短編
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「うーん、ちょっと重いなぁ。もう少し持ってくれない?」
「ははは、かわいこぶらないでくださいますかクソマドモアゼル」
「何その言い方! クソ眉ったらひっどーい!」
リタはニンジンやネギといった長さのある食材が飛び出した身長を少し超す紙袋を、両腕で抱えていた。
穏やかな日差しが差す午後、麦わらの一味•サンジとリタは停泊した島に食料の買い出しに来ていた。
グランドライン。次の大きな冒険の島を目指す途中にある、海軍の警戒が厳しく、人口も少ない小島。
出来る限り必要最小限の接触にするために、手配書がアレなサンジと、手配書に載っていないリタのペアが必然的に選ばれた。
春島の気候の島、リタは黒のキャップから豊かなカールした髪を覗かせて、尻まであるダボついたパーカーを着用。そこからちらりとショートパンツが覗き、ニーハイ、運動靴で締めるという女の子らしさがありながらも溌剌としたコーデで纏めていた。
ラフな格好をしているサンジと対になって、側から見れば美男美女カップルであろう。
ニコニコしながら、楽しそうな声音で、お互いを罵り合っている。
「今回のテストはできたって言ったじゃない!」
甲高い声が街中に響き渡った。
「……できたと、思って」
「先生にも自信あるんですよ、ってママ言っちゃったじゃない! 私に恥かかせるんじゃないわよ!」
「ごめんなさい……」
「本当にできない子なんだから! あんたなんか生まなきゃよかったわ!」
「……ごめんなさい」
街中を行く人が、親子のそのやりとりにちらりと目を配り、そそくさと立ち去っていく。
母親にしてはまだ若そうな女が、激しい声を上げていた。ヒステリーだった。
精神が病気なのかもしれないとリタは思う。
なにも街中であそこまで感情のままに叱り付ける方が、よほど彼女の気にする「世間体」に差し障る気はするのだが、なによりも泣きそうなのを堪えて、母を見上げる息子が痛ましかった。
子どもの足でついて行く幾分か速い速度で歩く女に手を引かれ、男の子は少しもつれた。
(オレには関係ない)
こんなふうに同情のこもった目で彼を見ること自体が彼を余計苦しめるだろう、と船に戻るべく目の前にいるはずのサンジに声をかけようとしたときだった。
「あぁ、麗しいレディ! その美しいお顔を歪めては勿体ない! どうか貴方のその柔らかい笑みを僕に見せていただけないでしょうか!」
(なにやってんだ、あいつ……)
先ほどまでヒステリックに息子を怒り散らしていた彼女の前にサンジは跪き、いつもの通り歯の浮くような文句を並べている。
一見驚いた女であったが、サンジのその整った容姿を確認すると
「あら……ふふ、そうね。でも全く持ってダメなのよこの子ったら。美しい貴方に免じて、今日は許してやろうかしら」
そう言って、「感謝するのよ」と息子に向けて高慢に笑った。
さすがサンジ……とは、思わなかった。
ほら、その証拠に、自分が愛されることを切望する女の愛情もいとも簡単に受けてしまったサンジを見つめる、男の子のあの憎悪の瞳……!
その後機嫌を治したらしい母親と息子と別れ、船へ帰るべく歩いて行く。
会話はなかった。
左手で身長を超すほどに高く積んだ食材の袋を抱えながら、タバコを吸うのに手間取るサンジを見て、
「やっぱ私もう少し持つ」
とリタは手を差し出した。
「おう」
と一言だけ返して、サンジは荷物をよこし、タバコを咥えた。
紫煙が春の空気の中をゆらゆらと泳ぐ。
気まずい空気が流れた。
「……見てられなかったんだよ」
先に沈黙を破ったのはサンジだ。
「見て、られなかったんだ。あのレディは……」
左目を覆うサンジの表情を、彼の左側を歩くリタは窺い知れない。
その一言を言ったきり、また彼は沈黙の中に身を隠してしまった。
リタは少し考えて、両手に持っていた袋を何とか左手一本に持ちかえると
「えいっ!!」
とサンジの背中に飛びついた。
「! ……てめっ、なにすんだ!」
サンジの持っていた食料が飛びつかれた勢いでグラグラと揺れる。それを慌てて抑えながら、後ろに飛びついたリタを見るべくサンジは驚いた表情で振り向いた。
「へへっ。うーん、ご褒美?」
出来るだけ可愛らしい声で、可愛い顔して。自身より(ムカつくことに)幾分か高いところにあるサンジの瞳を、上目遣いで見上げる。
「……なにがご褒美? だ! オレにそっちの趣味はねぇんだ! とっとと離れろ!」
「やだもーん」
「んなっ……!」
サンジが怒ったり青ざめたりするのを見て、リタは笑った。
タバコ臭いけど、今日は我慢。少しでも、この可愛いオレの容姿でサンジが癒えますように。
そういってサンジの腰からお腹にかけて回した右腕に、リタはぎゅうと力を込めた。
(あんたは表情豊かな方が似合うから)
「ははは、かわいこぶらないでくださいますかクソマドモアゼル」
「何その言い方! クソ眉ったらひっどーい!」
リタはニンジンやネギといった長さのある食材が飛び出した身長を少し超す紙袋を、両腕で抱えていた。
穏やかな日差しが差す午後、麦わらの一味•サンジとリタは停泊した島に食料の買い出しに来ていた。
グランドライン。次の大きな冒険の島を目指す途中にある、海軍の警戒が厳しく、人口も少ない小島。
出来る限り必要最小限の接触にするために、手配書がアレなサンジと、手配書に載っていないリタのペアが必然的に選ばれた。
春島の気候の島、リタは黒のキャップから豊かなカールした髪を覗かせて、尻まであるダボついたパーカーを着用。そこからちらりとショートパンツが覗き、ニーハイ、運動靴で締めるという女の子らしさがありながらも溌剌としたコーデで纏めていた。
ラフな格好をしているサンジと対になって、側から見れば美男美女カップルであろう。
ニコニコしながら、楽しそうな声音で、お互いを罵り合っている。
「今回のテストはできたって言ったじゃない!」
甲高い声が街中に響き渡った。
「……できたと、思って」
「先生にも自信あるんですよ、ってママ言っちゃったじゃない! 私に恥かかせるんじゃないわよ!」
「ごめんなさい……」
「本当にできない子なんだから! あんたなんか生まなきゃよかったわ!」
「……ごめんなさい」
街中を行く人が、親子のそのやりとりにちらりと目を配り、そそくさと立ち去っていく。
母親にしてはまだ若そうな女が、激しい声を上げていた。ヒステリーだった。
精神が病気なのかもしれないとリタは思う。
なにも街中であそこまで感情のままに叱り付ける方が、よほど彼女の気にする「世間体」に差し障る気はするのだが、なによりも泣きそうなのを堪えて、母を見上げる息子が痛ましかった。
子どもの足でついて行く幾分か速い速度で歩く女に手を引かれ、男の子は少しもつれた。
(オレには関係ない)
こんなふうに同情のこもった目で彼を見ること自体が彼を余計苦しめるだろう、と船に戻るべく目の前にいるはずのサンジに声をかけようとしたときだった。
「あぁ、麗しいレディ! その美しいお顔を歪めては勿体ない! どうか貴方のその柔らかい笑みを僕に見せていただけないでしょうか!」
(なにやってんだ、あいつ……)
先ほどまでヒステリックに息子を怒り散らしていた彼女の前にサンジは跪き、いつもの通り歯の浮くような文句を並べている。
一見驚いた女であったが、サンジのその整った容姿を確認すると
「あら……ふふ、そうね。でも全く持ってダメなのよこの子ったら。美しい貴方に免じて、今日は許してやろうかしら」
そう言って、「感謝するのよ」と息子に向けて高慢に笑った。
さすがサンジ……とは、思わなかった。
ほら、その証拠に、自分が愛されることを切望する女の愛情もいとも簡単に受けてしまったサンジを見つめる、男の子のあの憎悪の瞳……!
その後機嫌を治したらしい母親と息子と別れ、船へ帰るべく歩いて行く。
会話はなかった。
左手で身長を超すほどに高く積んだ食材の袋を抱えながら、タバコを吸うのに手間取るサンジを見て、
「やっぱ私もう少し持つ」
とリタは手を差し出した。
「おう」
と一言だけ返して、サンジは荷物をよこし、タバコを咥えた。
紫煙が春の空気の中をゆらゆらと泳ぐ。
気まずい空気が流れた。
「……見てられなかったんだよ」
先に沈黙を破ったのはサンジだ。
「見て、られなかったんだ。あのレディは……」
左目を覆うサンジの表情を、彼の左側を歩くリタは窺い知れない。
その一言を言ったきり、また彼は沈黙の中に身を隠してしまった。
リタは少し考えて、両手に持っていた袋を何とか左手一本に持ちかえると
「えいっ!!」
とサンジの背中に飛びついた。
「! ……てめっ、なにすんだ!」
サンジの持っていた食料が飛びつかれた勢いでグラグラと揺れる。それを慌てて抑えながら、後ろに飛びついたリタを見るべくサンジは驚いた表情で振り向いた。
「へへっ。うーん、ご褒美?」
出来るだけ可愛らしい声で、可愛い顔して。自身より(ムカつくことに)幾分か高いところにあるサンジの瞳を、上目遣いで見上げる。
「……なにがご褒美? だ! オレにそっちの趣味はねぇんだ! とっとと離れろ!」
「やだもーん」
「んなっ……!」
サンジが怒ったり青ざめたりするのを見て、リタは笑った。
タバコ臭いけど、今日は我慢。少しでも、この可愛いオレの容姿でサンジが癒えますように。
そういってサンジの腰からお腹にかけて回した右腕に、リタはぎゅうと力を込めた。
(あんたは表情豊かな方が似合うから)