第一章
夢小説設定
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雨の日はちょっと仕事に行くのが楽しみになっていた。
なんでかあの人は雨の日に訪れてくる様な気がして。
あの日から何度も来客のベルが鳴る度に一喜一憂して、笑顔を作る。本当にまた来てくれる保証なんてないのに、勝手に落ち込んで、しだいにもう会えないんだろうなぁと頭の中では言い聞かせていた。
たった一度、ほんの数分、わずかに交わした言葉がなんでこんなにも忘れられないのか。彼の事なんて何にも知らないのに。
今日も朝から雲行きが怪しくて、予報通り雨になった。
客足はまばらだった。軽作業をしながら店内のBGMがぼんやりと耳に入ってはすぐ消えてゆく。
「いらっしゃいませ」と聞こえたスタッフの声で作業をしていた手を止め、お客様に挨拶しようと顔を上げ口を開いたけど、声が出なかった。
やっぱり雨の日だった。
浮いた気持ちが沈む事はなかったし、笑顔を作る必要もない。
用意していたタオルを持ってそのお客様に駆け寄った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
サングラスをかけていないと彼の青い瞳がはっきりと私を捉えているのが分かって、もう直視出来ないほど眩しい。
今日も彼の上は晴れている。
でも私の差し出したタオルを受け取って、目を細めて笑ってくれた。
「傘忘れちゃったんだよね」
ワザとならいいなと都合のいい事を思った。
「いつでも結構ですので…返しに来てくれますか?」
無礼は承知の上。でも繋がりを失いたくない。
嘘でもいいから、待つ理由を私に下さい。
彼からの返事はイエスでもノーでもなかった。
いやどっちかと言うと、ノーだ。
「取りに来てくれる?」
「え…どこに…」
「僕の家。今夜……は無理だ…明日も…」
急な展開に驚きつつも、予定が分からない…と、真剣に悩んでいる彼を見ていると人間味があってホッとした。
「とりあえず、フルーツ大福のセット1つ。あと」
彼は少し体をくの字にして、私の顔を覗き込む。シャンプーの匂いかな…鼻先を掠める甘い匂い。瞬きすれば風が起きそうなほど長いまつ毛も髪と同じで白いんだ。
圧倒的な美しさにあと数秒遅ければ、眩暈がして座り込んでしまいそうだった。
私の耳元に移動した彼の口から私にだけ聞こえる声で追加注文される。
「君の番号も入れておいて」
「…はいっ、少々お待ち下さい」
ダメだと分かっていても止められなかった。
例え将来を約束した相手がいても、その未来がぐちゃぐちゃになっても構わないと、そっと二つ折りにしたメモ用紙を紙袋に忍ばせた。
なんでかあの人は雨の日に訪れてくる様な気がして。
あの日から何度も来客のベルが鳴る度に一喜一憂して、笑顔を作る。本当にまた来てくれる保証なんてないのに、勝手に落ち込んで、しだいにもう会えないんだろうなぁと頭の中では言い聞かせていた。
たった一度、ほんの数分、わずかに交わした言葉がなんでこんなにも忘れられないのか。彼の事なんて何にも知らないのに。
今日も朝から雲行きが怪しくて、予報通り雨になった。
客足はまばらだった。軽作業をしながら店内のBGMがぼんやりと耳に入ってはすぐ消えてゆく。
「いらっしゃいませ」と聞こえたスタッフの声で作業をしていた手を止め、お客様に挨拶しようと顔を上げ口を開いたけど、声が出なかった。
やっぱり雨の日だった。
浮いた気持ちが沈む事はなかったし、笑顔を作る必要もない。
用意していたタオルを持ってそのお客様に駆け寄った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
サングラスをかけていないと彼の青い瞳がはっきりと私を捉えているのが分かって、もう直視出来ないほど眩しい。
今日も彼の上は晴れている。
でも私の差し出したタオルを受け取って、目を細めて笑ってくれた。
「傘忘れちゃったんだよね」
ワザとならいいなと都合のいい事を思った。
「いつでも結構ですので…返しに来てくれますか?」
無礼は承知の上。でも繋がりを失いたくない。
嘘でもいいから、待つ理由を私に下さい。
彼からの返事はイエスでもノーでもなかった。
いやどっちかと言うと、ノーだ。
「取りに来てくれる?」
「え…どこに…」
「僕の家。今夜……は無理だ…明日も…」
急な展開に驚きつつも、予定が分からない…と、真剣に悩んでいる彼を見ていると人間味があってホッとした。
「とりあえず、フルーツ大福のセット1つ。あと」
彼は少し体をくの字にして、私の顔を覗き込む。シャンプーの匂いかな…鼻先を掠める甘い匂い。瞬きすれば風が起きそうなほど長いまつ毛も髪と同じで白いんだ。
圧倒的な美しさにあと数秒遅ければ、眩暈がして座り込んでしまいそうだった。
私の耳元に移動した彼の口から私にだけ聞こえる声で追加注文される。
「君の番号も入れておいて」
「…はいっ、少々お待ち下さい」
ダメだと分かっていても止められなかった。
例え将来を約束した相手がいても、その未来がぐちゃぐちゃになっても構わないと、そっと二つ折りにしたメモ用紙を紙袋に忍ばせた。