にしては細い腕できつく抱きしめられていた。
「……。あんたがヴィンスモークだろうと、落ちこぼれの王子だろうと、あんたが麦わらの船のコックであることには何らかわらねぇ。それに、オレにとっては今までもこれからもただのクソ煙草眉毛野郎だよ」
その声は、震えていただろうか。
呼吸も忘れ、サンジはその声を受け止めていた。思わず自分の胸で震える肩に、手が伸びた。
その手が触れる前に、リタはぱっと身体を離すと、
「……もう時間がねぇ。この城の奴らが侵入者のオレに気付く。半数くらいは連れていけるかな。少しでも城の見張りが手薄なうちに、ここを脱出しろ。……ルフィを餓死させたくなかったらな」
そう言うと、呆然とするサンジを置いて、扉の前へ立った。
真顔だった表情を崩して、くしゃっと笑う。泣き笑いのようだった。
「……待ってるから。オレも」
扉を開くと、リタは颯爽と駆け出した。
「いたぞ百面相のリタ!」
「捕えろ!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
外の喧騒が、重厚な扉を通してサンジの元まで聴こえてくる。
その場に立っていられなくて、ふらふらとベッドに腰掛けた。
「……今更引き返せねぇのに、どうしろってんだよ。リタ」
その声も指も情けなく震えていて、サンジはどうしようもなく泣きたくなった。
「レイジュよ。開けて」
と先程母の死の真相を教えた姉が、扉をノックした。
まだ何かあったのかと疑うことなく開けると、そこに佇むはレイジュではなくこの城の兵士だった。
「誰だ、お前!」
咄嗟に足技を仕掛けようとしたところで、口を塞がれる。
レイジュを騙っ前た兵士は器用にもう片方の手で扉を閉めた。
「リタだ」
目深に被った帽子から覗く瞳にはっと息を飲む。数日前、船長と共に切り捨てたかつての仲間がそこにはいた。
「時間がない、単刀直入に言う。あんた、プリンに騙されてる。プリンはーー」
自身の婚約者について、表情を変えずに知らしめようとするリタに
「……知ってるよ」
と答えた。酷くぶっきらぼうな声になった。
「……え? 知ってる?」
「あぁ」
「じゃああんた、騙されてるの知っててー!」
流石に予期していなかったのだろう。大きな声になったリタを抑えるべく
「いや。知ったのは昨日さ。……直接プリンちゃんがおれを殺すと言っていた」
と続けた。
「……そう」
リタは僅かばかり驚いた顔を引っ込め、真顔になった。
気まずい沈黙が流れた。
リタとこんなに近くで話すのは久しぶりだった。ルフィに容赦ない攻撃を仕掛けていた時も、こいつは遠くで震えながらおれのことを見ていたから。
飄々としているようで、いつだって誰かのことをからかって、誰かと笑って、誰かに怒ってーー。意外と表情豊かなこいつがこんな顔をするんだな。そうさせた不甲斐ない自身に罪悪感が募るが、当のおれがそれを悲しむなど許されない。
表情を引き締め
「用がないならルフィたちと帰れ」
と投げやりに告げる。
「……帰ってくれ」
今度は、懇願した。
自分がどんな表情をしているのかも分からないのに、リタの顔など見れなかった。
またしても一瞬の沈黙が落ちる。
「サンジ」
気づいた時には、リタの顔が自身の胸に埋められていて、その男にしては細い腕できつく抱きしめられていた。
「……。あんたがヴィンスモークだろうと、落ちこぼれの王子だろうと、あんたが麦わらの船のコックであることには何らかわらねぇ。それに、オレにとっては今までもこれからもただのクソ煙草眉毛野郎だよ」
その声は、震えていただろうか。
呼吸も忘れ、サンジはその声を受け止めていた。思わず自分の胸で震える肩に、手が伸びた。
その手が触れる前に、リタはぱっと身体を離すと、
「……もう時間がねぇ。この城の奴らが侵入者のオレに気付く。半数くらいは連れていけるかな。少しでも城の見張りが手薄なうちに、ここを脱出しろ。……ルフィを餓死させたくなかったらな」
そう言うと、呆然とするサンジを置いて、扉の前へ立った。
真顔だった表情を崩して、くしゃっと笑う。泣き笑いのようだった。
「……待ってるから。オレも」
扉を開くと、リタは颯爽と駆け出した。
「いたぞ百面相のリタ!」
「捕えろ!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
外の喧騒が、重厚な扉を通してサンジの元まで聴こえてくる。
その場に立っていられなくて、ふらふらとベッドに腰掛けた。
「……今更引き返せねぇのに、どうしろってんだよ。リタ」
その声も指も情けなく震えていて、サンジはどうしようもなく泣きたくなった。