短編
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「いただきまーす!」
「おう、食え」
麦わらの一味、サンジの作るビュッフェ形式の夕食は大戦争である。
「んナミさんとロビンちゅあんの分はこれね!」
「ありがとーサンジくん」
「ふふ、ありがとう」
量は多くも少なくもなく、ご綺麗に本日の夕食の全てが取り分けられたプレートをサンジは女性陣2人に渡す。
彼女たちがお礼を言ってそれを受け取るのも慣れたものだ。
「はいひゃいふういほははひはひはけ」
「食いながらいうな何言ってるかわからねぇよルフィ! 確かにナミとロビンはこの戦争参加しなくていいなんてずるいよな」
「伝わってんじゃねぇか! 当たり前だろ、こんな野郎どもの汚い取り合い合戦になんてレディを参加させられるか」
頬をリスのように膨らませながら食事をかきこむルフィが、(おそらく)サンジが食事のサーブを渡していることに文句を言った。それに対して同じく手と口を止めることがないままにウソップが同調し、サンジが突っ込む。
「……」
必然、野郎どもの席でサーブを受けるわけでもなく咀嚼を続ける一名に、自然一味の視線が集まった。
「……なに?」
気怠そうに返事をするその男は眉根を潜めた。
そうその男、なのだが……。
「いやぁ、見た目だけならあんたも私たち側なんだけどねぇ」
「おーなんか、お前がその見た目で扱いは野郎なのすげぇ違和感あるわ」
「はっへほほほはほー」
「だからルフィ、テメェは口の中からにしてから喋れ」
クルーが思い思いの言葉で彼について語る。
最近訳あってこのメリー号に乗船した彼は、ナミやロビンと同様に食事の取り分けをしてもらえないことが違和感でしかない容姿であった。
ほら、今日も今日とてその艶々な黒髪を、その小顔に柔らかな陰影を刻むようにハーフアップに結って、ふんわりとした水色のワンピースは適切な位置でカットされて手首の細さや足首の骨張った線を際立たせている。
大口あげて咀嚼する他の男たちとは違い、潤んだ桃色の唇が、上下に小さく動いて嚥下した。
見たところ「女」にしか見えないのであるが、「男」である以上著しい女尊男卑のサンジが男対応するのは当然のことであり、彼も彼でなかなか綺麗な所作ながら、自分の胃を満たす程度の量を毎回食べている。
「……?」
しかし、サンジは違和感に気づく。
当の彼が、あまり食事に手をつけていないのだ。
数日とはいえ航海を共にしていれば好き嫌いはなんとなく分かる。特段それを表明しない彼であるが、今日の食事はむしろ好物のはず……。
ナミやロビンには常に一定量を渡しているから残せば明確だが、争奪戦を繰り広げる野郎どもの食事の量は明確には測れない。
彼は会話をしながらだから気づくクルーはいないが、進みが遅ければ一回にとりわける量も少ない。
彼の不足した分はルフィなどが誤差の範囲で胃に収めてしまうのだろうが……。
見た目がレディのなりをしているがゆえにか、サンジは彼の行動に、或いは野郎の行動に目を配ってしまった自身に溜息をついた。
「じゃ、オレは先に部屋戻ってるわ」
「おー」
食事が宴会に変わった境を確認して、彼は今し方まで座っていた椅子を引いて立ちあがった。食事の開始はクルー全員で行うが、そのまま酒を飲むもの、自分の時間を過ごすもので引き上げがバラバラになるのは珍しいことではない。
その後もそれとなく確認してみたが、やはり彼の食の進みは遅かった。男として決して少食ではない彼の食事の量が、常の半分もなかったのではないだろうか。
「おい! お前ーー」
サンジが部屋に戻ろうとする彼に思わず声をかけた。
「あ、眉タバコ。ごちそうさま。うまかったよ」
他のクルーは早くも始まったどんちゃん騒ぎの喧騒にその呼びかけに気づかなかったが、呼び掛けた本人には確かに届いたらしい。
彼はやけに素直にお礼を言うと、ひらりと掌を振って歩いていった。
男は朝から調子が悪かった。
起きた瞬間にぼんやりと熱があるな、と自覚したが、それほど高熱ではないだろうと踏む。
いつも通り毛先に櫛を入れて、形がお気に入りの空色のワンピースに袖を通す。服の色を引き立たせ引き立たせられるピンクのグロスを唇に乗せれば、
(うん。大丈夫。今日もオレは可愛い)
チョッパーは腕の確かな船医だそうだが、この程度の体調で報告するほどではない。
何より、今日以上に具合が悪かろうが、熱が40度あろうが、居場所を転々と変え仲間などいなかった自分は、誰に体調不良を悟られることもなく確かに任務を遂行してきたのだ。
いつも通り過ごしながら、少し早く寝て治してしまおう。
麦わらの一味は悪い奴らではないが、自分は成り行きで乗船しただけ。決して仲間ではないのだから。
パチンとわずかに上気した顔に軽くビンタして喝をいれると、「おはよ」とクルーの待つ甲板に降りていったのだ。
それがどうしたことか。視界が滲み、断絶していく。
確実に悪化していく体調を前に夕食をなんとか取り終え、部屋へ歩いていた。去り際にコックが何やら声をかけてきたが正直何を言われどう応答したのかも覚えていない。
夕食中、「これはまずい」と思いチョッパーにいよいよ声をかけてしまおうかと思ったが、クルーと楽しそうに夕食を取る彼を見て仕舞えば、何も言うことはなかった。
(情けな、この船に乗って敵がいない状態に気が抜けちゃってるじゃん)
自分を叱咤しながら、なんとか男部屋のドアを開く。
自分の掛け布団を目指し、その中に寝てしまえば問題はない。彼らに体調を悟られることもない。彼らに迷惑をかけることもない。
部屋に入ったところで意識がトんで、咄嗟にドアノブを掴んだ。全体重を駆けてずるずるとへたり込む。
もう、横たわる気力すらなかった。
オレは、どうしちゃったんだろうか。
「……食ってすぐ横になると豚になんぞ。あと寝るならちゃんと布団かけろ秋島だぞここは」
正直、目蓋が重くて重くて開きそうにない。うるさいな。誰だよ。
このまま寝かせておいて欲しかった。
「……はぁー。なんか気になって来てみれば気持ちよさそうに眠りやがって」
ふわりと布団がかけられる。オレ今熱いの。かけないでくれない。という想いは声にならない。
「ん? お前……っすげぇ熱じゃねぇか。おい! 意識あるか、起きれるか?」
一瞬のピタリと額に添えられた掌が気持ちよかった。そのまま離さないで、と思うのに今し方オレに掌を与えた者は、大きな声で何か叫び出した。頭にガンガン響いて、うるさい。
「悪いが抱くぞ、チョッパー、おいチョッパー!」
膝と背に掌が添えられて、ふわりと横たわっていた身体が持ち上げられる。
あぁそうこいつ、タバコの匂い。
その知覚を最後に、意識がなくなった。
「……あれ」
「あ、起きたか! もうお前、なんでいわねぇんだ! すごい熱だったんだぞ!」
酷くがさついた声が出た。随分久しぶりに光を取り込んだ気がして、目がチカチカする。
可愛らしい声を振り向けば、チョッパーが涙を溜めながらオレを見ていた。
「……オレ、どしたの?」
「夕飯覚えたあと部屋で倒れてたんだ。39度もあって……! お前がそんなに熱あること気づけなくてもう、おれ、おれ……!」
船医が悔しそうに唸っている。オレを責める言葉は、いつのまにか自分を責める言葉にすり替わっていた。
「……39度くらいで、チョッパーの手を煩わせるなんて」
「人間の39度だぞ!? 煩わせるってなんだ!? オレは船医だ、仲間の健康を預かっているんだ!」
そう涙を流しながら叫ぶチョッパーに、「オレは仲間じゃ」と否定の言葉を紡ぐ元気はなかった。
「……わかった、悪かったよチョッパー。ごめん。次は言うから、……少し寝たい」
「おう! そうしてくれ! しっかり寝てよく治すんだぞ!」
前々から触ってみたいと思っていたチョッパーをひと撫でしてみる。思ったよりフワフワではなくしっかりとした毛艶が気持ちよかった。
そのまま身体の向かうがままに眠りについた。
「失礼。……チョッパーおかゆここに置いとくぞ」
「あ、サンジ! ありがとうな。お前が気づかなきゃこいつ、もっと大変なことになってたよ……」
「……なんだ、ちゃんと苦しそうな顔できるじゃねぇか」
最近この船に乗った意地っ張りな男は、その熱の高さに小さく唸りながらも、すやすやと可愛らしい寝息を立てていた。
(その後、この一件は2人の当日の容姿から「どこぞの国のプリンスが大慌てで熱に浮かされるプリンセスをお姫様抱っこして走ってきた」と揶揄されたそう)
「おう、食え」
麦わらの一味、サンジの作るビュッフェ形式の夕食は大戦争である。
「んナミさんとロビンちゅあんの分はこれね!」
「ありがとーサンジくん」
「ふふ、ありがとう」
量は多くも少なくもなく、ご綺麗に本日の夕食の全てが取り分けられたプレートをサンジは女性陣2人に渡す。
彼女たちがお礼を言ってそれを受け取るのも慣れたものだ。
「はいひゃいふういほははひはひはけ」
「食いながらいうな何言ってるかわからねぇよルフィ! 確かにナミとロビンはこの戦争参加しなくていいなんてずるいよな」
「伝わってんじゃねぇか! 当たり前だろ、こんな野郎どもの汚い取り合い合戦になんてレディを参加させられるか」
頬をリスのように膨らませながら食事をかきこむルフィが、(おそらく)サンジが食事のサーブを渡していることに文句を言った。それに対して同じく手と口を止めることがないままにウソップが同調し、サンジが突っ込む。
「……」
必然、野郎どもの席でサーブを受けるわけでもなく咀嚼を続ける一名に、自然一味の視線が集まった。
「……なに?」
気怠そうに返事をするその男は眉根を潜めた。
そうその男、なのだが……。
「いやぁ、見た目だけならあんたも私たち側なんだけどねぇ」
「おーなんか、お前がその見た目で扱いは野郎なのすげぇ違和感あるわ」
「はっへほほほはほー」
「だからルフィ、テメェは口の中からにしてから喋れ」
クルーが思い思いの言葉で彼について語る。
最近訳あってこのメリー号に乗船した彼は、ナミやロビンと同様に食事の取り分けをしてもらえないことが違和感でしかない容姿であった。
ほら、今日も今日とてその艶々な黒髪を、その小顔に柔らかな陰影を刻むようにハーフアップに結って、ふんわりとした水色のワンピースは適切な位置でカットされて手首の細さや足首の骨張った線を際立たせている。
大口あげて咀嚼する他の男たちとは違い、潤んだ桃色の唇が、上下に小さく動いて嚥下した。
見たところ「女」にしか見えないのであるが、「男」である以上著しい女尊男卑のサンジが男対応するのは当然のことであり、彼も彼でなかなか綺麗な所作ながら、自分の胃を満たす程度の量を毎回食べている。
「……?」
しかし、サンジは違和感に気づく。
当の彼が、あまり食事に手をつけていないのだ。
数日とはいえ航海を共にしていれば好き嫌いはなんとなく分かる。特段それを表明しない彼であるが、今日の食事はむしろ好物のはず……。
ナミやロビンには常に一定量を渡しているから残せば明確だが、争奪戦を繰り広げる野郎どもの食事の量は明確には測れない。
彼は会話をしながらだから気づくクルーはいないが、進みが遅ければ一回にとりわける量も少ない。
彼の不足した分はルフィなどが誤差の範囲で胃に収めてしまうのだろうが……。
見た目がレディのなりをしているがゆえにか、サンジは彼の行動に、或いは野郎の行動に目を配ってしまった自身に溜息をついた。
「じゃ、オレは先に部屋戻ってるわ」
「おー」
食事が宴会に変わった境を確認して、彼は今し方まで座っていた椅子を引いて立ちあがった。食事の開始はクルー全員で行うが、そのまま酒を飲むもの、自分の時間を過ごすもので引き上げがバラバラになるのは珍しいことではない。
その後もそれとなく確認してみたが、やはり彼の食の進みは遅かった。男として決して少食ではない彼の食事の量が、常の半分もなかったのではないだろうか。
「おい! お前ーー」
サンジが部屋に戻ろうとする彼に思わず声をかけた。
「あ、眉タバコ。ごちそうさま。うまかったよ」
他のクルーは早くも始まったどんちゃん騒ぎの喧騒にその呼びかけに気づかなかったが、呼び掛けた本人には確かに届いたらしい。
彼はやけに素直にお礼を言うと、ひらりと掌を振って歩いていった。
男は朝から調子が悪かった。
起きた瞬間にぼんやりと熱があるな、と自覚したが、それほど高熱ではないだろうと踏む。
いつも通り毛先に櫛を入れて、形がお気に入りの空色のワンピースに袖を通す。服の色を引き立たせ引き立たせられるピンクのグロスを唇に乗せれば、
(うん。大丈夫。今日もオレは可愛い)
チョッパーは腕の確かな船医だそうだが、この程度の体調で報告するほどではない。
何より、今日以上に具合が悪かろうが、熱が40度あろうが、居場所を転々と変え仲間などいなかった自分は、誰に体調不良を悟られることもなく確かに任務を遂行してきたのだ。
いつも通り過ごしながら、少し早く寝て治してしまおう。
麦わらの一味は悪い奴らではないが、自分は成り行きで乗船しただけ。決して仲間ではないのだから。
パチンとわずかに上気した顔に軽くビンタして喝をいれると、「おはよ」とクルーの待つ甲板に降りていったのだ。
それがどうしたことか。視界が滲み、断絶していく。
確実に悪化していく体調を前に夕食をなんとか取り終え、部屋へ歩いていた。去り際にコックが何やら声をかけてきたが正直何を言われどう応答したのかも覚えていない。
夕食中、「これはまずい」と思いチョッパーにいよいよ声をかけてしまおうかと思ったが、クルーと楽しそうに夕食を取る彼を見て仕舞えば、何も言うことはなかった。
(情けな、この船に乗って敵がいない状態に気が抜けちゃってるじゃん)
自分を叱咤しながら、なんとか男部屋のドアを開く。
自分の掛け布団を目指し、その中に寝てしまえば問題はない。彼らに体調を悟られることもない。彼らに迷惑をかけることもない。
部屋に入ったところで意識がトんで、咄嗟にドアノブを掴んだ。全体重を駆けてずるずるとへたり込む。
もう、横たわる気力すらなかった。
オレは、どうしちゃったんだろうか。
「……食ってすぐ横になると豚になんぞ。あと寝るならちゃんと布団かけろ秋島だぞここは」
正直、目蓋が重くて重くて開きそうにない。うるさいな。誰だよ。
このまま寝かせておいて欲しかった。
「……はぁー。なんか気になって来てみれば気持ちよさそうに眠りやがって」
ふわりと布団がかけられる。オレ今熱いの。かけないでくれない。という想いは声にならない。
「ん? お前……っすげぇ熱じゃねぇか。おい! 意識あるか、起きれるか?」
一瞬のピタリと額に添えられた掌が気持ちよかった。そのまま離さないで、と思うのに今し方オレに掌を与えた者は、大きな声で何か叫び出した。頭にガンガン響いて、うるさい。
「悪いが抱くぞ、チョッパー、おいチョッパー!」
膝と背に掌が添えられて、ふわりと横たわっていた身体が持ち上げられる。
あぁそうこいつ、タバコの匂い。
その知覚を最後に、意識がなくなった。
「……あれ」
「あ、起きたか! もうお前、なんでいわねぇんだ! すごい熱だったんだぞ!」
酷くがさついた声が出た。随分久しぶりに光を取り込んだ気がして、目がチカチカする。
可愛らしい声を振り向けば、チョッパーが涙を溜めながらオレを見ていた。
「……オレ、どしたの?」
「夕飯覚えたあと部屋で倒れてたんだ。39度もあって……! お前がそんなに熱あること気づけなくてもう、おれ、おれ……!」
船医が悔しそうに唸っている。オレを責める言葉は、いつのまにか自分を責める言葉にすり替わっていた。
「……39度くらいで、チョッパーの手を煩わせるなんて」
「人間の39度だぞ!? 煩わせるってなんだ!? オレは船医だ、仲間の健康を預かっているんだ!」
そう涙を流しながら叫ぶチョッパーに、「オレは仲間じゃ」と否定の言葉を紡ぐ元気はなかった。
「……わかった、悪かったよチョッパー。ごめん。次は言うから、……少し寝たい」
「おう! そうしてくれ! しっかり寝てよく治すんだぞ!」
前々から触ってみたいと思っていたチョッパーをひと撫でしてみる。思ったよりフワフワではなくしっかりとした毛艶が気持ちよかった。
そのまま身体の向かうがままに眠りについた。
「失礼。……チョッパーおかゆここに置いとくぞ」
「あ、サンジ! ありがとうな。お前が気づかなきゃこいつ、もっと大変なことになってたよ……」
「……なんだ、ちゃんと苦しそうな顔できるじゃねぇか」
最近この船に乗った意地っ張りな男は、その熱の高さに小さく唸りながらも、すやすやと可愛らしい寝息を立てていた。
(その後、この一件は2人の当日の容姿から「どこぞの国のプリンスが大慌てで熱に浮かされるプリンセスをお姫様抱っこして走ってきた」と揶揄されたそう)
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