「どじょうレーシングサーカス」という見かけこそアホ……不格好ながら、魚人の特性を最大限活かした敵の術中にゾロ、チョッパー、サンジがハマっているその間に、先程攻撃を決め倒れていた2人がゆらゆらと立ち上がる。
『リーダーハンバーグは拳に鉄のサック、ひじには鉄のサポーター　一方ピクルスはトゲ付きの肩当てをしてる凶器はルール上反則だね〜！』
フォクシー海賊団の一味が「いいぞ〜グロッキー、やっちまえ！」と大声をあげている。
遠くでルフィたちが青い顔をして抗議をしているのが見えた。
リタは、ひゅっと息を飲んだ。自身が鉄のサポーターを身に仕込み、凡ゆる武器を使用する立場だからこそ、その脅威をよく知っているのだ。

その凶器の向かう先は…… 宙高く放り出されたゾロとチョッパーだった。
鉄サックでゾロ、チョッパーの順に迎撃される。変身を解いたチョッパーは、赤い血を撒き散らしてその勢いのままに場外へ吹っ飛んだ。
それとほぼ同時に、場内の地面に落下しつつあるゾロには、とどめとばかりに投げ飛ばされることで加速を加えた魚人の肘についた鉄がめり込む。
「チョッパー！！　ゾロ！！！」
リタは叫んだ。
その2人とは別に、なお長時間レーシングサーカスの餌食となって酔ってしまったのか身体を震わし這いつくばるサンジの元にも魔の手が迫る。
「サンジ〜！！　よけろ！！」
ルフィの絶叫が響くが、その時にはもう敵の連携攻撃が始まっていた。凶器と魚人のスパイクが勢い良く彼の線の薄い身体を貫いた。
「フェッフェッフェ！」
「ぎゃはははは！　ついにやったぞ！！！」
フォクシー海賊団が勝利を確信した罵声を上げて色めき立つ。
「あ……」
リタは無意識にその場から一歩後ずさった。随分久しぶりに、自身がガタガタと震えているのが分かった。
「……嫌だ」
ゾロのシャツは勢いよく吐き出した血で汚れ、場外に伏すチョッパーは変身を解除しピクリとも動かない。
「……やめて」
地面にめり込んでいるサンジの口元に、常日頃咥えているタバコはもうなかった。
3人の横たわる草原が赤く染まっているのが遠くにいるリタにも分かった。
未だ場内に倒れるゾロとサンジの身体を、ぐるりとグロッキーモンスターズが取り囲んでいた。
「もういいよ、負けていいから死なないで！！！」
フォクシー海賊団の怒声を掻き消すように、今まで麦わらの一味が聴いたことのないリタの絶叫が会場に響き渡った。

（愁訴哀願し）