「ぶっ飛ばしてきた！」
ルフィが突き出した手に握られるは、誇り高き海賊旗。
気にかけられた怪我について、「こんなのいつもだ」と笑って返すルフィは、やはり船長たる器なのかもしれないなとリタは思う。
「ありがとう、ありがとうよ」
馬のシェリーと共に、おじいさんは一言一言に想いを込めた礼を言う。しかし自分にまでお礼を言ってくるものだから、リタは焦った。
「いや、僕は何もしてないから。お礼ならこの人たちに……」
「何を言っているんだ。お前さんも仲間なんだろう」
「おう、そうだぞ！」
そう言って、おじいさんはニコニコと笑う。ルフィもそれを肯定して何がおかしいのやら「ほんとこいつ頑固でさぁー」と笑っていた。
ナミやチョッパーまでニヤニヤとリタを見てくるのが気に食わなかったが、おじいさんの笑みを無下にするような否定をすることもできなくて、リタは引っ込むしかなかった。

「ーその移動しちゃった村へ私たちが連れて行ってあげられれば良いんだけど」
ナミの提案におじいさんは「そこまでやってもらう義理はない」と穏やかに笑う。おれたちは気が長いから大丈夫だ、と。
彼もシェリーも、多くの人間がするように生き急ぐことなく、ゆっくりと流れる時に身を任せて生きていくのだろう。
おじいさんはルフィたちをもてなすべく、自宅のドアへ向かった。
しかし、そのドアが開かれられることはなく
「ぶっ！」
と玄関に存在した予期していない何かに阻まれ、跳ね返された。

「うおお、なんだこれは！」
「人？」
「ずっとここにいたの！？」
それはおじいさんの数倍の上背を持つ、大柄な人間であった。

服装こそネクタイを締めてかっちりとしたものであるが、黒い髪の毛は縮毛なのかくるくるとボリューミーに巻かれ、アイマスクを着用している。なんともアンバランスな格好をした男である。
「んん！？　なんだお前ら」
「おめェがなんだ！」
ルフィたちの声に反応したのか、男は此方のセリフだと思わしきことを言った。
そんな幾らか間の抜けたやり取りの中で、どさっと何かが落ちる音がして、リタはそちらを振り向く。

ロビンが、腰を抜かして座り込んでいた。

（「あららら、コリャいい女になったな　ニコ•ロビン」）
（常に飄々とした表情は蒼白で、均整の取れた身体は遠目にもガタガタと震えていた）