あれからひと月…あの子は夢だったんじゃないかというほど任務に忙殺されていた。
空が明るくなった頃に帰ってきてベッドに倒れ込む。
あー甘いものが食べたい…。
でも少し寝よ…。


……ポーン。ピンポーン。

電話も鳴ってる…。うるさい…。
気分を乱す電子音以外に、窓の外から音がして体を起こす。
雨か…。

「おはよう。ちょっと時間あるでしょ？…あるよね？寄って欲しいとこがあるんだけど」

迎えに来た伊地知に無理矢理向かわせたのはあの彼女がいるお店。

彼女とまた会いたいと思っていた。ただしばらく期間が空いたせいで、本当に一目惚れだったのか自分でも怪しくなっていた。
どうやら脳内会議では勘違い説が濃厚な様だ。

と言うわけで、本当はもっといい格好して来たかったけど、残念ながらこの後にはまた高専行きで仕方なくいつもの格好。でもアイマスクだけは下ろして彼女の前ではカッコつけておきたい。あわよくばデートの約束を取り付けたい。

店から少し離れた所に車を停めさせて、雨の中を歩いて行く。

自動ドアを開ける前にカウンターの奥にいる彼女が見えて、再確認した。
やっぱり一目惚れだったと。誰もが目を惹くような美人ではないし、落ち着いた雰囲気の綺麗な子ではあるが悪く言えばパッとしない感じ。

なのになんでかなぁ、ニヤけるのを抑えないといけないほどこんなに気持ちが昂っているのは。

自動ドアを開けると来客を告げるベルが鳴って、数人のスタッフが反射的に声を掛ける中、彼女は僕を確認して少し遅れて笑顔を向けてくれた。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」