僕を捉えた彼女の目は会いたくて堪らなかったと訴えていた。
僕の願望が多少入っているとはいえ、目は口ほどに物を言うとはこの事。

もう彼女の心は僕に傾いてると確信して誘ったはいいものの、次の休みがいつか分からなくてスマートに誘うつもりがとんだ失態だ。
そんなに仕事を詰めてる伊地知を後で絶対懲らしめる。

仕方なく僕の武器であるこの六眼（め）と声で彼女の心を完全に拘束して、連絡先を聞き出しておこう。
この武器で落とせなかった女はいない。
彼女もちゃんと連絡先を書いた紙を入れてくれた様だ。

店の外まで出てから彼女は僕を見上げて、何か言いたそうに口を開いた。

もう、このままキスしてしまいたい。

唇の間に吸い込まれる様に見惚れていると、その口を一度閉じて、彼女はパッと作ったような笑顔になった。
「あなたが来るのは、雨の日のような気がしてました。」
その笑顔に無理している様な違和感を感じて返さずにいると次第に表情は翳っていく。
「また、会えますか？」

「うん、連絡する。必ずね。」
笑ってくれたけど、寂しそうな目をしていた。

今日は車だからとまた彼女から差し出された傘を今回は断って別れた。

彼女の表情が心をざわつかせる。
掌からサラサラと落ちていく砂の様に、掴んだと思った彼女の心がこぼれていく。そんな事は初めてでショックというか、自信が揺らいでいた。

思い出した様に紙袋の中を覗いてフルーツ大福の箱の上に畳まれたメモ用紙を見つけ、絶対に連絡先が書かれていると信じて疑わなかったのに、恐る恐るメモを開いた。

"090-××××-×××× ゆり"

「はぁぁ……、伊地知後でマジビンタだから」

気のせいだったのかな。やっぱり僕の虜で間違いないよね。

ゆり、か…
さっと書かれているがキレイな彼女の筆跡を指でなぞる。

先ほどの不快なざわめきは彼女の名を知れた興奮で消え去って、ビンタが嫌なら明日休ませろと伊地知を脅す余裕も戻っていた。